現在の学校保健の制度は、昭和33年の学校保健法制定により形作られた。当時の学校保健においては、伝染病、う歯、視力低下などが重要な課題であり、これらの課題について、学校保健の制度は大きな成果を上げてきた。
近年、メンタルへルスに係る健康課題やアレルギー疾患等の身体疾患などを有する児童生徒が増加しているとの指摘がなされ、学校においても従来からの課題とともに、これらの健康課題に対しても適切に対応し、児童生徒の健康つくりを推進する必要が出てきた。
従来の課題に対応しつつ、これら現代的な健康課題にも対応した学校保健のあり方を検討するに当たっては、学内体制の充実とともに、学校が家庭や地域の専門機関との連携を強化し、学校の現状に即して効果的な対応を行う体制づくりを検討することが必要である。
1 学校保健に関する学内体制の充実
児童生徒のメンタルへルスに係る健康課題は、「友達や家族などの人間関係」、「不登校・保健室登校・引きこもり等」、「発達障害等の集団生活等への不適応」、「いじめ」、「性」、「不眠」等多様化しており、個々の事例に応じてきめ細かく対応する必要がある。
養護教諭
児童生徒の健康課題に対して、中核的な役割を果たしている養護教諭への期待が高まっている中、保健室の利用者は、1日当たり小学校41人、中学校38人、高等学校36人という状況である。心身の健康問題が多くなっており、養護教諭の行う健康相談活動がますます重要となっている。また、心身の健康問題の多様化により、医療機関等との連携や配慮を必要とする児童生徒が多くなっているのが現状である。そのため、養護教諭がその役割を十分果たせるようにするための環境整備が必要である。
【課題(例)】
- 養護教諭の職務は、学校教育法で「児童生徒の養護をつかさどる。」と定められているが、具体の職務内容についての定めはない。一般的には、救急処置、健康診断、疾病予防などの健康管理、保健教育、健康相談活動、保健室経営、保健組織活動などを行っている。
また、児童生徒の心身の健康問題の多様化に伴い、スクールカンセラーや地域の関係機関(医療や福祉関係者等)との連携を推進することが必要となっている現状において、養護教諭が求められる役割を十分に果たせるよう、養護の概念及び養護教諭の役割・職務の明確化を図るための法制度の整備や各種の研修会及び指導参考資料等での周知などを図る必要があるのではないか。
- 養護教諭が児童生徒の心身の健康課題に適切に対応していくためには、常に新たな知識や技術等を習得していく必要がある。
現在、国レベルの研修会は全国養護教諭研究大会、各地域で実施する研修会での指導者を養成する研修などを実施している。各都道府県においては、養護教諭新規採用研修会、教職経験者研修会(5、10年目研修等)が行われているが、児童生徒の心身の健康問題の多様化や養護教諭の役割の拡大に対応した研修や体系的な研修を進めるに当たっても研修日数が少なく不十分な状況であるため、研修の充実が必要ではないか。
- 養護教諭の保健管理や保健教育などの職務の明確化に対応した資質を担保するために、養成課程における教育の充実を図る必要があるのではないか。
- 子どもの心のケアを充実させるため、専門家であるスクールカウンセラーとの連携をより強化するためには、どのようなことが必要か。
- 保健室へ来室する児童生徒の心身の健康問題が多様化しており、来室者が多い上に、一人当たりの対応時間が増加しているため、多数の来室者に対して一人の養護教諭では、十分な対応を図ることが困難な状況にある。また、配慮を必要とする児童生徒が多い状況にあり、校内及び地域社会の関係者との連携の推進が必要であることから、一人一人にきめ細やかな支援を行うために、養護教諭の複数配置の促進が必要な状況にあるのではないか。
保健主事
保健主事は、学校保健と学校教育全体との調整や学校保健計画の作成、学校保健に関する組織活動の推進など学校保健に関する管理に当たる職員であり、教諭または養護教諭をもって充てることとされている。
