1998/9 答申等 |
今後の地方教育行政の在り方について(中央教育審議会 答申) | |||||||||||||||||
今後の地方教育行政の在り方について (中央教育審議会 答申) 〈目 次〉 はじめに 第1章 教育行政における国、都道府県及び市町村の役割分担の在り方について 1 現行制度の概要と課題 2 国の役割及び国と地方公共団体との関係の見直し 3 都道府県の役割及び都道府県と市町村との関係の見直し 4 国及び都道府県の行う指導、助言、援助等の在り方の見直し 5 国、都道府県、市町村、学校等の間の情報網の整備 第2章 教育委員会制度の在り方について 1 現行制度の概要と課題 2 教育委員の選任の在り方等の見直し 3 教育長の任命承認制度の廃止と適材確保方策 4 市町村教育委員会の事務処理体制の充実 5 地域住民の意向の積極的な把握・反映と教育行政への参画・協力 第3章 学校の自主性・自律性の確立について 1 現行制度の概要と課題 2 教育委員会と学校の関係の見直しと学校裁量権限の拡大 3 校長・教頭への適材の確保と教職員の資質向上 4 学校運営組織の見直し 5 学校の事務・業務の効率化 6 地域住民の学校運営への参画 第4章 地域の教育機能の向上と地域コミュニティの育成及び地域振興に教育委員会 の果たすべき役割について 1 現行制度の概要と課題 2 地域の教育機能の向上 3 地域コミュニティの育成と地域振興 4 教育委員会と首長部局、関係機関・団体等との関係 5 学校以外の教育機関の運営の在り方 はじめに 1 本審議会は、平成9年9月、文部大臣から「今後の地方教育行政の在り方について」諮問を受けた。 同年10月には「地方教育行政に関する小委員会」を設置し、関係団体からのヒアリング、国民からの提言の公募、「一日中教審」の開催、教育委員会の現地調査等を実施しつつ審議を重ね、平成10年3月に「中間報告」を文部大臣に提出した。 その後、「中間報告」に対する関係団体からのヒアリングの実施、「公聴会」の開催などにより、各方面からの意見に耳を傾け、慎重に審議を進め、ここに答申をとりまとめた。 2 戦後の我が国の教育は、教育を重視する国民の理解と協力の下、各学校の教職員、各地域の教育行政担当者など多くの教育関係者のたゆまぬ努力により、量的にも質的にも著しい発展を遂げ、教育の機会均等の実現と全国的な教育水準の向上が図られてきた。 しかしながら、子どもを取り巻く環境の急激な変化の中で、知識偏重の学力観や受験競争の過熱化、いじめや不登校の問題の深刻化、青少年の非行の増加、家庭や地域の教育力の低下など教育の現状には極めて憂慮すべき状況を生じている。 このような状況を踏まえ、本審議会においては、平成8年7月に「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」(第一次答申)をとりまとめ、今後の教育の在り方の基本的な方向として、子どもたち一人一人の個性を尊重し、[ゆとり]の中で自ら学び、考える力や豊かな人間性などの[生きる力]をはぐくむことが最も重要であるという考え方に基づいて、学校の教育内容の厳選を図り完全学校週5日制を実施すること、家庭や地域社会の教育力の充実を図り、学校、家庭、地域社会の連携を進めること等について提言を行った。 また、平成9年6月の第二次答申においては、子どもたちにゆとりを取り戻すために高校・大学の入学試験の在り方の改善を図ること、多様な選択のできる学校制度を実現するために中高一貫教育制度を導入することなどを提言している。 さらに、平成10年6月には、「新しい時代を拓く心を育てるために」(「幼児期からの心の教育の在り方について」(答申))をとりまとめ、心の教育の充実を図るため、家庭におけるしつけの在り方や心を育てる場として学校を見直すことなどについて提言を行ったところである。 また、教育課程審議会は、平成10年7月、本審議会が示した基本的な考え方を踏まえて、「幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改善について」(答申)をとりまとめ、教育内容の厳選と基礎・基本の徹底、「総合的な学習の時間」の創設など教育課程の基準の改善について提言するとともに、各学校が創意工夫を生かし、特色ある教育、特色ある学校づくりを進める必要があることを指摘している。 3 このような提言等を踏まえて、現在、心の教育の充実、個性を伸ばし多様な選択ができる学校制度の実現などの視点から教育改革が進められているが、教育改革の成否は、各学校と各地域が教育改革の理念と目標を踏まえて、実際にどのような取組を行うかにかかっている。すなわち、すべての学校がその特色を生かして、創意工夫を凝らした教育活動を展開するとともに、地域全体として、子育てを支援し子どもの成長を支えていくような取組を展開することが不可欠である。 4 このため、本審議会としては、学校と地域の在り方、それを支える教育委員会の在り方に焦点を当て、次のような観点から、その改善方策をとりまとめた。 (1)学校については、子どもの個性を伸ばし豊かな心をはぐくむため、学校の自主性・自律性を確立し、自らの判断で学校づくりに取り組むことができるよう学校及び教育行政に関する制度とその運用を見直すことが必要であること。 (2)各地域においては、地域内の学校や関係機関・団体等が連携し、保護者や地域住民の協力を得て子どもの生活と行動の環境を整備し、子どもが様々な体験を重ねることのできるよう学校、関係機関・団体及び家庭の相互の連携協力を促進することが必要であること。 (3)このような学校づくり、地域づくりを実現するためには、それぞれの地域の教育委員会が主体的かつ積極的に行政施策を展開することができるよう、教育委員会に関する制度を見直し、その機能を整備することが不可欠であり、併せて、学校や地域の活動、さらにはそれを支える教育行政に地域住民や保護者が積極的に参画するシステムを導入することが必要であること。 (4)各地方公共団体が主体的に施策を実施し、各学校が自主的に教育活動を行うことは、同時に教育委員会や学校がより大きな責任を負うこととなることを明確にする必要があること。 5 また、我が国の教育行政においては、国の定める制度の基本的な枠組みの下で、国、都道府県、市町村が連携協力して、教育の機会均等とその水準の維持向上が図られているが、現在、行政分野の各般にわたって、地方分権、規制緩和等の基本的な方針の下に行政改革が進められており、既に本年5月には地方分権推進計画が閣議決定され、6月には中央省庁等改革基本法が成立している。 今回の審議に当たっては、これらの行政改革、地方分権の観点を十分に考慮し、国の果たすべき役割を明確にした上で、例えば、これまで細部にわたって指導等を行っていた文部省の行政の在り方を見直すとともに、国や都道府県の市町村や学校に対する関与を必要最小限度のものとするなど、各地域や学校における主体的かつ積極的な活動を促進する観点から地方教育行政制度の在り方について見直しを行い、新たな国、地方公共団体と学校との連携協力体制の在り方を示すこととした。 6 以上のような基本的な考え方に基づき、本審議会の目指した改革の方向は次のとおりである。 (1)各学校の自主性・自律性の確立と自らの責任と判断による創意工夫を凝らした特色ある学校づくりの実現のためには、人事や予算、教育課程の編成に関する学校の裁量権限を拡大するなどの改革が必要である。また、学校の自主性・自律性を確立するためには、それに対応した学校の運営体制と責任の明確化が必要である。このため、校長をはじめとする教職員一人一人が、その持てる能力を最大限に発揮し、組織的、一体的に教育課題に取り組める体制をつくることが必要であり、このような観点から学校運営組織を見直すことが必要である。 さらに、公立学校が地域の専門的教育機関として、保護者や地域住民の信頼を確保していくためには、学校が保護者や地域社会に対してより一層開かれたものとなることが必要であり、地域の実態に応じて「学校評議員制度」を導入するなど、学校運営に地域住民の参画を求めるなどの改革が必要である。 (2)地方教育行政制度の中核をなす教育委員会は、教育行政の中立性や継続性を確保する観点から、首長から独立した合議制の機関として設置され、当該地方公共団体の設置する学校の管理運営に当たるとともに、生涯学習、社会教育、文化、スポーツ等の幅広い分野における施策を展開している。 