評価実施主体は、研究開発評価を適切に実施するために、あらかじめ評価対象、評価目的、評価者の選任、評価時期、評価方法及び評価結果の取扱いをそれぞれ明確にした評価の具体的な実施方法を定めるとともに、評価実施体制の充実を図る。
評価の実施に当たって、共通的に踏まえるべき原則は次のとおりである。
評価対象を明確かつ具体的に設定し、その内容を被評価者に事前に周知する。
研究開発施策、研究開発課題、研究開発機関等及び研究者等の業績の評価において、複数の評価実施主体が、同一の評価対象についてそれぞれ異なる目的で評価を実施する場合がある。この場合、不必要な作業の重複を避けるため、互いに十分な連携を図り、体系的かつ効果的・効率的に評価が実施されるようにする。
評価結果をどのように活用するかを十分念頭に置いて、評価目的を明確かつ具体的に設定し、その内容を被評価者に事前に周知する。
評価の公正さを高めるために、評価実施主体にも被評価主体にも属さない者を評価者とする外部評価(注1)を積極的に活用する。また、必要に応じて第三者評価(注2)を活用し、さらに、民間等への委託による評価の活用も考慮する。その際、利害関係の範囲を明確に定める等により、原則として利害関係者が評価者に加わらないようにする。なお、利害関係者が加わる場合についてはその理由を示す。評価の客観性を十分に保つため、例えば年齢、所属機関、性別等について配慮して、評価者を選任するよう努める。評価者には、一定の明確な在任期間を設ける。
なお、国家安全保障上の理由等のため機密保持が必要な場合には、この限りではない。
外部評価又は第三者評価を行う場合には、評価者は、原則として当該研究開発分野に精通している等、十分な評価能力を有する外部専門家(注3)とする。また、大規模なプロジェクト及び社会的関心の高い研究開発課題、研究開発施策並びに研究開発機関等の評価においては、研究開発を取り巻く諸情勢に関する幅広い視野を評価に取り入れるために、外部有識者(注4)を加えることが適当である。なお、研究者等の業績については、所属する機関の長が、自ら定めるルールに従い評価を実施する。
また、研究開発の性格や目的に応じて社会・経済のニーズを適切に評価に反映させるため、産業界や人文・社会科学の人材等を積極的に評価者に加えることが必要である。さらに、国際的な観点からの評価を行うために、必要に応じて、海外の研究者に評価への参画を求める。
研究者間に新たな利害関係を生じさせないよう、評価者に評価内容等の守秘の徹底を図る。
(注1)評価の対象となる研究開発を行う研究開発実施・推進主体、研究開発機関が評価実施主体となり、評価実施主体自らが選任する外部のものが評価者となる評価をいう。
(注2)評価の対象となる研究開発を行う研究開発実施・推進主体、研究開発機関とは別の独立した機関が評価実施主体となる評価をいう。
(注3)評価対象の研究開発分野及びそれに関連する分野の専門家で、評価実施主体にも被評価主体にも属さない者をいう。
(注4)評価対象の研究開発分野とは異なる分野の専門家その他の有識者であり、評価実施主体にも被評価主体にも属さない者をいう。
研究開発施策及び研究開発課題については、原則として事前評価及び事後評価を行う。5年以上の期間を有したり、研究開発期間の定めがない場合は、評価実施主体が、当該研究開発課題の目的、内容、性格、規模等を考慮し、例えば3年程度を一つの目安として定期的に中間評価を実施する。また、優れた成果が期待され、かつ研究開発の発展が見込まれる研究開発課題については、切れ目なく研究開発が継続できるように、研究開発終了前の適切な時期に評価を実施することが必要である。
さらに、研究開発施策及び研究開発機関等については、研究開発をめぐる諸情勢の変化に柔軟に対応しつつ、常に活発な研究開発が実施されるよう、評価実施主体は、3年から5年程度の期間を一つの目安として、定期的に評価を実施する。研究者等の業績の評価については、研究者等が所属する機関の長が自ら定めるルールに従い、評価を実施する。
