1998/6 答申等 |
「新しい時代を拓く心を育てるために」−次世代を育てる心を失う危機− (中央教育審議会(答申)平成10年6月30日) | ||||||||||||||||||||||
−次世代を育てる心を失う危機− (中央教育審議会「幼児期からの心の教育の在り方について」答申 目次 はじめに第1章 未来に向けてもう一度我々の足元を見直そう(1)「生きる力」を身に付け、新しい時代を切り拓く積極的な心を育てよう(2)正義感・倫理観や思いやりの心など豊かな人間性をはぐくもう(3)社会全体のモラルの低下を問い直そう(4)今なすべきことを一つ一つ実行していこう第2章 もう一度家庭を見直そうi) 家庭の在り方を問い直そう(a)思いやりのある明るい円満な家庭をつくろう−子どもたちが真にそれを望んでいる (b)夫婦間で一致協力して子育てをしよう (c)会話を増やし、家族の絆を深めよう (d)家族一緒の食事を大切にしよう (e)過干渉をやめよう (f)父親の影響力を大切にしよう (g)ひとり親家庭も自信を持って子育てをしよう ii) 悪いことは悪いとしっかりしつけよう(a)やってはいけないことや間違った行いはしっかり正そう(b)自分の行いには責任があるということに気付かせよう (c)自分の子だけよければよいという考え方をやめよう (d)思春期の子どもから逃げず、正面から向かい合おう (e)「普通の子」の「いきなり型」非行の前にあるサインを見逃さないようにしよう (f)身の回りの小さなことから、環境を大切にする心を育てよう iii) 思いやりのある子どもを育てよう(a)祖父母を大切にする親の姿を見せよう(b)手助けの必要な人を思いやれるようにしよう (c)差別や偏見は許されないことに気付かせよう (d)生き物との触れ合いを通して、命の大切さを実感させよう (e)幼児には親が本を読んで聞かせよう iv) 子どもの個性を大切にし、未来への夢を持たせよう(a)幼児期から子どもの平均値や相対的な順位にとらわれることをやめよう(b)子どものよいところをほめて伸ばそう (c)人間としての生き方やこれからの社会について子どもに語りかけ、 子どもの将来の夢と希望を聞こう v) 家庭で守るべきルールをつくろう(a)それぞれの家庭で生活のきまりやルールをつくろう(b)幼児期から小さくとも家事を担わせ、責任感や自立心を育てよう (c)朝の「おはよう」から始めて礼儀を身に付けさせよう (d)子どもに我慢を覚えさせよう−モノの買い与え過ぎは、子どもの心をゆがめる (e)家庭内の年中行事や催事を見直そう (f)子ども部屋を閉ざさないようにしよう (g)無際限にテレビやテレビゲームに浸らせないようにしよう (h)暴力や性に関するテレビ・ビデオの視聴に親が介入・関与をしよう vi) 遊びの重要性を再認識しよう(a)「遊び」が特に幼児期から小学生段階で大切なことを認識しよう(b)自然の中で伸びやかに遊ばせよう (c)心の成長をゆがめる知育に偏った早期教育を考え直そう (d)子どもの生活に時間とゆとりを与えよう vii) 異年齢集団で切磋琢磨する機会に積極的に参加させよう身近な地域のボランティア・スポーツ・文化活動、青少年団体の活動、地域の行事に積極的に参加させよう 第3章 地域社会の力を生かそう(1)地域で子育てを支援しよう(a)どの親も通過する母子保健の機会を積極的に生かそう(b)24時間親が気軽に悩みを相談できる体制づくりをしよう (c)家庭教育カウンセラーを配置し、子育て支援に活用しよう (d)子どもの電話相談の窓口を広げよう (e)中・高校生がもっと乳幼児と触れ合う機会をつくろう (f)家庭教育の学習機会を幅広く提供しよう (g)企業中心社会から「家族に優しい社会」への転換を図ろう (2)異年齢集団の中で子どもたちに豊かで多彩な体験の機会を与えようi) 