資料3-2-1 「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点」を踏まえた各分科会等における検討状況

(平成24年2月29日現在)

 

 第5期に設置された基本計画特別委員会では、S(科学)とT(技術)に、I(イノベーション)を加えたSTIへの転換が提言された。しかしながら、我が国観測史上最大の地震やそれに伴う原子力発電所事故等による未曾有の災害を踏まえ、新たにR(リコンストラクション(再建)、リフォーム(改革))を加えたSTIRを政策の基調とすべきである。

 こうした考えのもと、今後、科学技術・学術審議会においては、東日本大震災の現状を踏まえ、科学技術・学術の観点から真摯に検証を行う。その上で、国家的危機の克服と復興、環境変化に強い社会基盤の構築への貢献を視野に入れ、我が国の存立基盤である科学技術・学術の総合的な振興を図るために必要な審議を進めていく。

 その際、総会及び各分科会、部会、委員会等においては、これまで以上に「社会のための、社会の中の科学技術」という観点を踏まえつつ、以下の視点に留意し、検討を行う。特に、科学技術・学術の国際連携と、自然科学者と人文・社会科学者との連携の促進には十分配慮することとする。

 

1.東日本大震災についての科学技術・学術の観点からの検証

 震災下において、科学技術・学術の観点から、適確に機能した面、機能しなかった面、想定が十分でなかった面はどういうところか。

 これらの検証により判明した震災からの教訓や反省を踏まえ、今後の科学技術・学術政策を進めるにあたって、改善すべき点、取り組むべき点、新たにルール化すべき点は何か。また、研究開発を推進するための環境や体制を変化に強いものにする方策として何が必要か。

(視点1)

【研究計画・評価分科会】

(1)的確に機能した面

  1. 全国に整備された地震観測網を活用した緊急地震速報の実用化により、東北地方太平洋沖地震時の鉄道の緊急停止に活かされた。
  2. 都市ガスやLPガスのマイコンメータが普及し、震度5弱以上の揺れで、ガスが自動的に止まるようになったため、阪神大震災のような出火による火災が減少した。
  3. 阪神大震災以降、耐震化が進み、地震の揺れによる公共施設等の倒壊が比較的少なかった。
  4. 航空機による放射線モニタリングや物資輸送等、航空機が被災地支援に多大な貢献をした。

 

(2)機能しなかった面、想定が十分でなかった面

  1. 海域での地震観測網の整備が進んでいないことに加え、通信回線の途絶等により津波の高さ等の正確な情報がリアルタイムで把握できなかった。
  2. 想定を超える規模の災害への対応が国や自治体等において検討されていなかった。
  3. 情報通信及びライフラインが長期間途絶するなど、広域複合災害への備えが乏しかった。
  4. 災害に関する古文書の利用や地層分析を最も起こりうる地震に対する視野にとどめたため、より長期的な視野での想定が不十分であった。
  5. 地震・津波、危機管理、情報通信システム、災害時の医療、さらに地震や津波及びそれらの複合災害等に対する設計基準を超えた原子力発電所事故への対応等、数々の課題が顕在化した。

 

(3)改善すべき点、取り組むべき点、新たにルール化すべき点

  1. 各府省ですすめられている東日本大震災に関する様々な検証や調査を次世代に確実に引き継ぐため、国全体として記録を残すことが必要である。
  2. 伝承を踏まえ、すべきことを科学的な裏付けを持って整理し、独自の判断で高所に逃げるなど実践的な訓練が行われてきた釜石市等の防災教育は効果的に活かされたとされるが、犠牲者が出た他の事例と比較すること等により、成功要因や不適切要素の導出を行うなどの検証を行うことが重要である。
  3. 災害等に強いITシステムの構築、地震・津波等の被害軽減のための高度なシミュレーション、IT統合システムの防災オペレーションへの応用、風評被害等を避けるためのリアルタイムメディア解析技術の構築などを進める。
  4. 巨大海溝型地震に関する基礎研究を強化する。
  5. 古文書等の人文・社会科学的な証拠について蓄積されたデータを共有化し、さらに地形・地質学的な痕跡も徹底的に洗い出し、より長期的な視野で地震活動の歴史的評価を見直す。
  6. 震災の状況及び対応、復興過程を体系的かつ科学的に調査・検証する。
  7. 自然科学と人文・社会科学双方の多様な専門的知識を結集するとともに、その研究活動や知見を統合して状況認識を統一する枠組みを構築する。
  8. ハード面の限界が露呈し、市民の平時の備えと瞬時の判断が生死を分けたことが明らかになった今、国民一人ひとりがなすべき事を考え柔軟に行動し、自分で自身の命を守る力を持つことが重要である。このため、人間行動学などの人文・社会科学との連携がさらに必要となっている。
  9. ハード面に加え、防災・危機管理教育、災害経験の伝承、避難・救急と復旧・復興体制の整備、災害時の情報システム及び医療システムの強化、リスクコミュニケーション等、ソフト面での対策の充実を図り、ハードとソフトが連携した総合的な研究を推進し継続的に見直す。
  10. これまで、生物遺伝資源(バイオリソース)のバックアップに向けた取組が進められてきたが、大震災によってその重要性が再確認された。このため、震災後、緊急性の高いリソースについては一部バックアップ措置を行ったが、特に一度失われると二度と復元できないリソースについて引き続きバックアップ措置を行う。
  11. 東日本大震災による電力供給の問題、施設維持の問題等を教訓に、重要な研究基盤は、リスク分散の観点から複数の拠点に設ける。

 