研究開発においては、終了後、一定の時間を経過してから、副次的効果を含め顕著な成果が確認されることもまれではない。こうした点を踏まえ、学会等における評価や実用化の状況を適時に把握し、必要に応じて、研究開発施策、研究開発課題等について追跡評価を行い、成果の波及効果や活用状況等を把握するとともに、過去の評価の妥当性を検証し、関連する研究開発制度等の見直し等に反映する。
評価実施主体は、評価における公正さ、信頼性、継続性を確保し、実効性のある評価を実施するために、評価目的や評価対象に応じて、あらかじめ評価方法(評価手法、評価項目・基準、評価過程、評価手続等)を明確かつ具体的に設定し、被評価者に対し周知する。
研究開発には優れた成果を生み出していくことが求められるため、成果の水準を示す質を重視した評価を実施する。その際、研究分野ごとの特性等に配慮しつつ、評価の客観性を確保する観点から、質を示す定量的な評価手法の開発を進め、具体的な指標・数値による評価手法を用いるよう努める。例えば、あらかじめ設定した目標の達成度、また公表された論文の被引用度や特許等の活用状況等に関する数量的指標には一定の客観性があり、評価の参考資料として活用することができる。ただし、研究者の自由な発想に基づく基礎研究等のように、定量的な評価手法の適用が困難である場合があることに留意する必要がある。その場合であっても、可能な限り、客観的な情報・データ等を活用する。
評価は、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」に示されている政策評価の観点も踏まえ、必要性、効率性、有効性の観点から行う。研究開発の特性に応じて、「必要性」については、科学的・技術的意義(独創性、革新性、先導性等)、社会的・経済的意義(実用性等)、目的の妥当性等の観点から、「効率性」については、計画・実施体制の妥当性等の観点から、また「有効性」については、目標の達成度、新しい知の創出への貢献、社会・経済への貢献、人材の養成等の観点から評価を行うことが重要である。
評価は、対象となる研究開発の国際的水準に照らして行うが、科学技術の急速な進展や、社会や経済の大きな情勢変化に応じて、評価の項目や基準等を適宜見直すことが必要である。加えて、研究者が、社会とのかかわりについて常に高い関心を持ちながら研究開発に取り組むことが重要であることから、研究開発によっては、人文・社会科学の観点も評価に十分に盛り込まれるよう留意する。
研究開発評価は、その目的、内容や性格(基礎、応用、開発、試験調査等(注))に応じて適切な評価の観点を設ける等、柔軟に実施する。
特に、新しい知の創出が期待される基礎研究については、主に独創性、革新性、先導性等を重視する必要がある一方、その成果は必ずしも短期間のうちに目に見えるような形で現れてくるとは限らず、長い年月を経て予想外の発展を導くものも少なからずある。このため、画一的・短期的な観点から性急に成果を期待するような評価に陥ることのないよう留意する。
また、成果を比較的見極めやすいと思われる研究開発であっても、基礎研究、応用研究、開発研究等の各性格が混在する等、単純な区分が困難な場合も多く、個々の研究開発の内容を見極めて、具体的な評価方法を設定する必要がある。
さらに、短期間で論文、特許等の形での業績を上げにくい研究開発分野や試験調査等、各種の研究開発の基盤整備的な役割を担うものについては、個々の業務の性格を踏まえた適切な評価指標を用いることに配慮する。
(注)各種観測調査、遺伝子資源の収集・利用、計量標準の維持、安全性等に関する試験調査、技術の普及指導等、相対的に定型的、継続的な業務をいう。
評価に伴う作業負担が過重となり、本来の研究開発活動に支障が生じないよう、例えば評価の重複を避けるよう、既に行われた評価結果を活用したり、可能な限り簡略化した評価を実施する等、評価実施主体の判断により、評価目的や評価対象(課題等)に応じた適切な方法を採用し、効率的に行う。例えば、大規模なプロジェクトと短期間又は少額の研究開発課題では評価の方法に差があるべきである。
なお、評価方法の簡略化や変更を行う場合は、評価実施主体は変更の理由、基準、概要等を示す。
