大学制度は,各国の法制度や社会状況等に基づいて整備されており,近年,欧米諸国をはじめ多くの国が,大学教育の水準を確実に保証するため仕組みの整備に取り組んでいる。
我が国では,平成14年の学校教育法改正により「事前規制型」から「事前規制と事後確認の併用型」に転換し,現在の公的な質保証システムが整えられているが,これを構成する大学設置基準,設置認可審査,認証評価の三つの要素の関係を見直し,より堅固なものとすることが課題となっている。
そこで,「第一次報告」と「第二次報告」では,公的な質保証システムに関し,歴史的経緯を踏まえた論点を整理し,設置基準と設置認可審査について,定性的・抽象的な基準を明確化することなどを提起した。
「第二次報告」以後,現下の社会情勢等を踏まえた検討に取り組み,「第三次報告」では,社会的・職業的自立に関する指導等について,大学設置基準に規定するよう提言した。これを受けて,本年2月に,大学設置基準が改正され(平成23年4月施行),また,各大学の取組を支援するため,平成22年度政府予算に「大学生の就業力育成支援事業」が計上されている。
あわせて,「第三次報告」では,教育情報の公表の促進の基本的考え方を示している。これについて,「質保証システム部会」が検討を続け,本年3月に「教育情報の公表の促進に関する諸施策について(審議経過概要)」を取りまとめ,これを踏まえ,学校教育法施行規則等が改正された(平成23年4月施行)。
「国際的な大学評価活動に関するWG」も,大学情報の国際発信の観点から「国際的な大学評価活動の展開状況や我が国の大学に関する情報の海外発信の観点から公表が望まれる項目の例」を取りまとめている。
さらに,「質保証システム部会」では,「第一次報告」と「第二次報告」で課題とされた設置基準等の基準の明確化等の審議を再開している。
以下では,「第三次報告」以降の検討状況について,公的な質保証システムの整備や,教育情報の公表について整理した。
大学教育の質保証に当たっては,各大学,大学団体,国のそれぞれの役割を踏まえた検討が必要である。
○各大学による自主的・自律的な質保証活動と,それに向けた支援,
○大学団体による自主的・自律的な質保証活動と,それに対する支援,
○公的な質保証システム(大学設置基準,設置認可審査,認証評価)の整備,
このうち,公的な質保証システムに関し,「第一次報告」と「第二次報告」において,大学設置基準と設置認可審査の定性的・抽象的な基準を明確化することなどを提起している。
そうした検討を踏まえ,とりわけ,大学設置基準に規定されている内容について,法令としての基準性を明確にすることが大学関係者からも求められており,それらに関し,以下のとおり整理している(専門職大学院については,大学院教育の充実の観点から「第5」参照)。
(ア)海外の大学とのダブル・ディグリー等の連携の促進に係る制度的対応
(イ)平成25年度に,専門職大学院の専任教員のダブルカウントの特例措置が終了するため,博士課程(後期)との接続の観点から,その後の制度的対応
(ウ)上記の他の専門職大学院に関する質保証の課題
(エ)短期大学設置基準の在り方
(オ)通信教育設置基準の在り方
(カ)学位に付記する専攻名等の在り方
等
このほか,設置認可審査について,設置審と連携しつつ検討。
各大学が,自主的・自律的に,その個性と特色に応じて機能別に分化していくことが想定され,そうした取組を支援するための方策に関し,検討を深める必要がある。
例:
○質保証に係る観点・指標の在り方
○観点・指標を開発していくための推進方策
○上記に係る観点・指標の活用の在り方
「学士課程教育答申」は,各大学に,学士課程教育における三つの方針をそれぞれ明確化することを求めている。
○学位授与の方針(国際的な動向や我が国の実情を踏まえ,学位授与の方針の明確化)
○教育課程の内容・方法の方針(教育課程の体系化,単位制度の実質化,教育方法の改善,成績評価)