【学術分科会】

(1)改善すべき点、取り組むべき点、新たにルール化すべき点

  1. 東日本大震災の記録を永遠に残し、広く学術関係者により科学的に分析し、その教訓を次世代に伝承し、国内外に発信するための学術調査の実施が求められている(復興構想7原則の1)。関係機関の有機的連携に配慮しつつ、人文・社会科学分野を中心とする歴史の検証に耐え得る学術調査を行う予定。
     その際は、学術分科会等における意見も参考とする。
    ・ 歴史的な記録の発掘も含めた震災の記録保存については、貞観地震などの震災の記録のほか、そこから復興に向けてどのような人間活動(施策も含めて)があったか、救援救済活動があったか、住まいを高台に移すなども含めて、人文・社会科学者の間で可能な限り掘り起こすことが必要。
    ・ 東日本大震災の記録保存や学術調査の実施は非常に重要。その際、各研究機関に蓄積されているデータを相互利用すべき。また、各研究機関からの情報提供と発信も必要。
    ・ 東日本大震災に係る学術調査については、福島、宮城、岩手の自治体で起こったことだけでなく、東京で起こったことも調査対象とすべき。
    ・ メディア上と世論の関係、メデイア上の情報がサイエンスも含めた行政上の判断に及ぼす影響、あるいは世論形成の変化という点についても調査が必要。

 

【測地学分科会】

(1)的確に機能した面

  1. 東北地方太平洋沖地震においては、陸上における高密度の地震観測点やGPS等の地殻変動観測点のデータに加え、近年その重要性が認識されてきた海底における地殻変動や津波の観測で得られたデータにより、東北地方太平洋沖地震で何が起きたかについて詳細に明らかにされつつある。さらに、近年の津波観測監視体制の整備により、その解析時間や即時的な防災情報発表に要する時間は大幅に短くなっていた点も指摘したい。

 

(2)機能しなかった面、想定が十分でなかった面

  1. 東北地方太平洋沖地震のようなマグニチュード9クラスの超巨大地震の発生については、事前にその発生を追究できなかった。これは海溝付近の地殻変動に関する情報が少なく、その結果、海溝付近におけるプレート間固着に関する知見が不足していたためである。また、地震発生予測のモデルのひとつであるアスペリティモデルも、これまでに得られた地震観測記録の解析結果に頼りすぎ、単純化しすぎて用いていたことが明らかになった。
  2. 津波警報については、情報発表の初期段階において地震や津波の規模を過小評価したため、防災情報としての役割を十分に果たしたとは言えない結果になった。

 

(3)改善すべき点、取り組むべき点、新たにルール化すべき点

  1. 今後の地震の発生予測に関する研究は、理論的・観測的研究を通じてアスペリティモデルの再検討及びより多様な地震発生モデルの研究を進める。
  2. 特に、今般のような超巨大地震について、発生サイクル、震源過程、地震や火山活動の誘発機構等の解明に関する観測研究が必要である。そのためには、東北地方太平洋沖地震後に観測される地殻変動や誘発された地震活動等に関する学術調査の実施、海溝付近の大深度海域における海底地殻変動技術の開発、海域におけるモニタリングの充実、長期予測手法の高度化、モニタリングデータを用いた即時的津波予測手法の研究開発および、「歴史学」や「地震考古学」や「津波考古学」等の分野との連携による過去の地震発生履歴解明が必要である。
  3. 上記観測開発を強力に推し進めるため、今後の課題を反映させた観測研究の方向を示すために新たな建議を策定するとともに、基礎研究と地震調査研究推進本部等の国の施策や防災対策との関係を明確にし、連携を意識した観測研究を推進する。
  4. 各種委員会における議論を出来る限り公開し、地震調査研究・火山噴火予知や防災に関する施策について、学協会においても多様な視点から施策を議論する環境を整備することが必要である。   

 

【先端研究基盤部会】

(1)改善すべき点、取り組むべき点、新たにルール化すべき点

  1. 東日本大震災による被災の教訓を踏まえ、次なる大規模災害が発生した場合でも、研究開発基盤が有効に機能し、研究開発活動を停滞させないための仕組みの構築が必要。このため、施設・設備等のリスク分散のための考え方等を明示し、具体的取組を今後講じていく。

 

【産業連携・地域支援部会】

(1)取り組むべき点

  1. 東日本大震災の産学官連携活動や知的財産・ノウハウへの影響及び今後の課題の把握に努める必要性があるため、東日本大震災の産学官連携活動への影響を調査する大学の取組を支援する。

 

【国際委員会】

(1)改善すべき点、取り組むべき点、新たにルール化すべき点

  1. 震災により、研究計画の変更を強いられた者に柔軟に対応する。(特に日本の研究機関で研究活動を行う外国人研究者)
  2. 我が国の研究環境がレジリエントな(resilient:困難な状況から回復力のある)ものである旨積極的に発信する。
  3. 災害発生後、直後、復旧期、復興期といった時間の経過に応じ、適切な相手に向けて的確な情報発信を行う。

 

 

 

2.課題解決のための学際研究や分野間連携

 社会が抱える様々な課題の解決のために、個々の専門分野を越えて、様々な領域にまたがる学際研究や分野間の連携がなされているか。特に、自然科学者と人文・社会科学者との連携がなされているか。

 また、社会が抱える様々な課題を適確に把握するための方策は何か。課題解決のための学際研究や分野間連携を行うためにはどのような取組が必要か。

 さらに、これらを支える人材育成のための方策として何が必要か。

(視点2)

【研究計画・評価分科会】

(1)学際研究や分野間の連携

  1. 従来のライフサイエンスやバイオテクノロジーと、ナノテクノロジー・材料科学技術を融合して新しく生まれた研究分野は、「ナノバイオ(テクノロジー)」と呼ばれており、これは、異分野との親和性の高さが発揮され、融合分野が生まれた典型例と言える。

 

