第2章 初等中等教育の役割 |
||||||||||||||||||||||||
第1節 初等中等教育の役割 |
||||||||||||||||||||||||
(1)初等中等教育の役割 |
||||||||||||||||||||||||
高等学校段階までの初等中等教育は,人間として,また,家族の一員,社会の一員として,更には国民として共通に身に付けるべき基礎・基本を習得した上で,生徒が各自の興味・関心,能力・適性,進路等に応じて選択した分野の基礎的能力を習得し,その後の学習や職業・社会生活の基盤を形成することを役割としている。 |
||||||||||||||||||||||||
(2)初等中等教育で育成すべき資質・能力 |
||||||||||||||||||||||||
上述の初等中等教育の基本的な役割を踏まえつつ,今日の子供や社会の状況を考慮し,その後の学習や職業・社会生活との円滑な接続を図っていく観点から検討すれば,初等中等教育段階においては,次のような資質・能力の育成を重視し,基礎・基本の確実な習得を図ることにより,「自ら学び,自ら考える力」などの「生きる力」を育成することが必要と考える。
|
||||||||||||||||||||||||
(3)発達段階に応じた教育目標 |
||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||
第2節 学力の現状 |
||||||||||||||||||||||||
最近,大学関係者を中心として入学してくる学生の学力低下を指摘する幾つかの意見が提起されている。このため,中央教育審議会としてもこのような指摘自体を接続をめぐる課題の一つとしてとらえ,検討し,一定の考え方を示す必要があると考える。 高等学校以下の学校の児童・生徒の学力については,各種の調査があるが,全国的,国際的な調査としては,文部省が行った「教育課程実施状況調査」,国際教育到達度評価学会(IEA)の「国際数学・理科教育調査」(実施機関:国立教育研究所)がその代表的なものである。 文部省が行った小・中学校の「教育課程実施状況調査(平成5〜7年度)」の結果では,児童・生徒の学力は,文章表現や論理的な思考力などがやや弱いなどの問題点も見られるが,計算の技能や文章を読み取る力などは比較的よく身に付いており,児童・生徒の学習状況はおおむね良好であると考えられる。 また,同調査では過去の調査と同一の問題も一部出題しているが,その結果を見る限り,通過率が高くなったもの,低くなったもの様々であり,全体としてはほぼ同様の状況である。 平成7年に実施された「第3回IEA国際数学・理科教育調査」(国立教育研究所)の結果によれば,我が国の児童・生徒の算数・数学及び理科の学力は,参加国中2〜3位(参加国:小学校対象26か国,中学校対象41か国)にあり,国際的に見て依然トップクラスにある。これまでの第1回,第2回の同調査においても,我が国の成績はトップクラスであった。また,過去の調査と同一の問題の正答率はほぼ同じである。 平成11年に実施された「第3回IEA国際数学・理科教育調査−第2段階調査−」での結果の速報においても,平成7年と平成11年の生徒(中学校2年生)の数学及び理科についての同一問題の正答率はほぼ同様の結果となっている。これらのデータから見る限り我が国の小・中学校段階の児童・生徒の学力は,全体としてはおおむね良好であり,維持されているものと考えられる。 一方,平成7年と平成11年のIEA国際数学・理科教育調査においては,算数・数学や理科に対する態度についても調査している。平成7年の結果によれば,我が国の小・中学生は,算数・数学や理科が好きという子供の割合は国際的に見て低いレベルであり,また,中学生は,これらの教科の学習が生活にとって大切であるとか,将来数学や科学に関する職業に就きたいと考える子供の割合も低いレベルであるという問題点も明らかになった。平成11年の調査の速報においては,数学や理科の好き嫌いについて好意的な態度を持つ生徒の割合は平成7年に比べ減少している。 このような状況の中で,中央教育審議会は,平成8年7月の「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」第1次答申において,「ゆとり」の中で自ら学び自ら考える力などの「生きる力」の育成を基本とし,教育内容の厳選と基礎・基本の徹底を図ること,一人一人の個性を生かすための教育を推進すること,学力の評価は単なる知識の量の多少のみで行うべきでなく,変化の激しい社会を「生きる力」を身に付けているかどうかによってとらえるべきであることなどを提言した。新学習指導要領は,この提言を踏まえ改訂されたものである。これにより,児童・生徒が共通に学ぶ知識の量は従来に比して減ることになるが,ゆとりをもって,個人として国家・社会の一員として社会生活を営む上で必要な基礎・基本をしっかり習得させるとともに,中・高等学校においては,生徒が選択して学習できる幅を従来以上に拡大し,生徒の興味・関心,進路希望等に応じて,より深く高度に学ぶことができるようにするなど,学ぶことの楽しさを味わわせ,学ぶ意欲や学び方,知的好奇心・探求心などを身に付けさせることによって,児童・生徒の「生きる力」としての学力の質を向上させることができると考えている。今後は,文部省としてこのような新しいとらえ方による児童・生徒の学力について引き続き実態を把握するため,総合的な調査を行う必要がある。 大学生の学力低下については,これに関する客観的な全国調査がなされているわけではなく,それを明らかに示すデータはない。平成10年に大学入試センターが実施した「学生の学力低下に関する調査結果」は,国立大学の学部長を対象に,学部新入生の学力についてのアンケート調査を実施したものである。