以上のような基本的考え方に立って、国際協力・交流を推進するためには、既存の各種施策の充実強化を含めて、総合的な方策を強力に推進する必要があるが、当面、早急に実現することが必要な方策をとりまとめると次のとおりである。
社会経済の諸活動における科学技術の役割の重要性の認識が深まるとともに、温暖化等地球環境問題、食料問題、エネルギー問題、淡水管理、感染症対策、災害防止と被害の低減等の重要政策課題についての科学技術協力が、国際機関会合、首脳・閣僚会談、科学技術協力協定下の合同委員会等において、政府間協議の対象となることが増加しつつある。これらの政府間協議において、研究協力・交流促進の一般的合意を越えて、我が国が、戦略的判断に立ってイニシアティブを発揮することは、重要政策課題の解決に向けての国際的協力を推進する上で極めて重要である。政府間協議と政府間合意の実現において、我が国がイニシアティブを発揮するためには、重要課題の国際協力についての我が国の明確な政策形成が不可欠であり、このような政策形成のためのシステムを早急に整備すべきである。政策形成に当たっては、産業界等を含む国際協力の構築や研究者コミュニティーとの緊密な連携に十分配慮することが肝要である。
さらに、合意された国際協力を確実に実行に移すシステムの強化が図られなければならない。そのためには、文部科学省が、政府間合意の実現に向けて、関係府省等との連携の下に、国際会議の開催、国際共同研究の実施、専門家派遣等を機動的に進めるための資金を確保し、府省横断的に措置できるシステムの確立が急務である。
また、政府間合意には、学術協力、すなわち、研究者コミュニティー間の自発的協力の促進を図ることが適切なものも少なくない。そのような場合には、学術振興機関間、あるいは大学・研究機関間の協議、協力による推進を図るべきであり、科学研究費の活用を含めて、そのための支援方策を講じる必要がある。
先端研究の推進を図る上で、先進諸国との研究ネットワークはきわめて重要であるが、最近における先端研究の国際的展開に対応するためには、従来の二国間の研究ネットワークだけでは不十分であり、新たに多国間ネットワークを早急に構築し、大型共同研究の実施や研究者の交流を発展させる必要がある。特に、学術協力においては、先進諸国の学術振興機関との協力の下に、重要分野を選んで各国の中心的大学・研究機関を拠点とするネットワーク形成を早急に推進すべきである。なお、アジア諸国との研究パートナーシップの強化の観点から、拠点大学交流の発展を図るとともに、中国、韓国、インド等の大学・研究機関をネットワークに加えることも考慮すべきである。
研究者の国際交流によるパーソナルネットワークは、研究の国際協力・交流を支える基盤であり、その促進は国際化推進の重要課題である。欧米諸国との交流の著しいインバランスの改善、アジア諸国との交流の緊密化を重視し、次の諸点に重点を置いて一層の促進を図る必要がある。
外国人特別研究員事業は、若手研究者招致の中心的事業として大きな役割を果たしており、平成14年度予算においては、受入れ定員は1650人である。第1期科学技術基本計画に掲げられた2050人規模を目指してその拡充を図るとともに、優秀な研究者招致のため制度の運用の改善と受入れ体制の整備を進める必要がある。
特に、欧米からの若手研究者が停滞・減少傾向にあるのは憂慮すべき問題であり、その改善のための努力を早急に開始すべきである。
欧米の若手研究者が来日をためらう主たる原因は、日本の研究環境に対する不安と将来のキャリアへの不安にあるといわれており、日本における研究が母国をはじめ国際的に評価されるような研究環境の整備への努力が必要である。それがまた、基本計画が掲げる「国際的にも開かれ国内外の優秀な研究者が集まる世界水準の研究環境の構築」につながる道である。
当面の改善の具体策としては、第一に、将来の来日意欲を喚起する短期受入れの道を開くことが挙げられる。その際、対象を研究者を目指す優秀な大学院生にも拡大することも有効な方策である。
