知の創造と活用の源泉となり、研究者の自由な発想に基づき、幅広く、国際水準の研究成果や社会経済を支える革新的技術をもたらす質の高い基礎研究を、多様性のある公正で透明な評価の下、一層重視する。特に大学等においては、次代を担う人材の育成と一体となって基礎研究を推進する。また、新たな領域も考慮した分野・領域間の適切な研究開発資源の配分に留意する。
国家的・社会的課題に対応した研究開発の分野として、特に重点を置くべき分野は、ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料の4分野(以下「重点4分野」という。)とし、他分野に優先して研究開発資源の配分を行う。
各分野の研究開発については、平成13年度からの5年間にわたる、研究開発の重点領域、研究開発目標及び推進方策の基本的事項を定めた「分野別推進戦略」(平成13年9月21日総合科学技術会議決定)に基づいて、着実な推進を図る。その上で、重点4分野とそれ以外の分野を含め、各分野内で、最新の動向も踏まえ、平成15年度に特に重点的に推進すべき領域・事項(以下「重点事項」という。)を以下のとおりとする。
以上の推進に当たっては、計測・分析・評価技術、研究用材料(生物遺伝資源、環境試料等)、データベース等の知的基盤の整備や、国際標準化、知的財産の確保に向けた積極的な取組が重要である。
府省の枠を超えて総合的に研究開発が推進され、成果が社会に還元されるよう、総合科学技術会議は、本方針及び分野別推進戦略を基に実施状況を把握・調整する。
ヒトをはじめ、主な動植物のゲノムの塩基配列の解読が急速に進んでいる。これを受けて、基礎的研究をさらに進め、情報通信技術との融合を図るとともに、これらの成果を疾患の予防・治療、創薬、新しい物質生産等に応用する研究開発を重視する。また、研究成果を臨床等の実用化に効率的に結びつける施策や異分野との融合領域の施策を強化する。
○ ゲノム・遺伝子発現解析、タンパク質の構造・機能解析に基づく個人の特性に応じた医療と創薬
○ 再生医療を中心とした新しい治療技術、機能性食品や新しい診断・予防技術
○ アレルギー疾患等の予防・治療技術、プリオン病等の診断・治療技術
○ こころの発達の研究とこころの病気やアルツハイマー等神経疾患の予防・治療技術
○ 微生物・動植物等を用いた糖・脂質・タンパク質等の有用物質の生産と環境対応技術
○ 食品の安全性確保
○ イネ等のポストゲノム研究
○ 情報通信技術、ナノテクノロジーとの融合領域の研究、特に医療応用を目指した生命情報科学
○ 医療機器や遺伝子・タンパク質等解析技術
○ 基礎研究の臨床への橋渡し研究・治験等の臨床研究
○ 医療技術・遺伝子組換え体のリスク評価に関する研究
光通信、半導体素子や関連装置(デバイス)等を中心に国際競争が激化する一方、我が国はモバイル技術で新たな市場を開きつつある。最近の流れとして、分散するコンピュータ等を柔軟に活用する新しい技術の可能性が出ている一方、情報通信システムの安全性・信頼性確保の要求も高まり、またシリコンなど既存技術の壁が顕在化しつつある。これらの状況を踏まえ、研究開発を推進するとともに、ソフトウェア、インターネット、安全性(セキュリティ)、計算科学等の人材育成について、大学を中心に大幅な規模の増大を図る。
○ 光や無線を用いた高信頼な超高速モバイルインターネットシステム技術
○ 半導体、平面画像表示装置(平面ディスプレイ)等、高機能・低消費電力の半導体素子や関連装置(デバイス)技術
○ 分散コンピュータ、情報蓄積検索、情報格差(デジタルデバイド)解消等技術、安全性(セキュリティ)等技術、ソフトウェアの信頼性・生産性向上技術、コンテンツ技術
○ シリコン等の現在の技術を超え、量子工学技術等の新しい原理・技術を用いた次世代情報通信技術
○ ナノテクノロジー、ライフサイエンス、宇宙通信等他分野との連携の下で行う融合領域での新しい可能性を探る研究開発
○ 分散する計算機資源を高速回線で結び、高い計算能力を確保するコンピュータネットワークシステム
○ 分子構造等複雑な自然現象のコンピュータ上の模擬試験等を行う計算科学
「地球温暖化対策推進大綱」(平成14年3月19日地球温暖化対策推進本部決定)及び「生物多様性国家戦略」(平成14年3月27日地球環境保全に関する関係閣僚会議決定)並びに「持続可能な開発に関する世界首脳会議」に向けた検討等を踏まえ、個別研究を集成・再構築したイニシャティブの下に、研究開発を推進する。
○ 気候変動観測・予測・影響評価技術の高度化及び観測データ相互利用システムの構築
○ 温暖化抑制政策研究
○ エネルギー利用等による人為起源の温室効果ガスの排出削減技術及び隔離・固定化技術
○ 循環型社会創造に向けた支援システムの開発
○ 地域特性に適合したゴミゼロ・資源循環技術のシステム化技術
○ 廃棄物汚染環境の修復・再生技術
○ 流域圏・都市の環境状況の観測・診断・評価技術
○ 自然・生活環境の保全等のための自然共生化技術
○ 流域圏を考慮した都市再生シナリオ・実践システムの開発
○ 生態系影響評価やリスク情報の相互伝達システム等、化学物質リスク評価・管理技術の高度化
○ 有害化学物質の生産・排出等に係る削減技術及び無害化処理技術
