我が国の研究開発力の抜本的強化のための基本方針

平成25年4月22日
科学技術・学術審議会決定

 

 第6期科学技術・学術審議会において、「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の在り方について」(建議)を取りまとめた。建議の指摘事項は、我が国にとって、いずれも根本的なものであり、実効性のある施策が立案されることが必要である。また、近年、論文数や被引用数など、我が国の研究開発力を示す指標が停滞していることは憂慮すべき事態である。このため、第7期総会及び各分科会、部会、委員会等においては、建議の指摘事項を踏まえつつ、我が国の研究開発力の抜本的強化のため、以下の基本方針に基づき具体的方策を検討する。 

1.若手、女性、外国人の積極的登用

(1)若手研究者等の活躍の場の創出と独立促進

  1. 大学等の研究の原動力である「優れた若手研究者」を、世界標準モデルに則り、できるだけ早く、独立したLeaderとして登用するため、平成17年の学校教育法改正(平成19年施行)※1趣旨の徹底
  2. 学術研究を行う際に現在主流である職階管理型(ヒエラルキー)研究体制から、自律的な分野連携・融合型(ネットワーク)研究体制への転換を促進するための支援の推進※2
  3. 上記1及び2を推進する際、事務組織を含めた研究機関全体で適切な支援を行うことが不可欠
  4. 優れた若手、女性、外国人が、労働力として使われるのではなく、研究を自ら主導する、“LaborからLeaderへ”施策を推進するためのファンディング等の推進
  5. 新たに着任した優秀な研究者が独立した研究を円滑に開始するための資金等の援助や、研究資金申請を行う際の英語対応を含む負担軽減の方策の実施
  6. 異分野の若手研究者が集い、連携・融合による研究を主体的に推進することを促進するための支援の推進
  7. 若手研究者の中長期の海外派遣を支援するため、海外での研究者ネットワーク化や帰国後の就職等環境整備の推進

※1 教育研究の活性化及び国際的な通用性の観点から、助教授・助手に関する制度の見直しを行い、助教授を廃止し、「准教授」を設け、助手のうち主として教育研究を行う者のために「助教」の職を設けた

※2 目標達成型の戦略研究やイノベーション創出研究等には、その迅速かつ効果的な推進のための組織体制の構築が必要

(2)国際的頭脳循環への対応

  1. 国内外の優秀な研究者の確保、育成(年俸制導入促進など年功序列的な給与体系の見直し等によるグローバル化対応)
  2. 先進国のみならず新興国との頭脳循環も想定した戦略的な国際研究機関・大学間ネットワークの構築 

2.研究の質及び生産性の向上、新規性の高い研究の推進

(1)新規性の高い研究、ハイリスク研究等の推進

  1. 革新的であり、成果が社会的、経済的に大きな価値を生む可能性が高いが、目標達成が困難な研究(ハイリスク研究)の推進
  2. 1)「個々の研究者の内在的動機に基づき、あらゆる分野の土壌を創る学術研究のための資金」、2)「政府が設定する目標や分野に基づき、目標管理の下で進められる戦略研究のための資金」、3)「特に、イノベーション創出や産業化を直接の目標とする開発資金」を明確に区分した上で、研究者が自らの特質を活かして、目的とする研究を選び、競争的な研究資金を獲得できるような柔軟な研究支援システムの構築。また、公募の際、当該資金の位置付けや狙いを、研究者側へ丁寧に説明することの徹底
  3. 新規分野の開拓や、研究者の分野間連携・融合による研究を促進するための支援の充実。また、国全体における研究ポテンシャルを上げるためには、一極集中型ではなく、多極分散型で活性化を図ることが重要
  4. 公的財源を最大限有効に活用する観点から、大型の競争的な研究資金について、過剰投資とならないよう、必要額の厳格な査定の徹底
  5. 革新的な課題設定の下、リニアモデルにこだわることなく、オープンイノベーションモデルを導入するなど、柔軟かつ戦略的な研究開発の推進
  6. 内在的動機に基づく個々の学術研究に最大限の敬意を払うとともに、基礎研究の中においても、その成果の幅広い波及効果を展望した学際研究や分野間連携・融合を進めるための政策誘導的なメカニズムの構築が必要。このため、国内外の社会の多様な要請を踏まえつつ、科学技術コミュニティとの連携によって優先課題を設定するとともに、必要な専門知を結集した研究体制を構築した上で、課題解決の実現に向けた目標管理を行うなどの特別プログラムの創設   

