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第2章  新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方について

  教育基本法改正の必要性と改正の視点

  戦後の我が国の教育は,教育基本法の精神に則(のっと)り行われてきたが,制定から半世紀以上を経て,社会状況が大きく変化し,また教育全般について様々な問題が生じている今日,教育の根本にまでさかのぼった改革が求められている。

  このため,前章において明らかにした,我が国社会と教育の危機,教育の理念までさかのぼった見直しの必要性,21世紀の教育が目指すものを踏まえて,新しい教育基本法については,

(i) 現行の教育基本法を貫く「個人の尊厳」「人格の完成」「平和的な国家及び社会の形成者」などの理念は,憲法の精神に則(のっと)った普遍的なものとして今後とも大切にしていくとともに,

(ii) 21世紀を切り拓(ひら)く心豊かでたくましい日本人の育成を目指す観点から,以下のような重要な教育の理念や原則が不十分であり,これらの理念や原則を明確にするため,教育基本法を改正する必要がある。

1 国民から信頼される学校教育の確立

(一人一人の個性・能力の涵(かん)養)
  自己実現を目指す自立した人間の育成を図るためには,基礎・基本となる学力と学ぶ意欲をしっかりと身に付けた上で,一人一人の個性に応じたきめ細やかな教育を行い,その能力を最大限に伸ばしていくという視点を明確にする。

(豊かな心と健やかな体の育成)
  豊かな心と健やかな体を備えた人間の育成を図るためには,道徳や芸術など情操を豊かにする教育や,体育をはじめとする健やかな体を養うための教育を重視するという視点を明確にする。

(時代や社会の変化への対応)
  グローバル化や情報化,地球環境問題への対応や男女共同参画社会の実現など,時代や社会の変化によって新たな課題が生じてくる中で,教育はこれらに的確に対応していくことが必要であるという視点を明確にする。

2 知の世紀をリードする大学改革の推進
  これからの知識社会における国境を越えた大競争の時代に,我が国が世界に伍(ご)して競争力を発揮するためには,知の世紀をリードする創造性に富んだ多様な人材の育成が不可欠である。そのために重要な役割を担うことが期待されている大学の視点を明確にする。

3 家庭の教育力の回復,学校・家庭・地域社会の連携・協力の推進
  家庭は教育の原点であり,すべての教育の出発点である。家庭教育の重要性を踏まえてその役割を明確にするとともに,学校・家庭・地域社会の三者が,十分に連携・協力して子どもの教育に当たるという視点を明確にする。

4 「公共」に主体的に参画する意識や態度の涵(かん)養
  人は,一人だけで独立して存在できるものではなく,個人が集まり「公共」を形作ることによって生きていくことができるものである。このことを踏まえて,21世紀の国家・社会の形成に主体的に参画する日本人の育成を図るため,政治や社会に関する豊かな知識や判断力,批判的精神をもって,「公共」に主体的に参画し,公正なルールの形成や遵守を尊重する意識や態度を涵(かん)養するという視点を明確にする。

5 日本の伝統,文化の尊重,郷土や国を愛する心と国際社会の一員としての意識の涵(かん)養
  自らの伝統,文化を深く理解して尊重し,郷土や国を愛する心をはぐくむことは,国際社会を生きる教養ある日本人にとって,必然的なものである。このことを通じて,他国の伝統,文化を尊重し,国際社会の一員としての意識が涵(かん)養されることが重要であり,これらの視点を明確にする。

6 生涯学習社会の実現
  時代や社会が大きく変化していく中で,国民が,その生涯のいつでも自由に学習機会を選択して学ぶことができ,その成果が適切に評価されるような社会を実現することが重要であり,このことを踏まえて生涯学習の理念を明確にする。

7 教育振興基本計画の策定
  教育基本法に示された理念を具体化していくためには,これからの教育に必要な施策を総合的,体系的に取りまとめる教育振興基本計画を策定し,政府全体で着実に実行することが重要であり,そのための法的根拠を明確にする。