教育行政においては、学校教育や社会教育における中立性を確保するとともに、住民の自由な発想と多様な価値観を尊重しつつ、生涯学習、文化、スポーツ等の振興を図ることが求められる。このため、教育・学術・芸術文化・スポーツ・経済・福祉等の様々な分野について知識・経験を有する教育委員がそれぞれの識見に基づき、合議によって基本方針や重要事項を決定する教育委員会制度を今後とも維持しつつ、教育行政における地方分権の観点も踏まえ、地方公共団体が責任をもって特色ある教育行政を展開していくことができるよう、教育委員会に関する制度及び運用を見直し、その機能を充実していくことが必要である。 特に、教育委員会において中核的役割を果たす教育長については、地方公共団体が自らの責任において適材を確保するよう、文部大臣や都道府県教育委員会による教育長の任命承認制度を廃止して地方公共団体の議会による同意制を導入すること、教育委員についてはその数を弾力化し、一層広範な分野から教育委員を選任できるようにするなどの見直しが必要である。 また、地域住民に密接に関わる身近な行政を担当する教育委員会が住民のニーズに対応した施策を積極的に推進していくためには、教育委員会が住民の意向を的確に把握、反映するよう努めるとともに、教育行政に積極的に地域住民の参画・協力を求めることが必要である。 (3)子どもの[生きる力]をはぐくむためには、学校や教育委員会について以上のような改革を進めるとともに、学校と家庭及び地域社会が連携して、心豊かな人間づくりの観点から、子どもの教育に積極的に取り組むことが必要である。もとより家庭は、基本的生活習慣のしつけなど子どもの教育において基本的な役割を果たしており、また、社会教育団体、社会教育施設、児童福祉施設等においても子どもを対象とした種々の教育活動が行われている。 今後、家庭、学校、関係団体・施設等が相互に連携し、地域を挙げて子どもの成長を支援していくためには、専門的な教育行政機関としての教育委員会が中心的な役割を担い、家庭や地域の様々な教育機能を融合していくことが必要である。また、教育委員会自身も、住民に身近な行政機関として、人づくりや地域コミュニティの育成、文化・スポーツ活動等を通じた地域振興など地域に根差した教育行政を総合的に展開し、ますます多様化する住民のニーズに適切に対応していくことが必要である。 (4)さらに、子どもの[生きる力]をはぐくみ、一人一人の個性を生かした教育を目指した改革を実現するためには、各学校や各地方公共団体が、それぞれの地域や子どもの実態に応じて、自ら考え創意工夫を凝らし、主体的かつ積極的に施策の充実に取り組んでいかなければならない。 このため、教育行政における国、都道府県及び市町村の役割分担を見直し、学校や地方公共団体の裁量の幅を拡大することが必要であり、行政改革や規制緩和の流れも踏まえ、国や都道府県の市町村や学校に対する関与を必要最小限度のものとするとともに、教育課程の基準の大綱化・弾力化、学級編制や教職員配置の弾力化などの見直しを行うことが必要である。 7 本審議会は、審議の結果を、i)教育行政における国、都道府県及び市町村の役割分担の在り方について、ii)教育委員会制度の在り方について、iii)学校の自主性・自律性の確立について、iv)地域の教育機能の向上と地域コミュニティの育成及び地域振興に教育委員会の果たすべき役割について、の4章にとりまとめた。 本答申が取り上げた審議の対象は、教育行政に関する国・都道府県・市町村の関係、そして都道府県や市町村の設置・運営する公立の学校や社会教育施設等に関する教育行政や学校等の運営の在り方に係るものであり、答申の内容には、専門的な事柄も多く含まれている。このため、それぞれの章の冒頭に現行制度の概要と課題を記述するとともに、それに引き続いて、各課題ごとの見直しの方向性を示し、最後にそれに対応した具体的改善方策を枠でくくって提示することとして、本審議会が現状の何を問題とし、何をどのように変えようとしているのかをわかりやすく示すことに努めた。 8 今後、教育改革をより一層積極的に進めていくためには、教育委員会の果たすべき役割がますます重要になることは言うまでもない。各地方公共団体においては、それぞれの地域や学校の特色を生かした主体的な施策を展開していくことが教育改革の成否を左右することを十分認識して、積極的に対応していくことをお願いしたい。なおその際、教育行政を地域の実情や特色に沿って柔軟かつ弾力的に展開するため、先導的・実験的手法の採用、教育行政や学校運営に関する多様な評価手法の導入等にも留意することが必要である。 また、国においては、特に教育行政における地方分権と学校運営の自主性・自律性の確立を促進する観点から、教職員配置の改善や学級編制の在り方など教育条件の整備充実に十分配慮することを求めたい。 9 21世紀にふさわしい教育を実現していくためには、本答申で示した改革を進め、教育行政や学校の在り方を変え、家庭や地域社会の役割を変化させていくことが不可欠である。そして、このような改革を実効あるものとするためには、教育行政や学校の関係者が積極的に改革に取り組むことが何よりも重要であることはもとより、国民一人一人も、保護者あるいは地域住民として、教育委員会や学校の活動に積極的に参画していくことが極めて重要である。 国民各位におかれては、このような本答申の趣旨を御理解いただき、本答申に基づく今後の改革への取組みに積極的に参画し、御支援いただくようお願いするものである。 第1章 教育行政における国、都道府県及び市町村の役割分担の在り方について 1 現行制度の概要と課題 (1)地域における教育、文化、スポーツ等の振興を担う教育行政は、地方自治の本旨に基づき地方公共団体により行われることが基本となっている。 これに対して、国は、教育制度の枠組みの制定や学校設置基準、学習指導要領等の基準の設定、必要な財政援助等を行うことにより、全国的な教育水準の維持向上を図る役割を担っている。戦前、教育に関する事務は国の事務とされ、国の指揮監督の下で行われてきたが、戦後の改革により改められ、地域における教育、文化、スポーツ等の振興は、住民により身近な地方公共団体が実施主体となるべきとの考え方から、現在のような国と地方の基本的な役割分担となったものである。このような役割分担の下で国と都道府県、市町村が連携協力しながら教育の機会均等とその水準の維持向上が図られている。 国、都道府県、市町村それぞれの役割は次のとおりである。 (国の役割) ア 基本的な教育制度の枠組みの制定 (「学校教育法」による学校教育制度の制定、いわゆる「生涯学習振興法」による生涯学習推進体制の整備など) イ 全国的な基準の設定等 (高等学校や幼稚園など学校の設置基準の設定、学習指導要領等の教育課程の基準の設定、教員免許の基準の設定、学級編制と教職員定数の標準の設定など) ウ 地方公共団体における教育条件整備のための支援 (市町村立小・中学校等の教職員の給与費と校舎の建設等に要する経費に対する国庫負担、私学助成など) エ 教育に関する事業の適正な実施のための支援措置等 (教育内容や学校運営等に関する指導・助言・援助、都道府県教育委員会等の教育長の任命承認、教職員の研修の実施・支援など) (都道府県の役割) オ 県域にわたる基準の設定 (市町村立学校の組織編制や教育課程、教材の取扱い等に関する基準の設定など) カ 広域的な処理が必要な教育事業の実施及び施設等機関の設置・運営等 (高等学校等の設置・運営、公立高等学校の通学区域の設定、市町村立小・中学校等の教職員の給与費の負担など) キ 市町村における教育事業の適正な実施及び施設等機関の適正な設置・運営等のための支援措置等 (教育内容や学校運営等に関する指導・助言・援助、市町村教育委員会の教育長の任命承認、市町村立学校への指導主事の訪問指導など) (市町村の役割) ク 施設等機関の設置・運営 (学校、図書館、博物館、公民館、体育館等の設置・運営) ケ 教育に関する事業の実施 (社会教育に関する各種の学級・講座の開催、文化・スポーツ事業の実施など) このような国、都道府県及び市町村の役割分担の下で、例えば、市町村が設置している小・中学校について次のような仕組みがとられている。 国は、法律に学級編制の標準(いわゆる40人学級)を定め、これに基づき算出された学級数に応じて都道府県ごとに置くべき教職員の数の標準を定めている。さらに法律に定めるところにより算定された教職員定数を基に、その給与費の2分の1を国庫負担している。また、校舎の建設等に要する費用の一部を国庫負担している。 