2.重点的に推進すべき方策

 以上のような基本的考え方に立って、国際協力・交流を推進するためには、既存の各種施策の充実強化を含めて、総合的な方策を強力に推進する必要があるが、今後、重点的に推進することが必要な方策をとりまとめると次のとおりである。

1)政府間合意に基づく重要課題協力の機動的推進

 社会経済の諸活動における科学技術の役割の重要性の認識が深まるとともに、温暖化等地球環境問題、食料問題、エネルギー問題、淡水管理、感染症対策、災害防止と被害の低減等の重要政策課題についての科学技術協力が必要とされ、国際機関会合、首脳・閣僚会談、科学技術協力協定下の合同委員会等において、政府間協議の対象となる事例・課題が増加しつつある。これらの政府間協議に向けて、研究協力・交流促進の一般的合意を越えて、我が国が戦略的判断に立ってイニシアティブを発揮することは、重要政策課題の解決に向けての国際的協力を推進する上で極めて重要である。政府間協議と政府間合意の実現において、我が国がイニシアティブを発揮するためには、重要課題の国際協力についての我が国の明確な政策形成が不可欠であり、このような政策形成のためのシステムを早急に整備すべきである。政策形成に当たっては、産業界等を含む国際協力の構築や研究者コミュニティとの緊密な連携に十分配慮することが肝要である。
 さらに、合意された国際協力を確実に実行に移すシステムの強化が図られなければならない。そのためには、文部科学省が、政府間合意の実現に向けて、関係府省等との連携の下に、国際会議の開催、国際共同研究の実施、専門家派遣等を機動的に進めるための資金を確保し、府省横断的に措置できるシステムの確立が急務である。
  また、政府間合意には、学術協力、すなわち、研究者コミュニティ間の自発的協力の促進を図ることが適切なものも少なくない。そのような場合には、学術振興機関間、あるいは大学・研究機関間の協議、協力による推進を図るべきであり、科学研究費の活用を含めて、そのための支援方策を講じる必要がある。

2)多国間研究ネットワークの構築

 先端研究の推進を図る上で、先進諸国との研究ネットワークは極めて重要であるが、最近における先端研究の国際的展開に対応するためには、従来の二国間の研究ネットワークを継続的に強化するとともに、新たに多国間のネットワークを早急に構築する必要があり、大型共同研究の実施や戦略的な研究者交流を発展させ、国際研究ネットワークの中で我が国が研究拠点としての役割を果たすための施策の充実を図る必要がある。
 このため学術協力においては、先進諸国の学術振興機関との協力の下に、重要分野を選んで各国の中心的大学・研究機関を拠点とするネットワーク形成を早急に推進すべきである。
 また、アジア諸国との研究パートナーシップの強化の観点から、これまでの二国間の拠点大学交流を大幅に拡充するとともに、新たに多国間の拠点大学交流を創設することも重要である。なお、中国、韓国、インド等の大学・研究機関を上記の先進諸国との研究ネットワークに加えることも考慮すべきである。
 さらに、我が国の大学・研究機関の海外における研究拠点の形成についても積極的に検討を進めていくことが望ましい。

3)研究者国際交流の促進

 研究者の国際交流によるパーソナルネットワークは、研究の国際協力・交流を支える基盤であり、研究者交流の促進は国際化推進の重要課題である。欧米諸国との交流の著しいインバランスの改善、アジア諸国との交流の緊密化を重視し、次の諸点に重点を置いて一層の促進を図る必要がある。

1 外国人特別研究員招致の拡充と運用の弾力化

 外国人特別研究員事業は、若手研究者招致の中心的事業として大きな役割を果たしており、平成14年度予算においては、受入れ定員は1650人である。第1期科学技術基本計画に掲げられた2050人規模を目指してその拡充を図るとともに、優秀な研究者招致のため制度の運用の改善と受入れ体制の整備を進める必要がある。
 特に、欧米からの若手研究者が停滞・減少傾向にあるのは憂慮すべき問題であり、その改善のための努力を早急に開始すべきである。
 欧米の若手研究者が来日をためらう主たる原因は、日本の研究環境に対する不安と将来のキャリアへの不安にあるといわれており、日本における研究が母国をはじめ国際的に評価されるような研究環境の整備への努力が必要である。それがまた、基本計画が掲げる「国際的にも開かれ国内外の優秀な研究者が集まる世界水準の研究環境の構築」につながる道である。
 当面の改善の具体策としては、第一に、将来の来日意欲を喚起する短期受入れの道を開くことが挙げられる。その際、対象を研究者を目指す優秀な大学院生にも拡大することも有効な方策である。
 第二に、優秀な外国人特別研究員が、我が国の大学、研究機関等に適切なポストを得られるようにすることである。そのためには、大学・研究機関等の積極的な努力が求められるが、同時に外国人特別研究員が我が国で腰を据えた研究を進めることを可能にするため、期間延長を弾力的に認める配慮が必要である。

