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中央教育審議会

 2000/4 答申等 
少子化と教育について(報告)の要旨 

   
少子化と教育について(報告)の要旨
   
   
第1章  少子化の現状と要因
   
1  少子化の現状
  我が国の出生数は,平成10年には120万3,149人となっており,長期的に見れば減少傾向が続いている。  
  また,1人の女性が一生の間に生む平均子ども数(合計特殊出生率)は,平成10年には過去最低の1.38となり,現在の人口を将来においても維持するのに必要な水準(人口置換水準)である2.08を大きく下回っており,この傾向が続けば,我が国の人口は減少していくことが見込まれている。  
   
2  少子化の要因
  
(1)未婚化・晩婚化の進行  
  我が国の年齢別未婚率を見ると,女性の25歳から29歳までの未婚率は,昭和50年の20.9%から平成7年には48.0%と約2.3倍に上昇。男性の30歳から34歳までの未婚率は,昭和50年の14.3%から平成7年には37.3%と約2.6倍に上昇。  
  また,夫婦の平均初婚年齢を見ると昭和25年には夫25.9歳,妻23.0歳であったのが,平成7年には夫28.5歳,妻26.4歳と晩婚化が進行。  
  未婚化・晩婚化の背景には,1子育ての負担感及び子育てと仕事の両立の困難さ,2個人の結婚観,価値観の変化,3親への依存期間の長期化等が挙げられる。  
  
(2)夫婦の子どもの数の変化  
  夫婦の平均出生児数は,昭和40年代後半から2.2人で安定しているが,平均理想子ども数である2.5人と比較すると,「子どもを産みたいが産みにくい状況」が存在。  
    
(3)地域社会における子ども数の減少  
  少子化については,(1),(2)のような面だけでなく,身近な生活に密着した地域社会からの視点で見ることも可能。  
  こうした観点から見ると,昭和30年には大人100人につき約50人の子どもを育てていたという状況に対し,平成11年には大人100人につき約17人の子どもしか受け入れられなくなっている。子どもや親子連れに対する寛容さがなくなり,社会全体で子どもを受け入れるふところの深さがなくなったという見方もできる。  
   
第2章  少子化が教育に及ぼす影響
   
  少子化が教育に及ぼす影響としては,1子ども同士の切磋琢磨の機会が減少すること,2親の子どもに対する過保護,過干渉を招きやすくなること,3子育てについての経験や知恵の伝承・共有が困難になること,4学校や地域において一定規模の集団を前提とした教育活動やその他の活動(学校行事や部活動,地域における伝統行事等)が成立しにくくなること,5良い意味での競争心が希薄になることなどが考えられる。  
   
第3章  少子化に対応するための政策的視点
   
1  少子化への対応の基本的な考え方
  教育面で少子化へ対応するに当たっては,少子化が教育に及ぼす問題を最小限に抑えるために可能な限り政策的な対応を図り,少子化の下で可能な限り教育条件の充実を図るとともに,少子化の解消に向けての環境整備に努めることが基本。  
  また,社会全体が子どもを受け入れるふところの深さがなくなったことを重視して,それに対応するために,そもそも社会全体で子どもを育てていくという視点をはっきり打ち出すことが必要であり,子どもを産み育てたい人が安心して子どもを産み育てることができるように支えていく社会を作らなければならない。  
   
2  少子化への対応を考えるに当たっての留意点
  「少子化への対応を考える有識者会議」の提言や「少子化対策推進基本方針」及び「新エンゼルプラン」の趣旨を踏まえつつ,教育面を中心に少子化への対応のための具体的な方策を提言。その際,次の点に留意すべき。  
1  結婚,出産等についての判断は,個人の自由な選択に委ねるべき問題。  
2  子育てを支援するための環境整備を行うに当たっては,子育てについての理念が人々の間で共有されることが重要。  
3  子どもたちは社会全体ではぐくまれていくものであることを再確認し,大人一人一人が考え社会のあらゆる場で取り組んでいく必要があることを改めて認識することが必要。  
4  男女共同参画社会の形成を促進する観点から検討することも重要。  
   
第4章  教育面から少子化に対応するための具体的方策
   
1  家庭教育の役割と具体的方策
  家庭教育は,すべての教育の出発点であり,特に,基本的な生活習慣・生活能力,豊かな情操,他人に対する思いやり,善悪の判断などの基本的倫理観,社会的なマナー,自制心や自立心など「生きる力」の基礎的な資質や能力を培うことが重要な役割。  
  子どもが自然と触れ合う機会を増やしていくこと,家庭教育手帳や家庭教育ノート等の活用などにより,家庭教育の重要性を見つめ直し,考える機会を提供すること,親の悩みに対応できる相談体制の整備など家庭教育を補完するための施策を推進することなどが必要。  
   
2  学校教育の役割と具体的方策
  学校教育は,家庭・地域での様々な活動や体験とあいまって学校における学習や生活を通じて児童・生徒がそれぞれ豊かな価値観・価値体系を作り上げていくための基礎を担うことが役割。  
   
(1)幼稚園教育  
  幼稚園の教育活動の充実と教育環境の整備の推進や,幼稚園における家庭・地域と連携した子育て支援の充実,幼稚園と小学校や保育所との連携など各般の施策を体系的に盛り込んだ「幼児教育振興プログラム」を新たに策定・推進することが必要。  
  