○ アジアモンスーン地域を主要な対象とした水循環観測・予測技術
○ 水循環変動の生態系・社会影響評価技術とそれに基づく対策技術
世界的に活発な研究開発の動向、特に生物工学や情報通信技術との融合領域における進展等を踏まえ、研究開発を推進する。推進に当たっては、実用化ニーズを踏まえるとともに、異分野間を融合する研究体制の構築を重視する。
○ 生体・分子材料技術等と半導体加工技術を融合した新原理素子(デバイス)・材料のシステム指向的研究開発の強化
○ 半導体微細加工技術、表示・記録・通信用素子及び装置並びに関連材料の研究開発
○ 新エネルギー・省エネルギー用の材料や触媒等の研究開発の強化及び統一的評価手法の確立
○ 有害物質の監視・除去技術の研究開発
○ ナノテクノロジーを応用した医療に関する研究開発の強化
○ 生体分子の構造等を計測・解析し、その動作原理を半導体装置・材料等に応用するナノバイオロジーに関する研究開発の強化
○ ナノ精度で任意の物体を計測・評価、加工及び製造する技術の研究開発
○ 微小電気機械システム(MEMS)を含む微小機械(マイクロマシン)技術の研究開発
○ 計算機を活用した材料・工程設計技術の研究開発現場への普及
○ 組織・構造をナノレベルで制御し諸特性を飛躍的に向上させた材料に関する研究開発の強化
「地球温暖化対策推進大綱」を踏まえ、温室効果ガスの排出抑制に資するための研究開発を推進する。
○ 燃料電池・水素利用、太陽光発電等、エネルギー高効率利用・省エネルギー技術、核燃料サイクル技術等
○ 原子力利用、水素利用等の安全対策技術の調査研究及び開発
○ 原子力、新エネルギー導入・普及に関する社会受容性(パブリックアクセプタンス)等の研究
我が国の製造業は依然激しい国際競争に直面していることを踏まえ、環境に負荷をかけない低コスト化・高付加価値化製造技術の研究開発を推進する。
○ 情報通信技術高度利用による飛躍的な生産性向上の強化
○ ナノテクノロジー・生物工学の応用や基礎工学での新知見及び人間工学の視点等に基づく製造工程変革
○ 加工・計測高度化技術の強化
○ 微細化・複合高機能化技術の活用による高付加価値化技術(微小電気機械システム、知能ロボット等)
○ ナノ製造技術等の新製造工程技術
○ 省エネルギー・新エネルギー対応技術の強化
○ 循環型社会形成に適応する廃棄物の発生抑制・再使用・再資源化技術の強化
近年、自然災害に加え、従来では考えられなかった事故や犯罪による社会不安が高まり、緊急な安全の構築が求められている。特に災害大国の我が国においては、被害を最小化する総合的な防災システムの構築と要素技術の開発が喫緊の課題であり、先端技術の活用も効果的な対応を行う上で重要である。また、時代の変化に対応した交通システムは、国民生活の質の向上への貢献が期待される。
○ 災害被害をくい止め、軽減する技術、迅速な復旧・復興のための技術等
○ 宇宙及び上空利用による高度な観測・通信技術、防災救命ロボット技術等
○ 新しい社会・経済活動を支える交通システムの技術、過密都市圏での高度な交通基盤技術等
我が国の宇宙開発利用は、利用の拡大と産業化の時代を迎えていることから、積極的な取組を進める。海洋開発については、資源小国として、海洋資源の有効利用が重要である。また、我が国の国際的地位を確保するための国際プロジェクトを重視する。
○ 固定衛星通信の超高速化技術、高速移動体衛星通信
・高精度測位技術、地球観測技術等
○ 海洋生命科学、微生物利用技術等
○ 宇宙環境利用、地球環境変動の解明等
近年の科学技術の展開は、遺伝子やタンパク質解析から生み出される膨大な情報の蓄積・利用、計算科学を始めとする情報通信技術の発展、ナノレベルの測定・製造・加工技術の進展等が相互に関連し、既存の分野の枠を超えたものになってきている。これらは、知の創造と産業応用に大きな可能性を有している。したがって、従来の分野別の施策を立体的にとらえ、分野融合領域を重視し、先見性・機動性をもって施策と推進体制を強化する。また、こうして集積された知を総合的かつ迅速に活用することも重要である。
国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化等のために、重点事項の推進と併せ、大学等の研究機関における教育研究の改革等を通じて、科学技術関係人材の育成・確保を図る。
分野融合の進展に対応し、大学等において分野融合組織の新設や人材流動化の促進等により、融合領域の研究者の育成・確保を図る。
国際競争力の強化の前提となる科学技術の産業化を促進し、また、国際標準化に積極的に対応するため、以下の人材の育成・確保を重視する。
○ 研究開発成果の知的財産化を支援する人材
○ 研究開発を理解する能力に加えて、知的財産やマーケティング等の知識を備え、起業・経営のできる人材
○ 国際規格策定の審議・とりまとめ業務の中枢を担うことのできる人材
生物工学、ナノテクノロジー等の急速に発展しつつある領域において優れた技術者・研究支援者の育成・確保を重視するとともに、我が国の産業構造の変化や情報通信技術の普及等に対応するための技術者の再教育等の充実を図る。
科学技術・学術政策局政策課
-- 登録:平成21年以前 --