○ 大学には,校舎と同一の敷地又はその隣接地に空地と運動場を設けなければならないことが大学設置基準に定められている。しかし,平成16年4月から,特区制度を活用すれば,代替措置を講じるなど一定の条件を満たすことで,空地・運動場を設けなくとも,大学を設置できることとなっている。
(注) 空地とは,法令では「学生が休息その他に利用するのに適当な」ものとされており,屋外の広場や緑地・芝生,舗道,ベンチ等の懇話スペース等を意味するものと解される。
○ この特区制度については,平成22年の構造改革特別区域推進本部において,平成23年度中を目処に,できるだけ速やかに,特区での特例措置の内容のとおり,全国展開を行うこと(特区制度を,特区指定地域に限らず,全国で利用可能とすること)が決定している。
○ その際,学生の教育環境等に適切に配慮できていないと思われる事例も生じていたことを踏まえ,「弊害の予防措置については,その要件を一層明確化し,必要最小限のものとすること,また,予防措置の内容は,文部科学省と中央教育審議会において検討・策定し,特区評価委員会に報告すること」とされている。
○ 大学分科会(大学教育部会)は,大学のキャンパスがもつ機能・役割の重要性(別紙「大学のキャンパスに求められる機能・役割について」)を踏ま え,空地、運動場を有しない場合の弊害の予防措置として,以下のとおり,代替措置及びその情報の公表が必要であるとの結論に達した。
1.空地・運動場が有する教育的意義と同等以上のものが期待できる措置を講じること。
空地:できる限り開放的であって,多くの学生が余裕をもって,休息,交流その他に利用できる屋内空間を設けていること。また,そのために必要な設備が備えられていること。
運動場:原則として,体育館やスポーツ施設を備えること。
ただし,特別の事情がある場合は,公共のスポーツ施設,民間のスポーツ施設等を利用することが考えられること。その際,様々な運動が可能で,多くの学生が余裕をもって利用でき,原則として,同一敷地内・隣接地にあること(やむを得ない場合は至近の位置も可とする)。学生の経済的負担の十分な軽減を図ること。
2. 1の措置を講じている大学であることについて,情報公表を徹底すること。
大学分科会(大学教育部会)では,今回の特区制度の全国化の検討に関連して,大学のキャンパスに求められる機能・役割を以下のとおり取りまとめた。
○ キャンパスは,質の高い教育研究活動や,学生支援,学生の発意に基づく様々な活動のために必要な空間を保障するもので,知的,道徳的及び応用的能力を展開させ,豊かな人間性を涵養するために必要な大学の構成要素である。
具体的には,
の機能・役割がある。
○ 大学は,幅広い年齢層の多様な学生に教育機会を提供しており,その際,それぞれの学習者のニーズを踏まえた学習環境等を整備している。その中で,学士課程や短期大学の課程の教育については,20歳前後の学生が多く,初等中等教育までの基盤を踏まえ,学生の人格形成機能や生涯にわたる学習の基礎を培うことが重要であり,そのためにも,学修の定着や多様な活動を可能とする空間を保持するという観点が一層求められる。
○ 構造改革特別区域推進本部決定による空地・運動場要件の撤廃を行う特区の全国化に際して,空地及び運動場を設置しなくてもよいとする場合は,空地及び運動場を含むキャンパスの機能・役割の意義等を踏まえると,あくまで例外的なものとして考えるべきである。
空地及び運動場を設置しない場合は,予防措置が求められることとなるが,その場合においても,教育研究の場にふさわしいキャンパスを備えることの重要性を認識した上で同等以上の代替措置を講じること及びその情報が公表されることが確実に担保されていることが必要である。
法令の規定による制限その他のやむを得ない事由により所要の土地の取得を行うことが困難であるため空地を校舎の敷地に有することができな
い場合において,学生が休息その他に利用するため,適当な空地を有することにより得られる効用と同等以上の効用が得られる措置を当該大学が講じている場合
に限り,空地を校舎の敷地に有しないことができることとすること。
また,当該措置については,次に掲げる要件を満たす施設を校舎に備えることにより行うものとすること。
一 できる限り開放的であって,多くの学生が余裕をもって休息,交流その他に利用できるものであること。
二 休息,交流その他に必要な設備が備えられていること。
法令の規定による制限その他のやむを得ない事由により所要の土地の取得を行うことが困難であるため運動場を設けることができない場合にお
いて,運動場を設けることにより得られる効用と同等以上の効用が得られる措置を当該大学が講じており,かつ,教育に支障がないと認められる場合に限り,運
動場を設けないことができることとすること。
また,当該措置については,原則として,体育館やスポーツ施設を校舎と同一の敷地内又はその隣接地に備えることにより行うものとすること。ただし,特別の事情がある場合は,次に掲げる要件を満たすものを学生に利用させることにより行うことができるものとすること。
一 様々な運動が可能で,多くの学生が余裕をもって利用できること。
二 校舎から至近の位置に立地していること。
三 学生の利用に際し経済的負担の軽減が十分に図られているものであること。
文部科学省関係構造改革特別区域法第2条第3項に規定する省令の特例に関する措置及びその適用を受ける特定事業を定める省令における特定事業から「空地に係る要件の弾力化による大学設置事業」及び「運動場に係る要件の弾力化による大学設置事業」を削除すること。
この改正は,平成24年4月1日から施行するものとすること。