この調査では,学部長の約55%が「学力が低下している」又は「やや低下している」と回答しており,これと関連して,「自主的,主体的に課題に取り組む意欲が低い」,「論理的に思考し,それを表現する力が弱い」,「必要な基礎科目は履修しているが,理解が不十分」,「大学での学習に必要な基礎科目を履修していない」等の指摘がなされている。しかしながら,学力は「変わりない」,「やや上昇している」,「上昇している」とした者も約45%いることなどを踏まえると,この調査のみから,近年の学生の学力が低下していると断定することはできない。 仮に,大学生の学力低下があるとすれば,大学進学率の上昇により,大学生の従来型の平均的学力が低下していることが考えられ,一般的に,進学率の上昇に伴いこのような状況が今後進むことが予想される。さらに,前述の「学生の学力低下に関する調査結果」に見られるように,今の大学生は一般的に学ぶということに対する意欲,関心,心構えが昔に比べて劣っているという指摘があり,このことはより深刻な課題であると考えられる。これには,様々な要因が背景にあると考えられるが,今後,その原因の分析,対策に関して実証的な研究を進める必要がある。いずれにしても,当面,これらの課題に対しては,自ら考える力の育成を目指す方向での初等中等教育の改善,学ぶ意欲や考える力などを含め,各大学の教育に必要な能力・適性等を適切かつ総合的に判定する方向での入学者選抜の改善,課題探求能力の育成を目指す方向での大学教育の改善などを通じて対応していく必要がある。 |
||||||||||||||||||||||||
第3節 各学校段階ごとの到達度評価 |
||||||||||||||||||||||||
各学校段階において,児童・生徒が当該学校段階の教育目標を達成しているかどうか,修了時等において評価することは,各学校が教育上の責務として適切に行うべきものであり,また,上級の学校段階の教育との円滑な接続に資する観点からも重要である。 しかし,我が国では,必ずしも各学校における評価の参考とできるような客観的な評価基準や評価方法に関する研究が進んでいないことから,このような評価基準等について国立教育研究所,都道府県の教育研究所,大学等において積極的な研究,開発を行うことが必要である。各学校では,これらの評価基準等を参考としながら各学校段階の教育目標を達成しているかどうかを評価することになるが,評価基準や評価方法の使い方は一律である必要はなく,各学校で工夫して用いることが求められる。児童・生徒の評価に当たっては,「生きる力」を含めた発達の全体像を視野に入れることが重要であり,知識に偏した評価が過度に意識されることのないように留意すべきである。各学校においては,児童・生徒の評価結果を自校の教育課程の編成や教育方法の改善に生かしていくという視点が重要である。 なお,各学校において各学校段階の教育目標を達成しているかどうかを評価するに当たっては,児童・生徒に対し新たな負担を課したりすることがないよう,各学校における教育の中で適切に行っていく必要があることに留意すべきである。 また,先にも述べたように,文部省として児童・生徒の学力の実態を把握するため,総合的な調査を行う必要がある。 なお, 高等学校卒業時点で全国で一斉に試験を行って到達度評価を行うべきであるという考え方もあるが,高等学校の場合は,生徒の発達段階や約97%の進学率という実態から生徒の能力・適性,興味・関心に応じた多様な教育が求められるため,教育の一環である評価も多様になる。したがって,大学進学を希望しない者まで含めて全国レベル等の共通試験を実施して,卒業を認定するようなことは適切ではない。そのような共通試験を実施することは,高等学校の多様化を妨げる可能性がある。飽くまでも各高等学校の責任において到達度を評価し,卒業を認定すべきと考える。 |
||||||||||||||||||||||||
第4節 高等学校入学における能力・適性等の判定 |
||||||||||||||||||||||||
現在,高等学校は,進学率が約97%に達し,事実上すべての国民が学び得る教育機関となり,個性化・多様化が進んでいる。また,専修学校高等課程(高等専修学校)も中学校卒業者の一部が進学する後期中等教育機関となっている。 入学者選抜については,高等学校進学率が約67%であった昭和38年の「公立高等学校入学者選抜要項」(初等中等教育局長通知)において,「高等学校の教育課程を履修できる見込みのない者をも入学させることは適当ではない」とした上で,「高等学校の入学者の選抜は,……高等学校教育を受けるに足る資質と能力を判定して行なうものとする」とする考え方を採っていた。しかし,進学率が約94%に達した昭和59年の「公立高等学校の入学者選抜について」(初等中等教育局長通知)においては,「高等学校の入学者選抜は,各高等学校,学科等の特色に配慮しつつ,その教育を受けるに足る能力・適性等を判定して行う」として,高等学校の入学者選抜は,飽くまで設置者及び学校の責任と判断で行うものであることを明確にし,一律に高等学校教育を受けるに足る能力・適性を有することを前提とする考え方を採らないことを明らかにした。 これに基づいて現在それぞれの学校や学科の特色に応じた多様な選抜方法の実施,知識に偏らず思考力,表現力などを評価する学力検査の工夫,学業以外の活動の積極的評価など,入学者選抜の改善の努力が進められているところである。 さらに,中高一貫教育制度の実施にあわせて,平成11年度からは,高等学校の入学者選抜について,生徒の多様な能力,適性等を多面的に評価するとともに,一層各学校の特色を生かした選抜を行い得るよう,調査書及び学力検査の成績のいずれをも用いず,他の方法によって選抜を行うことを可能とする制度改正を行い,選抜方法についての設置者及び各学校の裁量の拡大を図ったところである。 今後,このような趣旨が更に徹底され,後期中等教育機関への進学希望者を盲・聾・養護学校高等部も含めた後期中等教育機関全体で受け入れられるよう適切な受験機会の提供や,高等学校の整備,盲・聾・養護学校の高等部の整備などの条件整備に努める必要がある。 |