  具体的な改正の方向

(1)前文及び教育の基本理念

(前文)
  教育理念を宣明し,教育の基本を確立する教育基本法の重要性を踏まえて,その趣旨を明らかにするために引き続き前文を置くことが適当。

  法制定の目的,法を貫く教育の基調など,現行法の前文に定める基本的な考え方については,引き続き規定することが適当。

(教育の基本理念)
  教育は人格の完成を目指し,心身ともに健康な国民の育成を期して行われるものであるという現行法の基本理念を引き続き規定することが適当。

(新たに規定する理念)
  法改正の全体像を踏まえ,新たな理念として,以下の事項について,その趣旨を前文あるいは各条文にわかりやすく簡潔に規定することが適当。
(i) 個人の自己実現と個性・能力,創造性の涵(かん)養
(ii) 感性,自然や環境とのかかわり
(iii) 社会の形成に主体的に参画する「公共」の精神,道徳心,自律心の涵(かん)養
(iv) 日本の伝統,文化の尊重,郷土や国を愛する心と国際社会の一員としての意識の涵(かん)養
(v) 生涯学習の理念
(vi) 時代や社会の変化への対応
(vii) 職業生活との関連の明確化
(viii) 男女共同参画社会への寄与


(前文について)
  教育基本法は,日本国憲法に基づく戦後の新しい教育理念を宣明するとともに,その後に続く教育関係諸法令制定の根拠となる教育の基本を確立する重要な法律であり,そのことを踏まえ,特に前文が設けられたものである。
  このような教育基本法の教育法体系における位置付けは,今後とも維持していく必要があり,その重要性は変わるものではないことから,このことを踏まえて,引き続き前文を置くことが適当である。

  法制定の目的,法を貫く教育の基調など,現行法の前文に定める基本的な考え方については,引き続き規定することが適当である。

(教育の基本理念について)
  教育基本法は,「教育の目的」として,
(i) 教育は,人格の完成を目指し,平和的な国家及び社会の形成者として,心身ともに健康な国民の育成を期して行うこと,
(ii) このような平和的な国家及び社会の形成者として,「真理と正義」「個人の価値」「勤労と責任」「自主的精神」の徳目が求められること,
を規定している。
  そして,この「教育の目的」を達成する上での心構え,配慮事項を,「教育の方針」として規定している。
  このような現行法に定められた基本理念(教育の目的及び教育の方針)は,憲法の精神に則(のっと)った普遍的なものであり,引き続き規定することが適当である。

(新たに規定する理念について)
  さらに,制定から半世紀以上が経過した今日において,現在及び将来の教育を展望した場合,特に掲げて強調すべきと考えられる理念として,以下の(i)〜(viii)の事項があり,その趣旨を教育基本法に規定することが適当である。

  なお,現行法においては,教育の目的と教育の方針については,両者一体となって教育の基本理念を構成していること,(i)〜(viii)の事項の中には現行法に既に類似の理念が規定されているものもあることに十分留意した上で,法改正の全体像を踏まえ,新たな理念として,これらの事項について,その趣旨を前文あるいは各条文にわかりやすく簡潔に規定することが適当である。

(i)個人の自己実現と個性・能力,創造性の涵(かん)

  教育においては,国民一人一人が自らの生き方,在り方について考え,向上心を持ち,個性に応じて自己の能力を最大限に伸ばしていくことが重要であり,このような一人一人の自己実現を図ることが,人格の完成を目指すこととなる。また,大競争の時代を迎え,科学技術の進歩が世界の発展と問題解決の原動力として期待される中で,未知なることに果敢に取り組み,新しいものを生み出していく創造性の涵(かん)養が重要である。