都道府県は、国の定めた標準に従い小・中学校の学級編制の認可を行うとともに、学級数等に応じて教職員を配置し、その給与を負担している(県費負担教職員制度)。県費負担教職員の採用・異動・退職等の任用は、都道府県教育委員会及び政令指定都市教育委員会が行っているが、その服務監督は市町村教育委員会が行っている。 市町村は小・中学校を設置する義務を負い、校舎の建設やその維持管理等を行うとともに、学校の教育活動や学校給食などの実施に要する経費を負担している。また、県費負担教職員以外の職員の給与費を負担している。 このような仕組みによって、国、都道府県、市町村が連携協力して、国全体としての義務教育の円滑な実施を図り、その水準が確保されている。 また、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)」第48条第1項の規定により、教育事務の適正な処理を図るため、文部大臣は都道府県・市町村に対して、都道府県教育委員会は市町村に対して「必要な指導、助言又は援助を行うものとする」とされている。 (2)このような現行制度とその実際の運用について、(i)国や都道府県の関与が些末な部分にまで及んでいるものがあり、都道府県や市町村の主体的な施策の展開を妨げている、(ii)現行制度は50年前の都道府県や市町村の行財政能力を踏まえたものであり、その後の行財政能力の向上を反映していない、(iii)情報化や国際化等の社会的変革が進展する中で、国は、これらの変化に対応するための企画立案、専門的な情報発信、先導的な調査研究等の機能を高め、管理や事業の執行に係る事務については他の機関に移していくべきである、などの指摘もなされている。また、(iv)国の定める学級編制の標準について、例えば、学級編制認可の直後に相当数の転入学が予想される際に、あらかじめ40人を下回る学級編制を認めるような場合を除き、都道府県が弾力的に運用することができない、(v)本来教職員の給与費の国庫負担の算定基準である教職員定数の標準が学校ごとに置くべき教職員の数として厳格に運用されているため、学校の規模や地域の状況に応じた弾力的な教職員配置が行われていない、などの指摘もなされている。 (3)このような指摘にこたえ、時代の変化に対応し、教育行政における国と地方の役割を明確にし、特にすべての国民に義務教育を保障し、教育の機会均等と教育水準の維持向上を図るための国の積極的な役割に留意しつつ、国の事務・事業の減量・効率化を図るとともに、一層の地方分権を推進し、地方における教育施策の実施主体である都道府県及び市町村が、その負担と責任を踏まえつつ地域に根差した主体的かつ積極的な教育行政を展開することができるようにするため、「国の役割及び国と地方公共団体との関係の見直し」、「都道府県の役割及び都道府県と市町村との関係の見直し」、「国及び都道府県の行う指導、助言、援助等の在り方の見直し」、「国、都道府県、市町村、学校等の間の情報網の整備」の4つの視点から、これに関連する制度とその運用や事業の在り方について以下のような見直しを行い、改善を図る必要がある。 2 国の役割及び国と地方公共団体との関係の見直し 教育行政も含め、今後国が重点的に果たすべき役割に関しては、地方分権推進委員会第一次勧告(平成8年12月)において、(i)国際社会における国家としての存立にかかわる事務、(ii)全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動又は地方自治に関する基本的な準則に関する事務、(iii)全国的規模・視点で行われなければならない施策及び事業の3つが示されている。 現在、教育行政において国が担っている事務として1の(1)で示した 「ア 基本的な教育制度の枠組みの制定」、「イ 全国的な基準の設定等」、「ウ 地方公共団体における教育条件整備のための支援」及び「エ 教育に関する事業の適正な実施のための支援措置等」は、いずれも上記(ii)及び(iii)に該当し、基本的には今後とも国においてその役割を担うべき事務であり、そのことを明確にする必要がある。 しかしながら、今後とも国が担うべき事務・事業の具体的な内容については、時代の変化に対応して、地方分権を推進し、より地域に根差した主体的かつ積極的な教育行政を展開できるようにする観点から、教育制度の一層の多様化、弾力化や基準の大綱化、弾力化を進めるとともに、都道府県や市町村の負担を軽減するため事務手続の簡素化を図るなど、その内容を見直すことが必要である。また、「中央省庁等改革基本法」第2条において、「国の・・・事務及び事業の運営を簡素かつ効率的なものとする」と規定されている点についても配慮することが必要である。 以上のような観点から、これに関連する制度等について以下のように見直し、改善を図る必要がある。
3 都道府県の役割及び都道府県と市町村との関係の見直し 現在、都道府県の役割は、「地方自治法」上、「広域にわたるもの、統一的な処理を必要とするもの、市町村に関する連絡調整に関するもの及び一般の市町村が処理することが不適当であると認められる程度の規模のものを処理するものとする」と規定されているが、地方分権推進委員会第二次勧告(平成9年7月)等を受け、そのうち、「統一的な処理を必要とするもの」が見直され、都道府県の担う役割は、「広域にわたるものの処理」、「一般の市町村を超える規模及び能力が必要とされるものの処理」、「市町村に関する連絡調整に関するものの処理」の3つに再編成される予定である。 上記1(1)で示した教育行政において都道府県が担っている役割のうち、「カ 広域的な処理が必要な教育事業の実施及び施設等機関の設置・運営等」及び「キ 市町村における教育事業の適正な実施及び施設等機関の適正な設置・運営等のための支援措置等」については、上記の再編成される事務に該当するものであり、基本的には今後とも都道府県においてその役割を担うべきものと考えられるが、「オ 県域にわたる基準の設定」の事務については、再編成される事務のいずれにも直接該当しない。また、上記カ及びキの事務の具体的内容については、地方分権を推進し、市町村において、より地域に根差した教育行政を主体的かつ積極的に展開できるよう、見直しが必要である。 なお、その際、特に、地方分権推進委員会第四次勧告(平成9年10月)における、「事務処理に必要とされる専門的知識・技術を備えた組織を整備することが可能と思われる市町村から、人口規模に応じて段階的に権限を委譲することも必要」との指摘も踏まえ、人口規模に応じた権限の委譲の検討を行うことが必要である。 以上のような観点から、これに関連する制度等について以下のように見直し、改善を図る必要がある。
4 国及び都道府県の行う指導、助言、援助等の在り方の見直し 「地教行法」第48条の規定に基づき、国は都道府県又は市町村に対して、また、都道府県は市町村に対して、指導、助言、援助を行うものとするとされている。これは戦後の地方教育行政制度が地方自治の一環として行われることを踏まえたものである。すなわち、教育行政は、戦前、国の事務としてその指揮監督を通じて行われていたが、戦後、地方公共団体が主体となって執行されることとなった。その際、各地方で行われる教育は全体として国の教育を構成することから、教育の機会均等、教育水準の維持向上を図るため、地方自治の本旨を踏まえつつ、法的拘束力のない指導等を通して都道府県及び市町村における教育事務の適正な処理を確保しようとしたものである。 これらの指導等は、その相手方である地方公共団体の判断を法律上拘束するものではないが、教育水準の維持向上を図り、あるいは、学校の管理運営の適正を確保するとの観点からその運用が強めに行われてきたこと、また、国、地方公共団体の関係者において指導等の趣旨、在り方についての認識が十分でなかったことなどから、あたかも法的拘束力があるかのような受け止め方もなされてきた。さらに、指導等に従っていた方が不都合が少ないなどの意識も見受けられ、これらがあいまって、特段の判断を加えられることなく指導等がそのまま受け入れられてきた面があることも否定できない。 教育行政が対象としている生涯学習、学校教育、社会教育、文化、スポーツ等の振興を図るためには、指揮監督による権力的な作用よりは、非権力的な作用によって自主的・主体的活動を促進することが重要であり、指導等は、国、都道府県、市町村が連携協力して教育行政を展開していく上で極めて重要な役割を果たしている。従来、指導等は、(i)都道府県や市町村に対する法令の解釈や国の制度・施策の趣旨の伝達、(ii)教育内容・方法に関する専門的・技術的な事項の解説・説明、(iii)教育行政の執行や学校の管理運営の適正の確保に関する要請等を主に行われてきた。今後、都道府県及び市町村の主体性をより一層尊重する観点に立った見直しを行う必要がある。すなわち、(i)については、都道府県及び市町村等の判断を過度に制約することのないようにすること、(ii)については、5で触れるような実証研究の成果や内外の情報の収集・提供などの支援的な機能を重視していくこと、(iii)については、「教育基本法」や「学校教育法」等の法令に違背する教育行政の執行や学校の管理運営の是正に重点を置いて行われることが必要である。 なお、地方分権推進委員会第二次勧告において、国と地方公共団体との関係が地方自治の本旨を基本とする対等・協力の関係に立つことを踏まえ、地方公共団体の求めがあった場合には、趣旨及び内容を記載した書面を交付することなど行政運営における公正の確保と透明性の向上を図る観点からの見直しが打ち出されており、国の行う指導等についても、この趣旨に沿って適切な対応を図る必要がある。 以上のような観点から、これに関連する制度等について以下のように見直し、改善を図る必要がある。