また、各研究開発実施・推進主体及び研究開発機関が、あらかじめ自らの研究開発について自己点検を行い、適切な関係資料を整理しておくことは、外部評価及び第三者評価を効果的・効率的に活用する上で有益である。
特定の研究者への研究費の過度な集中を防ぎ、効果的な研究開発の推進を図るため、研究代表者及び研究分担者のエフォート(注)を明らかにし、新規の研究開発課題の企画立案、競争的資金制度における新規課題の選定等の際に活用することが重要である。
(注)研究専従率をいう。研究専従率とは、研究者が当該研究開発の実施に必要とする時間の配分率(%)。研究者の年間の全仕事時間を100%とする。
研究開発施策、研究開発課題及び研究開発機関等の評価については、研究開発実施・推進主体又は研究開発機関は、評価実施主体が得た評価結果について、それぞれの特性に応じて予算、人材等の資源配分等に反映させるとともに、国民に対する説明責任を果たすためこれらの反映状況を公表する。また、研究者等の業績の評価結果については、その処遇等に反映させる。
評価実施主体は、評価実施後、被評価者からの求めに応じて、評価結果(理由を含む)を開示するとともに、被評価者が説明を受け、意見を述べることができる仕組みを整備する。なお、研究者等の業績の評価については、所属する機関の長が定めるルールに従う。
研究開発成果や評価結果を広く公表することは、国民に対する説明責任を果たすとともに、研究開発評価の公正さと透明性を確保し、また研究開発成果や評価結果が社会や産業において広く活用されることに役立つ。
評価実施主体は、個人情報や企業秘密の保護、国家安全保障、知的財産権の取得状況等に配慮しつつ、研究開発成果、評価結果(評価意見や評価方法等)をインターネットを利用する等して、分かりやすい形で国民に積極的に公表するとともに、必要に応じて国民の意見を評価に反映させる。なお、研究者等の業績の評価の結果については、個人情報の秘密保持の点から慎重に取り扱う。
評価者の評価に対する責任を明確にするために、評価実施後、適切な時期に評価者名を公表する。また、研究開発課題の評価の場合、研究者間に新たな利害関係を生じさせないよう、個々の課題に対する評価者が特定されないように配慮することが必要である。
前記の1.から6.を担保するため、評価実施体制を充実する。
評価実施主体は、研究開発の特性に応じて、質の高い実効性のある評価が行われるように、評価実施のための具体的な仕組みを定め、公表する。また、評価に必要な予算、人材等の資源を確保して世界的に高い水準の評価を行う体制を整備することが必要である。その際は、必要に応じて研究費の一部を評価の業務に充てることも考慮する。
競争的資金の配分機関等においては、評価体制を充実するため、評価部門を設置し、国の内外から若手を含む研究経験のある人材を適性に応じ一定期間配置する。さらに、研究開発課題の評価プロセスの適切な管理、質の高い評価、優れた研究の支援、申請課題の質の向上の支援等を行うために、研究経験のある人材を充てる仕組みを作る(注)。
また、研修、シンポジウム等を通じて評価人材の養成に努める。
評価者や評価業務に携わる人材の中から、早い段階で優れた研究開発を見いだし、研究開発を発展させることのできる人材を養成・確保するよう努める。
(注)例えば、米国のプログラム・マネージャー制度をいう。
評価者の選任、評価者の評価等の評価業務の効率化、研究開発の不必要な重複の回避、効果的・効率的な研究開発の企画立案等を図るため、各府省は各課題ごとに研究者(エフォートを含む。)、資金(制度、金額)、研究開発成果(論文、特許等)、評価者、評価結果(評価意見等)を収録したデータベースを構築・管理するとともに、総合科学技術会議は、各府省が取りまとめたデータ等を府省横断的に活用できるようなデータベースを構築・管理する。
さらに、審査業務・評価業務を効率化するため、申請書の受付、書面審査、評価結果の開示等に電子システムを導入する。
科学技術・学術政策局政策課
-- 登録:平成21年以前 --