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中央教育審議会

 1998/12 議事録 
初等中等教育と高等教育との接続の改善に関する小委員会 (第1回)議事録 

初等中等教育と高等教育との接続の改善に関する小委員会(第1回)


  議  事  録

    平成10年12月3日(木)    10:00〜12:00
    霞が関東京會舘35階        ゴールドスタールーム


  1.開  会
  2.議  題
    初等中等教育と高等教育との接続の改善について
  3.閉  会


  出 席 者

 委員  専門委員  事務局
根本会長 荒井専門委員 有馬文部大臣
薄田委員 安齋専門委員 富岡生涯学習局長
川口委員 岡本専門委員 辻村初等中等教育局長
木村委員 工藤専門委員 素川高等学校課長
國分委員 小嶋専門委員 御手洗教育助成局長
坂元委員 小谷津専門委員 佐々木高等教育局長
田村委員 高鳥専門委員 長谷川企画課長
土田委員 永井(順)専門委員 高 総務審議官
横山委員 橋口専門委員 杉浦政策課長
  久野専門委員 その他関係官
  山極専門委員  
  山口専門委員  
  四ツ柳専門委員  


○根本会長  定刻になりましたので、これから会を始めさせていただきます。おはようございます。
 御案内のとおり、中央教育審議会の初等中等教育と高等教育との接続の改善に関する小委員会、第1回会議を開催いたします。本日は、皆様、大変御多忙中のところを御参集賜りまして誠にありがとうございます。
 当小委員会につきましては、新たに17名の専門委員の皆様に御参加いただくこととなりました。専門委員の皆様におかれましては、御多忙中のところを就任いただきまして、誠にありがとうございます。御紹介は後ほどいたしたいと思いますが、今後の審議によろしく御協力賜りますようお願い申し上げます。
 それでは、大変お忙しいところを文部大臣にも御出席賜っておりますので、大臣から御挨拶をお願いいたします。

○有馬文部大臣  皆さんおはようございます。大変お忙しいところをこの会のために御出席賜りましてありがとうございます。何となくこの会が私にもアットホームな感じがいたしまして、きょう参りました。
 今、会長より御挨拶申し上げましたように、中央教育審議会といたしまして、初等中等教育と高等教育との接続の改善に関する小委員会の第1回目に当たる会が開催されるということでございますので、一言御挨拶申し上げたいと思います。
 この問題は大変難しい問題でございますが、専門委員の方々にはお引き受けくださいまして誠にありがとうございます。
 今、文部省では、中央教育審議会の答申に従いまして、心の教育の充実、個性を伸ばし多様な選択ができる学校制度の実現、現場の自主性を大切にした学校づくりなどを促進するというようなことを一所懸命やっておりますし、また、大学審議会等々の御答申も得まして大学改革をする、さらに研究振興に努めていくというようなことで、今、初等中等教育のほうでも、高等教育のほうでも、全般にわたって改革を鋭意進めているところでございます。
 今後、このような改革をより一層推進してまいりますためには、何といっても初等中等教育と高等教育の接続の問題が極めて大きな問題として出てまいります。その前に、まず初等中等教育の役割は何か、それから高等教育の役割は何かというような、役割を明確にしていく必要があるであろうと思います。その上で、先ほど申しました両者の接続について検討をする必要があろうかと思っております。このような点で、皆様方にぜひともこの際御審議を賜りまして、よい方針をお出しいただければ幸いだと思っております。
 今後、この小委員会を中心に、各方面からいろいろとヒアリングをしたりして、幅広い観点から御審議いただきたいと考えております。特に、今回お願いをいたしました諮問の中で、大学入学者選抜というのは大変難しい問題で、この10年、大学側も大いに改善にこれ努めてきておりますし、私は随分改善されたと思うのですけれども、なおかつ世間では不十分だと、こういう御意見があります。
 さきの総会において、おおよそ1年程度をめどにこの問題について御検討を賜り、御方針をひとつお決めいただければと思っておりまして、きょう小委員会の第1回が開かれるに当たりまして、御挨拶をしながら改めてもう一度お願い申し上げた次第でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

○根本会長  どうもありがとうございました。
 ただいま大臣からお言葉を賜りましたけれども、今回のテーマは、考えようによっては最も難題でございまして、ある意味では教育改革の総仕上げにもなり得るのではないかというような感じを持っております。11月6日に総会で大臣からこのテーマの諮問を受けまして、この問題は少子化の問題と密接に関係するのではないかという御意見もございまして、結局、小委員会を二つに分けまして、接続の小委員会と少子化を考える小委員会を設け、皆様には前者の小委員会に御参加いただくことになったという経緯がございます。 恐らく皆さんもそうだと思いますけれども、今の日本の社会の問題、経済の問題、政治の問題、いろいろございますけれども、結局、教育だと。一に教育、二に教育、三に教育だというような御意見を皆様お持ちのようでございまして、そういう意味では、私どものこの作業が社会的にも注目される大事な作業であるという認識を持っておりますので、何とぞよろしくお願い申し上げたいと思います。
 それでは、早速でございますけれども、座長の推薦をお願いしたいと思いますが、どなたか御推薦いただけませんでしょうか。はい、どうぞ。

○ 座長には木村委員を推薦申し上げたいと存じます。皆さん御案内のように、木村委員はこれまで第2小委員会、いわゆる心の教育の座長として、実にたくさん委員から意見が出たわけでございますが、それを見事にお取りまとめくださった実績をお持ちでございますし、それからいわゆる飛び入学のときのまとめの座長もしておいでになります。今回の初等中等教育と高等教育との接続という大変難しいテーマにつきまして、これをおまとめくださる座長として大変適切なお方かと存じますので、推薦申し上げます。よろしくお願いいたします。

○ 今の御意見に私も大賛成でございます。木村先生は前の東京工業大学の学長をしておられて、大学はもちろんよく御存じなんですが、高等学校以下の教育に関しても例の理科教育及び産業教育審議会を会長でまとめておられるという経歴もございます。ですから、よくおわかりになっていますので、この小委員会の座長として最適の方ではないかと思いまして、御推薦させていただきます。

○根本会長  ほかには特に御意見ございませんでしょうか。
 それでは、ただいまお二人の委員の方から、木村先生にぜひお願いしてはいかがかという御意見がございました。木村先生、誠に御多忙中のところ恐縮でございますけれども、よろしくお願いいたします。