長期の自然体験活動を振興しよう(a)民間の力を生かして長期の自然体験プログラムを提供しよう(b)親と離れて子どもたちが集団生活を営む「長期自然体験村」を設置しよう (c)「山村留学」や「国内ホームステイ」の取組を広げよう ii) ボランティア・スポーツ・文化活動、青少年団体の活動等を活発に展開しよう(a)自分の大切さに気付かせ、社会貢献の心をはぐくむボランティア活動を振興しよう(b)スポーツ・文化活動や青少年団体の活動を積極的に展開しよう (c)学校は、学校外活動に関する情報提供を行い、参加を奨励しよう (d)自由に冒険のできる遊び場をつくろう−「ギャングエイジ」にふさわしい遊びを iii) 地域の行事や様々な職業に関する体験の機会を広げよう(a)地域の行事に子どもたちをもっと参加させよう(b)会社や工場での子どもたちの見学・体験活動を広げよう (c)職場見学の機会を拡大し、働く父母の姿を見せよう iv) 情報提供システムを工夫し、子どもたちの体験活動への参加を可能にしようコンビニや郵便局等の身近な生活拠点を活用し、子どもの学校外活動に関する情報を提供しよう (3)子どもの心に影響を与える有害情報の問題に取り組もう(a)テレビ・ビデオ等の関係者による自主規制などの取組を進めよう(b)業界団体とPTA等の教育関係団体との定期的な協議の場を設けよう (c)有害情報から子どもを守る仕組みをつくろう (d)有害情報の問題についての住民による積極的な取組を進めよう 第4章 心を育てる場として学校を見直そう(1)幼稚園・保育所の役割を見直そう(a)幼稚園・保育所で道徳性の芽生えを培おう(b)体験活動を積極的に取り入れよう (c)幼児の自然体験プログラムを提供しよう (d)幼稚園・保育所による子育て支援を進めよう (e)幼稚園・保育所の教育・保育と小学校教育との連携を工夫しよう (2)小学校以降の学校教育の役割を見直そうi) 我が国の文化と伝統の価値について理解を深め、未来を拓く心を育てよう(a)我が国や郷土の伝統・文化の価値に目を開かせよう(b)権利だけでなく、義務や自己責任についても十分指導しよう (c)よりよい社会や国づくりへの参加と国際貢献の大切さに気付かせよう (d)人の話を聞く姿勢や自分の考えを論理的に表現する能力を身に付けさせよう (e)科学に関する学習を生かし、驚きや自然への畏敬、未来への夢をはぐくもう (f)子どもたちに信頼され、心を育てることのできる先生を養成しよう ii) 道徳教育を見直し、よりよいものにしていこう−道徳の時間を有効に生かそう(a)道徳教育を充実しよう(b)もっと体験的な道徳教育を進めよう (c)子どもたちの心に響く教材を使おう (d)よい放送番組ソフトを教材として有効に活用しよう (e)「ヒーロー」・「ヒロイン」がテレビやインターネット等を通じて子どもたちに 語りかける機会を設けよう (f)道徳の時間に子どもが一目置く地域の人材の力を借りよう (g)地域住民や保護者の助言を得て道徳教育を進めよう iii) カウンセリングを充実しよう(a)スクールカウンセラーに相談できる体制を充実しよう(b)スクールカウンセラーの養成の充実を図ろう (c)教員はカウンセリングマインドを身に付けよう (d)「心の居場所」としての保健室の役割を重視しよう iv) 不登校にはゆとりを持って対応しよう不登校は心の成長の助走期ととらえ、ゆとりを持って対応しようv) 問題行動に毅然として対応しよう(a)「まじめさ」や「異質さ」に対する不当ないじめを許さないようにしよう(b)教師の努力でいじめをなくしていこう (c)薬物乱用等の危険性についての理解を深めよう (d)性をもてあそぶ考え方を正そう (e)一所懸命に努力する学校・教員を支えよう (f)警察や児童相談所等の関係機関とためらわずに連携しよう vi) ゆとりある学校生活で子どもたちの自己実現を図ろう(a)教育内容を厳選し、自ら学び自ら考える教育を進めよう(b)トライ・アンド・エラーが可能で、多様な努力を評価する入試改革を進めよう (c)子どもたちに読書を促す工夫をしよう < 資料については省略 >コ ラ ム ★ 家庭の精神的機能−「コンテナー家族」から「ネットワーク家族」へ ★ 育児不安の諸相−専業主婦と働く母親 ★ 深刻化する子どもの虐待 ★ 親にとっての子どもの位置付けと過干渉の問題 ★ 過干渉の問題と子どもの発達段階 ★ ひとり親家庭の状況 ★ 深刻化する少年非行−戦後第4の上昇局面 ★ 子ども部屋と家の間取り ★ 母子保健事業と家庭教育事業の連携 ★ 家庭教育カウンセラー活用調査研究 ★ 子どもに対する24時間相談体制 ★ 単身赴任と高等学校の転入学 ★ アメリカのキャンプ ★ フランスのバカンス・余暇センター ★ 子どもたちの有害情報への接触と規範意識 ★ アメリカで導入されるVチップ制度 ★ スクールカウンセラー活用調査研究 ★ いじめと家庭の在り方 ★ いじめの問題への対応 ★ 自然と共生するゆとりと潤いのある学校環境づくり
−次世代を育てる心を失う危機− (中央教育審議会「幼児期からの心の教育の在り方について」答申) |
i) 美しいものや自然に感動する心などの柔らかな感性 ii) 正義感や公正さを重んじる心 iii)生命を大切にし、人権を尊重する心などの基本的な倫理観 iv) 他人を思いやる心や社会貢献の精神 v) 自立心、自己抑制力、責任感 vi) 他者との共生や異質なものへの寛容 |
i) 社会全体や他人のことを考えず、専ら個人の利害得失を優先すること ii) 他者への責任転嫁など、責任感が欠如していること iii)モノ・カネ等の物質的な価値や快楽を優先すること iv) 夢や目標の実現に向けた努力、特に社会をよりよくしていこうとする真 摯な努力を軽視すること v) ゆとりの大切さを忘れ、専ら利便性や効率性を重視すること |
★ 家庭の精神的機能−「コンテナー家族」から「ネットワーク家族」へ 家庭の持つ機能は生活保持機能と精神的機能の二つに大別されるというが、今日では社会全体として、生活水準の向上等を背景に、生活保持機能よりも、家族同士が愛情を通わせ、心の安らぎを得る精神的機能がより期待されるようになっている。調査によれば、多くの人々が家庭の役割として、「休息、安らぎを得る場」、「互いに助け合い、支え合う場」、「家族がお互いに成長していく場」といった主に精神的機能にかかわる事柄を挙げている(資料2−2)。また、子どもを持つ親に対して、子どもがいるということについての考え方を聞くと、多くの者が「家庭が明るく楽しい」、「生活のはりであり生きがい」を挙げる一方で、「家のあとつぎ」、「老後のささえ」との回答は極めて少なく、子どもの存在に精神的な価値・情緒的な価値をより強く見いだすようになっている(資料2−3)。 しかしながら、現実には、家庭の精神的な機能はむしろ低下してきている感がある。その状況を、「コンテナー家族」から「ホテル家族」への変容としてとらえる見方がある。すなわち、「容物(コンテナー)」としての家庭の中で、一緒に暮らし、温かい情緒の交流を行うような家族から、同じ家で起居しながら、生活時間はまちまちで互いに何をしているかすら知らないホテルの宿泊者のような関係の家族へと変化してきていると言われる。 日本人は、自分の属する「場」を大切にし、「契約」よりも「縁」を重んじてきたという。そうした価値観が、増加しつつあるものの国際的に見てまだ低い離婚率などにも現れているように、アメリカなどで深刻な問題となっている「家庭崩壊」のような現象を一般化させず、社会の安定の基礎になってきたとも言う。しかし、家族のつながりを「契約」のように意識化せずに、「縁」としてとらえる家族観は、ともすれば「家庭という場の中にいるだけで自然に情が通い合い、子どもも自然に育っていく」という思い込みを我々に生じさせてこなかったであろうか。そして、現実に進行している「ホテル家族」化とも言うべき家庭の空洞化を直視しようとしない雰囲気をつくってしまったのではないだろうか。 