(2)課題解決のための学際研究や分野間連携を行うための取組

  1. 研究者が課題達成に向けた各分野との連携といった一連のシナリオを理解するため、課題毎にどの分野と連携すべきか、課題達成のために留意すべき事項を明確に翻訳する、もしくは明確なシナリオを俯瞰的にきちんとつくる作業が必要である。
  2. 具体的な手法等を活用して社会を構成している人工物から自然まで全部を計測し、社会全体を一体として捉えることが、分野間の連携を推進する具体的な方法になっていくという視点が重要である。
  3. 自然科学と経済社会システム変革の相互関係、環境・エネルギー技術の実効性及び国民ニーズへの適合性、その導入に関しての利害調整、リスクコミュニケーション及びそれを踏まえた国民的合意形成、科学技術面からの外交政策など、人文・社会科学領域との連携・融合を図る。
  4. ネットワークの維持、発展を図るとともに、そこで生み出された優れた成果を組み合わせ、活用を図ることにより、社会が要求する課題に挑戦する姿勢を研究者側から明確に打ち出す。
  5. 研究成果の実社会への活用を見据えて、運用・活用側のニーズと研究開発側のシーズを把握し、さらにそれを研究成果や研究課題の選定に反映を図る仕組みを構築する。
  6. 研究開発を実施する際には、産学官、各界との人的・知的交流を促進することにより、関連研究機関や産業界、学会等を交えた研究ニーズ、シーズのマッチングを図り、研究開発の方向性を互いに共有する。
  7. 府省間連携や分野を超えたネットワークの構築は、危機管理や震災対応における最重要課題である。特に今回の地震・津波災害、原子力事故後の環境修復においては、従来の土木建築分野に加え、農学、原子力、化学など様々な科学技術で関連分野の横串的な連携の必要性が明らかになるとともに、人文・社会科学系との連携の必要性も強く認識させられたことから、共通の認識を共有できる人づくりをベースとして、各分担者の持分が生かせるシステムを考える。
  8. 自然科学者、人文・社会科学者が一体となり、科学的知見、倫理的知見からの価値判断ができるような科学技術全体の横串連携を実現するネットワークを構築する。

 

(3)人材育成

  1. 国際的に開かれた人材育成環境を構築し、国際的な人材交流を活性化することにより、社会の多様な要請に応え、広く産学官・市民にわたりグローバルかつ分野横断的に活躍するリーダーを育成する。
  2. 若手のポテンシャルを有する研究者の幅広い方面からの積極的な参画を促し、アクティビティーの高い研究活動と優れた研究成果を生み出すような人材育成機能も併せ持つ研究プロジェクトは極めて有意義と評価できる。
  3. 防災科学技術にとどまらない新たな付加価値を創出し、イノベーションをもたらすことができる人材を産学官連携により育成・確保していく。
  4. 社会の課題解決を起点とした研究開発においては、異分野の人材が集結するネットワークや研究開発拠点において、共用施設・設備等を活用するなど、研究と教育が一体となった人材育成をすすめることが重要である。
  5. 人材を育成するために、若い頃から異なる組織や文化を経験し、複数の分野の知識を活用して問題を解決する多様な視点や発想を柔軟に取り入れられる素養・能力の向上に向けた実践的な演習等の充実を図る。
  6. 一般市民の関心事・情報ニーズを理解し、それを技術者と専門家に伝え、適切な科学情報を分かりやすく伝えることのできる人材を育成する。

 

【学術分科会】

(1)課題解決のための学際研究や分野間連携を行うための取組

  1. 分野を融合した新しい分野を開拓するためには、異なる分野間の研究者の不断の接触が必要。今ある分野や領域を前提にした分野横断では新しいものは生まれない。学問が1箇所に集まることによって新しい分野や領域を形成し、それが学術を先導していく、という方向性が必要。単なるネットワークではなく、強制的に融合することも必要。
  2. 異分野融合のメリットは、普段それぞれの分野でしている研究では気付かなかった視角に出会えることである。研究室で違う分野の人と話をすることや、メディアが触媒として機能していた「お見合い機能」を確保することが大事。
  3. 成功事例の蓄積や情報交換ができるような場が必要。
  4. 継続的に会う機会を設けることが大事。いろいろな分野の人に直接会えるような環境を、あまりコストをかけずに作ることが重要。(ただし、それを義務だと思ってやっても生産的ではない。)
  5. 学術の世界において課題解決のための学際研究や分野間連携を進めるためには、政策誘導的なメカニズムがないと実現できない。
  6. 学術研究のネットワークについては、ネットワーク強化と自発的な離合集散のダイナミズムとのバランスが必要。
  7. 日米を比較すると、日本の方が異分野融合研究を進めやすい。米国はすぐに成果が上がらなければやめてしまうが、日本ではいろいろな研究をすることに寛容性がある。このような日本の研究システムの強みを生かした方がよい。
  8. 社会課題に寄与しようとする研究を大括りしたプロジェクト型研究を設定して、実務家を含めたピアレビューを試みることも検討する必要がある。
  9. 若手研究者や実務経験のある研究者といった人達が、相互交流できるような分野横断的な社会連携型の研究コミュニティをつくることが必要。

 

(2)人材育成

  1.  国として課題を解決する「官」と、将来に向けて芽を作り、課題を新しく見つける点が評価される「学」との間に、「学」から出てきた成果を課題に敷衍してつなげる人材が必要。また、研究者が長期的に政策を見ていくシステムがない。JSPSの学術システム研究センターにおける活動など動きが出てきているとは思うが、研究者が自分の専門分野から出て、その知見を還元することが評価され、キャリアパスとしてつながっていくシステムを作ることが必要。
  2. 若手研究者にとって異分野融合研究は重要。博士論文を書いた分野とは異なる分野も含めて勉強することは、キャリアパターンの上でも意味がある。一方で、そういった若手研究者をきちんと評価することも必要。

 

【海洋開発分科会】

(1)課題解決のための学際研究や分野間連携を行うための取組

  1. 海洋生物に関連する分野は、生命科学、海洋科学、海洋物理学、海洋工学、情報工学等多岐にわたっており様々な分野の研究者が協力して研究課題に取り組むことが必要である。人間の経済・社会活動と密接に関わっている分野については、社会科学分野の研究者との協力も重要である。このためには、分野横断型の研究プロジェクトを実施することに加え、異分野の研究者が定期的に意見や情報の交換を行うことが有効である。