2 若手研究者等の長期海外研究の促進

 我が国研究者の海外訪問は増加傾向にあるが、海外の大学・研究機関に長期に滞在し、海外の研究者との日常的交流の中で研鑚を積む機会は広がっていない。むしろ、欧米諸国のポスドク雇用や招へいプログラムの縮小に伴い、以前よりも狭まっている面が見られる。世界レベルの研究を推進していく上で、海外における研究経験は極めて重要であり、優れた研究者養成の観点から、若手研究者の長期海外研究を積極的に推進する必要がある。
 当面、海外特別研究員制度を拡充することとし、さらにアジアにおける研究ネットワーク形成を視野において、中国、韓国等への研究者の長期派遣を進めること、中堅研究者の長期海外派遣のシステムを整備すること等の措置を早急に講じることが望ましい。また、我が国研究者養成の中核的事業である日本学術振興会の特別研究員制度の運用に当たって、採用期間中海外における一定期間の研究を原則とすることが望ましい。さらに、大学院博士課程後期に在学する優秀な学生を研究のために海外に派遣するための制度の整備拡充が重要である。

3 国際研究集会支援の強化

 国際的学会、セミナー、ワークショップ等の国際研究集会は、研究者にとって世界水準の研究を追求する上で、極めて重要な意味を持つだけでなく、研究者間のネットワークを構築し、我が国の研究成果、研究水準を世界に発信する上でも大きな意義を有している。我が国研究者のイニシアティブによる国際研究集会の開催について、開催地の如何を問わず積極的に支援を強化する必要がある。特に若手研究者については、自らの研究テーマを持つ優秀な大学院生を含め、国際研究活動への参加を積極的に支援する必要がある。

4)国内の研究環境国際化の推進

 国内の研究環境国際化の基本は、我が国の中心的大学・研究機関において海外の優秀な研究者との交流、協力、競争が日常的に行われるようにすることにある。そのためには、大学・研究機関の優秀な外国人スタッフの拡充に向けての採用努力が必要であるが、同時に外国人研究者のため研究・生活環境の整備を積極的に進めることが肝要である。特に、宿舎の確保、外国人研究者の競争的資金への応募の促進、海外での研究発表の支援が重要である。また、留学生交流の拠点の活用も有効な方策である。
 さらに、我が国社会が外国人受入れについての理解を深め、適切な対応へ一層の努力が払われるよう、様々な機会を通じて働きかける必要がある。また、大学・研究機関が所在する地域社会の受入れ環境にも十分配慮することが求められる。
 同時に大学・研究機関の組織・体制の強化が急務であり、国際担当副学長等の特定、国際担当部門の整備、優れた専門職員、ボランティアの採用、確保や研修の強化などが早急に措置されることが望まれる。

5)国際的情報発信力の強化

1 学会・研究機関等への支援

 我が国の国際的情報発信の強化には、学会等による充実した英文誌の発行と国際的流通の促進が有効な方策である。そのためには多額の資金と労力が必要であり、我が国が国際的に高い研究水準にある分野における英文誌の刊行を促進するため、学会等の優れた試みに対して集中的に支援することが有効である。また、学会等が刊行する国際的な学術定期刊行物については、科学研究費補助金を活用した支援を充実していく必要がある。その際、英文等による適切な表現を確実にするための校閲への支援にも十分配慮すべきである。
 さらに、優れた研究論文の英文抄録等の発信、論文等の研究成果の永久保存(アーカイブ)、機械翻訳の一層の活用、高度化などに積極的に取り組んでいくことが重要である。

