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資料2

教育の課題と今後の教育の基本的方向について(論点整理メモ)


1  教育の現状と課題

  1「人格の完成」を目指す教育理念、2教育の機会均等と男女平等、3民主的な単線型学校制度、4「6・3制」の無償義務教育などを内容とする教育基本法の下で、戦後、教育は著しく普及し、教育の量的拡大と国民の教育水準の向上が達成され、我が国経済社会の発展の原動力となった。

  昭和50年代中頃から、青少年非行の増加等の教育問題が社会的に大きな関心となり、これに対応するため、臨時教育審議会(臨教審)が発足。臨教審は、戦後教育改革に一定の評価を与えつつ、大局的に見ると明治以降の追いつき型教育の延長線上にあり、深刻な教育荒廃を生むとともに、様々な問題を内包していると総括。この認識の下、臨教審は、21世紀に向けた教育改革の基本的考え方を、1個性重視の原則、2生涯学習体系への移行、3国際化、情報化等変化への対応、の3つに集約。臨教審以降の教育改革は、この3つの基本的考え方に沿って展開され、様々な施策が実現。

  しかし、現在の教育は危機に瀕しており、以下のような様々な問題が発生。

(子どもや社会の問題)
  ・社会全体の自信喪失とモラルの低下、閉塞感の広がり
  ・子どもの学ぶ意欲の低下
  ・子どもの基本的なモラルや倫理観の低下
  ・子どもの体力の低下
  ・いじめ、不登校、いわゆる学級崩壊の増加
  ・青少年犯罪の増加
  ・家庭や地域社会の教育力の低下    など

(教育の問題)
  ・過度の学校教育への依存
  ・過度の平等主義や画一主義による柔軟性の欠如
  ・教育の改善を促すシステムや評価システムの不足    など

  このような危機を打開すべく、教育改革国民会議が設置され、平成12年12月に最終報告。15の具体的施策と並んで、教育振興基本計画の策定と教育基本法の見直しの必要性が提言され、本審議会の審議にも引き継がれている。

  一方、世界の潮流をみると、各国において教育が重要課題と認識され、「国家戦略としての教育改革」が急速に進行。また、地球的規模での調和ある発展の観点から、持続可能な開発の実現や発展途上国の自立の支援のためにも教育は重要な戦略と位置付け。

  国民一人一人の自己実現、幸福の追求と我が国の理想、繁栄の実現を期してたのむべきは教育の力。21世紀初頭のこの10年で我が国の将来が決まる、このままでは我が国が立ち行かなくなるとの危機感を持って、教育の在り方を根本にまでさかのぼった見直しが必要。

2  21世紀の教育が目指すもの

  教育の在り方を根本にまでさかのぼって見直し、新しい時代の教育の目標を考えるに当たっては、「時代を超えて変わらない価値のあるもの(不易)」と「時代の変化とともに変えていく必要があるもの(流行)」の十分な検討が必要。

(1)教育の役割と不易の価値

  教育には、個人の能力を伸長し、人格の完成を目指すという役割と、国家や社会の構成員として有為な国民を育成するという役割があり、これらは時代を超えて不変。

  いつの時代、どこの国の教育においても大切な不易の価値は、例えば次のとおり。
  ・個人の価値の尊重
  ・自律心と責任感
  ・他人を思いやる心など豊かな人間性
  ・公共の精神
  ・規範意識
  ・伝統や文化を大切にする心
  ・人格形成の基礎となる豊かな教養
  ・健やかな体                  など

(2)激動の時代への挑戦

  今後の激動の時代を展望すると、少子高齢化のように、変化の方向性がほぼ確実に予測できるものもあれば、国民の意識のように、不確実性が高く、また様々な要因で変化の方向性が大きく変わり得るものもある。21世紀という新しい時代の教育を考える上で、特に教育上の対応が必要と考えられる変化は、次のとおり。