○木村座長  木村でございます。昨年の10月23日まで東京工業大学の学長を務めておりまして、ことしの4月1日から、学位授与機構という、一口で言って生涯教育に参画される皆様方の学位のお世話をする政府の機関に勤務しております。
 過去、2度座長をやりましたので、そろそろ勘弁して頂けるかなと思っておりましたが、有馬先生がこういう職にいらっしゃる限りは、逃げられないと覚悟しております。
 中央教育審議会の諮問事項はだんだん難しくなって参りまして、今度の問題、殊に大学の入試の問題は非常に難しいと思っております。私、学長時代何とか入試の改革をしようと思って頑張ったのですが、先生方の抵抗が強くてうまく行きませんでした。先生方にも言い分がおありで、研究をきちんとやっていかなくてはならないのに、推薦入学等忙しくて以上できないという意見が圧倒的でした。
 そういうことで、過去の中央教育審議会の答申でも、特定の影響力のある大学の入試をどうやって変えていただくかということが非常に大きな問題ではなかったかと思っております。日本の大学がいわゆるペーパーテストと言われるものに非常に重きを置いておりますが、外国で少し調べてみますと、こういう試験をやっているのは日本だけということで、この点、何とかしないといけないのではないかと思っております。
 それから、先ほど御紹介がございました17歳入学のことですが、先日、あるところで友人に会いましたら、「17歳入学、どうなった。おまえが提案しておいて、肝心の東京工業大学でできてないじゃないか」と言われまして非常に困りました。現在実行されているのは、千葉大学だけですが、うわさによりますとほかの大学でもお考えのようでございますが、年齢の壁が日本の社会には大きく立ちはだかっておりますので、そういうところを少しでも改善して行く必要があると思っております。
 「心の教育」の小委員会の座長をやれと言われたときは、全く暗たんたる気持ちになりました。今度も暗たんたる気持ちでありますけれども、「心の教育」はやってみると案外うまくいきましたので、何とかなるかなという感じがないわけでもありません。よろしくお願いしたいと思います。
 私ほとんど出席出来ると思いますが、学位授与機構としての公務がありますので、恐れ入りますが副座長を坂元先生にお願いできればと思っております。御同意いただけますでしょうか。
 ありがとうございます。先生、よろしくお願いいたします。
 それでは、早速でございますが、配付資料としてかなり多くの資料がお手元に配られておりますので、事務局から御説明をお願いいたします。
<事務局より説明>

○ それでは、審議に入ります前に、小委員会の公開方法について確認をさせていただきます。
 小委員会の公開につきましては、資料を御覧いただきたいと思いますが、既に行われました11月6日の第223回総会において決定されております。復習をいたしますと、総会と同様、小委員会につきましても、1番目として詳細な議事録を匿名にて公開し、会議そのものは非公開とするということ。
 2番目は、会議終了後の座長の記者会見に際しては、座長の責任でその会議の審議の概要を簡潔にまとめた資料を作成・配布すること。ここで御議論いただきました内容はほとんど発表することにいたしております。
 3番目は、議事録の公開の手順としては、原則として次回会議において事務局案を提示し、次回会議の欠席委員も含めて確認をいただいた上、速やかに公開すること。
 そのまま公開いたしますので、ぜひ新たにお加わりになりました専門委員の先生方、御自分のところを、御確認いただいて必要な個所は御訂正していただきたいと思います。こうした方針で対処してまいりたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。
 それでは、本日御議論いただきますのに必要な資料を幾つか準備してございますので、それについて御説明いただきたいと存じます。委員の先生方におかれましては、前回総会における説明と重複するところもあろうかと思いますが、その辺、御理解をお願いしたいと存じます。
<事務局から説明>

○ それでは、最後に今後の小委員会の運営について少し御相談がございますので、時間をとらせていただきますが、1時間ほどございますので、自由討議をお願いできればと存じます。
 先ほどの資料で特に御説明はございませんでしたが、資料の中に、前回の総会で、それほど時間はなかったんですが、出た御意見の主なものだけをまとめてございます。
 それから、後ほど事務局のほうから御説明があろうかと思いますが、「当面の審議事項について(案)」というのがございます。これはヒアリングまたは専門委員のプレゼンテーション事項となっておりますが、このような事項について、この小委員会で御議論いただくことになろうかということでございます。
 そういうことを踏まえていただきまして、きょうは特にテーマを決めませんので、自由討議ということでお願いをできればと思います。
 きょうは専門委員の方が新しくお加わりいただいております。総数17名ですが、御欠席の方もあり、数が13名と少なくなっているかと思います。きょうは1回目ということで、まず専門委員の方から、どんなことでも結構ですから御発言をお願いします。

○ 既にいろいろ御議論があるところかと思いますけれども、今、大学入試のことを考えるときに大事なことは、大学も大学入試もいずれも多様になっているということだろうと思います。これは大臣が既に指摘されていることですけれども、一枚岩でないという状況をどう考えていくかということが、一つ大変重要なことだろうと思います。
 第2点は、高等教育のマス化とか、あるいはユニバーサル化と言われておりますが、実は一番大きな問題をはらんでいるのは、国立大学、公立大学以上に、むしろ私立大学だということがあるかと思います。これは実は行政措置の非常に届きにくい対象ではあると思うんですが、日本の中等教育、高等教育の接続を考えていくときに、私立大学の入試の問題をどう考えていくのかということを抜きにできないだろうと思います。
 それから、大学入試センター試験につきましては、中等教育のほうの到達度を測るということの理念になっているわけですが、機能としては大学入学者選抜における中等教育の到達度の測定ということになっている関係で、果たして大学入試センター試験を中等教育側から見ていくのか、あるいは大学側から見ていくのかということで、大変議論があるところではないかと思います。

○ 二つの点を申し上げたいと思います。その点について、逆に言えば本会に大きな期待をするということでもあるわけでございますが、専ら中学校の立場で申し上げたいと思います。そういう面では、高等学校の入学者選抜の在り方は非常に大きな問題でございます。
 ただ、第14期中央教育審議会の「新しい時代に対応する教育の諸制度の改革について」答申の中に、正確な文言をちょっと忘れましたが、国民の間に広範に存在する高学歴志向といった表現がありますが、あれから随分時間がたっており保護者の意識はかなり多様化してきております。必ずしも保護者の大多数が高学歴志向ということではないように思います。かなり変わってきています。習熟度別の学習指導などは、10年前ならば非常に抵抗が多かったと思いますが、現在ではほとんど抵抗がなく中学校現場で受け入れられているという実態もあります。
 それから、現在の教科指導や学習評価の在り方に対して、保護者から、もっと多様な指導や評価の在り方を要望するということもございます。こういう状況をまず的確に把握した上で、高等学校入学者選抜の在り方を考える必要があるのではないかと思います。
 教員の意識が一番遅れているということは、御指摘のとおりだと私は思っておりますけれども、教員の意識は、具体的な枠組みや行動を変えることでしか変わらないと思っております。勉強して変えろというのは無理なんでしてね。教員の意識は幾ら研修会の回数を重ねても変わらないだろう。むしろ入学試験の在り方や学習評価の在り方を変えることが、意識を変えることになると思っているわけでございます。
 現在の中学校の授業は随分変わってきておりますけれども、基本的には高等学校の入学者選抜にシフトした形になっていっているということは疑いもない事実ではないかと思います。
 それから、教育における評価というのは、本来もっと多面的であるはずですが、現実には選抜のための評価がそのまま学校現場に持ち込まれているというのが、我が国の初等中等教育の一つの悲劇ではないかと思っております。時代も大きく変わってきておりますので、個々の学習課題と学習結果といいますか、学習状況を、個々の子どもたちごとに具体的にフィードバックしてやるという評価が、これからは重要なのではないかと思っておるわけでございます。

