3.第7次火山噴火予知計画の実施内容

2.火山噴火予知高度化のための基礎研究の推進

これまでの予知計画の成果と課題を踏まえて、第7次計画においては、マグマや熱水などの火山流体の挙動の解明とそれに基づく噴火発生機構の定量的理解、マグマ供給系や噴火発生場の構造とその時間変化の把握、火山活動の中長期的な推移の解明とそれに基づく噴火ポテンシャルの評価手法の開発、予知の高度化のための観測・解析技術の開発及び国外の火山との比較研究を行うための国際共同研究の推進を重点目標とする。研究の実施に当たっては、各機関が役割分担を明確にしつつ、密接に協力して行う。

(1)噴火の発生機構の解明

噴火の発生機構を定量的に理解するため、マグマや熱水などの火山流体の挙動とマグマの上昇に伴う発泡・結晶化・脱ガス過程を各種観測、実験及びシミュレーションによって解明する。また、マグマや火山ガスと地下水との相互作用、及び爆発の発生機構の解明を目指す。

(ア)大学は、広帯域地震観測、高分解能GPS観測、熱・電磁気観測、火山ガス観測、高精度ハイブリッド重力測定などを連続若しくは繰り返し実施することにより、火山流体の実態(マグマかガスかなど)とその移動の物理過程を明らかにする。また、マグマ増圧過程と火道の開閉現象の相互作用、及び火道内マグマ対流を数値シミュレーションし、観測データと比較検討することにより、マグマ上昇過程及びマグマ対流の定量的モデルを構築する。一方、火山噴出物の組織解析からマグマの上昇に伴う発泡・結晶化・脱ガス過程を解読し、減圧に伴う結晶化の再現実験との対応から、噴火機構の解明を目指す。さらに、前兆現象の発生過程及び爆発の力学的機構を、地震・地殻変動・地磁気の連続観測から明らかにする。特に、水蒸気爆発やマグマ水蒸気爆発を行う火山においては、ボーリング調査等により火山体浅部の水環境の把握を行うとともに、活動火口及びその近傍において総合的な観測を実施して、マグマ・火山ガスと地下水との相互作用を明らかにする。

(イ)防災科学技術研究所は、低周波地震・火山性微動・群発地震の発生機構や火山性地殻変動と火山活動との関係を、火山流体と岩盤との相互作用を考慮したシミュレーションによりモデル化し、噴火に至る過程でのマグマの挙動を推定する。この研究により、観測データから噴火規模や様式を推定する手法の開発を行う。

(ウ)産業技術総合研究所は、火山近傍におけるGPS、光波測距儀などを用いた地殻変動観測や臨時地震・電磁気観測のほか、火山ガス、地下水などの各種観測を行い、理論的・実験的研究と併せて、噴火・脱ガス機構、放熱過程、マグマ貫入過程の物理化学モデルの構築を目指す。また、活動的火山の噴出物に関する地質調査(分布、構成物分析)を実施し、噴火様式や噴火経緯を把握する。

(2)マグマ供給系の構造と時間的変化の把握

噴火活動を定量的に予測するためには、マグマ供給系や噴火発生場の構造とその時間的変化の把握が不可欠であり、引き続き火山体構造探査を推進する。地球物理学的観測のほか、地球化学的観測や地質調査、岩石学的実験なども併せて推進し、総合的なマグマ供給系モデルの構築を目指す。

(ア)大学は、関係機関と共同で、将来噴火活動が予測される重要な火山において、噴火直前のマグマ上昇過程をより正確に把握するために、人工震源を用いた探査を実施して火山浅部の地震波速度構造を明らかにする。既に浅部構造が調べられている火山においては、自然地震観測を併用したやや長期間の地震探査と電磁気探査を実施して探査深度の増大を図り、マグマ溜りの検出を試みる。さらに、これまでの探査や各種の実験観測により、マグマ溜りや火道などのマグマ供給系や熱水系について一定のモデルが得られている火山においては、大規模アレイ地震観測や反射法地震探査などの高分解能観測を、ターゲットを絞って実施し、マグマ供給系・熱水系の微細構造とその時間的変化を明らかにする。そのほか、ボーリングによる検証的な探査や、地殻変動・重力観測、火山体からの二酸化炭素拡散放出の連続測定、火山噴出物の物質科学的解析、実験岩石学的手法によるマグマ状態の再現などを通して、マグマ供給系の総合モデル化を図る。