 

(2)人材育成

  1. 海洋生物研究を着実に進展させていくためには、若手人材を育成することが必要不可欠であり、研究プロジェクトの実施にあたっては幅広い分野から積極的に若手人材を登用することが重要である。

 

【測地学分科会】

(1)課題解決のための学際研究や分野間連携を行うための取組

  1. 地震や火山活動の予測に関する研究においては、国民・社会が何を求めているかについてサイエンスコミュニケーションの方法等を通じ、的確に把握すると同時に、国民に地震や火山噴火のしくみを理解してもらうことにより、自然を理解した上での災害軽減対策を促進する。
  2. 地震調査研究推進本部や火山噴火予知連絡会等の組織が国民・社会のニーズを的確に把握するとともに、基礎的研究を行う大学等のより広範な研究者と情報を共有する。
  3. 研究者も現在の地震や火山噴火予知研究の実力をひろく国民に周知するように努め、国民の期待と学問の実力との乖離を出来る限り解消する。
  4. 大学や研究所等において、自然科学者と人文・社会科学者が共通の課題解決のために共同で研究を進める環境を整える。
  5. 地震や火山活動の予測という困難な課題を解決するためには、従来この分野に参画している研究者以外の参入をも促す仕組みを導入する。

 

(2)人材育成

  1. 人材育成をになう大学においては、環境・防災等社会的に重要な課題を解決するために分野を横断した研究科等により、学生の段階から自然科学と人文・社会科学相互の文化やフレームワークを理解する人材を育てるしくみを作る。

 

【先端研究基盤部会】

(1)課題解決のための分野間連携を行うための取組

  1. 我が国においては、欧米とは異なり、科学技術の研究基盤全体を俯瞰したマクロかつ中長期的な視点からの戦略が存在しておらず、基本的には、科学技術の分野毎に取組が推進されているのが現状
  2. このため、重要課題の達成に繋がる最先端の研究成果を生み出すこと等を目的として、多様な先端研究施設・設備、先端研究基盤技術等を俯瞰的・包括的に捉え、全体としての効果、効率を上げるとともに、新たな価値を生み出す「研究開発プラットフォーム」というシステムを今後構築していくことを目指す。
  3. この際、所管省庁の枠を超えて、可能な限り多くの先端研究施設・設備等を研究開発プラットフォームのシステムに乗せ、産学官が連携して機能させていくとともに、施設・設備間の連携(横型連携)と、施設・設備と研究開発の間の連携(縦型連携)を有機的に行っていくためのシステムの設計が求められる。なお、全体を俯瞰したプラットフォームと政策分野別のサブプラットフォームを組み合わせた構造とすることが適当。
  4. 今後、「研究開発プラットフォーム」の構築に必要となる様々な具体的取組(予算、システム改革等)を検討し、実行する。
  5. 例えば、重要課題達成に向けた研究開発プロジェクトの推進において複数の施設・設備等を最適かつ効果的に活用する仕組みの構築、最先端の研究開発に不可欠となる施設・設備の共用化・高度化の推進、利用者ニーズ等を技術開発、計測分析機器開発、施設設備の高度化に有機的に結び付けるための開かれた仕組みの構築等が考えられる。
  6. また、領域横断的な科学技術の一つである数学については、諸科学・産業との連携の在り方に関する推進方策を検討中であるが、持続的なイノベーションのためには、諸科学や産業が直面するニーズ(数学による解決が期待できる諸課題)に受け身で対応するだけではなく、数学側から主体的に提案することが不可欠であり、同時に諸科学・産業側においても、数学のこうした活動を理解し、支援する必要がある。このような認識に基づいて、平成24年度より先行的取組を実施する。

 

(2)人材育成

  1. 先端研究基盤を支える人材については、そのキャリアパスが不明確であり、人材が不足している。このため、関連する人材(研究者、技術者、事務職員)のキャリアパスの検討を行い、具体的取組を今後講じていく。

 

【産業連携・地域支援部会】

(1)課題解決のための学際研究や分野間連携を行うための取組

  1. 被災地の様々なニーズに的確に対応するためには、専門分野を超えた学際研究や人文・社会系も含む分野間連携にも積極的に取り組む必要があるため、大学等に限らず、産業界、自治体という産学官の枠を越えて、全国のコーディネーターのネットワークを強化する取組を行う。

 

【人材委員会】

(1)課題解決のための学際研究や分野間連携を支える人材の育成

  1. 人材委員会は、平成23年12月20日付けで「文部科学省の公的研究費により雇用される若手の博士研究員の多様なキャリアパスの支援に関する基本方針~雇用する公的研究機関や研究代表者に求められること~」をとりまとめた。
     この基本方針の中で、若手の博士研究員の多様なキャリアパスを支援するため、研究機関や研究代表者に求められる取組の一つとして、雇用する若手博士研究員に対して「異分野を含めた研究活動への主体的な参加を推奨すること」を明記するとともに、文部科学省の公的研究費の公募要項においても、このような活動を博士研究員の研究エフォートの中に含めるよう提言した。
  2. この他、人材委員会においては、主な意見として以下のような意見があった。
    ・ 社会的ニーズに応え、学際的なチームで研究できる人材を育成する取組は既に色々行われている。どのような取組が有効であったのか検証し、恒常的なプログラムとして大学に定着する方向に持っていくことが重要である。また、このような取組を担う教員が学内で評価されるように、教員評価において教育力をきちんと評価することが必要である。
    ・ 課題解決のための学際研究や分野間連携を支える人の育成を検討するに当たっては、求められる人材像を示すことも大事だが、このような人材を育てて、そのような人が活躍できる場やシステムについての議論もセットで行う必要がある。また、時間軸(短期、中期、長期)やステークホルダー(行政、教育機関、企業など)毎に整理して議論する必要がある。

 

 

 