5 国、都道府県、市町村、学校等の間の情報網の整備 国及び都道府県教育委員会が指導等を適切かつ効果的に行うためには、今後、教育及び教育行政等に関する実証的研究の成果や内外の情報を収集し、適切な情報提供を行うことがますます重要となってくるものと考えられる。都道府県、市町村のニーズに応じて効果的に指導等を行うとともに、都道府県教育委員会や市町村教育委員会による学校、社会教育施設等に対する支援機能の充実を図るためには、教育分野における全国的な情報網を速やかに整備することが必要である。 以上のような観点から、これに関連する事業の在り方について以下のように見直し、改善を図る必要がある。
第2章 教育委員会制度の在り方について 1 現行制度の概要と課題 (1)都道府県及び市町村は、住民の福祉の増進を目的として、住民の安全、健康、福祉の保持、治山治水など様々な公共的な事務を行っており、その多くは選挙で選ばれた知事、市町村長が担当しているが、政治的中立性が求められたり、専門的な対応を求められる教育や人事などの事務については、知事、市町村長とは別個の執行機関が行政委員会等(選挙管理委員会、人事委員会など)として設置されている。 教育委員会は、このような執行機関の一つであり、議会の同意を得て首長が任命する5人の教育委員から構成される合議制の行政委員会として設置され、「地教行法」第23条に規定される職務権限を管理執行している。その職務権限は、(i)その所管する学校の設置管理に関する事務、(ii)教育用財産の管理に関する事務、(iii)学齢児童生徒の就学等に関する事務、(iv)青少年教育・公民館の事業等の社会教育に関する事務、(v)体育・スポーツに関する事務、(vi)文化財の保護に関する事務、(vii)ユネスコ活動に関する事務、(viii)その他当該地方公共団体の区域内における教育に関する事務など極めて広範にわたっている。 教育委員会には、その指揮監督の下に教育委員会のすべての事務をつかさどる教育長が置かれている。また、具体的な事務を処理するために事務局が設置され、事務職員、技術職員が置かれている。このほか、都道府県や政令指定都市の教育委員会をはじめ多くの市町村教育委員会には専門的な事務に従事する指導主事や社会教育主事等が置かれている。それとともに、都道府県教育委員会には、市町村教育委員会に対する指導等や県費負担教職員の人事事務等を行うため、一定の地域ごとに教育事務所等が置かれている。 教育長は、他の行政委員会の事務局長とは異なって、教育委員会の会議に出席して教育行政の専門家としての立場から助言を行うとともに、そこで決定された方針を具体的に執行する職務と責任を担う特別の地位を有している。このような教育長の特別な地位に鑑み、その選任手続を慎重なものとし、適材を確保しようとする観点から、教育委員会が教育長を任命するに当たっては、「地教行法」第16条の規定により、都道府県・政令指定都市教育委員会の教育長については文部大臣の承認が、市町村教育委員会の教育長については都道府県教育委員会の承認が必要とされている。 (2)このような現行制度とその運用については、(i)教育委員会会議では議決を必要とする案件の形式的な審議等に終始することが多く、様々な教育課題についての対応方針等について十分な話し合いや検討が行われていない、(ii)教育委員の選任についてより民意を反映するための工夫や方策が必要である、との指摘がある。また、(iii)教育長の任命承認制度は地方分権を推進する観点から廃止し、地方公共団体自らの責任で適任者を選ぶことができるよう改めるべきである、(iv)教育長の選任が地方公共団体内部の人事異動の一環として行われ、教育や教育行政について必ずしも十分な経験を有しない者が任用される場合がある、(v)事務局体制が弱体であり専門的職員が不足している、(vi)地域の特色や実態に応じた独自の施策の展開に乏しい、(vii)施策の企画・立案や実施に当たって地域住民への情報提供やその意向の把握・反映が十分でない、などの指摘もなされている。 (3)このような指摘にこたえ、地域における教育施策の実施主体である教育委員会が教育、文化、スポーツ等の幅広い分野においてますます多様化する地域住民の要望に的確に対応し、きめ細かな教育行政を主体的かつ積極的に展開できるようにするため、「教育委員の選任の在り方等の見直し」、「教育長の任命承認制度の廃止と適材確保方策」、「市町村教育委員会の事務処理体制の充実」、「地域住民の意向の積極的な把握・反映と教育行政への参画・協力」の4つの視点から、これに関連する制度とその運用や事業の在り方について以下のような見直しを行い、改善を図る必要がある。 2 教育委員の選任の在り方等の見直し 教育委員会は、当該地方公共団体の設置する学校の管理運営に当たるとともに、生涯学習、社会教育、文化、スポーツ等の幅広い分野における事務を執行している。教育委員会の基本方針や重要事項の決定を行う教育委員には、それぞれの幅広い知識・経験を生かすとともに地域住民の多様な意向を教育行政に反映することが求められている。 地方公共団体の執行機関である行政委員会の委員の選任は、一般的には、議会の同意を得て首長が任命することとするか、又は選挙により選出することとするのが通例である。 教育委員については、教育委員会制度が発足した昭和23年から昭和31年までは教育委員の選任に公選制が採用されていたが、選挙活動から生じる政治的確執が教育委員会の運営にそのまま持ち込まれるおそれが多分にあったことなどから、公選制を廃止し、首長による任命制が導入された。このような経緯等にも鑑みると、今後とも首長が議会の同意を得て任命する制度とすることが適当である。 しかしながら、教育委員会の所掌事務が学校教育にとどまらず生涯学習、社会教育、文化、スポーツ等幅広い分野にわたっている中で、教育委員の構成が教職出身者中心になっている教育委員会もあるなどの状況を改善し、地域住民の教育行政に対する関心・要望が多様化しているという状況を考慮して、幅広い分野の人材から教育委員が構成されるようにすることが必要である。また、教育委員の数については、都道府県、市町村ともに現行と同様その数を原則5人とするが、教育委員会の担う事務は生涯学習、学校教育、社会教育、文化、スポーツ等の幅広い範囲に及んでいること、また地域を支える人材の育成を通して地域経済・地域社会の振興に密接にかかわっていること等を踏まえ、執行機関としての性格に配慮しつつ、より幅広い分野から人材を選考できるよう見直しが必要である。 以上のような観点から、これに関連する制度等について以下のように見直し、改善を図ることが必要である。
