資料5‐1 大学共同利用機関の法人化について」(中間報告)の概要

(平成14年7月30日 科学技術・学術審議会学術分科会)

1.大学共同利用機関の設立経緯・実績

○ 大学共同利用機関は、我が国独自の方式として、各々の分野において高度な学術研究を進めることのできる中核的な研究拠点として発展し、種々の学術分野の要請に基づき、現在の15機関18研究所に拡充された。

○ 大学共同利用機関では、研究者コミュニティの意向を反映した形での必要な施策が効率的に実施されており、我が国のそれぞれの学術分野の振興に必要とされる共同利用・共同研究を推進してきた。

○ 大学共同利用機関は、研究者コミュニティの求めに応じて可能な限り共同研究の機会を提供してきた結果、大学と大学共同利用機関双方の研究者にとって、多くの成果が得られ、その分野の学術基盤が着実なものになってきたと評価できる。

○ 単なる利用者と研究拠点の関係に止まらないこの緊張感のある研究者コミュニティとの関係により、それぞれの分野の研究の健全性が維持され、国際的にも高い評価の得られる多くの研究成果の創出に結びついている。

2.大学共同利用機関の研究機関としての特徴

○ 大学共同利用機関の基本的な特徴は次のとおり

  1. 学術研究の推進
  2. 大学の研究者にとっての中核的な拠点
  3. 大学の人材養成と一体となった研究
  4. 海外に対する発信機能
  5. 研究者の自主性・自律性を基本とした管理運営
  6. 国立大学と同様の制度上の位置付け

(1)研究開発法人との対比

○ 研究開発法人において行われる研究は、所管省庁の行政目的の下、社会経済の要請等に基づく課題の解決を目指す研究であり、国があらかじめ目標を設定する手法がとられている。一方、大学共同利用機関において行われる研究は、研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として真理の探求を目指す研究であり、研究者の自主性・自律性を尊重する手法がとられている。

○ 大学共同利用機関では、研究者コミュニティの研究者が共同して研究計画等を決定することが重要である。

(2)国立大学との対比

1)国立大学との基本的性格の同質性

○ 大学共同利用機関は、昭和46年に、国立大学における学術研究の発展に資することを目的とする国立大学の共同利用の機関として、特定の大学に附置せず、すべての国立大学に共通に附置される研究所という新しい形により制度化された。

○ 大学共同利用機関は、真理の探究を目的とする学術研究を行う研究機関であることから、次のような仕組みが取られている。

  1. 教員の身分及び処遇を大学と同様とすることにより、円滑な人事交流を行えるようにしている。
  2. 教育研究の実際の担い手である教員等の参画の下に教員人事が実質的に決定されるような手続きが定められている。

○ 大学共同利用機関は、国立学校設置法で設置されており、予算・会計制度についても国立学校特別会計法に依拠している。

2)大学附置研究所との対比

○ 大学共同利用機関は、大学セクターの一部ではあるが、独立の機関、大学附置研究所は大学の一部という基本的な位置付けが異なる。

○ 管理運営組織については、大学共同利用機関は、研究者コミュニティの意向を反映する仕組みにより決定し、他方、大学附置研究所は、大学の一部局として教授会によって決定されている。

○ 長や教員の人事については、大学共同利用機関では、文部科学大臣が選考を行い、大学附置研究所では、学長が選考を行う。

(3)学術研究における位置付け

○ 大学共同利用機関のシステムは、限られた人的・物的資源を効果的・効率的に活用して、最大限の優れた学術研究上の成果を上げるなど、我が国の学術の発展に大きな足跡を残してきている。

3.大学共同利用機関の法人制度設計の考え方

○ 国立大学法人法(仮称)の中で規定し、基本的に国立大学法人の組織運営システムを踏襲することが適当である。また、次のような大学共同利用機関の特色を活かした制度設計とする必要がある。

  • 研究者コミュニティに開かれた運営
  • 機構と研究所の関係

4.法人形態の骨組み

(1)法人形態の考え方

○ 特定の研究者コミュニティの研究者の共同利用・共同研究の拠点としての機能を発展させるとともに、新分野の創出に向けて効率的に自らを発展させる仕組みを持たせることが重要である。