3.研究開発の成果の適切かつ効果的な活用

 様々な研究開発の成果が、適切かつ効果的に結集され、社会が抱える様々な課題の解決に結びついているか。

 また、研究開発の成果が、課題解決のために適切かつ効果的に活用されるためには、どのような取組が必要か。

(視点3)

【研究計画・評価分科会】

(1)様々な研究開発の成果が、社会が抱える様々な課題の解決に結びついているか

  1. 政策決定における研究成果の活用が十分に行われていない。
  2. 平常時から科学者と直接的・間接的に関係する全ての人、団体、機関、地域、行政といった利害関係者(広義のステークホルダー)間でのニーズや技術シーズに関する情報交換、情報共有、コンセンサスの形成等の連携・協働が十分でなかった。

 

(2)研究開発の成果が、課題解決のために適切かつ効果的に活用されるための取組

  1. 平常時から科学者と利害関係者(広義のステークホルダー)間でのニーズや技術シーズに関する情報交換、情報共有、コンセンサスの形成等を行うとともに、その中で、例えば課題解決のために重要なキーテクノロジーは何なのか、必要な技術や条件は何か、という科学技術開発のためのシナリオを明確にすることが重要である。また、課題解決のための技術が出揃った段階では、それら技術を社会実装し、実用化に向けた課題達成を図っておくことが必要である。
  2. 研究機関側も政策の判断を助ける客観的な科学的知見や方法論を積極的に提供することが不可欠であるため、政策及び社会的ニーズを研究活動に反映させるとともに、研究者の知見や研究成果を政策に的確にフィードバックさせるための相互情報交換システムとなる場の形成と活用を進める。
  3. 目標設定の段階から市民、産業界、行政も参加した応用分野の研究者や人文・社会学者との連携の場を設け、あらかじめ課題と関係する領域(セクター)における問題意識、課題を巡る状況、情報科学技術への具体的期待、さらには研究成果に期待される社会的意義や社会的効果、考えられる社会的影響やマイナス面、研究成果を実用化するにあたっての社会制度・システム面での課題等について十分把握し、課題達成としての妥当性を議論し、共通理解を得る。
  4. 今問題になっているのは、我が国は研究開発結果の社会的実装の検証という視点が弱く、遅れていることであり、そのことに留意する必要がある。
  5. 研究成果について、社会の様々なユーザ等の利害関係者(広義のステークホルダー)との連携の強化を図り、研究成果の実社会への活用を見据えて、運用・活用側の社会からのニーズと研究開発側のシーズを把握し、さらにそれを研究成果や研究課題の選定に反映を図る仕組みを構築する。
  6. 今回の震災対応でうまく行かなかった点、問題として指摘された点の分析を行い、それらの課題に対するシステムを構築し、実践的な面からの検証、検証に基づいた修正を行い、システムを強固なものへ築き上げて行くPDCAサイクルを確立する。
  7. 大学等の研究機関でしかなし得ないような希少な事例を対象とした橋渡し研究は重要であり、今後さらなる大学間の協力体制を整備するとともに、社会、企業、行政の協力を得られるような体制を構築する。

 

【海洋開発分科会】

(1)研究開発の成果が、課題解決のために適切かつ効果的に活用されるための取組

  1. 海洋生物に関する研究開発の成果を着実に社会に実装させるためには、民間企業、水産庁や環境省、地方自治体等のニーズを踏まえた研究設定を行うとともに、研究の実施にあたっても意見を聞きつつ進めることが重要である。

 

【測地学分科会】

(1)様々な研究開発の成果が、社会が抱える様々な課題の解決に結びついているか

  1. 地震分野においては、基礎的研究である「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画」の成果が地震調査研究推進本部の施策に活かされており、その施策は我が国における地震防災対策の基礎となる情報を国や地方自治体等の防災関連組織にもたらしている。
  2. 火山分野においても、同じく基礎的研究である「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画」の成果が、我が国の火山防災対策上最も基本的な火山活動評価や予知を行う火山噴火予知連絡会での長時間の検討を通じ、社会に還元されている。

 

【先端研究基盤部会】

(1)研究開発の成果が、課題解決のために適切かつ効果的に活用されるための取組

  1. 大型放射光施設「Spring-8」に続き、平成23年1月に大強度陽子加速器施設「J-PARC」が共用開始され、その後も平成23年3月にX線自由電子レーザー施設「SACLA」が、平成24年秋に京速コンピュータ「京」が供用開始される予定であり、研究基盤に関し、我が国は世界でも類を見ない卓越した優位性を有している状況。今後は、これらの最先端施設を戦略的に活用し、施設が有する機能(スペック)を最大限発揮し、国際的な頭脳循環の拠点として、最先端の研究開発成果を生み出していくことが重要。
  2. また、最先端の研究開発と、それに必要となる最先端の研究基盤のあり方について、両者を結び付ける高度な連携のための議論も必要。
  3. このため、「研究開発プラットフォーム」というシステムの構築に向けて、様々な具体的取組を今後検討し、実行する。

 

【産業連携・地域支援部会】

(1)研究開発の成果が、課題解決のために適切かつ効果的に活用されるための取組

  1. 科学技術・イノベーションによる新産業の創出は被災地域の復興に貢献するものであり、平成24年度より、発明の段階から、大学の革新的技術の研究開発支援と、チームによる事業育成を一体的に実施し、新産業・新規マーケットのための大学発日本型イノベーションモデルを構築する。
  2. 被災地の大学等や研究機関、企業、自治体が連携して、革新的技術に関する研究開発を推進することは重要であり、被災地自治体主導の地域の強みを生かした科学技術駆動型の地域発展モデルの構築を支援する。
  3. 大学等の研究開発成果を新技術・新産業の創出につなげるためには、試作品の製作も含む産学共同研究等を通じた技術移転活動の推進が強く求められており、全国の大学等の研究成果と被災企業のニーズをマッチングさせる取組を行う。
  4. 研究開発の成果を事業化につなげていくためには、地域の金融機関等との連携も有効であり、平成24年度は、産学官に加えて新たに金融機関等と連携し、基礎研究段階と実用化段階の間にある研究開発の「死の谷」を克服するための共同研究開発等の支援を実施する。