(ii)感性,自然や環境とのかかわり

  美しいものを美しいものとして感じ取り,それを表現することができる力は,人の有する普遍の価値であって,文化の創造の基礎にある心であり,力である。特に,日本人は,古来より自然を愛(め)で慈しみ,豊かな文化を築いてきた。しかし今や,子どもの生育環境の中からは,自然が失われつつある。地球環境の保全が大きな課題となっている今日,自然と共に人は生きているものであり,このように自然を尊重し,愛することが,人間などの生命あるものを守り,慈しむことにつながることを理解することが重要である。

(iii)社会の形成に主体的に参画する「公共」の精神,道徳心,自律心の涵(かん)

  これからの教育には,個人の尊重とともに,「個人の尊厳」を確保するうえで不可欠な「公共」に主体的に参画する意識や態度を涵(かん)養することが求められている。このため,国民が国家・社会の一員として,法や社会の規範の意義や役割について学び,自由で公正な社会の形成に主体的に参画する「公共」の精神の涵(かん)養を図ることが重要である。さらに,社会の一員としての使命,役割を自覚し,自らを律して,その役割を実践するとともに,社会における自他の関係の規律について学び,身に付けるなど道徳心や倫理観,規範意識をはぐくむことが求められている。

(iv)日本の伝統,文化の尊重,郷土や国を愛する心と国際社会の一員としての意識の涵(かん)

  グローバル化が進展し,外国が身近な存在となる中で,我々は国際社会の一員であること,また,我々とは異なる伝統,文化を有する人々と共生していく必要があることが意識されるようになってきた。そのような中で,まず自らの伝統,文化を尊重し,郷土や国を愛する心の涵(かん)養を図ることが重要であり,さらにそれを通じて,自らの国を重んじるのと同様に他の国に対しても敬意を払い,その伝統,文化を尊重し,国際社会の一員として他国から信頼される国を目指す意識を涵(かん)養することが重要である。
  なお,国を愛する心を大切にすることや我が国の伝統,文化を尊重することが,教育改革国民会議報告においても指摘されているように,国家至上主義的考え方や全体主義的なものになってはならないことは言うまでもない。

(v)生涯学習の理念

  今日,社会が複雑化し,また社会構造も大きく変化し続けている中で,学校教育修了後も引き続き職業生活等に必要な新たな知識・技術を身に付けたり,あるいは社会参加に必要な学習を行うなど,生涯にわたって学習に取り組むことが不可欠となっている。このため,教育制度や教育政策を検討する際には,これまで以上に学習する側に立った視点を重視することが必要となるものであり,今後,生涯のいつでも,どこでも,自由に学習機会を選択して学ぶことができるような社会を実現するため,生涯学習の理念がますます重要となる。

(vi)時代や社会の変化への対応

  教育においては,次代に継承すべき価値を大切にするとともに,世代や性別を問わず国民一人一人が時代の変化や社会を取り巻く環境の変化に対応できる能力を身に付けることが重要である。グローバル化や情報化の進展,地球環境問題の深刻化や科学技術の進歩など,国民を取り巻く環境は大きく変貌(ぼう)を遂げており,教育も,これらの時代や社会の変化に常に的確に対応していくことが重要である。

(vii)職業生活との関連の明確化

  今日,経済構造の変化や価値観の多様化が進む中で,職業観,勤労観の育成がこれまでにも増して必要となっている。また,若者の就職難が恒常化し,転職が一般化する中で,即戦力となる専門知識や技能が強く求められるようになってきている。また,女性の人生における職業の位置付けも変化してきている。このため,これからの学校教育においては,子どもへの的確な職業観の育成を図り,キャリア教育の充実に努めるとともに,社会においても生涯にわたり職業にかかわる学習機会を充実していくことが重要である。

(viii)男女共同参画社会への寄与

  憲法に定める男女平等に関し,現行法は,男女共学の規定において男女が互いに敬重し協力し合わなければならないという理念を定めている。男女共同参画社会を実現するためには,このような理念は今日においても重要である。
  なお,現在では,男女共学の趣旨が広く浸透するとともに,性別による制度的な教育機会の差異もなくなっており,「男女の共学は認められなければならない」旨の規定は削除することが適当である。