○ 総合的な学術研究の中核の1つとして今後の我が国の学術全体の発展に資するという観点が重要である。

○ 研究領域を、人間文化、自然、情報・システムの3つの分野にくくることが適当である。

○ 高エネルギー加速器研究機構については、大型特殊装置を中心に適正規模で既に機構を形成していることから独立した組織とする。

○ 上記の理念に沿って4つの機構(法人)に再編することが適当である。

○ 大学附置研究所等との連携を強化する方策を検討することが必要である。

○ メディア教育開発センターの在り方については、特殊法人改革などを勘案し、別途速やかに検討される必要がある。

(2)新機構の構成及び理念

  1. 人間文化研究機構(仮称)
     母体となる機関:国文学研究資料館、国際日本文化研究センター、総合地球環境学研究所、国立民族学博物館、国立歴史民俗博物館
     理念:文化に関わる基礎的研究及び、自然科学との連携も含めた研究領域の開拓に努め、文化の総合的学術研究の世界的拠点を目指す。
  2. 自然科学研究機構(仮称)
     母体となる機関:国立天文台、核融合科学研究所、分子科学研究所、基礎生物学研究所、生理学研究所
     理念:自然科学研究の拠点として、自然探求における新たな研究領域の開拓、育成等を積極的に推進する。
  3. 情報・システム領域研究機構(仮称)
     母体となる機関:国立情報学研究所、国立遺伝学研究所、統計数理研究所、国立極地研究所
     理念:情報とシステムの観点から分野を越えた総合的な研究を推進し、新たな研究パラダイムの構築と新分野の開拓を行う。
  4. 高エネルギー加速器研究機構(仮称)
     母体となる機関:素粒子原子核研究所、物質構造科学研究所
     理念:高エネルギー加速器に関する開発研究等を行い、素粒子から生命体にわたる広汎な実験・理論研究を展開する。

(3)機構再編に期待される効果

○ 各機構において、具体的な共同研究等を通じて、時代が要請する新たな学問分野の創出に戦略的に取り組むことが期待される。

○ 総合研究大学院大学との連係等により、大学では成しえない教育、分野を超えた高度な総合的教育による研究人材の養成の面でも貢献することが期待される。

○ 個別の法人とされる大学において、研究所等の全国共同利用の機能が適切に維持発展されるよう、各機構が推進役を果たすことが必要である。

○ 機構本部事務局において共通事務を一括処理することで、事務処理体制の効率化を図ることが可能となる。

5.法人の制度

(1)法人の組織・運営システム

○ 管理運営組織については、

  1. 主に研究及び共同利用に関する重要事項や方針を審議する評議会(仮称)と並んで、主に経営面に関する重要事項や方針を審議する運営協議会(仮称)を設け、そこに相当程度の人数の機関外有識者の参画を得る。
  2. 法人の長は、運営協議会の審議と評議会の審議を踏まえ、最終的な意思決定を行う。
  3. 特定の重要事項は、役員会(仮称)(監事を除く役員で構成し、機関外者を含む。)の議決を経る。

○ 役員は、「機構長(仮称)」、「副機構長(仮称)」(複数名)、「監事」(2名)とする。

○ 役員数は、国立大学法人の例を踏まえつつ、各機構の規模を勘案し、各機構ごとに適切に定める。

○ 機構長は、当該大学共同利用機関の最高責任者として、法人を代表し、最終的な意思決定を行う。

○ 副機構長は、機構長を補佐し、業務の一部を分担する。

○ 監事は、業務を監査し、その結果に基づき必要あれば、機構長、文部科学大臣に意見を提出できる。監事のうち、少なくとも1名は、大学共同利用機関の学術研究及び共同利用並びに機関運営に関し高い識見を有する機関外者から登用する。