(イ)防災科学技術研究所は、地震観測網データを活用して地震・微動の発生機構や応力場を明らかにし、地殻変動観測データからマグマの動きを把握する。さらに、温度変化や火山ガス・地下水の放出量、組成、同位体比などを考慮して総合的なマグマの動態モデルを構築し、噴火に至る過程を解明する。

(ウ)産業技術総合研究所は、地質調査に基づく火山構造発達過程及び岩石学的研究に基づくマグマの成因と化学進化の解明を目指す。また、地質調査によりマグマの貫入過程を明らかにし、実験的・理論的研究に基づき、マグマ貫入過程の進化と制御過程を明らかにする。さらに、火山ガス放出量・組成、放熱量観測及びマグマ溜りの冷却脱ガス過程のモデル化を実施する。

(エ)国土地理院は、火山周辺の地殻変動等の観測結果を解析し、地下の活動のメカニズムを解明するためのモデルの推定を行うとともに、火山活動の予測を目指す研究を行う。

(オ)海上保安庁海洋情報部は、南方諸島及び南西諸島の火山等において、 地形、地質構造、地殻構造、重力・地磁気の総合調査及び航空磁気測量を繰り返し実施し、中長期的な火山体構造の時間的変化を求めるための研究を進める。

(カ)海洋科学技術センターは、岩石学的・地球化学的研究に基づく、マグマの起源物質及びマグマ溜りの物理化学的進化の解明に資する。また、海底地形、地質、地熱構造の総合調査を実現し、海域大規模噴火現象理解のための基礎研究を実施する。

(3)火山活動の長期予測と噴火ポテンシャルの評価

噴火の長期予測や推移予測の手法を確立するために、活動的火山の中長期的な噴火活動の推移を研究するとともに、静穏期にある火山の噴火ポテンシャルを評価する手法を確立するための研究を行う。
大学、産業技術総合研究所及び海洋科学技術センターは、ボーリング調査やトレンチ調査を含む地質調査、火山岩試料の岩石化学的解析に加え、テフロクロノロジー、放射性同位体測定、古地磁気学的手法を活用した噴出物の年代測定などを総合して、噴火発生間隔の規則性、噴火様式、マグマ組成などの時間的進化を解明する。防災科学技術研究所は、観測井掘削時のコア試料の解析から噴火履歴を解明する。また、大学は、長い休止期間の後に噴火に至った国内外の火山について、地質学的データ、歴史時代の活動記録資料、近年の観測資料等の比較検討を行うとともに、活動度の異なる火山で地球物理学的及び地球化学的観測を継続的に実施して、観測データと地質学的評価を併せた総合的な噴火ポテンシャル評価手法の確立を目指す。

(4)火山観測・解析技術の開発

火山噴火予知の高度化と実用化に向けて、新たな観測・解析手法や機器・システムの開発を行う。特に、地下のマグマ供給システムの大規模稠密探査のための観測・解析技術の向上、各種人工衛星・航空機等を用いたリモートセンシング技術の開発と活用、火口近傍での遠隔観測手法の開発と高度化を推進する。また、火山体内部で進行する諸現象を迅速かつ的確に把握するために、多項目観測データ解析手法の高度化及び即時処理と自動評価システムの研究開発を行う。

