多様な年齢層の者を学生として受け入れることは,個人の学ぶ意欲に応えるとともに,我が国の発展や成長といった観点で極めて重要な課題である。また,我が国の人口が減少期を迎え,社会人や高齢者等の多様な人々のどの程度が大学で学ぶようになるか想定することは,大学として必要とされる量的規模,又は政策的に妥当とされる規模を検討していく上で重要な論点である。
「第三次報告」では,社会人学生の受入れの現状について検討しており,その後,この課題について「大学規模・大学経営部会」が審議を深め,3月に「大学における社会人の受入れの促進について(論点整理)」を取りまとめ,それを踏まえて,分科会として,以下のとおり整理した。
これまでの大学審議会や中央教育審議会の答申を踏まえて,以下の改革が講じられてきた。
(ア)大学設置認可における抑制の例外(昭和51年より平成14年まで)
(イ)大学制度の弾力化
○社会人学生の入学資格の弾力化(平成元年等)
○夜間大学院(修士課程は平成元年,博士課程は平成5年)
○昼夜開講制(学士課程は平成3年,修士課程は昭和49年,博士課程は平成5年)
○「メディアを利用して行う授業」の明確化(平成10年)
○大学院修士課程の短期在学コース(平成11年),長期在学コース(夜間大学院は平成元年,その他の修士課程は平成11年)
○早期卒業(学士課程は平成11年,修士・博士課程は平成元年)
○長期履修学生制度(平成14年)
○サテライトキャンパスの制度化(平成15年)
(ウ)通信教育の充実
(エ)科目等履修生制度(学士課程は平成3年,修士・博士課程は平成5年)及び履修証明制度(平成19年)
社会人の学修に係る経済的負担の軽減策として,次のものが挙げられる。
○奨学金事業や授業料等の減免制度
○教育訓練給付制度における指定講座制度の活用
○社会人を大学に派遣する企業等の経済的負担軽減策として,中小企業が雇用者を大学等に派遣する場合の法人税額控除
公立学校の教員が,大学に修学し,専修免許状を取得できるよう,「大学院修学休業制度」が,平成12年に創設されている。国家公務員でも,平成19年に,大学等での修学や国際貢献活動を希望する職員のための休業制度が導入された。これらと類似の制度を設ける国立大学法人も見られる。
このように,これまで大学制度の弾力化をはじめ,社会人の学修に係る負担軽減を図る施策が講じられてきた。
また,大学卒業・大学院修了の就業者のうち,「機会があれば大学院修士課程に修学したい」者は約15%,「関心はある」者を含めると約49%に達する。
しかしながら,就業者を対象とした調査によると,勤務時間外の学習のために活用したことがある教育機関として大学を挙げた者は約6%にとどまる。
そうしたこともあり,大学入学者のうち25歳以上の者の割合は,OECD平均が21%であるのに対し,我が国は2%にとどり,極めて低い水準にある。この点について,我が国では,学修目的に合った教育プログラムの不在や,職業との両立や時間・費用が大学就学を妨げる要因となっている,などの指摘がある。
人口構造・産業構造・社会構造が大きく変わる中,大学における社会人受入れの促進は,我が国の知的資本としての成人層の能力向上という,我が国社会全体の課題への対応策として取り組まれるべきである。
多様な年齢層の者が大学教育で学ぶことは,
○多様かつ明確な学修ニーズを持つ一人ひとりの要請に応える,
○そうした活動は,大学に対する社会的要請に応える,
○多様な年齢層の学生が就学することは,大学教育の現代化に寄与する,
といった意義がある。
これまで,各大学では,社会人のリカレント教育や生涯学習機会の提供を目的として,社会人向けの教育プログラムの実施が行われてきた。今後,大学が,社会の成長や経済の活性化を支える知的資本として,社会人の能力向上のための機会を提供するという社会的要請に応えていくことが強く期待される。