1社会経済基盤の変化

1)少子高齢社会の進行と家族・地域の変容
(対応を要する変化)  
  ・晩婚化・非婚化の進行
  ・女性の社会進出と家族の変化
  ・少子化に伴う子育ての変化(親の過保護・過干渉、子どもの触れ合い体験や切磋琢磨の機会の減少)
  ・若年者の減少と高齢化に伴う人口構造の変化と社会の活力低下

(教育上の対応)
  ・少子化のメリットを生かした個に応じた教育の推進
  ・大学進学希望者全入時代における大学の教育機能の強化
  ・家庭の教育力の向上(子育て支援、高齢者の力の活用)
  ・地域の教育力の向上(異年齢交流、高齢者の力の活用)
  ・子どもの体力向上の推進
  ・生涯学習の機会の充実(高齢者の自己実現など)

2)就業構造の変貌
(対応を要する変化)
  ・産業・就業構造の変化(空洞化の進展と「知識産業」の増加)
  ・企業の淘汰やリストラによる中・高年層の離職増などにみられる終身雇用・年功序列型の昇進・賃金システムの崩壊
  ・能力や学歴と職業のミスマッチの増大
  ・大卒一括採用の減少と、求められる資質や産業構造の変化に伴う高卒需要の大幅減
  ・「就社」から「就職」への意識の変化
  ・「職がない」「選べない」状況や職業意識の変化に伴う「フリーター」の問題

(教育上の対応)
  ・自己のキャリアを重視し、高い能力を学校卒段階で身に付ける必要性
  ・転職の増加と、キャリアアップのための生涯学習機会の充実(専門職大学院の創設など大学院等の教育機会の必要性)
  ・「職業意識に関する教育」の充実(「何をしたいのか、そのために何をすべきか」)
  ・学校教育において、普通教育的教養に加え、実際的・実用的な視点の重視
  ・起業家精神の涵養
  ・生涯学習の基礎を培う教育(学習方法や学習習慣を身につける教育)の重視

3)知識重視社会への移行
(対応を要する変化)
  ・知識・技能の習得が就労機会の確保にとどまらず産業の発展にとっても極めて重要な要素となる知識重視社会の進展
  ・「学校歴」から「学習歴」へ、単に学歴だけではない実際能力が重視される社会
  ・大学・大学院の教育研究機能を社会的に有効に活用する重要性の増加

(教育上の対応)
  ・基礎・基本となる知識・技能の徹底と、創造性・独創性の涵養
  ・幅広い教養と専門性の育成
  ・個人の得意分野の能力を最大限伸ばす教育の充実
  ・知の世紀をリードする大学改革
  ・産学官連携の促進
  ・生涯学習の機会の充実(専門職大学院の創設など)

4)高度情報化社会の進展
(対応を要する変化)
  ・高度情報通信社会の到来
  ・情報化に対応する能力の修得機会の差(デジタル・ディバイドの拡大)
  ・情報の氾濫と情報に埋没する個人の問題
  ・バーチャル体験の拡大と人間関係の希薄化の進行

(教育上の対応)
  ・学校教育の伝統的な枠組みを超えた学習形態の進化
  ・情報リテラシー(情報活用能力)の育成
  ・情報モラル(著作権、他人のプライバシー、自己情報のセキュリティなど)の育成
  ・直接体験の重視

2グローバル化の進展
(対応を要する変化)
  ・国際標準のルールの下での大競争時代の到来
  ・国際社会の相互依存関係の深化と国際協調の必要性の増大
  ・人類共通の課題の解決に向けた知の結集の必要性の増大
  ・若手人材の海外進出
  ・イデオロギー対立から民族・宗教対立という新たな国際紛争の激化
  ・グローバル化の陰の部分としての格差問題の顕在化

(教育上の対応)
  ・「内輪の論理」を脱して、世界を相手に広く対話できる力の育成
  ・国語力・英語力の向上
  ・創造性の涵養
  ・リーダーシップの涵養
  ・チャレンジ精神の育成
  ・日本人としてのアイデンティティの確立
  ・自他の文化を理解し尊重する精神の涵養
  ・国際競争力のある大学の実現