(ア)大学は、人工震源を用いた火山体構造探査によって、空間分解能の向上と構造の時間変化に関する研究の進展を図るため、より小型、省電力で操作の簡便なデータロガーを開発する。さらに、自然地震を用いて火山体構造の探査深度を増大させてマグマをとらえるため、長期間のデータを効率的に収録するシステムを開発するとともに、新たな解析手法の導入・開発を行う。また、火山体浅部におけるマグマと地下水の相互作用を解明するため、時間領域MT探査を準連続的に行い、地下の比抵抗分布とその変化を高精度にとらえる手法を開発する。さらに、火山観測データ解析手法の高度化及び即時処理と自動評価システムの研究開発を行う。
二酸化硫黄、水蒸気等の火山ガス測定をより高度化するため、新たな機器の開発や他分野の技術の導入を図る。活火山の熱的活動状況を高頻度で迅速に把握するため、衛星赤外画像による活火山熱観測システムを開発する。

(イ)防災科学技術研究所は、航空機搭載MSSによる山体温度観測の高精度化と火山ガス観測技術の開発及び衛星や航空機搭載センサー、地上レーダーを用いて溶岩流や火山灰などの火山放出物の動的状況把握を行うための技術開発を行う。

(ウ)産業技術総合研究所は、人工衛星を用いた熱的活動・火山ガスの観測手法を開発する。また、空中物理探査による火山体の浅部三次元構造を解明する最適な調査手法及びデータ解析法を開発する。

(エ)気象庁は、火山活動に伴う地殻変動や地磁気変化から火山の物理的状態を総合的に把握し評価するため、有限要素法等に基づく数値シミュレーションを応用する手法を開発する。さらに、より詳細な活動の監視・評価のために、観測項目の拡大を目指し、自然電位、重力などの観測について技術開発を進めるとともに、電磁気観測における計測技術の高度化を行う。

(オ)海上保安庁海洋情報部は、GPS-音響測距結合方式による海底地殻変動観測システムの高精度化及び高度化を目指す。また、地震計や音響センサーを用いた海底火山の常時監視手法の確立を目指す。

(カ)国土地理院は、GPS観測により地殻変動を高精度かつ短時間で検出するための研究開発を進めるとともに、衛星測位に関する技術の進歩や環境の変化に対応した地殻変動観測解析技術の研究開発に取り組む。

(キ)通信総合研究所は、航空機等からの先端リモートセンシング技術(SAR等)による計測技術の開発を進める。

(5)国際共同研究・国際協力の推進

火山噴火予知の高度化、特に火山活動の推移や噴火様式の予測に関する研究の進展を図るため、国際共同研究を推進する。あわせて、技術協力、研修生・留学生の受入れ等を通して国際的な火山噴火予知研究レベルの向上に資する。さらに、世界の中で我が国が火山噴火予知研究の拠点となることを目指す。

(ア)大学は、アジア、アフリカ等の火山を対象に、相手国の火山研究機関と共同して諸観測を実施し、火山活動の推移や噴火様式に関する国内の火山との比較研究、噴火前駆活動のデータベース作成などに取り組む。また、全国共同利用研究所を中心とした、海外の火山噴火の調査観測に迅速に対応できる体制の整備を検討する。

(イ)防災科学技術研究所は、米国と日本のカルデラ火山の比較研究及び噴火様式の解明のための共同研究を進める。また、エクアドル等に対して、火山観測データの解析手法について技術協力を行う。

(ウ)産業技術総合研究所は、イタリアの火山をテストフィールドとして、イタリアやオーストリアの研究機関と共同して、物理探査による火山の活動推移評価技術の開発を目的とした研究を実施する。

(エ)気象庁は、フィリッピン等の観測研究機関の火山観測を支援するとともに、共同で火山観測を実施して、国内の火山との比較研究を進める。また、火山灰噴煙の監視や拡散予測などの技術協力を推進し、西太平洋地域における航空機安全運行のための情報の充実を図る。

(オ)国土地理院は、国内外の関係機関と協力して、アジア等の火山で地殻変動観測を実施して、取得したデータの解析に基づき火山活動のメカニズムに関する研究を進める。

(カ)海洋科学技術センターは、国内外の関係機関と協力して、インドネシアにおいて火山形成過程に関する研究を進める。

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