その際,学ぶ意欲を持つ者の目的に応じた教育プログラムを編成し,実施することが,多様な年齢層の大学での学修の促進につながると考えられる。
(学習の目的)
専門的知識・技能の向上,業務の高度化・現代化に伴う知識・技能の獲得(情報化,国際化,労働集約化,新規立法・制度への対応等),企業経営の中核を担うための職能開発等。
(学習の目的)
就業に必要な職業知識・技能の修得等。
(学習の目的)
復職希望者の場合は自らの職業に係る知識・技能の現代化,就業希望者の場合は就業に必要な職業知識・技能の修得等。
(学習の目的)
職業経験を生かした起業(営利目的,社会貢献目的の双方を含む)や就業の準備や,地域参画活動の準備等。
また,就業等を直接の目的としない者も,生き生きとした生活を送るため,いわば生活の一部として継続的な学修機会を求める者が想定される。
大学の機能別分化が進む中,とりわけ,修士課程や学士課程において幅広い職業人養成等に重点を置く大学や,短期大学では,企業や公的部門の教育・訓練との連携をはじめとして,産業界や地域と密接に関わりながら,社会人等の需要に対応した学修内容・方法を開発,提供していくことが期待される。
今後,多様な年齢層の者が恒常的に大学で学び,その成果をもって,職業生活や地域社会でさらに活躍できる社会を目指して,大学と産業界や地域社会が一体となって取り組むことが重要である。
学修を通じて修得できる知識・技能を明確化し,授与する学位の分野を教育内容に則したものとする。そうした情報を公表。
地域の需要に対応した人材育成プログラムや,産業界や自治体の研修と連携。
地域の大学群全体での人材養成のため,施設設備の共同整備や教育資源の効率的・効果的活用。産業界,自治体,関係機関と連携し,地域の人材育成需要に対応した教育プログラムを実施。
情報通信技術や,これまでの制度改正を活用し,社会人に配慮した多様・柔軟な学習方法を提供。こうした学修を可能とする学内体制や学校運営体制を整備。
社会人,高齢者等の多様な年齢層を対象とする経済的負担の軽減(入学料免除,単位制授業料,授業料分割納入制度,授業料減免措置,奨学金制度等)。履修や経済支援の情報提供・相談を行う体制を整備。
企業・産業界との連携を強化し,企業等の人材育成での大学教育の活用を促す。地域の産業界,自治体,関係機関と連携した地域の需要に対応した人材育成,コミュニティ形成支援を進め,「地域で学び,地域で働く」環境を構築。
1.に関する大学の取組を促進。
履修証明制度の改善を図る(制度面,運用面)。履修証明制度と他制度等の連携
(ジョブ・カード制度との連携強化,教育訓練給付制度の活用等)。
諸外国の資格枠組み制度も参考に,学校種を超えた技術教育等の教育プログラムや修得技能レベル等の認証システムを構築。これにより,履修証明制度の職業能力等の証明としての活用を支援・促進。
大学間連携や大学と産業界,自治体,関係機関との連携の媒介役の機能を有する体制の整備により,地域の大学群による人材育成需要に対応した教育プログラム等の実施を促進。
多様かつ柔軟な学修を可能とする観点から,通学制と通信制の区分の在り方を,区分の存続の是非も含めて見直し。また,学位の分野ごとの教育内容の標準化や共通教材の作成を推進。公民館等の教育施設を活用して地域住民の身近な場所で大学教育を提供し,その学修の累積による学位取得を可能とする。
社会人,高齢者等の多様な学習者を対象とする経済的負担軽減策を充実(各大学の取組の促進,奨学金制度,税制優遇措置等)。また,企業の人材育成投資の促進(人材投資税制の拡充等)。各大学における履修や経済支援に関する情報提供・相談を行う体制の整備を支援。
雇用者の大学就学と職業生活の両立を図る企業の行動指針を策定。大学就学を希望する社会人の支援や,企業等の人材育成における大学教育の活用を促進。
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室
-- 登録:平成22年07月 --