これからの社会では、社会の基本的な単位として個人の重さがますます増していくであろう。我々は、思い込みの上に安閑とすることなく、家族一人一人が一個の人格として存在することを認識し、互いに意識的にコミュニケーションを図り、心を伝え合う家族(「ネットワーク家族」)の在り方を模索していくべきときを迎えているのではないだろうか。相互に思いやりのある明るい円満な家庭をつくるというこれまで自明とされてきたことを、家族同士の意識的なネットワークづくりを通して努力して実現するということが今日的で切実な課題となっている。 |
★ 育児不安の諸相−専業主婦と働く母親 育児不安の背景を更に子細に見てみると、概して働く母親に比して専業主婦の方に育児不安の高い者が多いという傾向が見られる(資料2−6)。専業主婦は、子どもと接する時間が長いだけに育児のみの狭い世界に閉じこもりがちであり、そうしたことが逆に不安を高める要素の一つとなっている。特に、これまで社会の中で働いてきた女性は生活の落差が大きく、家庭外で自己実現を求める気持ちなどと葛藤し、焦燥感や不安感も強まる傾向がある。また、育児や家事という仕事は、大きな責任が伴う一方、仕事をやり遂げたという達成感の得にくい面もある。こうしたことから、相談相手の乏しい中、育児不安を抱えがちな現代の専業主婦に対して、夫は十分な理解を持って接することが望まれる。 家庭の外で働く母親については、子どもと接する時間は短いが、その時間に心を集中させて子どもと深く触れ合ったり、しつけを行っている場合も少なくない。しかし、育児と家事を両立させることや、子育ての相談がしにくいことに悩む。女性の社会進出がますます進んでいくことを踏まえると、夫は、男女の固定的な役割分担にとらわれずに、家事・育児の役割を積極的に担っていくことが一層求められる。 |
★ 深刻化する子どもの虐待 今日、我が国においても子どもの虐待の問題が顕在化しつつあり、児童相談所に寄せられた相談件数も平成8年度には4,000件を超えるなど急増している(資料2−7)。最も信頼を寄せるべき親からの虐待は、子どもの心に大きな傷を与えるものであり、深く憂慮すべき問題である。子どもの虐待の問題は、様々な要因によって複合的に生じるものであるが、その一つとして、夫婦関係が不安定で、互いに理解し支え合う姿勢が欠けていることが指摘されている。 |
★ 親にとっての子どもの位置付けと過干渉の問題 過干渉等の問題は、親にとっての子どもの位置付けが変化したこととも深くかかわっている。今日の親は、「神のように人智を超えたものから子どもを授かった」という思いが薄れ、「子どもは親の計画的な決断によって生まれてきたもの」という認識が強くなっている。そのため、時には子どもは、親の生産物、持ち物のようになり、子どもの希望や個性よりも、親の趣味や嗜好、自己愛や虚栄心の方が優先されてしまっている。「いい学校=いい会社=幸せな人生」といった既に崩れつつある図式を頑なに信じ、早い時期から過度に知育に偏った教育に邁進して、子どもの生活を細かく管理しようとする親の姿にそうした意識を見ることができる。親は過干渉を見直し、意識を変えていく必要がある。 |
★ 過干渉の問題と子どもの発達段階 過干渉の問題を実際に見直すに当たっては、子どもの発達段階を踏まえるという視点が重要である。乳児期においては、母子の愛着の絆を確固としたものにすることがその後の人間関係づくりの原点となるのであり、たくさんの愛情を注ぎ、温かく乳児を受け入れていくことが大切である。それらは甘やかしや過保護とは異なる。その後、幼児期での自立感の達成、少年期での活動性や積極的な意欲の形成、青年期の自発性の獲得といった発達課題をきちんと達成していくためには、子どもの行動に注意と関心を払い、大事な基礎的なしつけはきちんとしながらも、徐々に細かな口出しをせずに見守るという姿勢を強めていくことが求められる。 |
