グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について

平成12年11月22日 大学審議会答申(抜粋)

(1)大学教育における情報通信技術の活用の在り方

1)基本的考え方
(大学教育と情報通信技術)

 大学は,単に知識を教授するだけではなく,人格形成期にあたる青年期の学生にとっては,教員や他の学生との触れ合いや相互の交流を通じて人間形成を図る大切な場であるという考え方に立って,キャンパスにおいて直接の対面授業を行うことを基本としており,その重要性は今後とも変わることはない。
 一方,衛星通信やインターネット等の情報通信技術を大学教育において活用することは,教育内容を豊かにし,教育機会の提供方法を変え,大学教育への一層のアクセス拡大に資するものであり,新しい社会的価値観の健全な創出に重要な役割を果たすものである。
 情報通信技術の発展に関連しては,人間関係の希薄化や情報モラルの問題なども指摘されているが,こうした負の側面への対応に留意しつつも,迅速かつ高度な情報通信技術を大学教育において積極的に活用して,大学教育の内容や方法を高度化するとともに,国民に対し学習機会をより広く提供することにより人々の生涯学習ニーズに適切にこたえ,さらに,国境を越えて知的資源を発信することにより知的国際貢献を果たしていくことは,大学における教育研究活動を革新していく上で重要なことと考える。
 ここでは,近年普及が著しいインターネット等の情報通信技術を中心として,大学教育における活用の在り方について,提言を行うこととする。しかし,情報通信の分野における技術の進展は日進月歩であるため,制度上の諸問題については随時見直しを行っていく必要がある。各大学においても,新しい情報通信技術を積極的に活用し,大学の教育内容・方法の改善を進めることが求められる。
 以下,大学学部における取扱いを中心に述べるが,特段の記述がない事項については,大学院,短期大学,高等専門学校についても同様の取扱いとすることが適当である。

(通信制における取扱い)

a)遠隔授業により修得することのできる単位数の見直し

 現在,通信制の大学においては,通学制の場合と同様に,人間形成に資するなどとの考え方の下,卒業に要する単位のうち20単位以上は直接の対面授業によることとしているが,このような対面教育の併用は,今後とも重要である。
 しかしながら,通信制は,そもそも職業人など通学が困難な者に対して広く高等教育の機会を開く観点から設けられた教育提供の形態であり,一定の単位を直接の対面授業により修得することは,とりわけ職業人などにとっては必ずしも容易ではなく,高等教育と社会との往復型の生涯学習を推進する上では改善の余地があると考えられる。
 一方,情報通信技術の発展により,直接の対面授業以外の方法でもきめ細かな学習指導を行うことが可能となってきており,米国においては,メンターと呼ばれる学習指導者による学習指導体制を確保しつつ,主に職業人を対象としてインターネットを活用した授業のみで学位取得が可能な大学教育が展開されつつある。いつでもどこでも学習が可能な,職業人がアクセスしやすい教育システムの構築は,世界的に共通の課題となっている。 以上のことから,今後,通信制の大学においては,社会人の学習ニーズに柔軟にこたえる通信制本来の役割にかんがみ,従来の直接の対面授業による修得が必要な22お単位についても,遠隔授業により修得することができるものとすることが適当である。このことにより,卒業に必要な単位(124単位)すべてを遠隔授業により修得することも可能となる。
 ただし,平成9年12月の答申「「遠隔授業」の大学設置基準における取扱い等について」において示したとおり,直接の対面授業には,教員と学生や学生相互の触れ合いなどによる人間形成の効果があると考えられることから,高等学校を卒業して実社会での職業経験を経ずに大学教育を受ける青年期の学生などに対しては,各大学の定める範囲内で,直接の対面授業を履修させる機会を与えることが望ましい。

 b)インターネット等活用授業の遠隔授業としての位置付け

 現行の大学設置基準では,遠隔授業について,「文部大臣が別に定めるところにより,多様なメディアを高度に利用して,当該授業を行う教室等以外の場所で履修させることができる」と定めている。この規定を受けた文部省の告示においては,テレビ会議式の遠隔授業に関する要件が定められている。具体的には,次の要件のいずれをも満たすもので,大学において,直接の対面授業に相当する教育効果を有すると認めたものであることとされている。
 ア 文字,音声,静止画,動画等の多様な情報を一体的に扱うもので,同時かつ双方向に行われるもの
 イ 授業を行う教室等以外の教室,研究室又はこれらに準ずる場所において,履修させるもの
インターネット等活用授業については,その特性にかんがみ,直接の対面授業におけるような同時性・双方向性がなくとも,全体としてそれと同等の教育効果が確保されると評価することが可能である。具体的には,次の要件をすべて満たすもので,大学において,直接の対面授業に相当する教育効果を有すると認めたものを遠隔授業として位置付けることが適当である。
 イ 文字,音声,静止画,動画等の多様な情報を一体的に扱うもの
 ロ 電子メールの交換などの情報通信技術を用いたり,オフィス・アワー等に直接対面したりすることによって,教員や補助職員(教員の指導の下で教育活動の補助を行うティーチング・アシスタントなど)が毎回の授業の実施に当たり設問解答,添削指導,質疑応答等による指導を行うもの
 ハ 授業に関して学生が相互に意見を交換する機会が提供されているもの
 なお,インターネット等活用授業についても,1単位が45時間の学修を要する教育内容をもって構成されるべきことは,対面授業の場合と同様である。また,こうした授業を実施する大学についても,正課外の活動を含めた教員や学生相互の触れ合いなどを考慮すると,現在の設置基準に定める校舎等の所要の施設を備えることが必要と考えられるが,今後の実施状況等を踏まえつつ,その基準の在り方について必要に応じ検討することが適当である。 

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-- 登録:平成24年03月 --