短期大学設置基準について,上記第一の大学設置基準と同様の措置を行うため,所要の規定の整備を行うこと。
※ 代替措置を適用する場合,学校教育法施行規則第172条の2第1項第7号に定める「校地,校舎等の施設及び設備その他の学生の教育研究環境に関すること」に基づき,その情報の公表を行うこと。
(1)実施期間:平成23年8月31日~9月29日
(2)告知方法:文部科学省ホームページ、報道発表
(3)意見提出方法:郵送、電子メール、FAX
計6件
○ 空地が十分確保しにくく、学生が通学しやすい都会に大学を設置するに当たり、気分転換のためなどに学生が利用できる施設が何らかの形で備えられていれば賛成。
○ 大学内の空地は単なる休息や懇話のスペースではなく、学生の想像力を刺激し、思索と発見の機会を与えるとともに、実践の場でもあることから、これを奪うことは大学教育そのもの、ひいては大学の存在意義そのものを矮小化することに他ならない。
○ 屋内の施設が運動場の一部の機能を担うことは可能だが、運動場に取って代わることはできない。
○ ゆとりを持つ総体として醸し出される雰囲気こそが大学であり、また、震災などの危機管理の面でキャンパスの果たす役割は大きく、空地・運動場の要件の緩和は社会の要請から反している。
○ 空地・運動場を含めたキャンパスは、質の高い教育研究活動のみならず、学生の豊かな人間性を慣用するために必要な大学の構成要素である。
○ 学生の成長や大学としての質に関わる弊害等が生じ得ないよう、大学個々の事情を勘案した対応を行うなど、その運用について慎重な扱いが必要。
○ 特区の全国化が実施された場合、都市・地方の大学間格差の拡大や、過度の競争激化等、現場を混乱させる懸念がある。
○ 私立大学は厳しい財政状況下にあって、自己財源により空地・運動場を含む学生の教育研究環境の充実に努めている。空地・運動場の要件が緩和されるとしても、大学の重要な構成要素であることは変わらず、空地・運動場の整備に対する一層の支援がなされるべき。
○ 特区で認められた規制緩和措置はあくまで例外的措置であり、全国化に当たっては、特区における成果の検証と全国化の意義・理由が明確に説明される必要がある。
○ 教育事業に関しては、我が国の未来を背負う人材育成を担う点を鑑みれば、社会に対して特区制度の検証結果と全国化の意義・理由を示し、様々な側面を考慮しながらより慎重に議論がなされるべき。
○ 「特別の事情がある場合」について要件が不明瞭であり、明示すべきではないか。
○ 特区評価における調査結果において学生から不満の声が出ているように、現状でも十分な代替措置は取り得えておらず、全国化に反対である。
大学等については、引き続き、空地を校舎の敷地に有し、運動場を設けることとすることを原則とすること。「法令の規定による制限その他のやむを得ない事由」により空地を校舎の敷地に有しない場合、運動場を設けない場合とは、例えば、大学、研究所、民間企業等が集積する拠点として整備され、既に高度に土地が利用されていること等の理由により、空地及び運動場を設けるために必要な面積の土地の取得が、物理的に事実上困難であることや、土地の取得に関して法令の制限があること等といった、やむを得ない特別な理由がある場合に限られること。
特に学士課程や短期大学の課程の教育については、学修の定着や多様な活動を可能とする空間を保持するという観点が一層求められることに留意する必要があること。
空地を校舎の敷地に有しない場合と運動場を設けない場合のいずれともに、代替措置を適切に講じることにより、当該大学等の教育・研究に支障が生じないものとすること。また、大学等の教育・研究に支障が生じないとは、当該大学等における各学部・学科の教育研究上の目的を達成することが可能であることを意味し、特に体育の授業を行う場合には、運動場を有する必要性が高いものであり、授業に支障が生じないような特段の措置が必要であること。
空地の代替措置については、授業の空き時間により一時的に使用されていない教室の提供ではなく、常時使用可能な、休息、交流その他のための専用の施設を備えること。当該施設の採光等の施設環境や利用時間等の利用形態については、当該大学等の状況に応じて、できる限り開放的であること。また、ラウンジに備えるべき机や椅子、用具類を収納するロッカーなど学生の様々な活動に有用な設備を備えること。さらに、例えば昼休みなど人が集中する特定の時間においても、基本的にすべての学生が昼食をとることに不自由の無いなど、余裕のある空間を確保すること。
運動場の代替措置として、やむを得ず公共または民間のスポーツ施設を学生の利用に供する場合においても、学士課程や短期大学の課程など、それぞれの課程で学修を行う学生の特性に応じて、学生が希望する球技等の様々な運動ができるよう配慮するとともに、経済的負担については、利用料等についてできる限り低廉な価格とするなど、十分な軽減を図ること。
空地の代替措置及び運動場の代替措置の状況については、学校教育法施行規則第172条の2第1項第7号に定める「校地、校舎等の施設及び設備その他の学生の教育研究環境に関すること」にあたり、代替措置を適用する場合には、当該代替措置の状況を速やかに公表することが学校教育法上求められること。また、当該情報の重要性に鑑み、代替措置を講じていることを入学を希望する者等が的確に認識できるよう、インターネット等の形式により迅速かつ丁寧に周知を図ることとすること。
平成24年4月1日施行とすること。なお、平成25年4月開設分に係る大学等の設置認可審査においては、今般の改正内容を踏まえて審査を行うこととすること。
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室
-- 登録:平成23年10月 --