3 教育長の任命承認制度の廃止と適材確保方策 教育委員会においてその権限に属するすべての事務を執行する職務と責任を担い中核的役割を果たす教育長には、これにふさわしい資質能力が必要であり、政治的に中立で、教育に関し専門的識見を持ち、教育行政に練達した人材を確保することが必要である。教育長の任命承認制度は、国、都道府県、市町村が連携協力し、相互に責任を持って教育長に適材を確保する観点から設けられたものである。しかしながら、今後、各教育委員会が、地域の状況に応じて、主体的かつ積極的に教育行政を展開していくためには、地方公共団体が自己の責任において教育長に適材を確保するシステムを導入することが求められる。 このため、地方分権推進委員会第一次勧告も踏まえ、地方公共団体の人事について国又は都道府県が外部から関与することを改め、地方公共団体の責任において適任者を選任する観点から任命承認制度を廃止することが適当である。 この場合、地方公共団体の内部における教育長選任手続をより慎重なものとすることが、教育長への適材確保の上で必要と考えられる。また、今後、ますます多様化する教育行政上の課題に適切に対応し、主体的かつ積極的に施策を展開していくに際して、教育長が直接議会から信任を得ることが、そのリーダーシップを高める上でも、住民に対する責任を明らかにする上でも、極めて効果的であると考えられる。このため、現行制度において市町村の教育長が教育委員として選任される際にあらかじめ議会の同意を得ていることも踏まえ、教育長の任命に際し、副知事・助役、出納長・収入役と同様に議会の同意を得ることとすることが適当である。 なお、議会同意に伴い、教育長について任期制が導入され,計画的、長期的視野に立った教育行政の展開が可能となり、また、特別職として位置付けられることとなる。 また、現行制度においては、政令指定都市を除く市町村教育委員会の教育長は教育委員の中から選ばれ、教育委員を兼ねることとされているが、(i)教育委員以外から広く適任者を教育長に求めることができないこと、(ii)意思決定を行う教育委員会の委員という立場と教育委員会の指揮監督の下で事務執行を行う教育長としての立場が混在し、その責任や役割が必ずしも明確ではないことなどの指摘がある。このため、都道府県教育委員会と同様に、教育委員との兼任を改めて、教育長の職務に専念できるようにすることが適当である。 以上のような観点から、これに関連する制度等について以下のように見直し、改善を図る必要がある。
4 市町村教育委員会の事務処理体制の充実 教育における地方分権を推進するとともに、個性豊かな子どもの育成を目指す教育改革を推進するためには、住民に身近な教育行政を担う市町村教育委員会の果たすべき役割は一層増大すると考えられる。しかしながら、現在の行財政事情等を勘案すると、すべての市町村が単独で事務処理体制の充実を図ることには限界がある。このため、今後、市町村教育委員会の規模の拡大と機能の充実を図る観点から、広域連合や教育委員会の共同設置による事務処理の広域化や共同処理の促進、専門的職員の充実、事務や権限の委託などを促進する必要がある。また、そのような観点からも、市町村の自主的合併が期待される。 以上のような観点から、これに関連する制度等について以下のように見直し、改善を図る必要がある。
5 地域住民の意向の積極的な把握・反映と教育行政への参画・協力 生涯学習、学校教育、社会教育、文化、スポーツ等の幅広い分野において、ますます多様化する地域住民の要望に的確にこたえる行政を展開するためには、教育行政にその意向を把握・反映する方策や地域住民の教育行政への参画・協力を促進する方策について一層の努力が必要である。 このためには、教育委員会が教育行政に関する説明責任の意義や重要性を十分に認識して、地域住民に対して幅広く積極的な情報提供を行うとともに、地域住民の教育行政に対する意見や苦情に積極的に対応することが強く求められる。 また、教育施策の実施に当たって、学校、家庭、地域社会の適切な役割分担の下に、地域住民と連携協力し、地域活力の導入を促進することが必要である。その際、地域社会における教育の充実について関係者の参加意識を高め、保護者や地域住民が行政や他人任せではなく、自分たちの問題としてこれに取り組む契機として、中央教育審議会第一次答申(平成8年7月)においてその設置を提言している地域教育連絡協議会や地域教育活性化センターの積極的な活用に関し、施策の充実に努めることが必要である。 以上のような観点から、これに関連する施策等について以下のように見直し、改善を図ることが必要である。
第3章 学校の自主性・自律性の確立について 1 現行制度の概要と課題 (1)地方公共団体が設置する小・中学校等の学校は、公の施設として法令に基づき教育活動を行う専門的教育機関であり、「地教行法」第32条の規定により当該地方公共団体の教育委員会が所管することとされている。 学校と教育委員会との関係は、「地教行法」第33条第1項の規定により教育委員会が制定する学校管理規則で定めることとされているが、「地教行法」、「学校教育法」、「学校保健法」、「学習指導要領」等の法令等により直接定められている場合もある。すなわち、教育委員会は、学校の管理運営に関する事務をすべて直接執行するのではなく、学校管理規則を定めて、学校の判断により処理する事務と教育委員会の判断により処理する事務とを区別し、具体的、日常的な学校運営は校長に委ねている。また、教育課程の編成や子どもの健康診断の実施のように、法令の規定により直接校長の権限とされている事務もある。これにより、学校が教育機関として一定の主体性を保持しつつ、最終的には教育委員会が学校の管理運営の責任を負う仕組みとなっている。 学校においては、「学校教育法」第28条の規定により、校長、教頭、教諭、養護教諭、事務職員等の職員が置かれ、校長は、学校運営の責任者として、校務をつかさどり、所属職員を監督するものとされている。 学校が組織として一体的に教育活動を展開できるよう校務分掌が定められ、教職員が学級担任、教科担任あるいは○○係等の校務を分担するとともに、校務分掌に係る連絡調整・指導助言を行う教務主任、学年主任、生徒指導主事等の主任が置かれている。 教員については、「教育職員免許法」に基づいて免許状を所有しなければならないとされ、また、「教育公務員特例法」により、「絶えず研究と修養に努めなければならない」とされており、任命権者等により採用後1年間の初任者研修をはじめとして経験年数や教科等の専門性、職務等に応じた研修が実施され、資質の向上が図られている。 校長及び教頭については、教諭の免許状を有し、かつ5年以上の教育に関する職の経験を有することなどの任用資格が定められ、教育委員会が選考試験などを実施して任用が行われている。 (2)しかしながら、教育委員会と学校との関係については、教育委員会の関与が必要以上に強過ぎて学校の主体的活動を制約している一方で、学校が危機に陥った際に学校任せにするなど緊急の事態の場合の学校に対する支援体制が十分ではないとの指摘がある。また、学校運営等に関わる現行制度やその実際の運用の在り方については、校長を補佐する学校の運営体制が十分ではなく、校長の権限と責任に基づく適正な学校運営が行われない場合があるとの指摘があるほか、次のような指摘がなされている。すなわち、(i)校長の在職期間が短いことから校長が自らの教育方針に基づいて学校運営に手腕を発揮することが困難となっているとともに、教職員の意欲と取組を引き出すリーダーシップが欠けている場合がある、(ii)校長と教頭の選任がいわゆる順送り人事になっており、資質と意欲を持った若手教員や学校外の人材を積極的に任用することが必要である、(iii)全体として横並び意識が強く個性や特色ある学校づくりへの取組が不十分であることなどから、公立学校が全体として没個性的になっている、(iv)学校内での意思形成過程と職務執行過程が不透明で責任の所在が明らかでないことや、学校が地域の教育機関であるという認識が教職員に徹底していないことなどから、保護者や住民から十分信頼されていない、(v)学校が外部に対してとかく閉鎖的であり、家庭や地域との連携が十分でない、などの指摘がなされている。 (3)このような指摘にこたえ、公立学校が地域の教育機関として、家庭や地域の要請に応じ、できる限り各学校の判断によって自主的・自律的に特色ある学校教育活動を展開できるようにするため、「教育委員会と学校の関係の見直しと学校裁量権限の拡大」、「校長・教頭への適材の確保と教職員の資質向上」、「学校運営組織の見直し」、「学校の事務・業務の効率化」、「地域住民の学校運営への参画」の5つの視点から、これに関連する制度とその運用や事業の在り方について以下のような見直しを行い、改善を図る必要がある。 なお、中央教育審議会においては、第一次答申で「今後、教員配置の改善を進めるに当たっては、当面、教員一人当たりの児童生徒数を欧米並みの水準に近づけることを目指して改善を行うこと」との提言を行っているところであり、学校の教育機能をより高めていくためには、国はこのような教職員配置の改善や学級編制の在り方など教育条件の整備充実に十分配慮する必要がある。 