(2)教育の機会均等,義務教育

1教育の機会均等

  教育の機会均等の原則,奨学の規定は,引き続き規定することが適当。

  教育の機会均等は,憲法に定める教育を受ける権利(憲法第26条第1項),法の下の平等(同第14条)の規定を受け,その趣旨を教育において具体的に実現する手掛かりとして規定されたものである。これは,「個人の尊厳」を実質的に確保する上で欠かせないものであり,教育の機会均等の原則や奨学の規定については,引き続き同様に規定することが適当である。

  また,憲法や教育基本法の精神に基づいて教育を行うに当たっては,障害者など教育を行う上で特別の支援を必要とする者に対して,その必要に応じ,より配慮された教育が行われることが重要である。

2義務教育

  義務教育期間9年,義務教育の授業料無償の規定は,引き続き規定することが適当。

  義務教育は,近代国家における基本的な教育制度として憲法に基づき設けられている制度であり,普通教育が民主国家の存立のために必要であるという国家・社会の要請とともに,親が本来有している子を教育すべき義務を国として全うさせるために設けられているものである。このように,国民に教育を受けさせる義務を課す一方,国及び地方公共団体は共同して良質の教育を保障する責任を有しており,義務教育の充実を図っていく必要がある。

  義務教育制度の在り方については,憲法の規定を受けて,教育基本法において義務教育期間を9年間と規定するとともに,国公立学校における授業料は無償とすることを定めている。この義務教育期間の短縮や延長,また無償措置の範囲等について,引き続き同様に規定することが適当である。

(3)国・地方公共団体の責務等

  教育は不当な支配に服してはならないとする原則は,引き続き規定することが適当。

  国・地方公共団体の適切な役割分担を踏まえて,教育における国・地方公共団体の責務について,適切に規定することが適当。

  教育振興基本計画の策定の根拠を規定することが適当。

  教育行政の在り方については,現行法は,教育は不当な支配に服してはならないとの原則とともに,教育行政は「必要な諸条件の整備」を目標として行われなければならないことを定めている。前者については,重要な理念として引き続き規定することが適当である。
  後者については,国と地方公共団体が適切に役割分担していくことが重要となっていることを踏まえて,教育における国・地方公共団体の責務について,適切に規定することが適当である。なお,その際には,「必要な諸条件の整備」の解釈について,過去様々な議論が行われたが,既に判例により解釈が確定していることに留意する必要がある。

  さらに,教育基本法に規定された教育の基本理念・基本原則を実現する手段として,教育の振興に関する基本計画の策定の根拠となる規定を,教育基本法に位置付けることが適当である。なお,教育振興基本計画の基本的考え方については,次章で述べることとする。

(4)学校・家庭・地域社会の役割等

1学校

  学校の基本的な役割について,教育を受ける者の発達段階に応じて,知的・道徳的・身体的能力の伸長を図るとともに,生涯学習の理念の実現に寄与するという観点から簡潔に規定することが適当。その際,大学の役割及び私立学校の役割の重要性を踏まえて規定することが適当。

  学校の設置者の規定については,引き続き規定することが適当。

  現行法は,学校の役割については一切規定しておらず,学校教育法において,各学校種ごとの目的,目標が規定されている。
  教育の目的を実現する上で,今後とも学校教育は中心的な役割を果たすことが期待されている。特に,今後の学校には,基礎・基本の徹底を通じ,生涯にわたる学習の基盤を作るとともに,社会人の再教育など多様なニーズに対応した学習機会の提供を充実することが強く求められている。
  また,今後の教育を進めていく上では,学校・家庭・地域社会の三者の連携・協力をより一層強化することが求められており,そのためには,この三者の適切な役割分担が明確にされることが必要である。このため,学校の基本的役割について,教育を受ける者の発達段階に応じて,その知的・道徳的・身体的能力の伸長を図るとともに,生涯学習の理念の実現に寄与するという観点から簡潔に規定することが適当である。