 

 

 

4.社会への発信と対話

 研究者、研究機関、国等が、科学技術・学術に関する知見や成果、リスク等について、情報を受け取る立場に立った適切な表現や方法で、海外を含めた社会へ発信し、対話できているか。

 また、社会への発信や対話を一層促進するとともに、国民の科学リテラシーを向上するためにどのような取組が必要か。

(視点4)

【研究計画・評価分科会】

(1)海外を含めた社会へ発信し、対話できているか

  1. 地域の特性に応じて、住民等がリスクをどのような考えのもとに受容して行くかの合意形成を進めておくことが十分でなかった。

 

(2)社会への発信や対話を一層促進し、国民の科学リテラシーを向上するための取組

  1. 科学リテラシーという言葉あるいは科学という言葉の中に、ややこれまで日本がメカニスティックな科学を重視し過ぎていなかったか振り返ってみる必要がある。特にリスクの評価や将来予測など、古文書まで含めたデータを多数集めて推測していくという、いわゆる統計に基づく推測する科学を日本として見直す契機とすべきである。
  2. 科学的、倫理的視点から社会システムにおける価値判断が可能となるよう自然科学と人文・社会科学の連携を進め、真に国民に必要とされる環境・エネルギー技術の研究開発を推進するため、自然科学、社会科学、人文科学の各分野の研究者間で議論する。
  3. 国・自治体・大学・研究機関・企業等が広く参画した防災に関するデータベースを構築し、これを将来の防災に活用するためのシステムを整備するとともに、防災科学技術に関する関係者間の連携を促進する場を構築する。
  4. 我が国において、国際的な協力体制を先導できる人材や国際共同研究プロジェクトを主導できる人材を育成することに加え、将来この分野に貢献する海外からの留学生の積極的な受け入れ等が可能な安定した環境作りを行う。
  5. 特に防災分野では研究活動そのものに一般市民の参加が必要となる場合も多いが、科学リテラシーを向上するため、科学に関する知見や成果、リスク等について、行政機関や地方公共団体との密接な連携の下、早い段階からの教育も含め、一般市民への普及・啓発活動を活発に行いつつ研究を推進する。
  6. 期待される効果、潜在的なリスク等について、国民との認識を共有できるよう、国民を対象とした専門家によるコミュニケーション活動を普及させるとともに、メディアを対象とした普及活動も積極的に実施する。
  7. 「安心文化」の構築には、信頼が重要であり、情報発信者に対する信頼と、科学技術と社会との間における信頼が、安心と強く結びつく。このため、種々の問題を包括する科学技術に関しては、その評価をしっかりと行う体制を整え、科学技術が社会に及ぼす影響について科学界から海外を含めた社会へ常に問いかけと説明を行う。
  8. 東日本大震災を経験して、日本の科学者、技術者がいったいこれからどうしようとしているのか、この震災をどう総括したかということを積極的に海外に発信すべき。
  9. 科学への信頼の形成のためには、多方面の専門家、職種、考え方の人々の意見を総合し、社会、環境、科学技術そのものについての正しい評価が必要であり、「情報開示→分析・解析→討議→あるべき方向性の模索」というサイクルが機能するよう、教育、講演、実地訓練、公開インタービューなどのコミュニケーションのシステムを的確に設けてゆく。
  10. 国民が、独自に情報を入手するために、関連する知識、専門技術、専門家などの科学技術的知見に関する情報を集約する仕組みを整備する。
  11. 社会科学的な側面から、不安の心理についての要因分析やその形成メカニズムの解析を行い、これを風評被害などの防止に活用する。

 

【学術分科会】

(1)社会への発信や対話を一層促進し、国民の科学リテラシーを向上するための取組

  1. 科学者・技術者への信頼が低下していることに関して、今後、社会に向けていかにきちんと説明をして信頼を取り戻していくか、議論が必要。
  2. 中学生、高校生は、科学技術・学術研究は役に立たないと思っているかもしれない。社会、特に中学生、高校生に研究がどう役立つのか説明していくことが必要。
  3. 東日本大震災の際には、マスコミによって別々の研究者が発言したことが混乱を招いたと思われる。英国の主席科学顧問のように、緊急時に情報を正確にまとめて発表するような組織や機関が必要。政治家が科学を正確に理解し、災害対処に果たす科学の役割が大きいことを把握してもらうことも必要。
  4. 科学者は情報発信をしているが、不十分であったり、口べたであったりして社会に対してうまく伝わっていない。科学者と社会をつなぐ媒介者はすでに大学等にいるので、そういう方々と協力して、文科省で情報を集中的にまとめて科学者のコメントとして発信することも必要。
  5. 情報発信に関しては、情報の質の管理が重要。最終的に信頼すべき情報やその意味について一般の人が理解できるよう、情報を選別して解釈を整理する者が必要。その役割を担っているのは研究者もしくは学協会であり、研究者や学協会はそういった認識を持つことが必要。
     また、その地方や地域で起きた災害史を検証し、住民に正確な情報を発信することが重要。

 

【海洋開発分科会】

(1)社会への発信や対話を一層促進し、国民の科学リテラシーを向上するための取組

  1. 海洋生物分野において研究する者それぞれが、高い意識を持って、研究成果を求め、これを発信していくことが必要である。

 