○ 保護者の意識が多様化しているという点について、もう少し具体的にお話をいただけませんでしょうか。

○ 例えば、親御さんの意識として共通しているところは、どこか高校には入ってもらわなければ困るというところは、正直言って全部共通していますけれども、その上で、自分の子どもにはこういうところを伸ばしてほしいとか、あまり勉強、勉強ということでやらないでほしいんだとか、そういう様々な要求ですね。私の学校も含めて、普通学級に障害のあるお子さんがたくさん入ってきております。そこで、一体、教育というのは何なんだ、学習指導って何なんだという壁にみんなぶつかるわけです。
 今回の答申の中にありました「生きる力」に総称されるような、例えば他人を思いやる心とか、協調性とか、社会性とか、そういったものが、子どもたちの相互のかかわりや学習の過程でどんどん身についていきます。そういうものも学習の所産としての学力なんだと、このように見ていく必要があるのではないかという考え方は、むしろ教員以上に保護者のほうが進んでいるのではないかと思います。我が子に合わせた形で様々なものを期待していく。そういう面で、親御さんの教育に対する要請というのは非常に多様化していると思っております。

○ 現在、御存じのように、中学卒業生の約97%が高校へ入学する時代になっております。いろいろな生徒、多様化した生徒が入学してくるわけですけれども、一人一人の生徒を大事にし個性を伸ばす教育をするためには、一律の教育では対応しきれないということで、特色ある学校づくりをいろいろと進めてきているところでございます。それぞれの学校においてもまた生徒の実態に合わせて、それぞれ特色あるカリキュラムをつくって対応しているというところでございます。
 大都市圏で主として見られる傾向としましては、小学校、中学校で身につけなければならないような学力も十分身につけてこなかった生徒、それから生活規範とか、そういうしつけの面でも不十分な生徒が比較的多く集まっている学校。
 2番目のタイプとしましては、進路は4年制大学、短大、それから専門学校、就職と多様な進路の希望を持っている生徒が集まっている学校。
 もう一つのタイプは、高度の学力を備えて、その学校の生徒全員が大学進学を目指す高校。
 大体この三つのタイプに分かれるのではないか。それぞれその生徒の実態に即して、いろいろな教育指導の方法等も工夫して進めているところでございます。そういう生徒が、現在は48.何%、50%近くの生徒が4年制大学を目指すという時代になっております。
 ですから、大学のほうも受け入れる体制が、今後、トップレベルの高校生だけを受け入れるという時代でなくなってくるというように私は思います。ということは、ある県の中学校から高校へ進学するときの進路調査をしますと、大体77対23、77%が普通科高校へ進学する。23%がそのほかの高校へ進学を希望する。ということは、さらに上級の学校に進みたいという意志のあらわれではないかと思います。一方、職業高校の中でも大学進学を目指すという生徒さんが増えておりますし、この傾向から見ても、ほとんどの人が条件さえあれば大学へ進みたいという希望を持っていることがわかると思います。
 そういう多様なレベルの生徒を迎え入れる大学づくりといいますか、それぞれ大学が今後特色を持って、それぞれの大学の建学の精神とか、いろいろありますけれども、高校のほうから言えば、そのように非常に多様化した生徒、いろいろな能力を持った生徒が、さらに上級学校に行って学びたいという学ぶ気持ちのある生徒であれば受け入れて、さらにその力を伸ばせる、そういう体制づくりをしていただければと思っています。
 今後、高等学校の役割は何か、大学の役割は何かという話をされるようですけれども、私たちは生徒に、自分の将来の生き方をどうするかとか、自分の興味・関心、好きなものは何かとか、将来、大学へつなげていく一番基本的な物の見方といいますか、自分の生き方を教えることも高校の中では充実させていかなければいけないと思っておりますが、すべての生徒を現在のレベルの大学に底上げをして送り込むことは大変至難な状況になっているということでございます。以上でございます。

○ 私はこの難しい問題について、検討する観点と申しますか、方向と申しますか、そのようなことについて、現在考えついていることを申し上げさせていただきます。
 重要なことは、接続に関してどういう課題があって、今後どういう課題が発生することが予想されるか。ここのところを洗い出して整理することが大切だと思います。その際、課題を考える観点としては、例えば社会の変化が、16歳から22歳ぐらいの子どもたちにどういう資質・能力を求めているのか。21世紀初頭、2010年、20年ぐらいの時代や社会が、中学生から大学を卒業するぐらいの間の子どもたちに、どういう資質・能力を求めているのかという観点から洗い出していくことが一つあろうかと思います。
 もう一つは、これからどういう課題かということにかかわると思いますけれども、初等中等教育の教育課程が新しく変わるわけでございます。それから、高等学校の学科の再編であるとか、中高一貫教育というような制度的な枠組みも変わってくるわけでございます。この教育課程や学校制度の変化に伴って発生するであろう接続上の課題があろうかと思いますので、その二つぐらいの観点から整理をしていくと検討しやすくなるのではないかと思います。
 具体的には、接続というのは、初等中等教育の教育内容と学部教育の教育内容の接続という問題があろうかと思います。この問題は履修の仕組みが複雑に絡んできますので、基本的な考え方は生徒や学生にどういう資質・能力を育てるのかという観点から、教育内容の接続の問題がとらえることが必要と思います。