  大学(大学院を含む)は,上記の学校の基本的な役割に加えて,優れた教育を提供することにより,高度で専門的な知識を備えた人材の育成を図るとともに,真理の探究を通じて,新たな知見を生み出し,文芸学術の進展や社会の発展に貢献することなど,大変重要な役割を果たしてきている。このため,学校の役割について規定する際には,こうした大学の役割の重要性についても十分に踏まえる必要がある。

  さらに,私立学校が我が国の教育の振興に果たしている役割にかんがみ,学校の役割について規定する際には,その重要性についても十分に踏まえることが必要である。

  現行法は,学校は「公の性質をもつ」ものとし,その設置者の具体的な範囲は学校教育法等に委ねている。学校には,国民全体のために教育を行うという公共性が求められること,また,その設置者には,一定水準の教育条件を確保するための運営の安定性や継続性等を担保する能力が求められることを踏まえて,引き続き同様に規定することが適当である。

2教員

  学校教育における教員の重要性を踏まえて,現行法の規定に加えて,自ら研修と修養に励み,資質向上を図ることの必要性について規定することが適当。

  学校教育の成否は,教育の直接の担い手である教員の資質に大きく左右されることから,子どもの人格形成にかかわる教員の資質の向上は教育上の最重要課題である。
  このような,学校教育における教員の重要性を踏まえて,教育基本法において,国・公・私立学校の別なく,教員が自らの使命を自覚し,その職責の遂行に努めるという現行法の規定に加えて,自ら研究と修養に励んで資質向上を図り,子どもたちの教育に当たることの必要性について規定することが適当である。
  また,このためには,教員の身分が尊重され,その待遇の適正が期されることが重要であり,引き続き同様に規定することが適当である。

  学校教育に関して,子ども一人一人の人格が尊重されなければならないことは当然である。そのことを前提とした上で,子どもが教育を受ける際に,恣意に任せて規律を乱す等の言動は容認されるものではなく,教員その他の指導に従って,規律を守り,真摯(し)に学習に取り組むという態度をはぐくむことが重要である。

3家庭教育

  家庭は,子どもの教育に第一義的に責任があることを踏まえて,家庭教育の役割について新たに規定することが適当。

  家庭教育の充実等を図ることが重要であることを踏まえて,国や地方公共団体による家庭教育の支援について規定することが適当。

  家庭は教育の原点であり,すべての教育の出発点である。特に,豊かな情操や基本的な生活習慣,他人に対する思いやり,善悪の判断などの基本的倫理観,社会的なマナー,自制心や自立心を養う上で,家庭教育は重要な役割を担っている。しかし,少子化や親のライフスタイルの変化等が進む中で,過干渉・過保護,放任,児童虐待が社会問題化するとともに,親が「模範」を示すという家庭教育の基本が忘れ去られつつあるなど,家庭教育の機能の低下が顕在化している。また,父親の家庭教育へのかかわりが社会全体として十分ではない。

  しかしながら,現行法においては,家庭教育について,社会教育の条文の中に,「家庭教育は……国及び地方公共団体によつて奨励されなければならない」と規定されているにとどまっている。家庭教育の現状を考えると,それぞれの家庭(保護者)が子どもの教育に対する責任を自覚し,自らの役割について改めて認識を深めることがまず重要であるとの観点から,子どもに基本的生活習慣を身に付けさせることや,豊かな情操をはぐくむことなど,家庭(保護者)の果たすべき役割や責任について新たに規定することが適当である。なお,その際には,家庭(保護者)が子どもの教育に第一義的な責任を負っているという観点に十分留意し,最小限の範囲で規定することが適当である。

  さらに,教育行政の役割としては,家庭における教育を支援するための諸施策や,子どもを産み育てやすい社会環境づくりを教育を通じて進めていくことにより,家庭における教育の充実等を図ることが重要であることを踏まえて,国や地方公共団体による家庭教育の支援について規定することが適当である。