★ ひとり親家庭の状況 ひとり親家庭については、平成5年度時点で100万世帯近く(母子家庭は約79万世帯、父子家庭は約16万世帯)となり、全世帯の2%余りを占めると推計される。ひとり親家庭となった理由の多くは、配偶者との死別ではなく、離婚などの生別によるものである。我が国の離婚率は平成8年に戦後最高(21万組、人口千人対比で1.66)を記録するなど上昇傾向にあり、先進諸国の例に照らしてみても、今後更に増加する可能性が高いと思われ、ひとり親家庭が増えていくことが想定される。 |
★ 深刻化する少年非行−戦後第4の上昇局面 少年非行は、戦後3回のピークがあり、3回目のピークである昭和58年以降は減少傾向にあったが、近年、再び量的にも質的にも深刻化してきている。平成9年の刑法犯少年の補導人員は約15万人に達し(前年比14%増)、少年人口千人当たり16人に上っている(資料2−22)。非行の内容を見ると、強盗等の凶悪犯や恐喝等の粗暴犯(資料2−23)、薬物乱用、性非行の増加が顕著になってきている。また、非行の主体に中・高校生が多くなってきたこと、「遊ぶ金欲しさ」を動機とする非行が増えていること、マスメディアや周囲の友人に引きずられる「模倣」型が目立ってきていることなども特徴的である。 こうした少年非行の深刻化だけでなく、犯罪の被害に遭う少年の問題を見逃してはならない。平成9年度は凶悪犯、粗暴犯などによる被害が大きくなっており、特に性犯罪被害(強姦、強制わいせつ)が深刻になってきている。 このような状況は、我が国社会全体の安定を脅かしかねない深憂すべき問題であり、社会全体での様々な取組が早急に求められる。 |
★ 子ども部屋と家の間取り 子ども部屋の閉鎖性の問題を助長する要素の一つには、家の間取りの問題もあると言われる。個室に入る前に必ず居間を経由する構造が多い欧米に対し、我が国の家屋は、すべての部屋が廊下で直接玄関につながるような形が多く、子どもが孤立しやすい環境にあると指摘されている。親子の対話を促し、子ども部屋を閉ざさないようにする観点から、家族団欒の場として居間の役割を見直すなど、可能な範囲で家屋の在り方も考えてみてはどうだろうか。 |
★ 母子保健事業と家庭教育事業の連携 平成9年に改正母子保健法が施行され、母子保健事業の実施主体が市町村に一元化されたことを契機に、市町村教育委員会等が実施する家庭教育事業との連携が大いに進展することが期待されている。現在のところ、母子保健部局で実施する両親学級で家庭教育資料を活用したり、乳幼児健康診査に合わせて市町村教育委員会が主催する家庭教育学級を開設したり、教育委員会が作成した家庭教育電話相談の案内カードを母子健康手帳の副読本に添付したりするなどの工夫が一部でなされているが、いまだ取組の広がりは十分とは言えない。今後、各市町村において、母子保健部局と教育委員会が更に密接な連携を図り、各種の事業を幅広く実施していくことが求められる。 |
★ 家庭教育カウンセラー活用調査研究 家庭教育に対する悩みや不安を抱える親が増えてきていることから、文部省は、平成10年度より「家庭教育カウンセラー活用調査研究委嘱事業」を実施することとしている。この事業は、従来の家庭教育電話相談等と連携して、専門的な知識や技能を有する「家庭教育カウンセラー」を活用し、相談体制の充実強化を図るための調査研究を各都道府県に委嘱するものである。具体的には、臨床心理士や精神科医などが、公民館等の社会教育施設等で専門性を生かしたカウンセリングを行い、相談者の深刻な悩みや不安を和らげ、問題解決を支援する役割を担うこととしている。また、家庭教育カウンセラーの資質向上や実効性ある相談体制の在り方について研究協議を行う場を設けることとしている。今後、こうした事業の成果を踏まえて、家庭教育カウンセラーが有効に活用されていくことが期待される。 |