○ 各機構の自主的な判断で柔軟かつ機動的に研究組織を編成できるよう内部組織は原則として法令に規定せず、各機構の予算の範囲内で随時設置改廃を行うこととする。

○ 研究所は、各機構の業務の基本的な内容や範囲と関わるため、法令等で明確化する方法を工夫する。

○ 必要に応じて、運用上、当該研究所に関する重要事項を審議する運営会議(仮称)を各研究所に置く可能性を検討する。

○ 機構本部は、法人の事務全般及び研究所をまたがる事業活動の企画調整を行うことを主たる機能とする。

(2)法人の人事制度

○ 機構長は、機構内の選考機関における選考を経た後に、文部科学大臣が任命する。

○ 各機構における運営協議会及び評議会の双方の代表者から成る機構長選考委員会(仮称)が、機構長の選考基準、手続きを定め、機構長候補者を選考する。

○ 機構長が不適任の場合、一定の要件の下で文部科学大臣が選考機関の審査等の手続きを経て解任できる。

○ 副機構長は、機構長自らの責任において任命する。

○ 監事は、文部科学大臣が任免する。

○ 研究所長等は、各機構の判断で研究所に置かれる運営会議において候補者を選考し、機構長が任命することも考えられる。

○ 各研究所等の教員の人事に関しても、同様に運営会議で選考すること等も考えられる。

○ 教員の名称については、国立大学法人における制度を踏まえたものとすることが適当である。

(3)法人の目標・計画・評価

○ 中期目標については、研究及び共同利用の自主性・自律性を尊重する観点から、あらかじめ各機関が文部科学大臣に原案を提出するとともに、文部科学大臣が、この原案を尊重し、また、大学共同利用機関の研究及び共同利用の特性に配慮して定める。

  1. 機構から文部科学大臣への事前の意見(原案)の提出
  2. 機構の意見(原案)に関する文部科学大臣の配慮義務
  3. 機構の研究等の特性に関する文部科学大臣の配慮義務

などの規定を「国立大学法人法」等で明確に位置付ける。

○ 具体的に中期目標に記載すべき事項としては、大学共同利用機関の特性を踏まえ、次のとおりとすることが適当である。

  1. 中期目標の期間
  2. 機構全体としての基本的な目標
  3. 機構の研究及び共同利用等の質の向上に関する目標
  4. 業務運営の改善及び効率化に関する目標
  5. 財務内容の改善に関する目標
  6. 社会への説明責任に関する目標
  7. その他の重要目標

○ 具体的に中期計画に記載すべき事項としては、大学共同利用機関の特性を踏まえ、次のとおりとすることが適当である。

  1. 機構の研究及び共同利用等の質の向上に関する目標を達成するためにとるべき措置
  2. 業務運営の改善及び効率化に関する目標を達成するためにとるべき措置
  3. 財務内容の改善に関する措置
  4. 社会への説明責任に関する措置
  5. その他の重要目標に関する措置

○ 国立大学と同様に国立大学評価委員会(仮称)により評価を行う。

6.関連する課題

(1)大学附置研究所等との連携

○ 連携の形態としては、例えば、次のようなことが考えられるが、具体的な連携のあり方に関しては、各機構において検討する必要がある。

  1. 大学共同利用機関法人が関連分野における全国共同利用の機能を総括する役割を担い、個々の全国共同利用型の大学附置研究所等と連携して、全体として大学における共同利用のシステムを効果的・効率的に運営する。
  2. 新規分野の開拓に当たって、既に研究基盤を有している大学附置研究所等に中核的拠点を形成することが効率的である場合は、連携という手法を活用する。
  3. 分野によっては関係する全国の大学附置研究所等をコンソーシアム的にネットワーク型の研究組織として機能させることが効果的であり、大学共同利用機関法人がその連携の中心として調整役を果たす。

(2)総合研究大学院大学との連係

○ 総合研究大学院大学が法人化後の各機構と緊密な連係及び協力の下に、優れた研究者養成のための大学院教育が行えるよう、国立大学法人法等において所要の規定を整備する必要がある。

○ 大学共同利用機関においても、大学院教育への協力を正規の業務の一つとして明確に位置付ける必要がある。

○ 今後、4機構に再編されることを踏まえて、研究科の在り方に関して検討する必要がある。また、優秀な学生を確保するための方策や博士課程としての国際的競争力を向上する観点からの見直し等の検討が必要である。

(3)財務会計上の問題

○ 運営費交付金は、組織規模や研究・事業活動状況を踏まえた最適な算出方法を検討する必要がある。

○ 大型のプロジェクト研究等特別な事業を推進するための経費については、基本的には、運営費交付金等により措置すべきと考えられる。さらに、大学附置研究所等も含めて、その他の資金がプロジェクト研究に振り向けられるための措置の可能性を検討する必要がある。

(4)その他の重要課題

○ 科学技術・学術審議会のもとに委員会を置き、大学共同利用機関の在り方等について、学術全体の動向を踏まえ審議することが適当である。

○ 4つの新機構法人が、相互の連携を強化するため共通する課題について協議、企画、調整する自主的組織の設立を検討することが望まれる。

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科学技術・学術政策局政策課

(科学技術・学術政策局政策課)

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