社会・経済活動全般にわたる急速な情報化及び国際化の進展に伴い、科学技術・学術分野においても厳しい国際的競争環境の下で、将来の我が国と国際社会のあり方を見据え、国際化推進施策を積極的に展開することが急務となっている。
2001年に定められた第2期科学技術基本計画(以下、「基本計画」という。)に示された目指すべき国の姿と科学技術政策の理念である「知の創造と活用により世界に貢献できる国」、「国際競争力があり持続的発展ができる国」及び「安心・安全で質の高い生活のできる国」の実現を目指すためには、科学技術・学術活動の国際協力・交流の主体的、積極的な推進が極めて重要である。
基本計画においては、「科学技術活動の国際化の推進」を重要政策の一つに位置づけ、「主体的な国際協力活動の展開」、「国際的な情報発信力の強化」及び「国内の研究環境の国際化」について基本的方向を示している。
基本計画を指針とし、科学技術・学術活動の国際協力・交流の現状と動向を踏まえて、今後の国際化推進の方向を検討した結果、国際化推進の諸施策を講じるに当たっては、「先端研究における国際協力の戦略的推進」、「地球規模の問題解決への取組みの強化」及び「アジア諸国との研究パートナーシップの構築」の3点を特に重視するとともに、これを支える「国際交流・協力の基盤強化」を強力に推進することを基本とすべきものとの結論に達した。
先進諸国に伍して先端研究を発展させる上で、先進諸国との交流の強化と競争的協力は極めて重要な課題であり、特に次の視点に立って協力・交流を戦略的に推進することが望まれる。
第一に、先端研究の推進に当たって、宇宙・海洋開発、素粒子物理学、核融合研究等の諸分野はもとより、ライフサイエンス等においても、巨額の経費、多数の研究者を投入し、組織的、継続的取組みを展開することが研究の成否を決する場合が増加しつつある。このような課題の取組みに当たっては、我が国と先進諸国の研究水準、動向等を的確に把握し、共同、分担、競争の必要性についての十分な戦略的、政策的検討を行い、効果的な協力を主体的に展開する必要がある。特に巨大プロジェクトについては、国として適切な戦略的判断を時宜を失せず下すためのシステムを整備することが必要である。
第二に、先端研究の推進に当たっては、先進諸国の研究者、研究拠点との間のネットワークの形成及びそれを通じての研究協力・交流の展開が極めて重要である。地理的、言語的にハンディキャップを負う我が国にとっては、このことが特に重要な意味を持つが、我が国における日米、日欧間の研究者交流はむしろ停滞気味であり、憂慮される状況が見られる。先端研究の推進とその基盤強化の観点から、国際間の研究ネットワークの形成とそれを通じた先端研究の国際協力への取組みを強化することが肝要である。
21世紀人類社会最大の課題は、地球的規模の環境問題を克服するとともに、食料、エネルギー問題等を解決し、国際社会の安全及び人類社会の持続的発展を確保することである。これらの課題の解決は科学技術・学術活動の成果に待つところが大きく、そのための国際的協力の強力な推進が強く期待される。優れた科学技術と研究能力を有する我が国としては、研究者コミュニティによる国際研究協力の発展を促進し、国際機関等による取組みに我が国の特長を活かして積極的に参加するなど、人類共通の諸課題解決のため、主体的国際協力活動を一層強化すべきである。
科学技術・学術活動の国際化推進に当たっては、将来アジアが欧米と伍する世界の研究センターに発展することを目指して、長期的観点からアジア諸国との研究パートナーシップの構築に力を注ぐことが必要である。
第一に、人材の養成、確保についての支援協力の強化である。現在、外国人特別研究員制度、拠点大学方式による交流制度等を通じて、相当数の若手研究者をアジア諸国から受け入れているが、アジアにおける第一線の研究者育成の観点に立って、相手国関係機関、大学等との連携を深めつつ、優秀な若手研究者の招致活動をさらに強化する必要がある。同時に、アジアにおける研究ネットワーク形成を視野において、我が国の研究者のアジア諸国への派遣を進めるべきである。
第二に、地球的規模の課題への取組みに当たっては、アジア諸国との連携協力の下に、アジア地域を中心にリージョナルな活動を展開することが重要である。この観点からも、アジア諸国との研究パートナーシップを主体的に構築していくことが必要である。
第三に、研究活動のグローバル化の進展に伴い、アジア諸国と欧米との研究交流が拡大しつつあり、欧米との研究協力に当たっても、アジア諸国、特に、研究活動の発展が著しい中国、韓国、インド等と提携して協力・交流を推進することが有効である場合が、今後ますます増大すると思われる。このような認識の下に、これら諸国との研究者・研究機関間のネットワークの強化に力を注ぐ必要がある。
科学技術・学術活動の国際協力・交流発展の基本的基盤は、いうまでもなく、我が国の大学・研究機関の研究環境である。基本計画が指摘するとおり、「国際的にも開かれ、国内外の優秀な研究者が集まる世界水準の研究環境の構築」が、科学技術・学術活動の国際化推進の最重要な課題である。そのためには、世界水準の施設・設備の整備が必要であることはいうまでもないが、同時に、研究者交流の拡充、国際研究集会の開催やこれへの積極参加を強力に推進し、国際的に活躍ができる人材の育成や大学、研究機関の国際活動を日常化するための体制整備を早急に進める必要がある。
次に、我が国の優れた研究成果を世界に向けて発信することは、国際交流を積極的に展開する上で極めて重要な基盤である。そのため、国際的論文誌の刊行や電子媒体での情報発信等により、我が国の研究活動の状況や成果を積極的に世界に発信する方策を強力に推進すべきである。
また、我が国は現在、「知的財産立国」を目指し、知的財産戦略大綱の決定、知的財産基本法の制定などの知的財産に関する体制整備を政府全体として進めつつある。国際交流・協力を進めるに当たっても、この方針に沿って、知的財産について適正な取扱いがなされるよう、政府及び大学・研究機関がそれぞれの段階において体制整備を進める必要がある。知的財産の取扱いについての研究者の意識の改革が、このような体制整備とともに進められることが肝要である。
科学技術・学術政策局政策課
-- 登録:平成21年以前 --