4社会教育

  社会教育は国及び地方公共団体によって奨励されるべきであることを引き続き規定することが適当。

  学習機会の充実等を図ることが重要であることを踏まえて,国や地方公共団体による社会教育の振興について規定することが適当。

  心の豊かさを求める国民意識の高まりの中で,余暇活動をより豊かにしたり,ボランティア活動等に参加するために,必要な知識や技術を身に付けるなどの学習への期待が高まるとともに,長寿社会化や,産業・就業構造の変化の中で,生涯にわたる継続的な学習の重要性が高まっている。このため,社会教育は国及び地方公共団体によって奨励されるべきであることを引き続き規定することが適当である。
  あわせて,学習機会の充実等を図ることが重要であることを踏まえ,国や地方公共団体による社会教育の振興について規定することが適当である。

5学校・家庭・地域社会の連携・協力

  教育の目的を実現するため,学校・家庭・地域社会の三者の連携・協力が重要であり,その旨を規定することが適当。

  子どもの健全育成をはじめ,教育の目的を実現する上で,地域社会の果たすべき役割は非常に大きい。しかし,地域社会は既に崩壊しており頼りにならないとする意見もあるなど,その教育力の低下が指摘されて久しい。このような状況にかんがみ,学校・家庭・地域社会の三者が,連携・協力して子どもの教育に責任を持ち,適切に役割分担することが重要であるとの意見が多く出されているが,現行法は,地域社会について何ら規定していない。
  このため,学校・家庭・地域社会の三者が緊密に連携・協力して教育の目的の実現に取り組むことが重要であり,その旨を規定することが適当である。

  なお,連携・協力を進めていく上で,これからの学校は,自らの教育活動等の状況について積極的に情報提供するなど説明責任を果たしながら,保護者や地域の人々の積極的参加や協力を求めていくことが重要である。

(5)教育上の重要な事項

1国家・社会の主体的な形成者としての教養

  自由で公正な社会の形成者として,国家・社会の諸問題の解決に主体的にかかわっていく意識や態度を涵(かん)養することが重要であり,その旨を適切に規定することが適当。

  学校における特定の党派的政治教育等の禁止については,引き続き規定することが適当。

  国民一人一人が,法や社会の規範の意義や役割を,単に知識として身に付けるにとどまらず,自由で公正な社会の形成者として,国家・社会の諸問題の解決に主体的にかかわっていく意識や態度を涵(かん)養することが重要であり,その旨を適切に規定することが適当である。

  また,現行法は,学校においては「特定の政党を支持し,又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動」を行うことを禁止している。教育の政治的中立を確保するために,学校における特定の党派的政治教育等を禁止することは,今後の教育においても重要な原則として引き続き規定することが適当である。

2宗教に関する教育

  宗教に関する寛容の態度や知識,宗教の社会生活における意義を尊重することが重要であり,その旨を適切に規定することが適当。

  国公立学校における特定の宗教のための宗教教育や宗教的活動の禁止については,引き続き規定することが適当。

  教育と宗教とのかかわりについては,大きく,「宗教に関する寛容の態度の育成」「宗教に関する知識と,宗教が社会生活において持つ意義の理解」「宗教的情操の涵(かん)養」「特定の宗教のための宗教教育」といった側面に分けて捉えることができる。

  憲法に定める信教の自由を重んじ,宗教を信ずる,又は信じないことに関して,また宗教のうち一定の宗派を信ずる,又は信じないことに関して,寛容の態度を持つことについては,今後とも教育において尊重することが必要である。

  宗教は,人間が個としてどう在るべきか,与えられた命をどう生きるかという実存的な命題にかかわるものであり,人類が受け継いできた重要な文化遺産である。また,我が国は国教を持たず,厚い宗教心を持つ国民の比率も比較的低いと言われるが,国際関係が緊密化・複雑化する中にあって,自他の文化を理解する観点から,それぞれの文化の背後にある宗教について教養を養い,宗教が社会生活において持つ意義を理解することが必要となっている。