【測地学分科会】

(1)海外を含めた社会へ発信し、対話できているか

  1. 地震や火山分野では基礎的研究の成果は地震調査研究推進本部や火山噴火予知連絡会によりわかりやすく使いやすい形で直接国民に対して提供されている。
  2. 地震については、地震調査研究推進本部のホームページなどを通じて、地震発生の長期評価、強震動ハザードマップ等の情報を提供している。
  3. 火山については、気象庁が事務局を務める火山噴火予知連絡会のホームページ等を通じて、全国の活火山における現在の活動状況(活動レベル)やそれぞれの火山の基礎知識を提供し情報を共有している。
  4. 大学や研究所等においては、ホームページの他、研究所公開・研究室公開等を開催し、国民が直接科学とふれあう機会を提供している。
  5. 社会への対話という点では、研究者が講演等を通じて直接人々と対話をする多くの機会を活かし、情報を受け取る立場を理解しながら情報発信に努めている。また地域によっては、研究者と自治体等の防災担当者やメディアとの勉強会を定期的に開催しており、情報発信と対話に大きく貢献している。
  6. 学校教育においても、様々な基礎教育の中で、地学リテラシーを向上させる努力が、地学に起因する自然災害と無縁ではいられない我が国には必要。地震・火山分野の学術研究は気象分野等とも連携し、国民の「地学リテラシー」の向上に貢献する。

 

(2)社会への発信や対話を一層促進し、国民の科学リテラシーを向上するための取組

  1. 初等中等教育において、地震・火山防災教育が組み込まれることが重要である。これにより、着実なリテラシー向上が予想され、また保護者への教育効果も期待できる。
  2. ホームページ、講演活動などに加え、メディアや自治体等の防災担当者との継続的な勉強会の開催を通じて、地震や火山に関する基礎的な知見から最新の活動情報までを伝えていく。
  3. 災害軽減という課題解決のために地震調査研究推進本部や火山噴火予知連絡会を通して、様々な効果的な取り組みが行われているが、これらの成果について英語による情報発信に努め、我が国の取り組みが国際的な学術の場においても評価を受けて、諸外国における地震・火山災害軽減策に活かされるよう努力が必要である。

 

【先端研究基盤部会】

(1)海外を含めた社会へ発信し、対話できているか

  1. 大学、独法等が有する先端研究施設・設備等に関して、共用のための取組が着実に定着してきているが、産業界をはじめとする利用者から見て未だ敷居が高く、利用システムも多種多様で共通的な考え方が明確になっていない。

 

(2)社会への発信や対話を一層促進し、国民の科学リテラシーを向上するための取組

  1. 情報発信やワンストップサービスの窓口となる中核的機関の整備、コーディネート人材の育成、充実・確保、利用システムに関する考え方の明確化、関係者が情報共有や意見交換を行う交流の場の充実など、産学官の数多くの研究者が先端研究施設・設備等を利用できるための具体的取組を今後講じていく。
  2. また、国内外への情報発信の充実などの取組も講じていく。

 

【産業連携・地域支援部会】

(1)社会への発信や対話を一層促進し、国民の科学リテラシーを向上するための取組

  1. 被災地域の復興状況について、その進展や成果を国内外へ積極的に発信していくことが、投資や需要を喚起する上で極めて重要であり、今後、産学官連携に携わる者が、その点を考慮し社会への発信等を行う。

 

【国際委員会】

(1)社会への発信や対話を一層促進し、国民の科学リテラシーを向上するための取組

  1. 翻訳のためのタイムラグや翻訳されない情報があり、外国人研究者が情報弱者となった事例があったため、多言語による複数媒体での情報提供を行う。
  2. 我が国の健全かつ責任を持って科学技術を推進するに足る国であることを積極的に情報発信するため、世界の研究者コミュニティや大使館を通じて、我が国の状況を積極的に情報発信する。

 

 

 

5.復興、再生及び安全性の向上への貢献

 被災した広範な地域・コミュニティの様々なニーズや、復興、再生にあたって直面する問題をきめ細かく捉えているか。また、それらを踏まえ、科学技術・学術の観点から、復興、再生、安全性の向上及び環境変化に強い社会基盤の構築のためにどのような貢献ができるか。その際、国土のあらゆる地域で自然災害への備えが求められる我が国の地学的状況を踏まえることが必要である。

(視点5)

【研究計画・評価分科会】

(1)復興、再生、安全性の向上及び環境変化に強い社会基盤の構築のための貢献

  1. 復興、再生の観点から、特に福島県を中心として環境修復、環境再生、或いは環境創造が重要であり、これらに関連する科学的な研究開発を進める必要がある。
  2. 自然と共生するために、地球観測・予測、統合解析システム等の技術を、社会を支える基盤的情報として位置付け、地球環境の変動を正確に把握し適切に対応する。
  3. 安全・安心を念頭に置いたエナジーセキュリティの研究開発を進める必要があり、例えば、突然の停電や十分な電力源のない場所でも必要最低限の電力確保を可能とするための蓄電システムや、未利用エネルギーを電気エネルギーに変換するデバイスを開発する。
  4. 地震・津波の被害軽減、高度な気象予測、全地球的な長期気候変動予測等のシミュレーションの高度化を進める。
  5. 社会の防災力の向上のための研究開発として、1)ハザードを知り予測するための研究開発、2)リスクを知り予測するための研究開発、3)災害に対して物理的環境を強くするための研究開発、4)災害に対して社会・人を強くするための研究開発を推進する。
  6. 科学技術的手法によって得られた客観的根拠やデータを地域住民に提示・共有しリスクリテラシーの向上を図るとともに、従前の一方向的な「説得」に基づく合意形成から、客観的根拠やデータに基づく双方向のコミュニケーションや熟議を通じた住民主体の「納得」に基づく合意あるいは政策形成へのプロセスの転換を行う。
  7. 持続可能な形で復興及び安全・安心な社会・都市・地域づくりを進めていくべき主体は、各々の地域であり、市区町村などの自治体であるが、一方で、今回の震災においても市町村単位では対応できなかったことも多く、広域的な行政組織が必要だった面もあったことを踏まえ、国の支援のもとで研究開発にはこれら広域的な行政組織を含めた自治体の職員や地域の住民、学校、企業、NPOなどの利害関係者(広義のステークホルダー)が参画し協働しつつ、住民へ専門的知識や研究開発によって得られたデータ等を提供し、また、住民及び政策決定者に対して複数の選択肢や将来予測を提示するとともに、研究開発終了後もその取組みを自律的に継続・発展させる。
  8. 東北メディカル・メガバンク構想(東日本大震災の被災地域の医療復興に大きく貢献する予防医療・個別化医療等の次世代医療実現のため、ゲノムコホート研究(遺伝情報を含む長期疫学研究)等を実施)は重要である。

