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資料2

中央教育審議会スポーツ・青少年分科会資料

やる気はどこから来るのか
−心理学は意欲をどう理解するか−

上智大学 奈須正裕

意欲は価値と期待のかけ算で決まる

価値value 「(そうなると)うれしい」という感情の対象,インセンティブ
期待expectancy 「うまくいきそうだ」という認知,心理的なコスト感の逆数

価値が高ければ高いほど,期待が高ければ高いほど,意欲は高まる
いずれかがゼロだと,もう一方がいかに高くとも意欲は出ない

・・・ いくら安くても欲しくないものは買わない
  いくら欲しくても法外な値段だとあきらめる のと同じ

すべて必要な3つの期待

結果期待 十分な努力をすれば望む結果が得られるか「がんばればうまくいく」
これが低いと,学習性無力感(Learning Helplessness)に陥る
結果期待の回復,学習性無力感の解消:
努力の有効性を体験させる(自身の努力と無関係な成功経験だけでは不十分)
※すでに最大限の努力をして失敗を繰り返している場合には困難:
その場合には,失敗の原因を方略のまずさに誘導し,適切な方略を指導する

効力期待 十分な努力は自分にとって実行可能か「十分にやれそうだ」
いわゆる自信,有能感,効力感(efficacy

――→ 行動 ――→ 結果
     
  効力期待   結果期待  

  結果期待「高」 結果期待「低」
効力期待「高」 自信に満ちた適切な行動をする
積極的に行動する
社会的活動をする
挑戦して,抗議する・説得する
不平・不満を言う。生活環境を変える
効力期待「低」 失望・落胆する
自己卑下する
劣等感に陥る
無気力・無感動・無関心になる
あきらめる
抑鬱状態に陥る

効力期待の回復(「大変そうでとてもできそうにない」感覚の払拭):
モデリング:自分と似たような人が楽々やれている場面を見る
参加モデリング:モデリングの後に,自分でもやってみる
近接目標の誘導:楽にできそうな細かい目標を段階的に提示する
※言語的説得によって高められた効力期待は,困難に直面すると簡単に消失する

手段保有感 何をどうすればいいかわかっている
これが低いと,意識としての意欲(がんばろうという気持ち)を行動に移せない
結果期待,効力期待以上に学業成績との相関が高い
手段保有感の影響を取り除くと,達成動機と成績との相関がゼロになる

2種類の異なる価値の源泉

内発的動機づけintrinsic motivation
取り組んでいる課題それ自体が目的,自分と課題の間に価値が存在している

内発的動機づけの構成要素とそれぞれの向上策
1 知的好奇心:生得的に備わった探索への欲求「おもしろい」「不思議だ」
高めるには,中程度に新奇で複雑な対象と出会わせる
2 成長(有能さ:competence)の実感:「できた」「わかった」「がんばらなきゃ」
高めるには,挑戦的な目標を設定させ,達成させる
※意欲の高い人は中程度(五分五分)のリスク・テイキングをする
重荷にならない程度に高い責任を負わせる,期待されていると思わせる
3 自己決定感:「自分の人生は自分で決めて歩んでいる」
高めるためには, 自己決定・自己選択の機会を増やす
  積極的になっている時には,ほめすぎない
進んでやっていることに明確な報酬を与えると,かえって意欲が低下することがある
 
外発的動機づけextrinsic motivation
取り組んでいる課題は単なる手段,自分と課題の外側に価値が存在している
「ご褒美がほしい」「ほめられたい」「しかられたくない」

社会的にインセンティブが豊富で,さらに右肩上がりの増加が期待できた時代は,外発的動機づけに基づく競争でも多くの人が意欲的になれたが,これからは期待薄?
インセンティブの絶対量の減少,将来的な増加が見込めないことが,「夢を持てない」ことの一因?
一方で,安定したそこそこの豊かさ(欠乏感のなさ)が意欲を出しにくくしている?
規範意識の向上は重要だが,抜本的な解決策にはならない?

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