(2)小学校以降の学校教育  
  「家庭科」等における家庭の在り方や子どもの成長発達に果たす親の役割などについての学習を充実するため,すべての高等学校で保育体験学習を推進することなどが必要。「子育て理解教育」という視点を持って,カリキュラム全体の中で少子高齢社会の問題等を児童・生徒が考えられるような工夫が必要。  
  スクールカウンセラーなどによる教育相談体制の充実や学級運営の改善が必要。  
  異学年交流や異なる学校段階間での学校間交流の推進や学校施設の開放,余裕教室の有効活用,隣接校との交流やインターネット等を利用した他校との交流,特別免許状制度やいわゆる特別非常勤講師制度により地域の教育力を学校に取り込んで多様な教育活動を展開することが重要。  
  また,高等教育については,少子高齢社会や男女共同参画社会に関する学習など大学における教養教育を重視することが必要。  
   
3  地域社会における教育の役割と具体的方策
  地域社会における教育は,地域の大人たちが子どもたちの成長を温かく見守りつつ,時には厳しく鍛えること,また,単に人々の地縁的な結び付きによる活動だけでなく,同じ目的や興味・関心によって結び付いた世代を超えた人々の活動の活発な展開を通じて,子どもたちをはぐくむことが役割。  
  その上で,全国展開している「子どもセンター」等を活用した子どもの体験活動等の機会と場の充実,地域の身近な施設におけるボランティアによる子育て相談体制の充実,子育てサポーター等を活用した地域における子育て支援ネットワークづくりの推進,PTA活動を更に幅広いものとして社会全体で子どもを育てていくための人的基盤の形成等が重要。また,博物館,美術館,公民館,スポーツ施設などの公共施設や大学における託児サービスの提供,衛星通信やインターネットの活用など新しい情報通信技術を用いた学習機会の提供や放送大学・専修学校における学習機会の提供など出産や子どもに手が掛からなくなった女性の就職等を容易にするためのキャリア開発等を支援していくことが必要。  
   
4  教育改革全体との関連
  急激な少子化の現状に直面している我が国の経済・社会の活力を維持し,国際社会に貢献できる科学技術創造立国,文化立国を目指していくためには,あらゆる社会システムの基盤である教育の役割が極めて重要であり,幅広い教育改革の推進が必要。  
  現在進められている教育改革の方向性は,少子化の下で減少する様々な体験を政策的に補っていくという少子化への教育面の対応の基本とも合致。  
   
5  教育費負担の経済的軽減
  夫婦が理想の数の子どもを持たない理由として,経済的な理由が多く挙げられており,特に,教育に伴う経済的負担を挙げる者も多い。特定扶養親族に係る扶養控除額の割増措置,幼稚園就園奨励費補助など,これまで講じられてきた施策が少子化の解消につながっていくことを期待。  
  また,一定の年齢に達した子どもが経済的にも自立し,応分の負担をすることが必要であり,その条件を整備するため,能力と意欲を持つ者に対してその経済的必要度に応じ,奨学金の支給を可能にすることが必要。  
   
第5章  教育面以外からの方策
   
  少子化への対応や少子化の下でより良い教育を実現するためには,子育てと仕事との両立のための雇用環境の整備など教育面以外での分野における対応も必要。  
  教育面以外の分野については,政府が少子化対策推進基本方針に沿った取組を進めること,その際,文部省が教育面以外の分野の施策の推進に関しても教育的視点から関係方面に働き掛けを行うことを期待。  
  文部省としても,社会の中で子どもを受け入れる環境を作るという意味で託児所の設置を検討するなど,子育てと仕事との両立のための雇用環境の整備等を積極的に推進することを期待。  
   
(固定的な性別役割分業や職場優先の企業風土の是正) 
  固定的な性別役割分業の是正,ファミリー・フレンドリー企業の概念を普及・定着するなど職場優先の企業風土の是正が必要。 
   
(子育てと仕事との両立のための雇用環境の整備) 
  育児休業を取りやすく,職場復帰をしやすい環境の整備,労働時間の短縮等の推進,事業所内託児所の設置,出前講座等家庭教育の支援に積極的な企業の表彰等による奨励など,子育てと仕事との両立を支援する施策の推進が必要。  
   
(安心して子どもを産み,ゆとりをもって健やかに育てるための家庭や地域の環境づくり) 
  地域子育て支援センターや児童家庭支援センターの整備をはじめとした各種の施策について,特に子育ての負担感が大きい低年齢児を中心として,総合的に推進。  
   
(利用者の多様な需要に対応した保育サービスの整備) 
  低年齢児を中心とする保育所受入枠の整備をはじめとした保育サービスの充実,多様かつ柔軟なサービス提供を推進。 
   
(子育てを支援する住宅の普及など生活環境の整備) 
  住宅,交通施設・機関,公共施設など,子どもや家庭を取り巻く生活環境全般について,良質な住宅や居住環境の整備,安全性の確保,子連れ外出等をしやすくする歩行環境等のバリアフリー化の推進など,ゆとりある生活環境の実現を目指す。  
   

(大臣官房政策課)

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