3科学技術の進歩と地球環境問題の深刻化
(対応を要する変化)
  ・科学技術は世界の発展の原動力
  ・ライフサイエンスの進展がもたらす生命倫理の問題など従来想定されていなかった新たな問題の生起
  ・地球環境の変化がもたらす人類的課題の深刻化とその解決のための科学技術への期待の高まり
  ・自然と共生する生活スタイルや社会の構築の必要性

(教育上の対応)
  ・科学技術創造立国の実現
  ・我が国の得意とする独創的・先駆的科学技術領域の形成
  ・環境教育の充実
  ・創造性の涵養
  ・リーダーシップの涵養
  ・チャレンジ精神の育成
  ・倫理観・生命観の涵養

4国民意識の変容
(対応を要する変化)
  ・豊かさの中で夢や目標を持てない自信喪失社会
  ・相次ぐ不祥事件などにみられる倫理観、使命感の喪失と正義、公正、安全への信頼のゆらぎ
  ・世代の断絶(共通の言葉で語れない状況)
  ・フリーターの増大などにみられる職業意識の変容
  ・家庭、地域、企業など集団への帰属意識の希薄化
  ・真の心の豊かさを求める意識の高まり
  ・ボランティア活動などにより自己実現を目指す意識の高まり
  ・大競争時代にあって安らぎ・癒しを求める意識の高まり

(教育上の対応)
  ・家庭の教育力の向上
  ・地域の教育力の向上
  ・道徳教育の充実
  ・職業教育の充実
  ・奉仕活動、体験活動の充実
  ・読書活動の推進
  ・社会の風潮に流されず、自ら考え判断する健全な批判精神の育成
  ・「新たな公共」を創造し、社会を主体的に形成する公共の精神の育成

(3)これからの教育の目標
  
1  自己実現を目指す自立した人間の育成
【重視すべき徳目・資質、教育の方針等】
かけがえのない個人の価値の尊重
自律と責任(自己決定と自己責任)
人格形成の基礎となる豊かな教養
努力・向上心
自ら考え判断する健全な批判精神
困難に立ち向かう意志の強さ
逆境にあっても人生を楽しむゆとりある心
一人一人の個性に応じて得意分野の能力を最大限伸ばし、自己実現を目指す教育の実施
達成感を経験することを通じて自信を持たせ学ぶ意欲を育む
知・徳・体の調和のとれた発達

2  豊かな心と健やかな体を備えた人間の育成
【重視すべき徳目・資質、教育の方針等】
他者を思いやる心
弱者の痛みを理解する心
自己や他者の生命の尊重
美しいものに感動する心
自然を愛する心
倫理観
誠実
豊かな情操
健やかな体
競技力の向上

3  知の世紀をリードする創造性に富んだ人間の育成
【重視すべき徳目・資質、教育の方針等】
基礎的・基本的な知識・技能
創造性、独創性、世界水準の知識・技能
チャレンジ精神、向上心
指導力(リーダーシップ)
優れた研究教育の伸長

4  「新たな公共」を創造し、21世紀の国家・社会を主体的に形成する日本人の育成
【重視すべき徳目・資質、教育の方針等】
「新たな公共」の創造に貢献する意識
(ボランティア活動やNPO活動など互いに支え合う互恵の精神)
高い志
公共心
規範意識
我が国の伝統・文化の理解と尊重
国や郷土を愛する心
「個」と「公」のバランス

5  国際社会を生きる教養ある日本人の育成
【重視すべき徳目・資質、教育の方針等】
他国の文化の理解と尊重
国際社会の一員としての意識(世界から信頼される日本人)
国際社会への貢献
平和を希求する心
日本人としてのアイデンティティ
世界に伍していける語学力や情報活用能力の形成

(多様な選択を可能にする教育の実現、生涯にわたる学習機会の充実)
  なお、上記15の目標を実現するためには、学習者の多様な選択を可能とする教育の実現と生涯にわたる学習機会の充実を図ることが重要

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