(2)新たな評価システムの構築

  1. サイエンスメリットにより個々の研究者の能力、実績評価を行うとともに、基礎研究から開発研究まで共通する評価軸と、研究段階、研究方法、研究目的、潜在的発展可能性などの特性を踏まえた評価軸とを組み合わせた適切な研究評価の推進
  2. 従来にはない新たな観点からの研究、分野間連携・融合や学際研究などによって牽引される未踏の科学技術イノベーションに資する研究やハイリスク研究を奨励し、積極的に支援するための新たな評価システムの構築
  3. 新たな評価の考え方に基づき、高い評価結果を得た研究者の処遇や資金配分に積極的に反映させる、例えば、全てを加点方式により評価するシステムの導入
  4. 研究活動、特に開発段階の活動について、社会的ニーズや知的財産、社会実装等の観点を考慮した論文指標以外の評価法の確立
  5. 評価する側は、研究者側からの研究意義の積極的主張を歓迎するとともに、場合により非専門家、部外者の意見も尊重
  6. 研究活動を人材育成に活かしていることを積極的に評価する手法の確立
  7. 研究機関評価の際に、優れた若手、女性、外国人をLeaderとして積極的に登用するなど成果最大化や多様な視点、着眼点の確保のための取組を行っていることを積極的に評価する手法の確立
  8. 研究評価についての高度な専門性を有する者の育成

(3)社会的ニーズの把握

  1. 研究課題を適切に設定するため、経常的に組織や分野を超えて連携し、様々な観点から実社会の現状を捉え、社会的ニーズを掘り起こす体制の確立

(4)研究に打ち込める環境の整備(研究支援者等の育成、確保)

  1. 研究者が本来の活動に集中して、優れた研究成果を上げ、またそれを最大限活用するためには、国際水準を目指した研究環境の改善、特に研究者とともに車の両輪として研究を推進する高度な専門性を有したリサーチ・アドミニストレーターの存在が不可欠である。研究活動の活性化や、研究開発マネジメント(企画立案、研究者間や分野間のネットワーキング等)の強化による研究推進体制の充実強化を図るため、専門性の高い人材の育成、確保、かつ、安定的な職種としての定着の促進
  2. 研究者が高度な研究を実施する上で不可欠な環境整備、研究機器の維持や整備等のため、研究基盤を支える人材の育成、獲得、確保のための取組の促進や、外部連携も含めたこれらの人材のキャリアパスの確立
  3. サバティカル制度の活用促進などによる、研究に集中するための、又は、新たな方向性や連携先の発見に資するための“場”の整備
  4. 研究者間や分野間のネットワーキング促進や、オープンアクセスの観点からの科学技術・学術についての情報ネットワークの構築と機能強化に関する検討

(5)研究開発機器等の一層の開発、適切な調達、共用の促進 

  1. 我が国の科学技術競争力の確保、さらに公的資金の有効活用の観点から、研究現場における先端研究機器等の導入状況の調査、分析等を踏まえ、焦点を定めた戦略的な国産の先端研究機器等の開発、普及の一層の促進
  2. 合理的な調達の促進(高額機器購入のための柔軟な研究費の運用等)
  3. 研究開発機器等の共用促進による研究環境整備、経費効率化等