2 教育委員会と学校の関係の見直しと学校裁量権限の拡大 子どもの個性を伸ばし、地域に開かれた特色ある学校づくりを実現するためには、上記1の(1)で述べたような教育委員会と学校との基本的な関係を踏まえて、校長が、自らの教育理念や教育方針に基づき、各学校において地域の状況等に応じて、特色ある教育課程を編成するなど自主的・自律的な学校運営を行うことが必要である。 「学校教育法」第28条は、「校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する」と定め、校長の教育活動をはじめとする校務運営上の権限と責任を明らかにしている。教育委員会と学校との関係を定めている学校管理規則は、このことを前提として、学校の組織編制や教育課程、教材の取扱い等学校の管理運営に関する基本的事項について定めている。しかしながら、実際の学校管理規則においては、許可・承認・届け出・報告等について詳細に教育委員会の関与を規定し、学校の自主性を制約しているものが少なくない。 このような学校管理規則について、学校予算の編成と執行などに関する事項も含め教育委員会と学校との基本的権限関係全体を明らかにするとともに、教育委員会の関与を整理縮小し、学校の裁量権限を拡大する観点から、学校管理規則の在り方についてその運用を含め幅広く見直すことが必要である。 なお、各市町村の学校管理規則は、都道府県教育長協議会のモデル案及び各都道府県教育委員会の定めた準則に沿っているため、その内容は法令等に定められている事項も含めて全国的に画一的なものとなっており、今後、地域や学校の特性等に応じた学校管理規則の制定が可能となるよう、都道府県教育委員会や市町村教育委員会などの関係団体において工夫を講じることが求められる。 それとともに、このような学校管理規則に基づき適切な学校運営が図られるよう、教育委員会事務局職員も含め教育関係職員に対して、学校管理規則の意義及び法的性格について、研修等を通じて理解や認識を深め、意識の変革を図ることにも配慮する必要がある。 また、教育委員会は、学校の管理権者として、法令の規定に基づき指示・命令を通じて学校における適正な事務処理の確保を図るとともに、教育内容・方法等に関する専門的事項については、主として法律上の強制力のない指導・助言を通じて学校の教育活動を支援する仕組みとなっている。学校が教育委員会の指示・命令に基づいて行った行為については、指示・命令を発した教育委員会が責任を負うべきであるが、指導・助言については、これを受けてどのような決定を行うかは、校長の主体的判断に委ねられているものであり、それに伴う責任は第一義的には校長が負うべきものである。しかしながら、指示・命令と指導・助言の実際の運用に当たっては、教育委員会の担当者等と校長、教員、事務職員等との間でその区別が必ずしも明確にされないまま行われているため、当該指示・命令と指導・助言に基づく行為の責任の所在が不明確になっている場合があり、両者を明確に区別して運用する必要がある。 教職員人事については、学校間の異動が停滞し、学校ごとの教職員構成が偏ったものとなっていたことなど人事のひずみを解消するため、年齢構成、経験年数、同一校勤務年数等に配慮した人事異動基準を設けるなどにより、計画的な人事異動が行われてきた。しかしながら、今後、校長が自らの教育理念や教育方針に基づいて教育活動を展開することを推進するため、教職員の人事異動に関する校長の意見ができる限り採り入れられるよう、人事異動基準やその運用について見直しを図る必要がある。 以上のような観点から、これに関連する制度等について以下のように見直し、改善を図る必要がある。
3 校長・教頭への適材の確保と教職員の資質向上 学校において個性や特色ある教育活動を展開するためには、校長及びそれを補佐する教頭に、教育に関する理念や識見を有し、地域や学校の状況・課題を的確に把握しながら、リーダーシップを発揮するとともに、教職員の意欲を引き出し、関係機関等との連携・折衝を適切に行い、組織的、機動的な学校運営を行うことができる資質を持つ優れた人材を確保することが重要である。このため、教育に関する職に就いている経験や組織運営に関する経験、能力に着目して、幅広く人材を確保する観点から、任用資格と選考の在り方を見直すとともに、校長が自らの教育理念に基づいて、特色ある教育活動を展開することを促進する観点から、在職期間の長期化や若手教職員の中からの積極的な任用に取り組むなど校長、教頭の人事の在り方を見直すことが必要である。併せて、教職員の人事の在り方についても、今後教職員が意欲的に地域に根差した学校づくりに取り組むことを促進するとともに、「総合的な学習の時間」の導入や選択教科の拡大など、教育課程審議会答申(平成10年7月)において示された新しい教育課程の考え方に基づいて多様な教育活動を円滑に推進する観点から、見直しを図る必要がある。 また、教職員の資質向上と意識改革を図ることが重要である。すなわち、地域や子どもの状況を踏まえた創意工夫を凝らした教育活動を展開していくには、校長、教頭のリーダーシップに加えて、教職員一人一人が、学校の教育方針やその目標を十分に理解して、それぞれの専門性を最大限に発揮するとともに一致協力して学校運営に積極的に参加していくことが求められている。このことは生涯学習社会を構築し、学校が地域の専門的教育機関として期待される役割を担うためにも重要である。そのため、今後、教職員が日常の職務の遂行や学校内外の研修への積極的な参加など様々な機会を通じて、学校運営に積極的に参画していく意欲や態度、それに必要な知識を修得することが重要となる。また、子どもを取り巻く状況の変化に対応し、より多様な活動を通じて子どものよさを様々に引き出す教育活動を、専門分野を異にする教職員が一体となって支え、展開していくとともに、学校運営全体を視野に入れた総合的な事務処理を推進することが求められている。このような観点から、教員の研修制度を見直し、研修内容、方法の改善を図るとともに、養護教員、学校事務職員、学校栄養職員などについても、その専門性を高め、学校運営に積極的に参画していく意欲や態度を培う観点から、それらの教職員に対する研修の充実が必要である。 以上のような観点から、これに関連する制度等について以下のように見直し、改善を図る必要がある。 なお、学校の自主性・自律性を高め、学校の裁量権限と責任がこれまで以上に大きくなることに対応して、校長や教頭に適材を確保し、責任をもって学校運営に当たってもらうためには、校長及び教頭について、管理職手当を含めその職務と責任に相応する処遇の改善を図る必要がある。 また、教員についても、優れた人材を確保し、研修等を通じてその専門性を一層深め、資質の向上を効果的に図っていくためには、教職自体を魅力あるものにするとともに、教員が自らその資質能力を継続的に向上させようとする意欲を喚起しなければならない。そのような観点から、その職務と責任に見合った処遇の改善を図る必要がある。
4 学校運営組織の見直し 学校運営は、校長を中心としてすべての教職員がその職務と責任を十分に自覚し、一致協力して行われることが必要である。生きる力をはぐくむ教育の推進や心の教育の充実が大きな課題となる中で、学校は、個性や特色ある教育活動を展開するとともに、今まで以上に家庭や地域社会と連携協力し、地域に開かれた学校運営を推進することが求められている。 このため、学校運営が校長の教育方針の下に円滑かつ機動的に行われ、その透明性を確保し、保護者や地域住民に対して学校運営に係る責任の所在を明らかにするとともに、家庭や地域社会との連携を強化する観点から、校務分掌、各種の会議、委員会など校内組織及びその運営の在り方について見直しを図ることが必要である。 校務分掌については、各学校において、(i)教職員一人一人の専門性を生かして、その能力を最大限発揮させること、(ii)学校が地域の信頼を確保し、特色ある教育活動を展開するために、明確な教育方針の下に組織的、一体的な教育活動を展開すること、(iii)今日の学校が抱える様々な課題に対して地域や子どもの状況に応じて柔軟に対応すること、さらに、(iv)学校の裁量権限の拡大に対応して、学校の管理運営の一層の適正を確保することなどの観点から、学級担任、教科担任をはじめとして様々な校務を分担する組織体制を整備し、効果的かつ効率的な学校運営を行う必要がある。 