★ 子どもに対する24時間相談体制 子どもに対する24時間相談体制を整え、子どもたちからの悩みの訴えに対して助言したり、いじめ問題などに的確かつ機敏に対応したりすることの意義は極めて大きい。 この分野で先進的な取組を行っているイギリスでは、民間団体「チャイルドライン」が、昭和61年の設立以来、24時間フリーダイヤルにより60万人以上の子どもの悩みを受け止めてきた。子どもたちの電話には、約800人に上るボランティアの相談員が対応している。 電話等による24時間相談は、我が国でも一部の地方公共団体の取組や、社会福祉法人による「いのちの電話」といった例が見られる。また、国立教育会館の「いじめ問題対策情報センター」では、夜間における留守番電話やファクシミリ等による24時間受付体制を整えている。今後は、こうした取組の一層の充実が期待される。 |
★ 単身赴任と高等学校の転入学 経済活動の広域化や国際化等の一層の進展に伴い、父親の単身赴任は増加している。配偶者を有する30〜59歳の男性の単独世帯数の推移を見ると、昭和50年には14万1,000世帯であったが、平成6年には32万1,000世帯へと2.3倍に増えている。 一般に、勤労者が自宅通勤の不可能な地域への異動を命じられた場合、子どもが小さい間は家族を同伴する帯同赴任を選択するが、子どもが成長するにつれて単身赴任が増える傾向がある。その背景の一つには、親の転勤に伴う高等学校における生徒の転入学等が円滑に実施されていないことが挙げられてきた。 このため、各都道府県や高等学校では、転入学等の受入れ機会の拡大、受験手続きの簡素化・弾力化、特別定員枠の設定、情報提供体制や相談窓口の整備等に取り組んできている。例えば、平成10年度の公立高等学校における特別定員枠について見ると、26都道府県の約2,000校がその設定を予定している。文部省は、転入学者等の受入れの一層の促進を図るため、平成9年12月、特別定員枠をあらかじめ設定し、積極的に情報提供を行うことなどを求める通知を各県等に対して発出したところであり、今後、子どもの転校の困難を理由とする単身赴任が解消されるよう、各都道府県や高等学校での更なる努力が期待される。 |
★ アメリカのキャンプ 全米キャンプ協会(ACA)発行のガイドに基づいて、アメリカのキャンプの全体的な状況を概観すると、全米のキャンプ場約1万1千のうち、ACA公認の宿泊型キャンプ場は約1,500である。これを実施主体別に見ると、ボーイスカウトやYMCA等の青少年団体が4割強を占め、これに非営利機関、宗教団体、私企業が続く。公的機関は1%あまりとごく少数である。 キャンプのプログラムは、夏期休暇に行われるサマーキャンプが圧倒的に多い。各キャンプ場は、2週間、4週間、6週間等幾つかのコースを開設している。4週間のコースを開設しているキャンプ場は全体の約2割、8週間のコースを開設しているキャンプ場も1割以上あるなど、アメリカの子どもは長期のプログラムを享受する機会に恵まれていると言える。 キャンプで重点が置かれている活動には地域性が見られるが、総じて水泳、乗馬、キャンプ技術、冒険活動、カヌー等が多い。また、最近は環境教育プログラムが増えてきている。 なお、夏のキャンプでは、子どもの自主性を重視し、親の参加は認められないのが一般的である。 |
★ フランスのバカンス・余暇センター フランスでは、6月末から9月初頭にかけて60日にも及ぶ休暇が子どもたちに与えられる。親が働いている7月中はバカンス・余暇センター(CVL)で友人と過ごし、8月には家族で貸別荘やバカンス村などに滞在し、余暇を楽しむ子どもが大勢いる。 子どもの長期自然体験活動の中心的な拠点であるCVLは、フランス全土に2万以上設置されており、年間約100万人の子どもが利用している。これは、4〜18歳の子どものうち10人に1人が利用している計算になる。 