2 電子媒体での国際的情報発信の推進

 近年、インターネットが世界的に急速に普及しているなか、学術雑誌の編集・発行の電子化(電子ジャーナル化)が進展している。また、膨大に蓄積された研究情報を効率的に活用するためのデータベースの役割もますます重要になってきている。こうした状況を踏まえて、電子媒体での国際的情報発信をさらに促進するため、科学技術振興事業団、国立情報学研究所等による電子ジャーナル、データベース等の研究成果の情報発信を支援する事業を積極的に推進する。さらに、様々な研究分野全体を把握し、研究情報の戦略的な活用のため、学術論文、特許、新聞記事、www(world wide web)上の研究紹介等多様な情報の活用、統合、分析と流通・提供に関する研究を行うとともに、それらの流通基盤の整備を進めることが重要である。

3 人的ネットワークの形成・強化

 国際的情報発信においては、情報通信ネットワークの重要性が高まっているが、研究者間の人的ネットワークが基本的な基盤であり、この意味から、広く研究者の国際交流を促進することが重要である。その一環として、我が国との研究交流経験者を中心とする国際的な研究者コミュニティの形成を支援することも積極的に進めるべきである。
 また、国際的に認知度の高い我が国のシニアな研究者が、海外の科学賞の推薦や学術雑誌の投稿論文の審査などに参画する一方、海外の優れた研究者に国内の研究評価活動への参画を求めていくことにより、我が国の研究の国際的な認知度、評価のより一層の向上を図ることが重要である。
 さらに、在外公館の科学アタッシェ、科学技術・学術振興機関、大学・研究開発機関等の海外拠点がそれぞれの特長を活かし戦略的に連携を深めて、海外への情報発信に努めることも重要である。

6)国際協力に係る知的財産の取扱いに関する体制整備

1 政府レベルでの対応

 我が国は、これまで欧米諸国を中心にして世界38カ国との間で25の科学技術協力協定等を締結しているが、1986年以降に我が国と締結された協定については知的財産権に関する規定があるものの、それ以前に締結された協定については知的財産権に関する規定はない。
 現在、世界的な知的財産保護の強化の流れの中で、協定下で実施される様々な国際共同研究から創出される知的財産をめぐるトラブルを未然に防止し、ひいては国際共同研究の円滑な実施及びその成果の速やかな活用促進を図るため、科学技術協力協定に、極力知的財産に関する規定を盛り込んでいくよう努める必要がある。

2 大学・研究機関レベルでの対応

 近年、基礎研究の成果がそのまま実用化につながるなどの例が増加しており、国際共同研究においても将来の実用化を念頭に置き、共同研究から創出される知的財産の帰属又は利用についての取扱いについて、事前に当事者間で取極を結んでおくことがますます重要となっている。
 大学・研究機関等においては、今後知的財産について原則機関帰属とし活用していく方向を踏まえ、国際協力に係る知的財産の取扱いも含めた知的財産ポリシーを作成・公表するとともに、知的財産の組織的管理体制を整備することが必要である。知的財産ポリシーの作成に当たっては、研究者・ポストドクター・学生に対する知的財産取扱いのルールを、日本人、外国人を問わずに明確に定めることが重要である。
 その際、科学技術・学術の国際交流・協力による成果の公表が必要以上に阻害される結果とならないよう十分留意すべきである。

3 国際的研究者交流における知的財産への配慮

 近年、世界的な知的財産保護への関心の高まりから、研究試料の持ち出し規制その他の研究成果の取扱い等に代表されるように、海外においても知的財産に関する規制が強化される方向にある。こうしたなか、最近、研究者の海外渡航及び国際共同研究の増加、国内と海外での知的財産に対する取扱いの相違等により、我が国研究者が海外で知的財産をめぐるトラブルに巻き込まれるケースが発生している。
 従って、今後とも知的財産に配慮した国際的研究者交流を推進していくに当たっては、知的財産の取扱いに関するルールについて研究者の理解を深め、意識を高めることが肝要である。そのため、大学・研究機関における知的財産取扱いの体制整備の基盤として、長期に海外渡航する研究者に対する注意事項を国あるいは機関が作成するとともに、海外からの受入研究者に対して知的財産に関するルールの周知を図る必要がある。

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科学技術・学術政策局政策課

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