主任制は、このような趣旨から導入されたものであるが、その導入に際して、従来、各地域、各学校ごとに置かれ機能してきた様々な主任等を一律に法令上の制度として導入したことなどもあって、教職員団体等の強い反対運動があり、その後も主任手当の拠出運動などを伴って主任制に反対する運動が長い間継続されてきたことなどから、多くの学校で定着するまでにかなりの時間を要した。 主任制は、現在では概ね定着し、多くの学校において本来の役割を果たしているが、(i)依然として一部の地域においては適切な運用が行われず、主任制が形骸化している例もみられる、(ii)「学校教育法施行規則」に規定する主任の種類やその設置の在り方が一律のものとなっており、高等学校における総合学科の導入や中等教育学校の創設、中・高等学校の選択履修の幅の拡大など学校教育の個性化・多様化の進展や、いじめや不登校の深刻化、子どもの数の減少に伴う学校の小規模化など学校教育をめぐる状況の変化に十分対応することができなくなってきている、などの問題点が指摘されている。 このような問題点や指摘を踏まえ、主任制については、地域に開かれた特色ある学校づくりの推進など教育上の課題に対応し、校長の学校運営を支えることができるよう、法令上の位置付けを含めて、その在り方を見直す必要がある。 職員会議については、校長を中心に教職員が一致協力して学校の教育活動を展開するため、学校運営に関する校長の方針や様々な教育課題への対応方策についての共通理解を深めるとともに、子どもの状況等について担当する学年・学級・教科を超えて情報交換を行うなど、教職員間の意思疎通を図る上で、重要な意義を有するものであり、学校には職員会議が置かれるのが通例となっている。 しかしながら、学校運営における職員会議の位置付け及び運営の在り方等については、法令上の根拠が明確でなく、学校管理規則における位置付けも都道府県、市町村によって異なるほか、次のような指摘がなされている。すなわち、(i)その運営等をめぐる校長と教職員の間の意見や考え方の相違から、職員会議の本来の機能が発揮されてない場合もあること、(ii)職員会議があたかも学校の意思決定権を有するような運営がなされ、校長がその職責を十分に果たせない場合もあること、(iii)校長のリーダーシップが乏しい、職員会議が形式化して学校全体で他の学年や学級、教科などに係る問題を話し合うような雰囲気が乏しい、あるいは、運営が非効率であるなどの運営上の問題点が指摘されている。このため、職員会議の法令上の位置付けも含めて、その意義・役割を明確にし、その運営の適正化を図る必要がある。 また、学校には、校長、教頭、教務主任など各校務分掌の代表等から構成される企画委員会や運営委員会などが置かれているが、学校によってはそれらが活用されていないなどの運営上の問題点が指摘されている。 以上のような観点から、これに関連する制度等について以下のように見直し、改善を図る必要がある。 なお、教職員全体の処遇の改善を図る観点から、主任等の処遇の在り方についても検討する必要がある。
5 学校の事務・業務の効率化 子どもの数の減少により学校の小規模化が進行しているが、その一方で、「総合的な学習の時間」の導入や選択教科の拡大、あるいは学校予算を各学校の要求や実態に応じて編成するなど、学校裁量権限の拡大に応じて、学校の責任において判断し対応することが必要となる事務・業務が今後増えていくことが予想される。また、校長や教職員が子どもと触れ合う時間をより一層確保することも必要である。このため、国や教育委員会等においては、学校が処理すべき事務・業務に係る負担軽減を図るため、調査統計の対象と方法、教職員の研修や研究指定校等の在り方の見直しを含めて、学校が外部から依頼される様々な事務等の軽減を図るための措置を積極的に講じる必要がある。 また、地域社会と連携した開かれた学校づくりや地域の活力の学校の教育活動への導入・活用、さらにコンピュータ処理や書類の電子化の推進、校内LANや学校と教育委員会を結ぶ情報網の整備など情報化の進展を踏まえて、従来のような事務・業務をすべて校内で実施、処理することとしてこれに必要な組織を整備するという考え方を見直すことも必要である。 その際、地域や学校の状況に応じて、それぞれの学校や学校を設置する地方公共団体の教育委員会が、事務・業務の共同実施や教諭以外の専門性を有する者の活用等に積極的に取り組むことが求められる。また、地域の教育行政機関である市町村教育委員会が、市町村立中学校と都道府県立高等学校など設置者が異なる学校についても積極的な連携を推進し、地域における学校が一体となってお互いの教育機能を活用することが大切である。 さらに、教育委員会と学校の役割分担についても各学校の事務・業務を軽減する観点から見直しが求められる。すなわち、学校の自主的取組に委ねるべきと判断される事務は学校に任せ、教育委員会は各学校ごとの対応では限界がある地域全体の教育課題に対応した施策の推進や先導的な研究や実践事例の提供、学校ごとの教育課題に沿った指導・助言等を重点的に行うなど、その施策や事業の実施の在り方等を工夫することが必要である。 以上のような観点から、これに関連する制度等について以下のように見直し、改善を図る必要がある。
6 地域住民の学校運営への参画 学校が地域住民の信頼にこたえ、家庭や地域が連携協力して教育活動を展開するためには、学校を開かれたものとするとともに、学校の経営責任を明らかにするための取組が必要である。このような観点から、学校の教育目標とそれに基づく具体的教育計画、またその実施状況についての自己評価を、それぞれ、保護者や地域住民に説明することが必要である。 また、学校・家庭・地域社会が連携協力し、相互補完しつつ一体となって子どもの健やかな成長を図るため、各学校においては、PTA活動の活性化や学校区内の各地域における教育懇談会の開催などにより家庭や地域との連携が図られている。今後、より一層地域に開かれた学校づくりを推進するためには学校が保護者や地域住民の意向を把握し、反映するとともに、その協力を得て学校運営が行われるような仕組みを設けることが必要であり、このような観点から、学校外の有識者等の参加を得て、校長が行う学校運営に関し幅広く意見を聞き、必要に応じ助言を求めるため、地域の実情に応じて学校評議員を設けることができるよう、法令上の位置付けも含めて検討することが必要である。 また、学校評議員には、学校運営の状況等を地域に周知することなどにより、学校と地域の連携に資することが期待される。
第4章 地域の教育機能の向上と地域コミュニティの育成及び地域振興に教育委員会の果たすべき役割について 1 現行制度の概要と課題 (1)学校教育、社会教育、文化、スポーツという幅広い分野を所管する教育委員会は、地域における生涯学習の振興に重要な役割を果たしている。地域における生涯学習の振興は、住民の自発性を尊重しつつ、各地域が主体性を発揮しながら進めるべきものであり、生涯学習の視点から人づくり、まちづくりの取組を進める市町村も増えている。 生涯学習の振興に資する施策は教育委員会のみが行っているものではなく、首長部局においても様々な施策が実施されている。 生涯学習の振興をより効果的に推進するためには、教育委員会が重要な役割を果たし、首長部局や民間団体との連携を図っていくことが必要となる。このことについては、「生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律」第3条第1項において、都道府県教育委員会における生涯学習の振興に資する事業を掲げるとともに、同条第2項において「地域において生涯学習に資する事業を行う機関及び団体との連携に努めるものとする」と規定し、知事部局等との連携を求めている。また、市町村については、同法第12条により、関係機関及び関係団体等との連携協力体制の整備について規定している。 (2)しかしながら、(i)教育委員会が地域全体の教育機能向上のために必ずしも十分な役割を果たしていない、(ii)地域コミュニティの拠点としての学校・公民館の活用が十分ではない、(iii)地方公共団体にとって極めて大きな行政課題となっている地域コミュニティの育成や地域振興に必ずしも積極的でなく、十分に寄与していない、(iv)首長部局や民間団体・事業者等との連携が必要である、などの指摘がなされている。 (3)このようなことを踏まえ、「地域の教育機能の向上」、「地域コミュニティの育成と地域振興」、「教育委員会と首長部局、関係機関・団体等との関係」、「学校以外の教育機関の運営の在り方」の4つの視点から、これに関連する制度とその運用や事業の在り方について以下のような見直しを行い、改善を図る必要がある。 