○ 3点申し上げたいと思います。
 先ほどの「諮問後の総会における主な意見」の五つ目として、「高等学校の多様化、大学の多様化との間の上手なマッチングを議論していかなければならない。」という御意見が出ておりましたが、私もこれは大事なポイントだと思います。
 少し申し上げますと、確かに中等教育も多様化しております。それから、大学教育も多様化せざるを得ないと思いますが、基本的に私は二つの多様化の面があると思います。一つは学校間の多様化であり、もう一つは学校内部の多様化です。学校内部の多様化というのは、一つの高等学校なら高等学校、一つの大学なら大学の中で、多様な学習者がおり、多様なプログラムを用意し、そして多様な進路に向かってそれを育てていくというのですが、実はこれは理想はそうかもしれませんが、非常に難しいことだと思います。日本のいろんなシステム、それから資源から考えまして、これは極めて難しいでしょう。
 そうすると、もう一つのやり方は、学校の内部でもある程度の多様化はあるけれども、むしろ学校の間でいろんな多様化があるというのがより現実に近いのではないかと思います。高等学校もある程度の内部の多様化を超えて、学校間にいろいろ多様化があると同じように、大学もそれぞれの特徴を出し、このような人を受け入れ、このような人を育てたいという多様化は必然だろうと思います。
 そうすることが一種の序列化を招くということになると非常に大きな問題ですが、そのようなことのないような、しかし適切な賢い棲分けができないものかと考えるわけです。そういうふうなことをうまくつないでいくのが、マッチングの問題かなと考えるのが1点です。これは日本の社会システムとも関係して非常に難しい問題ですが、実際に大学で教育を担当している者といたしまして、大学内部での際限のない多様化はとてもできないということで、大学がどのように現状にアダプトするかという一つの道を考えておるわけです。
 2番目は、能力、適性ということが非常に重視されておりますが、これはなかなか難しい概念です。これらは基本的にはポテンシャリティーを考えるわけで、まだ実現していないものを前もってちゃんと評価しなければいけない。それがもし可能であればいいのですが、目標とか、基準が単純な場合は、それへのポテンシャリティーは割合い簡単に調べられると思います。航空機のパイロットを養成する課程に入る。そのときにパイロットとしての適性があるかどうかということは、研究をきちんとしていけばうまく調べられると思います。そうしないで適性の低い人が入りますと、本人のためにも、あるいは社会のためにも大変なむだになる。しかし、高等教育でそのような単純な基準や目標が規定できるかというと、これは非常に難しい。ですから、適性や能力という概念をよく考えて議論することは大事ですが、もう少し別の視点も要るのではないか。私は個人的には、それはレディネス(準備性)という概念ではないかと思って、今まで提起してきたわけです。
 例えば、高等学校でもそうでありますけれども、大学においてそこで用意されている教育プログラムがある。それを自分が活用して、力をつけ、生涯学習の中でちゃんとそこでの経験を活かせるかということを考えますと、そこでの教育プログラムを受けるための準備性というのが要るだろう。この準備性というのは単なる知識だけではありません。思考力もありますし、先ほどからおっしゃっておりますような意欲やはっきりした目当ても要ると思います。ある意味ではそれまで生きてきた、人生の一つの中間的な到達点として準備性が整っている。それをひっさげて次の段階へ進んでいく。
 そういうことを考えますと、大学はどのような教育プログラムを提供するので、どのような人々に入ってきてほしいということを明確にしなければいけません。そのようなゴールに対して、それぞれの中等教育で一人一人を育てていただく、あるいは生徒が一人一人自分の目標を立てていくということで、準備性という概念は、一つの重要な考え方ではないかと思います。
 最後に、親もそうでありますし、一般の人々の価値観や信念の理解が課題解決につながっていると思います。先ほど中学校からお伺いして非常に興味を持ったのですが、最近、親の願いが非常に多様化してきた。歴史的に見ますと、日本は階層的な社会を反映して、もともと教育に対する親の願い、本人の願いには多様なものがあったと思います。それがここ何十年かのうちに非常に斉一化してきた。その問題に社会が気づき、親が気づき、子どもも少し気づきかけている。それを反映して、新しい意味での、階層性のない、しかしそれぞれの個性といいますか、生き方を活かすような多様性という芽が既に出てきているとすれば、そのような価値観や信念の変化を敏感にとらえながら、適切な我々のシステムを考えていくことが大事かと思います。

○ 先ほども話に出ましたけれども、やがて大学入学志願者全入の時代がやって来ます。これはしかし、言うまでもなく統計上の話でして、実際には、相変わらず志願者が殺到するところとそうでないところ、中間的なところがあると思います。そうしますと、大学と高校教育とのリエゾンの問題は、それぞれのランクにある大学別に考えなければならいのではないのでしょうか。
 生徒の意欲と個性を伸ばし、健全な成長、発達を願い、希望の教育を行うといった目標も、高順位の大学か、低順位の大学か、また、大規模の大学か、中小大学か、そしてまた、伝統的な大学か、後発大学かでそれぞれ違うと思います。今、あえて小大学あるいは後発大学の立場に立って、大学と高校とのリエゾン問題を、入学選抜の視点から考えてみたいと思います。
 私は常々、AC(アドミッション・カウセンリング)入学選抜ということを提唱してまいりました。これは、大きい大学、ランクの高い大学は別として、小大学、後発大学では高等学校の生徒個人々々に積極的にアクセスし大学進学の相談にのってあげるようにしてはどうかというものです。例えば、大学教職員が高等学校へ出かけていきまして、自分の大学に興味を持っている生徒がいることを知ったとします。そしたら、その個人に「君は将来、何をやりたいんだ」「どういうことを一番やっていきたいのか」と問いかけ、その生徒が、「この分野、あるいはこのことなら自分は得意だし、興味がある」ということを表明してくれたら、「それならば、うちの大学のこの先生のこの講義を中心に勉強をしたら、きっと君の個性は伸びると思うよ」ということで、以後もその生徒と事前勉強のアドバイスなど(試験勉強ではない)接触する機会を持ってもらう。個性の発掘と入学への動機づけです。そういった高校生徒個人対大学の先生、個人対個人のアクセス、相談ができるといいのではないかと思っております。
 しかし、これが高等学校で現在行われている教育にネガティブな影響を与えるようなことがあってはなりません。そういう点では、大学の先生と高等学校の先生との間で十分な話し合いをしておくことが重要だと思います。また、そのような話し合いは高等学校と大学間の相互理解を深める効果も生むでしょう。それは授業科目のリエゾンとか、テキストの連続性とか、そういうことを考える以前に大事なことではないでしょうか。
 私は大学新入生が、「よし、この学校へ入ったんだ。この4年間で、この学校で自分は何ができるのか。そうだ。この方面に進んだら自分の将来はきっと拓けるに違いない」といった展望と期待をもって、大学生活をスタートしてくれたらと願っております。
 その意味では大学1年次の授業は極めて重要で、教員は講義の中で新しい学生諸君の興味を喚起し、刺激し、将来に向かっての大学での勉強の設計を立てる、そのために自分はこのようにコントリビュートできるといった話をする必要があります。

