ここからサイトの主なメニューです


資料1

幼児・児童生徒の健全な心の発達と意欲を高めるために重視すべき視点
−幼児児童生徒の生活習慣調査成績から−

平山 宗宏
母子愛育会・日本子ども家庭総合研究所
高崎健康福祉大学

1.  幼児・児童生徒の生活習慣調査について
 幼児については、厚生労働省が10年ごとに行う乳幼児発育調査に際して、幼児の生活習慣や発達状態の調査を、「幼児健康度調査」として昭和55年(1980)から行っている。同省の補助金で日本小児保健協会が実施し、サンプリングで全国から抽出された発育調査対象児の中の1〜6歳の幼児である。
 児童生徒については、昭和56年(1981)に幼児健康度調査に繋がる調査として行われた後、平成4年(1992)度から「児童生徒の健康状態サーベイランス」調査として、隔年に継続して行われている。文部科学省の補助金により日本学校保健会が実施し、毎回報告書が出され、学校における健康教育の参考資料として「望ましい生活習慣づくり」も発行されている。この調査は、生活習慣病に関わる検査が地域や医師会の努力で実施されており、その数値の集計もできる学校の協力で行われているので、ランダムサンプリングではないが、縦断的研究として継続的に行われている。
 これらの調査成績のうち、青少年の意欲を高めるための方策に関わりを持つ事項を選んで考察する。

2.  幼児健康度調査報告書(平成12年)にみる問題点(調査例数6,875)
1 母親の心身状態
  平成2年調査(調査例数8,749)に比し、心身とも快調が減少し、72.8パーセント→63.6パーセント精神不調、心身不調、何ともいえないが増加傾向5.1→7.7、2.6→3.6、13.9→19.1心身の不調と有意な関連を示した項目は、
「育児に自信がもてないことが多い」「子育てに困難を感じることがある」、
「子どもを虐待しているのではないかと思う」「子どもとゆっくり過ごす時間がない」
「自分のために使える時間がない」「父親の育児参加や相談相手・精神的支え不十分」
「子どもに気になる癖がある」などであった。
幼児の育児に当たる親、とくに母親の心身状態は、養育態度や子どもの心の発達に影響が大きいだけに、楽しい子育てができ、子どもが健全な心と社会性を身につけられるよう、地域社会や専門職の育児支援が重要である。児童虐待の予防もこの視点から。
2 就寝時間
  午後8時:8.1パーセント、9時:41.0パーセント、10時:36.0パーセント、11時:11.4パーセント、で、10時過ぎに寝る子はこの20年間に、2歳児で25.7パーセント→54.5パーセントなど、明らかに増加している。
幼児期からの夜型化は、親の生活時間に影響されるので、親の勤務態勢を含めて変革が必要。北欧の残業なし、夕方に家族揃っての野外活動のできる状況がうらやましい。
3 テレビ、テレビゲーム
 

テレビの視聴時間は増加傾向だが、4時間以上は減少傾向、テレビゲームを時々以上しているは、3歳13.5パーセント、4歳27.1パーセント、5〜6歳43.9パーセントで、多くは1〜2時間未満だが、3時間以上も3〜4パーセントにみられた。
テレビの長時間視聴を脳の発達上悪影響があると指摘している小児科医もある。

4 朝食抜き
  毎日食べるが87.3パーセントだが、週に1〜2回抜く:7.8パーセント、週に3〜4回抜く:0.8パーセント、週に1〜2回しか食べない:1.9パーセント、保育所でも問題になっている。
 資料:新版・乳幼児保健指導(日本小児保健協会・シリーズ・No55)2002・9月

3.  児童生徒の健康状態サーベイランス調査に見る問題点
    調査数:平成14年度6883、平成16年度6837(一部未確定、報告書作成中)
1 生活の夜型化が進んでいる(調査前日の平均就寝時刻)(平成16年)
 
  男子 女子
小学3、4年生 21時50分 21時48分
小学5、6年生 21時58分 22時8分
中学生 23時12分 23時24分
高校生 0時6分 0時6分
  昭和56年の調査に比べ、全体に20分ほど遅くなっている夜ふかしの理由は:なんとなく(54パーセント)、勉強(34パーセント)、テレビ・ビデオ(32パーセント)、パソコン・テレビゲーム(24パーセント)など

 
2 睡眠時間が減っている(調査前日の平均睡眠時間)(平成16年)
 
  男子 女子
小学3、4年生 8時間51分 8時間51分
小学5、6年生 8時間51分 8時間40分
中学生 7時間35分 7時間15分
高校生 6時間39分 6時間27分
  昭和56年に比し、小学生約10〜15分中学生は約30分、高校生は平成4年に比し約20分短縮。
平成14年度調査よりもやや短縮している傾向。

 
3 朝食抜きの者の頻度
朝食を食べない日の方が多い、ほとんど食べない、者の率(平成16年)
 
  男子 女子
小学3、4年生 5.1% 2.5%
小学5、6年生 2.7% 2.9%
中学生 6.2% 7.0%
高校生 11.0% 7.8%
  食べない理由は:時間がない、食欲がない、いつも食べない、食事の用意がされていない、
高校生では朝食抜きの日が多いが8〜11パーセント