CVLは、対象年齢によって、幼児CVL(3〜6歳対象、宿泊期間1週間)、少年CVL(7〜13歳対象、宿泊期間2〜3週間)、青少年CVL(13〜17歳対象、宿泊期間3週間)に大別される。CVLは長期の宿泊に必要な施設設備を備えており、ほとんどの場合、定員は100人以下である。 CVL自体は寝食が中心の施設であり、球技、水泳、カヌー、登山、自然探求活動などといった様々な野外活動は、CVLから10キロ周辺以内に設置されている専門の活動施設で行われる。どの施設でどういった活動をするかは子どもの選択にゆだねられるなど、子どもの自主性を尊重した運営がなされている。また、CVLには一定の資格要件を満たしたアニマトゥール(男性)、アニマトゥリス(女性)と呼ばれる指導員が配置され、生活面及び活動面での専門的な指導を行う体制が整えられている。 CVLの経営主体としては、市町村や関係団体の他、一般企業が大きな役割を果たしている。フランスでは、従業員50人以上の企業には「企業委員会」の設置が義務付けられており、CVLの運営を含め、従業員の子どものための休暇事業の実施を担っている。例えば航空会社エールフランスの委員会は、国内外で20近いCVLを運営している。 |
★ 子どもたちの有害情報への接触と規範意識 子どもたちは、有害情報にどのように接触しているのであろうか。ビデオに関する調査によると、ホラービデオについては小学校段階で既に約半数が接触しており、アダルトビデオについては中学1年生ごろまでに26%(男子)、高校2年生ごろまでに77%(男子)が接触している(資料3−14)。 また、同じ調査によれば、そうしたビデオへの接触経験がある者あるいはその頻度が高い者は、経験がない者に比して、犯罪への罪悪感が乏しいことをはじめ、被害者への同情が薄い、攻撃性が高い、性行動に許容的であるなどといった傾向が見られる。 こうした調査結果は、有害情報が氾濫する状況の問題性を改めて我々に提起している。もちろん、「アダルトビデオ等を見れば規範意識が低下する」というような一方向的な因果関係の存在を即断することはできないが、有害情報への接触と規範意識は、互いに因となり果となるような関係、相互に影響し合うらせん的な連鎖をなしていると考えるべきであろう。 |
★ アメリカで導入されるVチップ制度 アメリカでは、「1996年電気通信法」の制定(平成8年2月8日成立)により、テレビに暴力や性的シーンの多い番組が自動的に映らないようにする装置(いわゆる「Vチップ」:Vは「VIOLENCE(暴力)」のV)を装備することが義務付けられた(今後製造される13インチ以上のテレビについて、1999年7月1日までに半数、2000年1月1日までにすべてのものにVチップ機能を装備することとされている)。Vチップ導入の背景には、暴力事件が多発する中、テレビ番組の暴力シーンが子どもの行動に悪影響を及ぼすことを懸念する国民の声の高まりがある。 Vチップは、次のような過程を経て機能を発揮する。 i) 放送事業者は自主的に暴力や性的シーンの多い番組のレベルを格付け(レイティング)し、番組とともにその情報を電波に載せて各家庭に伝送する(現在、暴力や性的描写等の類型別に、視聴者の年齢に応じて6段階に分類する格付けが行われている)。 ii) 各家庭において、親はどの段階までの番組を子どもに見せるかをあらかじめ選択して、テレビにセットしておく。 iii)Vチップは、この親の選択に基づき、自動的に子どもに見せることが適当でない番組をテレビ画面に映らないようにする。 |
★ スクールカウンセラー活用調査研究 文部省では、学校におけるカウンセリング機能を強化するため、平成7年度から「スクールカウンセラー活用調査研究」事業を実施している。この事業では、臨床心理士など高度に専門的な知識・経験を有する「スクールカウンセラー」を小・中・高等学校に配置し、その活用、効果等に関する実践的な調査研究を行うものであり、学校外の専門家を学校に本格的に配置する初めての試みとして大きな意義を持っている。また、この事業において、スクールカウンセラーは、児童生徒へのカウンセリングをはじめ、教職員や保護者への指導・助言、カウンセリング等に関する情報収集・提供などを職務として活動することとなっている。文部省では、事業の創設以来、その拡充を図ってきており、対象学校数は平成7年度の154校から10年度の1,661校へと大幅に増加している。 |