○ 「諮問後の総会における主な意見」を拝見いたしまして、短い時間で出た話だと伺いましたけれども、大変いい問題が出ておると思います。ほとんど問題はこれに尽くされているような感じがいたしました。
 ただ、高校教育を見ていきますと、型にはめないで、考える力を持った若者を育てる。確かにこれは必要だと思います。ただ、現実にどういう状態が起きているかといえば、高校教育を全く理解できないような生徒が高校へ進んできている。それから、大学についても、留学生の日本離れの動向を見ましても、まさに国際競争力を持った大学を育てなければならないと思うんです。そういった意味で、大学審議会の「21世紀の大学像」は正しいと思いますけれども、その反面、現実には大学に入ってくるけれども、高校1年生ではないかと思うような学生を、実は多くの短大、大学が抱え込んできているわけでございます。そういった点から考えますと、高校教育と大学教育の接続においても、あまり型にはめた規制にしてしまわない。できるだけ多様なものが成り立っていくような規制緩和と申しますか、そういうことが一方において必要だと思います。
 それから、学校制度としては、もう一つ考えてみなければならないのは、高校教育と大学の間でいわゆる2年制の短期高等教育機関をもっと利用することを考えたらいいのではないか。短大あるいは専門学校、高専、これがちょうど高校と大学との間のリエゾンといいますか、ブリッジスクールの役目を果たそうとしてきている。それをどうやって生かしていくか。大学審議会では来年になってからその点を検討されるそうでございますが、その点が解決の方法の一つではないかという感じがいたします。

○ 大変に厄介で、かつ重い問題で、頭の中はこの1ヵ月間堂々巡りをしている状況なんですけれども、あえて私の意見を述べてみたいと思います。
 私は、高等学校とは一体何ぞやというところを、まず第1に考えるべきではないかと考えます。学校教育法によると、高等普通教育を施すというようなことが書いてあって、あと1、2、3と何かあったような記憶がありますが、この高等普通教育とは何ぞやという観点。もしこれが仮に市民教育だとすると、市民教育の観点から戦後の高等学校を定義し直した、あるいは見直したことは一度もなかったのではないかと感じます。
 と同時に、これからの大学進学の動向を考えていきますと、この市民教育の部分というのは、必然的に大学のほうもその一端を担うというかかりを持たざるを得ないのではないかと考えます。言ってみれば、教養教育に値する部分を高等学校側と大学のほうの側がどのように分担をしていくかという発想が必要だろうし、あるいは諸学の基礎としての一般教育、もしくは基礎専門科目へのジョイントも考えながら、高校から大学、大学院へとつなげていくようなジョイントの発想が必要なのではないかと考えます。
 同時に、高校と大学に関連しましては、ここにも「マッチング」という言葉が出ておりましたけれども、カリキュラム・マッチングという発想を下地に置いて様々なことが考えられないか。例えば、アドバンスト・プレイスメントもそうですけれども、たまたま文部省の委嘱で、高校教育改革研究会というのが高校と大学の連携の授業についての研究をざっと10ぐらいの高校で展開されていて、大学と高校のジョイントセミナーという方式をとっているところとか、様々な試みが今行われようとしています。これはカリキュラム上のマッチングという要素と同時に、大学の学問へのいざないといいますか、知へのいざないという発想も込めて、進路意識を高めようといったような発想でもあるように私は見ましたけれども、そういったものも今からどんどん広げていって、役割分担もしくは連携を明確にしていく必要があるのではないか。その延長線上にどうやら入試のありようが少し見えてくるのではないかと思うんです。ただ、入試の問題は100%パーフェクトな制度はあり得ないわけでありまして、そこでありとあらゆる副作用、弊害を想定しながら模索していく必要があると思うんです。
 いずれにしましても、これからは入り口、つまり入試における学力水準維持機能、管理機能が明らかにダウンしていくことは間違いない。したがって、大学審議会でもアウトプットの部分を強化していこうという発想になっていくんだろうと思います。しかしながら、そうは言っても、大学は学問もしくはその周辺のところを学ぶところであるというところから見て、入試のありようも考えざるを得ない。たまたま、現在の大学入試センター試験は良問であるという評価が確定しているようですけれども、この大学入試センター試験の性格は高等学校の基礎的な学力の到達度試験という性格がありますが、この部分をさらに高めていく必要があるのではないかと、個人的に私は考えています。ほかにもいろんな方法やアイデアがあるんだろうと思いますから、後ほどまた議論に参加をしていきたいと考えています。

○ 今、おっしゃいました高等学校の在り方であるとか、高等学校と大学の連携の問題については、私もふだんから疑問に感じておるんですが、現実に私も高校生の子どもがいる母として常日頃思うことは、少子化社会であれば、これからますます上級教育、言い換えれば個に合った教育を私たち保護者、親が望むというのは、この成熟した社会であたりまえのことです。
 現状の問題を見てみますと、子どもの個性に応じた教育の選択に様々な大きな問題がありますが、一つは、先生方から教育の制度の問題や入試の問題や様々な問題がありましたが、私たちとしては教育費の高騰でございます。国公立と私立の高等教育の差はあると思いますけれども、21世紀を担うこれからの子どもたちの教育に、将来、親の経済力だけによる教育というのは非常に限界がある。それは私学助成という問題だけではなく、教育ということで人間をつくっていくときに、親たちの教育における負担というのは、1人、2人、3人と増えれば増えるほど、それは学校教育だけではないという別な意見もあるでしょうが、上級教育に上げようと思えば思うほど、それにかかる費用というのは大変なものであるということはみんな知っております。そして、少子化の調査をした新聞なんかを見ましても、やはり子どもには教育費がかかるという意見もちらほら出てきた今日でございますので、教育制度の問題とプラスアルファして、行財政上の教育機会の弾力性ある制度やシステムの改革もしてほしいなと、親としても思う今日でございます。