2 地域の教育機能の向上 子どもの生きる力をはぐくむため、地域社会の力を生かすことや家庭教育の在り方を見直すことが求められている。このため、地域が一体となって子育てを支援することや異年齢集団活動など様々な体験活動を充実することを通じて、地域社会を挙げて子どもを心豊かにはぐくんでいく環境を整備していくことが地方教育行政上の極めて重要な課題となっている。 また、家庭教育については、保護者に対する学習機会の提供などその充実を図るための施策が推進されているが、家庭への支援をより充実していくことが求められている。 さらに、中央教育審議会第一次答申において述べているように、子どもの育成は学校・家庭・地域社会の連携協力なしにはなし得ず、学校の教育活動を展開するに当たってはこのことを踏まえた工夫が必要である。本審議会が6月に行った「幼児期からの心の教育の在り方について」の答申においても、心の教育の充実を図る上で、社会全体、家庭、地域社会、学校それぞれについてその在り方を見直し、子どもたちの成長を目指して、どのような点に今取り組んでいくべきかということを具体的に提言したが、この提言においても各地方公共団体に対し、家庭、地域社会の教育機能を高めるための施策を積極的に講じていくことを求めている。 豊かな社会の中で、子どもに適切な勤労観や職業観を育成することが課題となっており、地域の商店、農家、工場や老人ホームなどの社会福祉施設等と連携し、その協力を得て、働くことや社会に奉仕することの喜び、それによって得られる達成感を子どもに体得させることができるような様々な教育活動を展開することが効果的と考えられる。 中央教育審議会第一次答申においては、従来の学校・家庭・地縁的な地域社会とは異なる「第4の領域」の育成を提唱したが、今後、地域全体の教育力の向上については、従来の学校など関係機関・団体の自発的な連携協力という域を超えて、学校をはじめとする地域の様々な教育機能が協調・融合して、子どもの成長を担うことが求められており、このような地域の教育機能の協調・融合を支援し、促していくことが教育委員会の新たな役割として期待されている。教育委員会においては、このような観点から、生涯学習、社会教育、芸術文化、スポーツ等の事業の企画、実施に際して、学校教育との協調・連携に十分配慮するとともに、学校教育に地域の活力を生かすための様々な工夫を講じることが必要である。なお、その際、首長部局の行う関係施策についても、地域の教育機能の向上の観点から、有機的な関連を持って行われるよう、首長部局との連携協力に努めることが必要である。 以上のような観点から、これに関連する制度等について以下のように見直し、改善を図る必要がある。
3 地域コミュニティの育成と地域振興 地域住民の学習活動、芸術文化活動、スポーツ活動等を活性化し、住民の地域社会への参加を促していくことは、地域の豊かな人間関係の形成、地域意識の向上に役立ち、生き生きとした地域コミュニティの基盤形成を促進するものである。こうした観点から、既にいくつかの市町村において、生涯学習を中核としたまちづくりの取組が進められ、地域コミュニティの育成や地域振興に大きな役割を果たしているが、このような取組が全国の多くの市町村で展開されていくことが望まれる。 また、教育委員会が管理運営している教育機関、例えば、学校や公民館は、地域住民に身近な公共の施設であり、地域コミュニティ形成の拠点としての重要な役割を担うことが求められる。特に、住民の日常生活圏に最も身近に存在する学校は、学校教育の実施という本来の機能を前提として、地域住民の生涯学習やコミュニティ活動の拠点としても、その資源を有効に活用していくことが重要である。 さらに、教育委員会は、地域振興においても重要な役割を担うことが期待されている。すなわち、近年は、文化財や特定分野の芸術文化活動、スポーツ活動が地域のアイデンティティ形成に寄与している例も多く、例えば、重要文化財などの文化遺産を活用してのまちづくりや都市整備が行われたり、地元のプロスポーツチームへの支援を契機として地域を挙げて特色あるスポーツ活動の普及・振興など様々な取組が行われている例があり、このような場合に教育委員会が積極的な役割を果たすことが望まれる。また、様々な芸術鑑賞の機会、スポーツや文化活動、学習活動の機会を選択・享受できることが都市や地域の魅力につながることから、今後の地域の振興においては、公共基盤の整備、産業育成、福祉の充実などと並んで、教育委員会の社会教育、文化、スポーツ施策が重要な役割を担うものと考えられる。このほか、学校教育を通じた人材育成はこれまでも地域振興の基盤を形成してきたが、学校の有する教育機能を社会人の再教育機会の充実のために活用することは、産業構造の変化等に対応した人材育成や地域経済の活性化などにも資するものであり、その充実が期待されている。 以上のような観点から、これに関連する制度等について以下のように見直し、改善を図る必要がある。
4 教育委員会と首長部局、関係機関・団体等との関係 教育委員会が、地域コミュニティ育成、地域振興に積極的に寄与するためには、教育委員会が行っている施策と首長部局が行っている関連施策とを効果的に連携づけていくことが不可欠である。すなわち、文化やスポーツを含む生涯学習の振興に係る行政の分野をどちらが所管するのかという二者択一的な考え方に立つのではなく、地域住民の立場に立って、教育委員会と首長部局がその機能を効果的に発揮することが必要である。 また、大学や専修学校は、それぞれ、高度な教育・研究機能や実践的・専門的な教育機能を有する生涯学習機関として、地域住民への施設開放、公開講座等をより積極的に行っていくことが期待されており、教育委員会は、こうした大学、専修学校など地域の高等教育機関等との連携を強め、地域住民のニーズを踏まえた社会人の再教育機会の充実など、地域全体の人づくりの視点に立った施策の推進を図ることが必要である。 さらに、私立学校については、その自主性・独自性を尊重する観点から、所管については、首長が所管する現行の制度を基本とするが、私立学校も公教育を担う地域の教育機関であることを踏まえ、地域全体として、一人一人の個性を生かした教育の実現を図るため、地域の状況に応じて、教育委員会と私立学校との連携の推進が必要である。また、教育委員会は、公立学校の管理機関であるとともに、地域の教育行政機関として、指導主事を配置し、教育課程等について様々な指導資料や研究資料を作成するとともに、教職員の研修を企画実施するなど種々の専門的機能を有しており、このような専門的機能を、地域の状況に応じて私立学校が利用できるようにすることが必要である。 このほか、住民の学習活動等の活性化という視点に立ち、民間の企業・団体あるいは個人が行っている活動も視野に入れ、その自主性を尊重しつつ支援するとともに、地域の学習活動を総体として充実していくため、カルチャーセンター、スポーツクラブ等の民間教育事業者の活動が地域における学習活動の基盤の一つであることを十分踏まえ、これらの民間教育事業者と連携した施策を推進することが必要である。
5 学校以外の教育機関の運営の在り方 公民館等の社会教育施設、体育・スポーツ施設、文化施設などの学校以外の教育機関の在り方については、その運営も含め、生涯学習審議会、保健体育審議会、文化政策推進会議等において、専門的立場から審議、答申が行われている。 すなわち、生涯学習審議会では、平成10年9月に「社会の変化に対応した今後の社会教育行政の在り方について」の答申を行い、規制の廃止・緩和、社会教育施設の運営等の弾力化、社会教育行政における住民参加の推進などについて提言を行っている。 また、保健体育審議会では、平成9年9月に「生涯にわたる心身の健康の保持増進のための今後の健康に関する教育及びスポーツの振興の在り方について」の答申を行い、地域社会におけるスポーツの充実のための方策等を提言している。 文化政策推進会議では、平成10年3月に「文化振興マスタープラン」の報告を行い、文化立国の実現に向けての各般の提言を行っている。 学校以外の教育機関の在り方については、これらの答申等に沿ってその改善の取組が行われるべきものであるが、本審議会としても、地域の教育機能の向上、地域コミュニティの育成、地域振興の観点から、特に以下の点について配慮を求めるものである。
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