保健主事は充て職であるため、単年度で代わることがあり、職務の遂行に必要な資質の向上を図る必要がある。
【課題(例)】
- 保健主事の職務に必要な能力や資質向上のためには、体系的な研修や保健主事のための事例集のようなものが必要か。
担任教諭等
担任教諭、養護教諭などが児童生徒の体調不良や欠席・遅刻などの日常的な心身の健康状態を把握する健康観察を行うことにより、感染症や心の健康問題などの心身の変化について早期発見・早期対応を図るとともに、自他の健康に興味関心をもたせ、自己管理能力の育成を図る学校が見られるが、現状は、小学校96.4パーセント、中学校92.3パーセント、高等学校54.3パーセントであり、学校種により取組みに差が生じている。
【課題(例)】
児童生徒の心身の健康状態の変化について、早期発見・早期対応を図るため、健康観察を充実するための位置付けの明確化や実践例の掲載を含めた指導資料作成が必要ではないか。
学級担任により毎朝行われる健康観察は特に重要であるため、全校の児童生徒の健康状態の把握方法について校内におけるシステムづくりを図るなどの方策が必要ではないか。
学内における取組体制
学校保健委員会は、「校長、養護教諭等の教員、学校医等、保護者代表、児童生徒、地域の保健関係機関の代表等を主な委員とし、保健主事が中心となって、学校における児童生徒の心身の健康課題を解決できるよう研究協議すること」とされている。
学校保健委員会の設置率は、小学校81.9パーセント、中学校78.6パーセント、高等学校76.7パーセントと学校種により差が生じている。また、開催回数が年1回のところが多い状況にある。
【課題(例)】
- 学校全体での保健活動の推進、学校医・学校歯科医・学校薬剤師・地域の保健機関等の協力・連携体制を確立するためには、どのようなことが必要か。
- 多様化しているメンタルヘルスに関する問題の対応に当たっては、この問題に対応できる校内組織が十分に機能していない状況が見られることから、校長のリーダーシップのもと校内組織体制の充実を図るためにはどのようなことが必要か。
その他
学校は、学校環境衛生の維持・改善に努めることとされているが、そのためのガイドラインとして示されている学校環境衛生の基準に基づいた教室の空気の定期検査実施率69.8パーセント、照度の定期検査70.2パーセントという状況にある。
【課題(例)】
- 学校環境衛生基準の水準に沿った学校安全点検が全ての学校で行われるよう何らかの担保措置を構築することが必要ではないか。
2 学校と家庭・地域社会との連携の充実
児童生徒のメンタルへルスに係る健康課題やアレルギー疾患等は専門的な対応が要求される課題であり、全てを学校だけで対応できるものではないことから、家庭や地域の専門機関との連携を強化し、学校の現状に即して効果的な対応を行う体制づくりを検討する必要がある。
学校と保護者との連携の強化
メンタルヘルスに係る健康課題で養護教諭が支援した児童生徒がいた学校は、小学校78パーセント、中学校95.3パーセント、高等学校95.1パーセントと非常に多い状況である。また、医療機関等との連携を必要としているものが多い。
アレルギー疾患の有病率は、ぜん息5.7パーセント、アトピー性皮膚炎5.5パーセント、アレルギー性鼻炎9.2パーセント、アレルギー性結膜炎3.5パーセント、食物アレルギー2.6パーセント、アナフィラキシー0.14パーセントであり、アレルギー疾患はまれな疾患ではなく、学校保健を考える上で、既に、学校、クラスに各種のアレルギー疾患をもつ子どもがいることを前提としなければならない状況にある。
また、健康診断における事後措置についても学校がきちんと把握する必要がある。
【課題(例)】
- メンタルへルスに係る健康課題やアレルギー疾患への対応においては、保護者との信頼関係を築き連携を図るには、どのような方策があるか。
- 健康診断における事後措置が確実に実施され、その結果を学校が把握し、保健指導に生かすようにするためにはどのような方策があるか。