○ この3月まで高校現場にいて、今は引退した身です。学校を離れ改めて、これからの日本人の知的水準をどのように確保していくのかが、きわめて重要な課題であると、痛切に感じております。
 私は高校長としての最後の数年間、全国高等学校長協会で、主として大学入試の部門を担当し、ここにいらっしゃる先生方ともご一緒して、大学入試について発言してまいりました。その間、平成9年というのは非常に大きな変わり目の年であったと認識しております。「平9入試」と私どもは言っておりますけれども、大学入試センター試験が31科目にわたって行われるという画期的な境目の年であったわけです。
 その結果、大学入試センター試験をどう考えるかという議論がたくさん出てまいりました。私は、この大学入試センター試験は、先ほど他の委員の方からも話がございましたように、高等学校全体で評価が高いものと受けとめております。したがって、この大学入試センター試験を大切にすることを基軸にして、今後の入試を考えていただきたいと思います。高等学校が多様化します。生徒も多様化するわけです。それから、それぞれの学校で勉強させるカリキュラムが、学校によって全く違ってくる。こどもたちのトータルとしての学習到達の実態も多様化する。このようにさまざまな多様化がある中で、これだけは歯止めだよ、といえる大学入試センター試験であってもらいたいと考えます。例えば、大学進学を希望するのなら、これだけはクリアしてほしいという試験に、これからの大学入試センター試験はなっていくのではないかと思っているわけです。そのような理由から、この大学入試センター試験を国を挙げて大切にする中で、今後の大学入試を考えていただきたいと思います。
 次に、平9入試以降、大学入試センター試験の科目間の得点差が大きな話題になっている点をあげます。これは31科目まで広げた結果でもあります。高等学校が、ぜひ多くの科目についてやってくれと長年言ってきて実現したことなのです。科目によって得点差が開くというのは当然予想されたことです。つまり、得点差が開きすぎるからだめという議論はおかしいのであって、そういうこともあるが、それを踏まえながら、じゃあどう利用すると、このように話を進めていただきたいと考えているところであります。
 したがって、大学入試センター試験での1点、2点の点差が決定的な力を持つということには問題があります。大学入試センター試験は一つのハードルとして必要なのだけれども、それを各大学が選考資料とするについてはもう少しおおらかに考えていただきたい。おおらかという以上は、何か大学入試センター試験の成績とは別の資料がなければならないわけでして、その点でさまざまな工夫をしてくださいと私どもはお願いしているわけです。
 私立大学でも、大学入試センター試験に参加するところが増えるのは、当然だと思います。入試にかかわるスタッフが限られる小ぶりの大学では、そんな31科目にもおよぶような入試を施すことはできません。当然、しょうがないから英・数・国でやっておくかみたいな安易なことにまた戻ってしまう。それを避けるために、大学入試センター試験を大いに利用していただきたい。
 ただ、大学入試センター試験だけで終わってはいけない。そのためには、先ほど他の委員の方から話がございましたけれども、ACのやり方とか、既にいくつかの私立大学で導入されているAOシステムとか、さまざまな方法で、高等学校の生徒に大学側からアクセスしていただいて、生徒が本当にこの大学とマッチするかどうかをよく確かめながら入学を許可する。そして、大学に入学したらすぐ意欲的に大学生活ができるような手だてを考えていく。そのような入試を、この議論を通して開発できればと考えているところでございます。

○ 中央教育審議会の第二次答申のときに、中学から高校、高校から大学への入試や進路指導について相当時間をかけてやって、あれで十分かと思いましたら、またこの問題をやるというのは、この問題は容易ではないなと思いました。
 一つは、高等学校と高等教育といった場合に、例えば高等学校そのものの教育課程等も多様化、弾力化していますけれども、高等学校教育、高等学校そのものが非常に多様化しているわけです。これは高等教育なんかまさにそうで、それぞれの大学が特色を持ってくる。そういうことで、今までのようにただ高等学校教育とか、高等教育という十把一からげで考えることがなかなかできません。その中において、接続をどう考えるかというのは、かなりきめ細かい問題になるかと思うんです。
 そこに横たわるのは国民の意識で、日本のようにややもするとで、横並び意識で、相対的に物を考えるものがある以上、試験の方法を変えるだけではなかなか直りません。個を確立していく。自分は自分というものをきちっと見詰めて進路をとっていくとか、そういう意識も同時に変えていかない限り、幾ら制度を変えてもなかなか解決しないという問題がある。これは中央教育審議会の第一次答申、第二次答申との関連で少し思い当たります。
 それから、地方教育行政の答申との関連で言えば、地方教育行政は直接には今回の諮問と関係ないかもしれませんが、あそこで言っていることは、要するに学校の主体性、自律性の裏側にあるのは、自己責任、結果責任を強調していたかと思うんです。そうしてみると、大学でも今までのように入りにくいところから出にくい大学、いわゆるリザルト・オリエンテッドといいますか、あるいは厳正な成績評価をきちっとやる。これもやはり結果に重点を置いて、自由な競争の中において結果に責任を持っていく。
 そうやってみますと、高等学校なんかでもそうですが、高等学校の到達度といったものに対してどう客観的に評価していくか。その辺のところも同時にあわせていきませんと、だんだん少子化の中で、大学は人を集める、そして具体的に入試科目を減らす、結果として学力が低下する、そういう悪循環になっていく。そういう中で、きちっとした到達度とか、そういったものをどう客観的に見ていくかということが一つあると思います。
 最後には、将来は今までのように決められた時間の中で答えを出して、1点刻みの評価をするという考え方がいつまでも成り立つのか。例えば、もう少し研究の方法とか、あるいはその成果について評価するとか、文章等々による発表とか、そういったものをもっと評価するとか、またそういった新しいものも開発していくことも大事ではないかと思っています。

○ 私は、あるささやかな学会で仕事をしたりもしておりました。そこで、現場の先生方からいろいろな研究発表をいただいたり、あるいは御意見が出るわけですが、大学入試というものが高等学校教育のすべてとはもちろん申しませんが、大きなインパクトといいますか、影響を与えている。結局、事実上高校のカリキュラムというのは大学入試が決めているようなところがある。あるいは、大学入試センター試験もそれにかかわりますけれども、そういう現実があるということはあると思います。
 さらに、今度は高校へ入るために、それがまた中学校へおりていく。さらに、小学校へおりていく。結局、日本の学校体系全体が、いわば大学入試というところへ向けてずうっとつながっているような部分があるので、そういうところをどのように考えたらいいのかということをやっぱり考えてみなければいけないだろうと思います。
 それをどういう視点から考えたらいいのかというのは、そう簡単な問題ではないと思います。先ほどから出ておりますように、国民の学歴意識というんでしょうか、学歴を尊重するような意識みたいなものをどのように変えていくのかということを、小学校段階、あるいは中学校、高校、大学、それぞれのところで考えていかなければならないと思っております。
 大学の側から言いますと、自分の大学の学部に優秀なといいますか、趣旨に沿った学生を集めたいということは当然わかるわけです。ただ、その中身が問題で、結局、学生を入れた後、どういうふうに学生を教育して、彼らの能力を開発していくのか。いわば大学における学部教育、さらに大学院教育を見据えた展望の中で、入学試験というものをどう考えていくのか。そこら辺の視点が大学には欠けているのではないかと思ったりしております。
 先ほどちょっと出ましたアドミッション・オフィスというようなものに私の大学も今取り組んでおりますが、その辺の議論がなかなか難しくて、言ってみれば一般的な入学試験とか、あるいは推薦入試というのは随分やってきた。そこでいろいろな工夫をしている。しかし、そこでさらに何が欠けているのだろう。その欠けた部分を、例えばアドミッション・オフィスという新しいシステムを導入することによって、今までの高校と大学とのつながり、さらにそこで入学させた学生に対して新しい視点から能力を開発していくような筋の中で考えていかなくてはいけないだろうということを議論いたしております。
 そういう意味では、それぞれの大学がそれぞれの大学で努力されていると思います。そこのところをどのように評価すればいいのか。さらに、高校教育との望ましい接続の在り方を図るためには、まだ何が欠けているのかという議論もきちっとしていかなければいけないのではないか。例えば、私どもの大学でも、25年間、入学者の4分の1くらいは推薦入試で採っております。これはかなりの実績があるというようにある意味では自負しておりますし、事後調査なんかも随分やって、これはいい制度だと考えておりますが、高校から見た場合に、一体それはどうなんだろう。大学の推薦入試というのが、高校の在り方をどのように変えているんだろうか、どのような影響を与えているんだろうかというところも、今行われているものについての評価もきちっとしていくことも必要ではないかと思ったりいたします。
 それから、今の大学生を見ていまして、高校教育というよりも小学校教育、初等教育あたりのところにむしろ問題があって、そこからきちっと見直していかないと、本来のつながりが出てこないのではないか。例えば、学力ということだけではなくて、もっと人間関係の在り方でありますとか、あるいは自己の表現力でありますとか、あるいは自分が判断して意思決定していくような力とか、そういうところから言いますと、大学と高校との接続ということの後ろ側に、小学校・中学校・高校のつながりといいますか、いわば青少年の発達を縦の系列の中で、トータルとしてどのように見ていくのかという筋でも考えていく必要があるのではないかという感じがいたします。