 

【学術分科会】

(1)復興、再生、安全性の向上及び環境変化に強い社会基盤の構築のための貢献

  1. 科学技術の問題だけではなく、現在の社会システムが弱さを露呈しており、社会の在り方を検討することが重要。
  2. 今後起きるであろう災害に対して、いかにして被害を減らすべきか、学術の世界から発信するという姿勢も必要。
  3. 現場で話をしながら被災者の生活再建等に学術がコミットすることは、新しい学術の推進の仕方だと思う。意識的にノウハウを蓄積・共有して、さまざまな分野の研究者がコミットしていく体制を作ることが重要。

 

【海洋開発分科会】

(1)復興、再生、安全性の向上及び環境変化に強い社会基盤の構築のための貢献

  1. 海洋調査船・分析機器等の基盤を整備し、全国の関連研究者ネットワークとして、大学等を中心としたマリンサイエンスの拠点を形成する。この拠点の活動にあたっては、地元からの要望・意見を踏まえるとともに、海外の研究機関や民間企業とも連携し、将来的には、国際的な海洋研究拠点として発展、継続させる。

 

【測地学分科会】

(1)復興、再生、安全性の向上及び環境変化に強い社会基盤の構築のための貢献

  1. 国土のあらゆる地域で地震や火山災害への備えが求められている我が国においては、特に震災発生後は、地震や火山噴火の発生機構の解明とその予測に関する研究を進展させることが期待され、さらに火山噴火においては噴火発生後も刻々と変化する推移の予測とその対応方法の開発が求められている。今後はその研究をより推進し、自然現象に関するきめ細かな情報提供と、それを正しく理解し、防災行動につなげるため、国民の「地学リテラシー」を向上させ、防災力を身につけるために貢献する。
  2. 学校教育においても、様々な基礎教育の中で、地学リテラシーを向上させる努力が、地学に起因する自然災害と無縁ではいられない我が国には必要。地震・火山分野の学術研究は気象分野等とも連携し、国民の「地学リテラシー」の向上に貢献する。

 

【技術士分科会】

(1)復興、再生、安全性の向上及び環境変化に強い社会基盤の構築のための貢献

  1. 公益社団法人日本技術士会から、技術士及び技術士会の幅広い分野における取組みについて、以下のような報告を受けた。
    ・ 避難者の一時帰宅に際しての原子力分野の専門家の放射性物質に関する情報提供及び同行
    ・ 「水産資源活用」並びに「魚介藻類の放射線リスクの情報開示」に係る技術支援
    ・ 中小企業庁の「震災復興支援アドバイザー派遣事業」へのアドバイザー候補リストの提供
    ・ 東京都、東京弁護士会、東京税理士会等18団体と協力した「東日本大震災復興支援なんでも相談デスク」の開設
    ・ 業務あるいはボランティアとして復興支援に協力できる内容を「東日本大震災復興支援技術士データベース」として集約し、ホームページに公開

 

【先端研究基盤部会】

(1)復興、再生、安全性の向上及び環境変化に強い社会基盤の構築のための貢献

  1. 東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う放射性物質の影響から復興と再生を遂げるため、平成24年度より、放射線計測に関して、行政ニーズ、現地ニーズ等が高く、開発に一定期間を要する高度な技術・機器及びシステムの開発を重点的に実施する。

 

【産業連携・地域支援部会】

(1)復興、再生、安全性の向上及び環境変化に強い社会基盤の構築のための貢献

  1. 全国の大学等の研究ポテンシャルを被災地域の復興に役立てるため、被災地域のニーズを適確に把握し、適切に全国の大学等につなぐコーディネート機能及びネットワーク機能の強化が重要であり、大学等に限らず、産業界、自治体という産学官の枠を越えて全国のコーディネーターのネットワークを強化するとともに、平成24年度より、目利き人材の活用により、被災地企業のニーズを発掘し、被災地をはじめとした大学等の技術シーズとマッチングさせ、産学共同研究を実施する。

 

【生命倫理・安全部会】

(1)復興、再生、安全性の向上及び環境変化に強い社会基盤の構築のための貢献

  1. 東日本大震災の際、遺伝子組換え技術等に関して執った以下の対応について報告。
    ・ 被災地域及びその周辺地域において遺伝子組換え生物等の使用等が申請されている機関に対して、異常の有無についての確認を実施。
    ・ 東日本大震災の発生直後に、事故等が発生した場合の対応、計画停電の際の留意点、遺伝子組換え生物等の移送の際の留意点等を周知。
  2. これらの東日本大震災の経験を踏まえ、遺伝子組換え生物等の適切な取扱いが、より一層重要となっていることから、遺伝子組換え技術等専門委員会における拡散防止措置の審議に当たって、適宜、現地確認を行うこと等の対応を実施。

 

【国際委員会】

(1)復興、再生、安全性の向上及び環境変化に強い社会基盤の構築のための貢献

  1. 防災や復興に関する分野やそれを支える基礎分野に関する科学技術を我が国の強みとして積極的に情報発信する。また、我が国の強みである科学技術を生かして国際共同研究を進めることにより、科学技術外交を推進する。

 

 

 

お問合せ先

科学技術・学術政策局政策課

学術政策第1係
電話番号:03-5253-4111(内線3848)
ファクシミリ番号:03-6734-4008
メールアドレス:shingist@mext.go.jp

(文部科学省科学技術・学術政策局政策課)