★ いじめと家庭の在り方 いじめの問題については、そのサインを的確にとらえ、学校と家庭が連携して取り組むことが重要である。しかし、親がどの程度いじめに気付いているかを調べると、自分の子どもがいじめられているということを知らない親が多い。そして、更に注目すべきは、自分の子どもがいじめを行っているということを知っている親が非常に少ないということである(資料4−16)。 また、担任とのかかわりについては、いじめに気付いた保護者であっても、相談する者が3〜4割とそれほど多くはない。 また、いじめた体験のある子どもの家庭環境を見ると、家での生活を楽しくないと感じている者が比較的多く、家庭での会話が不足している傾向も見られる。親の側も「子どもの考えていることがわからない」とする者が比較的多い。 今後、いじめの問題の解決に資するためにも、親子間あるいは担任と親との間で、意思疎通が一層図られることが望まれる。 |
★ いじめの問題への対応 家庭・地域社会・学校においてそれぞれ具体的に取り組むべき対策やその指針については、近年、文部省等が次のようなかたちで提示している。これらを是非参照し、それぞれの立場で取組を進めていってほしい。 ○ 「いじめの問題について当面緊急に対応すべき点について」[初等中等教育局長通知](平成6年12月) ○ 「いじめの問題の解決のために当面取るべき方策等について」[初等中等教育局長通知](平成7年3月) ○ 「いじめの問題への取組の徹底等について」[初等中等教育局長通知](平成7年12月) ○ 文部大臣「緊急アピール〜かけがえのない子どもの命を守るために」(平成8年1月) ○ 「いじめの問題に関する総合的な取組について」[初等中等教育局長・生涯学習局長通知](平成8年7月) ○ 児童生徒の問題行動等に関する調査研究協力者会議報告「いじめの問題に関する総合的な取組について」(平成8年7月) |
★ 自然と共生するゆとりと潤いのある学校環境づくり 学校は、子どもたちが一日の大半を過ごす生活の場であり、学校環境は、子どもたちの心の発達に大きな影響を与える。学校環境の整備に当たっては、特に、自然との触れ合いに配慮すること、子どもたちが集い、友人や教員と語らうことのできる場を確保することが重要である。 各地方公共団体においては、緑地の中に学校を位置付けたり、校庭に小川を流したり、築山や芝生の広場、木登りの森を設けるなど、身近な自然環境との触れ合いに配慮した学校環境づくりが進められている。また、木材を積極的に活用した温かみのある学校施設の整備も進められている。あるいは、子どもたちの語らいの場にも利用できるオープンスペースの整備などが進められている。 一方、国においては、自然体験学習などが行えるよう校庭に木や芝生を植えることや、余裕教室を改造して温かみのある木の部屋やプレールームを整備すること、校舎に多目的に使用できるスペースを整備することについて、地方公共団体に対して財政措置を講じている。また、環境を考慮した学校施設(エコスクール)の整備について、屋上の緑化やビオトープ(生物の生息空間)の学校敷地内への設置など、先導的な取組に対する支援を行っているところである。 今後、子どもたちの学校生活に一層のゆとりと潤いを与えるためにも、自然と共生するゆとりと潤いのある学校環境づくりを推進していくことが重要であり、国及び各地方公共団体の更なる取組が期待される。 |
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