  しかしながら,現在,国公立の学校においては,現行法の特定の宗教のための宗教教育を禁止する規定(第9条第2項)を拡大して解釈する傾向があることなどから,宗教に関する知識や宗教の意義が適切に教えられていないとの指摘がある。このため,憲法の規定する信教の自由や政教分離の原則に十分配慮した上で,教育において,宗教に関する寛容の態度や知識,宗教が人間の社会生活に果たしてきた意義を尊重することが重要であり,その旨を適切に規定することが適当である。
    また,国公立学校において,特定の宗教のための宗教教育や宗教的活動を行ってはならないことについては,引き続き規定することが適当である。

  人格の形成を図る上で,宗教的情操をはぐくむことは,大変重要である。現在,学校教育において,宗教的情操に関連する教育として,道徳を中心とする教育活動の中で,「人間の力を超えたものに対する畏敬の念」を深めるための取組が進められているところであり,今後その一層の充実が期待される。
    また,宗教に関する教育の充実を図るため,今後,教育内容や指導方法の改善,教材の研究・開発などについて専門的な検討を行うことが必要である。

(6)その他留意事項

(教育を受ける権利等)
  教育の機会均等に関して,現行法に「教育を受ける機会」と規定されているのを,憲法と同様に「教育を受ける権利」と改めてはどうかとの意見があったが,現行法の規定が憲法上の権利を具体化して,憲法上の権利をより実質化するためには「教育を受ける機会」が確保される施策を進めることが重要である,との趣旨を表現したものであることに十分留意する必要がある。また,「生涯にわたり学習する権利」を規定してはどうかとの意見があったが,生涯学習については,教育全体を貫く基本的な理念として位置づけることが適当と考える。


(義務教育制度の在り方)
  義務教育に関して,社会の変化や保護者の意識の変化に対応し,義務教育制度をできる限り弾力的なものにすべきとの観点から,
(i) 就学年齢について,発達状況の個人差に対応した弾力的な制度
(ii) 学校区分について,小学校6年間の課程の分割や幼小,小中,中高など各学校種間の多様な連結が可能となるような仕組み
(iii) 保護者の学校選択,教育選択などの仕組み
  などについて様々な意見が出された。
  これらの事項については,法制上は,学校教育法等において具体的に規定されている就学年齢,学校区分,就学指定等に関する事項であるので,今後,関係分科会等において検討し,実現可能なものについては,学校教育法等の改正などにより対応することが適当である。


  教育基本法改正と教育改革の推進

  本審議会においては,教育の基本的な理念・原則を定める教育の根本法としての教育基本法の意義を十分に踏まえて,教育の諸制度や諸施策を個別に論じるだけでは取り上げにくい,教育の目的や方針,学校教育制度の在り方,家庭教育の役割など,教育の根本的な部分について審議を行い,その結果をとりまとめた。

  今後,政府においては,本審議会の答申を踏まえて,教育基本法の改正に取り組むことを期待する。法制化に際しては,国民に分かりやすい明確で簡潔なものとなるよう配慮する必要がある。
  また,教育基本法改正の趣旨が教育制度全般に生かされるよう,学校教育法,社会教育法,生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律などに定める具体的な制度等の在り方や,学習指導要領などの教育全般にわたって見直しを行うことが必要と考える。
  特に,学校教育法については,教育基本法改正にあわせて,各学校種ごとの目的,目標に関する規定などについて,見直す必要が生じると考えられる。

  また,本審議会においては,学校教育の基本にかかわる重要な課題として,義務教育制度の在り方について引き続き検討する必要がある。
  さらに,次章で述べる教育振興基本計画の具体的内容についても,今後,本審議会の関係分科会等において検討を深める必要がある。


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