○ いろいろお話があったんですが、今、たまたま私、先ほどお話があったアドミッション・オフィス入試を12年度から開始する準備に入っておるところから始めまして、大学の入り口から大学の最後の出口、ポスドクの問題をどうするかというところまで、全体を見通して大学全体の在り方を考えていたところでございます。
 さらに、大学と社会との連携の中の産・学・官連携のとり方のところへポスドク問題が重要な接点を持ってくるわけです。どういうことかといいますと、社会がポスドクを受け入れない体制に今あるわけで、そこのところの改善を意図しながら取り組んでいかなければ、後期高等教育の最後の完結ができない。そこまで見通した上でのスタートの時点との接続を議論する必要があるのかなと私は考えております。
 と申しますのは、今回の諮問の中にもありますように、日本が技術立国を掲げて、これから国の立て直しを図っていく中で、いろんなフェーズがあるんですが、その中の大事な役割として、日本をしょっていくような人たちをどうやって育てるかという視点が要るのだと思います。ですから、多様性があって、その多様な中から後期高等教育の中の一番中核になる枢要な人材を育てるための戦略も、あわせてこの中に盛り込んでいかなければならないと考えております。
 具体的に申し上げますと、高等学校までの教育課程が、きょうも御案内がありましたとおり、教育の時間数が減ったり、内容もなるべく多くの人がより容易に理解ができるようにという方向に今動きつつあります。そして、大変印象深かったのは、中学校や高等学校のほうの多様化がかなり進んで、今やもう皆同じという感覚ではなくなったという意識の変革があったというお話は、私は大変ありがたい。また、当然そうであって、なおかつその中からこれからの日本の進路を考えていくべきだという問題を強く感じ取っていたわけでございます。
 もう1回、AO入試のところに戻しますが、そうしますと、先ほど他の委員の方から、遅れていたといいますか、後期のほうの大学の入試に関連するアドミッション・オフィスもしくはペーパーテストによらないような選抜の在り方の問題を提示していらっしゃいましたが、私が今提示したようなアッパーレベルの人を選ぶのに対しても、やはりペーパーテストが万能でないことは既に御存じのとおりでありまして、有名な例ではエジソンとか、アインシュタインの例がよく出てまいります。ですから、そこにこそ別なリクルート活動が必要なんですね。そういう意味で、私どもがアドミッションズ入試を導入するときの一番大きなポイントは、そこのところに向けておりまして、高等学校に出向いて大学が目指す理念を開示しながら、そのような能力を持つ人材の開発をいわゆるリクルート活動を展開しながらやっていくことを目指しております。
 当面の審議事項を幾つか見ておりますと、「大学教育を受けるのに必要な能力について」という項目がございますが、私は大学審議会の中の入試専門委員会の中でも再三主張申し上げておることの中に、論理性の重視ということをよく申し上げております。論理的に物を考えるトレーニングができていない。もしくは、ある場合には論理性というのは生まれながら持った資質の一つであるという心理学者の言い方もあります。そうしますと、先ほどパイロットのお話が出てまいりましたが、これは適性の一つだろうと思います。
 このことに対する教育先進国と目されておりますアメリカの事例で申しますと、彼らは論理性のテストをSAT1という形で、これは数学が中心でございますが、実施しております。しかし、その内容は極めて簡単でありまして、中学校の修了レベルぐらいの知識を土台にしまして、知っているかということに関してはそういう素材を土台にして、それを論理的に組み立てる能力を問う試験をやっている。これは向こうの人の言い方をかりますと、何回やっても結果が同じになるような試験を課している。それを聞いて、私どもがつくづく感じたことは、大学は常日頃研究とか教育を専門にしている先生方が当番で当たって、その年だけ作題委員になるというのは、いわゆる作題の素人なんですね。素人が問題をつくってテストをしている。これが日本の非常に大きな問題だろうと思います。そういう意味で、大学入試センター試験のグループの中に、問題作成のプロが育っていることを大変心強く思っております。
 私どもの大学は、実は入学試験を何種類やっているか ―専門委員会の先生方は、私が何回か言っていますから御存じですが、御紹介申し上げますと、今度、AO入試を入れて、合計36種類の入試をやっています。これはもちろん大学の1年生の入試も含めて、最後、大学院の博士課程まで入れて、非常に多様な入試をやっています。数え上げていって36種類。ちょっとびっくりするぐらいの数になっておるわけでございますが、ねらいはやはり多様なキャリアと多様な資質を持った人に、どこからでも入れる大学をつくるというのが我々の大学の理念なわけです。当然、社会人、いろんなキャリア、外国人も入っております。それから、入学時期も10月入試も実施しております。そんなことも含めまして、今、私どもは多様な接続点を見出そうとしておりますので、今回はこのグループに参加させていただきまして、可能な限り御協力申し上げたいと思っております。
 最後に一つ、今の接続点から4年生の出口の点について、一つ意見を申し上げさせていただきたいのは、今、国際的に通用するエンジニアという問題が提起されておりまして、これは4年生卒業レベルで、将来エンジニアになる人の国際通用資格を問われているわけです。これは国際的な相互承認の枠組みが完成されつつありまして、日本の国内に閉じて、我々はこういう教育をやっているんだというだけでは済まない問題がそこに出てきております。というのは、我々が育てたエンジニアが外国へ出ていって活躍するための、ちょうどJISに対してISOが出てきたと同じような、一種の教育制度に対する資格枠組みが生まれようとしておりまして、それを無視して日本独自の何かをつくった場合には、日本がエンジニアに関しては孤児になるおそれがあるという問題が含まれておりますので、申し上げます。
 そうしますと、出口管理は厳正にやらないと、これをクリアすることができなくなります。そうすると、高等学校までの教育課程の内容が下がりますと、そこの間に大変な急傾斜が生じます。ですから、入り口が下がって、出口は変わらない、もしくは上がらなければいけない。そういうことが我々が今抱えている問題です。そうしますと、その急傾斜の過程で何が起こるかといいますと、当然、そこには適性の問題が起こってまいりまして、そこの階段を上り損なった人をどうするかという問題を解かなければいけないと考えています。
 マッチング問題は、学部4年間をかけて出口までの調整をやる意味が私は含まれていると思います。入り口だけで調整するのではなくて、学部4年間かけて調整する問題が含まれていると思います。そうしますと、それに対する諸国の対応は多様でありまして、一つはアメリカの大学のようにテストは2回しか受けさせない。2回落っこちたら生涯その単位は取れない。そのかわり、ほかの大学に行って単位を取ってきてもいい。単位互換制です。そして、卒業認定するのは、トータルの単位の3分の2を取った大学が認定単位を出すというやり方を採っておりまして、自動的に大学間移動が起こらざるを得ない。学生は自分の成績を見ながら、ここに頑張っていても5割がギリギリで、67%は取れないと思ったら、取れる大学へ引っ越すわけです。そういう選別が起こるやり方も一つの解の在り方だと思っております。この接続問題は学部教育全体を含んで調整すべき問題かなと私は考えております。