(6)国民の信頼と相互理解を基にした政策形成

  1. 国民の科学技術リテラシーやリスクリテラシーと、研究者等の社会リテラシー※3の双方の向上
  2. リスクコミュニケーションを推進するための効果的な科学技術コミュニケーションの在り方の検討
  3. 科学技術は不確実性ゆえに答えが必ずしも一つに定まらず、またリスクを伴う場合もあることなど、その本質と限界を理解することを重視した科学リテラシー及び科学教育の見直し
  4. 「社会の中の、社会のための科学技術」という認識を徹底した上で、研究者が常に倫理的な判断と行動を為し、国民の信頼を得ることができるよう、倫理教育を充実するなど、不正行為や研究費の不正使用を排し、研究活動の公正(Research Integrity)を確保

※3 「研究者等の社会リテラシー」とは「一般国民が、科学技術・学術に対し何を求めているのか、また、科学技術・学術に関する情報をどのように受けとめるのかを、一般国民の価値観や知識の多様性を踏まえつつ、適切に推測し、理解する能力。また、こうした多様性に配慮しつつ、科学技術・学術に関する情報を適切に発信できる能力」  

3.世界最高水準の運営や人材育成システムを目指した改革

(1)新たな研究開発法人制度の創設

  1. 科学技術イノベーションを巡る熾烈な国際競争に勝ち抜くため、投入予算に対し最大限の成果を生みだす新たな研究開発法人制度の創設 

(2)研究人材育成システムの改革

  1. 厳しい国際競争の中、我が国が目指す高付加価値を創造する社会構造の樹立のため、優れた研究人材の育成が不可欠。博士課程修了者の質的向上と量的拡大、博士課程修了者の社会的価値の向上、初等中等教育、学部教育、大学院教育の各段階を通じた教育振興と科学技術振興の有機的連携を含め、優秀な人材が博士課程を目指し、高付加価値を創造する人材育成のための魅力ある環境の整備
  2. このための大学院生への経済的支援の充実(例えば、米国においては、優秀な大学院生の獲得競争が生じ、大学院生には、準「職業」として生活費が支給され、また欧州やアジア諸国においても公的支援により私費を投ずることなく、研究に打ち込める環境が整備されている。)
  3. イノベーションを推進し、社会的課題の解決を図る人材を育成する産学連携の実践的なプログラムの検討(産業界をはじめ多様な社会がどのような人材を必要としているかの調査、分析を踏まえた検討)産業界をキャリアパスの一環とし、アカデミア-産業界間のローテーションを含めた弾力的な人材の活用
  4. 全ての学生が実験、実習等を含め、社会が求める質の高い教育を受けられるようにするための仕組みの検討(実験のための一定水準の教育費の確保等)
  5. 大学等の研究の原動力である「優れた若手研究者」を、世界標準モデルに則り、できるだけ早く、独立したLeaderとして登用するため、平成17年の学校教育法改正(平成19年施行)の趣旨の徹底(再掲)
  6. 学術研究を行う際に現在主流である職階管理型(ヒエラルキー)研究体制から、自律的な分野連携・融合型(ネットワーク)研究体制への転換を促進するための支援の推進(再掲)
  7. 上記5及び6を推進する際、事務組織を含めた研究機関全体で適切な支援を行うことが不可欠(再掲)
  8. 若手研究者の自立を支援し、キャリアパスの展望を開くため、フェローシップ等の更なる充実とともに、円滑な頭脳循環と世代交代を促進するためのテニュアトラック制度の確立
  9. 産業界等広い社会における活動も選択できる能力を身に付けることを重視した、大学院生や若手研究者の多様なキャリアパス開拓のための取組の推進。大学と産業界との更なる対話の促進
  10. 分野ごとの状況を踏まえた、ポストドクターのキャリアパス拡大の観点から調査、検討の実施
  11. 次代の科学技術を担う人材の裾野拡大の観点から、初等中等教育段階における、科学技術と、その社会との連関に対する興味や関心、理解の向上
  12. これらを含め、我が国の研究開発力強化の観点から、初等中等教育、学部教育、とりわけ大学院教育の在り方や各教育段階間の円滑な接続、連携の強化について、中央教育審議会と連携した早急な検討の実施

 

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