第二には、優秀な外国人特別研究員が、我が国の大学、研究機関等に適切なポストを得られるようにすることである。そのためには、大学・研究機関等の積極的な努力が求められるが、同時に外国人特別研究員が我が国で腰を据えた研究を進めることを可能にするため、期間延長を弾力的に認める配慮が必要である。
我が国研究者の海外訪問は増加傾向にあるが、海外の大学・研究機関に長期に滞在し、海外の研究者との日常的交流の中で研鑚を積む機会は広がっていない。むしろ、欧米諸国のポスドク雇用や招へいプログラムの縮小に伴い、以前よりは狭まっている面も見られる。世界レベルの研究を推進していく上で、海外における研究経験はきわめて重要であり、優れた研究者養成の観点から、若手研究者の長期海外研究を積極的に推進する必要がある。
当面、我が国研究者養成の中核的事業である日本学術振興会の特別研究員制度の運用に当たって、採用期間中海外における一定期間の研究を原則とすること、アジアにおける研究ネットワーク形成を視野において、中国、韓国等への研究者の長期派遣を進めること、中堅研究者の長期海外派遣のシステムを整備すること等の措置を早急に講じることが望ましい。また、大学院博士課程後期に在学する優秀な学生を研究のために海外に派遣するための制度の整備拡充が重要である。
国際的学会、セミナー、ワークショップ等の国際研究集会は、研究者にとって世界水準の研究を追求する上で、極めて重要な意味を持つだけでなく、研究者間のネットワークを構築する上でも、我が国の研究成果、研究水準を世界に発信する上でも、大きな意義を有している。我が国研究者のイニシアチブによる国際研究集会の開催について、開催地の如何を問わず積極的に支援を強化する必要がある。
国内の研究環境国際化の基本は、我が国の中心的大学・研究機関において海外の優秀な研究者との交流、協力、競争が日常的に行われるようにすることにある。そのためには、大学・研究機関の外国人スタッフの拡充に向けての採用努力が必要であるが、同時に外国人研究者のため研究・生活環境の整備を積極的に進めることが肝要である。特に、宿舎の確保、外国人研究者の競争的資金への応募の容易化、海外での研究発表の支援が重要である。また、国際的な学生交流の拠点の活用も有効な方策である。
さらに、大学・研究機関が所在する地域社会の国際化にも留意しつつ、我が国社会が外国人受入れについての理解を深め、適切な対応へ一層の努力が払われるよう、さまざまな機会を通じて働きかける必要がある。
同時に大学・研究機関の組織・体制の強化が急務であり、国際担当副学長等の特定、国際担当部門の整備、優れた専門職員、ボランティアの採用、確保や研修の強化などが早急に措置されることが望まれる。
研究の国際協力・交流活動を主体的に推進する上で、我が国の研究活動とその成果が、国際的に正当に評価され、認知されていることが極めて重要であり、そのためには、我が国の研究成果、研究者、研究機関に関する情報の海外への発信を情報通信ネットワークの活用等によって積極的に推進していく必要がある。
学会等による充実した英文誌の発行と国際的流通の促進が、有効な方策であるが、そのためには多額の資金と労力が必要であり、我が国が国際的に高い研究水準にある分野における英文誌の刊行を促進するため、学会等の優れた試みに対してパイロット・ケースとして集中的に支援することが有効な方策である。また、優れた研究論文の英文抄録等の発信に積極的に取り組んでいくことが重要である。
さらに、海外への情報発信は、在外公館の科学アタッシェ、科学技術・学術振興機関、研究関係法人等の海外拠点がそれぞれの特長を活かし連携を深めて、情報発信に努めることが重要である。また、我が国との研究交流経験者を中心とする研究者コミュニティーの形成を支援することも重要な意味を持つ。
科学技術・学術政策局国際交流官付