○木村座長 どうもありがとうございました。
 今後のこの小委員会の進め方についてお諮りをしたいと思います。
 今回の諮問につきましては、さきの総会におきまして、有馬文部大臣のほうから、1年程度をめどに取りまとめてほしいという御要請が出ております。このことを踏まえまして、事務局のほうから簡単に御説明いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。<事務局より説明>

○木村座長 それでは、ただいまの説明にありましたように、これまでの中央教育審議会でもそういうふうにさせていただきましたけれども、問題が複雑多岐にわたっておりますために、関係各方面から幅広くヒアリングを行いたいと思います。また、専門委員の中にはそれぞれの各分野について造詣が深い委員もいらっしゃいますので、専門委員の方からもプレゼンテーションをいただくということを考えております。そういうことで、ぜひ御了承いただきたいと存じますが、よろしゅうございますでしょうか。

○木村座長 ありがとうございました。
 それでは、ヒアリング、プレゼンテーションをふんだんに行いながら進めさせていただきますが、次回は、初等中等教育と高等教育との役割分担について、総括的な議論をお願いしたいと存じます。
 五つ出ております項目について、どれを2回やるか、あるいは3回やるかというようなことは、皆様方の御議論の進捗状況を勘案しながら決めさせていただきたいと存じます。また、ヒアリングやプレゼンテーションをどなたにお願いするかについては、事務局と私とで相談をしながらやらせていただきたいと思いますが、よろしゅうございましょうか。
○木村座長 ありがとうございました。
 それでは、専門委員の皆様方には、後ほど事務局のほうからプレゼンテーションをお願いするというお願いがいくかもしれませんので、ひとつ御覚悟のほどをよろしくお願いをしたいと存じます。

○ 当面の審議事項についてぜひお願いがあるんですけれども、これは当然含まれているということだろうと思いますが、現在の入学試験、最後の項目に関係しているんですが、お話を伺って、かなり多様化しているし、大学がかなり自由にできると私は理解しているんですが、問題点ですね。例えば、もっと多様化したいと思っても、お金がなくてできないとか、あるいは高等学校がそれに対応していないとか、いろいろなことがあると思います。改善を議論する前に、ぜひ今の入学試験について何が問題なのかということを、1回深く議論をする機会があればいいなと思っておりますが、お願いできますでしょうか。

○木村座長  わかりました。申し上げませんでしたけれども、私個人的には、「大学入学者選抜の改善について」が、この小委員会の一番大きな議論の対象になろうかと思っています。有馬大臣も、たぶんこれをぜひここでやってほしいと思っておられるんだと思いますので、今の御意見は、必ずその方法で進めて行くことになると思いますので、御安心いただきたいと思います。

○ 先ほど来、大学審議会の入試専門委員会というお話が出ていましたし、大学審議会の中の組織にそういうものがあるようです。そしてまた、メンバーを拝見しますと、ここでのメンバーとダブっている方もおられるんですけれども、中央教育審議会として審議を進めていく上で、大学審議会でどういう議論が行われており、あるいはまたどういう成果というか、まとまりがあるのかということについて、一度機会を見て、入試改善の審議ででも結構ですが、御披露していただくと、その成果をちょうだいするなり、あるいは審議の参考にするなりという点で、そのメンバーになっていない者にとっては意味があるように思いますので、その点、ひとつ御配慮いただきたいというのが一つでございます。
 もう一つは、「高校教育の現状について」の「進路指導、学習指導等の状況」というのがありますが、ややもすると高等学校の場合、進学校的な立場からどうこうという議論がされがちでございます。しかし、実態的には、私も先般、機会があって、いわゆる教育困難校と言われる高等学校を見まして、入ってきた生徒の3分の1は中退するというような学校でしたけれども、そこでも大学に進学したい、あるいは現実にするという子どもたちがいるわけです。ですから、いわゆる進学校というところだけでなくて、そういう学校での進路指導の状況等も踏まえた御紹介をいただければと思いますので、よろしくお願いいたします。

○木村座長 事務局からこの意見について説明がありますか。

○事務局 「高校教育の現状について」の「進路指導、学習指導等の状況」につきましては、十分配慮してまいります。
 大学審議会の関係でございますが、私どものほうとしましても審議の状況を踏まえまして、大学審議会のほうと場合によれば合同セッションなり、そういうことで、相互の意思疎通を図りながら進めてまいりたいと思っておりますので、十分御指摘を踏まえて進めてまいりたいと思っております。

○木村座長  ありがとうございました。
 きょうは、委員の皆様方には御発言いただきませんでしたので、大変腹膨れているかと思いますが、次回からは十分に御発言いただければと思います。
 それでは、本日はこれで終了いたします。
 次回は、1月19日、火曜日、13時から、ホテルフロラシオン青山ふじの間で行います。
 どうもありがとうございました。

(大臣官房政策課)

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