 
4 運動する時間が減ってきている
1週間の運動時間の平均(強い〜軽い運動の合計)(平成14年)
 
  男子 女子
小学3、4年生 11時間10分 7時間54分
小学5、6年生 12時間4分 7時間54分
中学生 13時間24分 9時間54分
高校生 15時間28分 9時間20分
  今の子どもたちには「3つの間」時間、空間、仲間が不足している。
平均値は調査年ごとに減少の傾向がある。学年が進むにつれて、多くの者は運動時間が減少する傾向であるが、中学、高校生ではスポーツなどの運動をする者は運動時間が長くなり、運動時間が二極化する。

 
5 室内で過ごす時間が多い
調査前日、学校から帰宅後、室内で過ごした状況(平均値・分)(平成16年)
 
    読書や音楽 テレビゲーム インターネット・メール テレビ・ビデオ 勉強
男子: 小学3、4年生 53.5

65.3

34.0 109.9 39.8
小学5、6年生 55.3 73.0 36.8 112.3 42.4
中学生 81.0 87.6 65.3 134.1 96.5
高校生 93.8 90.1 74.7 119.3 97.1
女子: 小学3、4年生 55.9 42.7 33.3 118.1 48.5
小学5、6年生 62.3 50.6 29.2 128.1 52.3
中学生 86.3 75.3 85.0 143.7 106.2
高校生 88.8 71.8 92.5 134.3 106.5
  運動時間の減少に伴って室内で過ごす時間が長い。平成16年度からインターネット・メールを加えた。画面が相手で、直接の対話が減っている傾向。

 
6 夕食を子どもが一人で食べている家庭が少なくない(平成16年)
夕食を一人で食べることが、よくある(ときどきある)者の率:
 
  男子 女子
小学3、4年生 0.8%(1.5%) 0.3%(0.8%)
小学5、6年生 1.6%(2.9%) 0.6%(2.8%)
中学生 4.8%(9.7%) 3.8%(9.0%)
高校生 19.1%(17.7%) 13.9%(13.4%)
  高校生になると、男子は3人に1人、女子は4人に1人が一人だけの夕食が多い。
食事を家族の会話や団らんの場として、楽しい食事に努めたい。
平成14年から調査項目に入れた。前回との変化はない。

 
7 もっとやせたいと思っているものが多い(やせ指向)(平成16年)
かなりやせたい(少しだけやせたい)と思っている者の率:
 
  男子 女子
小学3、4年生 3.1%(24.0%) 4.9%(31.2%)
小学5、6年生 6.5%(28.3%) 7.7%(34.3%)
中学生 8.4%(30.0%) 27.0%(51.0%)
高校生 6.3%(33.8%) 41.1%(48.3%)
  医師や教師の指示でダイエットをした者は男1.1パーセント、女0.4パーセントだが、本人がやせたくて実行した者は、高校生では男11.2パーセント、女38.7パーセント
やせ型指向は変わっていないが、中学高校生女子の「かなりやせたい」は減少傾向。

 
8 血中総コレステロールは現在までのところ変化はない
血中総コレステロールの平均値(ミリグラムパーデシリットル)
 
  男子 女子
小学3、4年生 171.1 173.3
小学5、6年生 173.8 169.8
中学生 160.7 171.5
高校生 163.6 174.5
  BMI、血圧、総コレステロール、HDLコレステロール、等の検査数値は、平成4年度以降、特に変動ない

4.  その他の問題点
   昭和50年代に、子どもの骨折や脳貧血などが増えているというマスコミの報道が契機になって、日本学校保健会や日本学校健康会(当時)などがこれらの問題を検討・調査したことがある。
 骨折については、子どもの骨が弱くなっている証拠はなく、骨折そのものが増加している証拠もなかった。むしろ、幼児期からの運動能力、とくに敏捷性や平衡機能の発達の不足などが心配され、食生活を含めた健康教育の重要性が指摘された。(児童生徒の骨折に関する調査研究報告書:日本学校健康会、昭和60年11月)
 脳貧血については、自律神経不調の子ども(起立性調節障害/OD)が増えてきていることが心配され、薄着や裸足遊びの勧めで朝会などで倒れる子の減少が実践報告されたりしている。いずれも日常生活についての問題に帰着した。
   平成10年に出された中教審の「幼児期からの心の教育のあり方について」の報告には重要な事項が多いが、とくに次の点は今回の問題に密接な関係がある。
  自然の中で伸びやかに遊ばせよう、子どもの生活に時間とゆとりを与えよう
  地域社会の力を生かそう
  地域で子育てを支援しよう
  異年齢集団の中で子どもたちに豊かで多彩な体験の機会を与えよう
 自由に冒険遊びのできる遊び場をつくろう、地域の行事等の体験の機会を広げよう
  幼稚園・保育所の役割を見直そう
 動植物の飼育栽培、地域行事への参加、幼児キャンプなど自然体験プログラムなど
   地域活動としては、愛育班等による「三世代交流活動」なども有効である。


ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