○入学者受入れの方針(入学者選抜,初年次における教育上の配慮,高大連携)
各大学では,これを受けて,学士課程教育の質を改善させる積極的な取組が見られており,こうした取組の状況を踏まえ,課題を検証していくことも求められる。
現在,学校教育法第113条と大学設置基準第2条の規定により,大学は,その教育研究活動に関する情報を社会に公表することとされている。また,自己点検・評価の結果や人材養成目的等の公表や,授業の方法・内容,成績評価基準等の学生への明示も,大学設置基準に規定されている。
こうした枠組みに基づき,多くの大学は,積極的に情報の公表を進めており,その着実な進展が見られる。一方,一部の大学では,大学の強みや特色を分かりやすく公表し,外部から適切な評価を受けながら,教育水準の向上を図っていこうとする観点が十分でないとの指摘もある。
そこで,公的な質保証システムの整備の一環として,各大学の教育の状況が明らかとなるような仕組みを整備することが必要であり,以下の考え方のとおり整理した。
大学は,学生や保護者が,適切に情報を得られるようにするとともに,学校教育法で定められた目的を実現するための教育研究等を行う公的な教育機関として,その活動や取組について,社会への説明責任を果たすことが求められる。
そこで,大学に,公的な教育機関として,以下の情報の公表を義務付けるとともに,そうした取組が認証評価を通じて確認できるよう,学校教育法施行規則と認証評価の基準を定める省令等の改正について,中央教育審議会として答申したところである。
(学部,学科,課程等の名称)
(教員数,教員の専門性に係る情報(教員の保有学位及び職務上の実績等)
※「教員数」は,「学校基本調査」の最新値に準じて整理。「職務上の実績」は,教員の専門性に関するもの。
(入学者に関する受入方針,入学者数,収容定員,在学者数,卒業者数,卒業後の進路(進学者数,就職者数,主な就職分野等))
※「入学者数」「在学者数」「卒業者数」「進学者数」「就職者数」は「学校基本調査」の最新値に準じて整理。なお,働き方が多様となっている状況において,起業や資格取得準備等を行う者等を各大学の判断で公表することも考えられる。
(授業科目の名称,授業の方法及び内容並びに年間の授業計画の概要)
(学修成果の評価,修業年限,修了に必要な修得単位数,取得可能な学位)
※「修業年限及び修了に必要な修得単位数」は,必修科目,選択科目及び自由科目の区分ごとの修得単位数をあわせて示す。「取得可能な学位」は,学科・専攻ごとに,付記する専攻分野の名称とあわせて示す。
(所在地,キャンパスの概要と主な交通手段,運動施設の概要,課外活動の状況)
※「キャンパスの概要及び主な交通手段」は,キャンパスマップ,アクセスマップ等。「運動施設の概要」は,運動施設の機能と規摸。「課外活動の状況」は,学生のサークル・団体等の活動状況等。
(授業料,入学料その他の費用徴収,利用できる授業料減免の概要)
※「授業料,入学料その他の費用徴収」は,費用徴収の種類,金額・納入時期等,「利用できる授業料減免の概要」は,減免対象の種類と要件,必要手続等。
(学内の学生支援組織,利用できる奨学金の概要)
※「学内の学生支援組織」は,就職支援,メンタルヘルス等の組織とその機能,「利用できる奨学金の概要」は,奨学金の種類・要件,申込み方法等。
上記のほか,学生がどのようなカリキュラムを通じて,どのような知識・能力を身に付けることができるかを分かりやすく公表し,教育力の向上を図ることが重要である。
各大学では,教育課程を通じて修得すべき知識・技能の体系を明らかにする取組が,自主的・自律的に進められている。こうした取組をさらに促進する観点から,可能な限りその実施を目指すため,法令により努力義務化するよう答申したところである。
また,こうした内容について,例えば,各種の競争的資金等の申請の要件とし,その取組を促すことも必要である。
上記の(ア)と(ウ)は,上記1.の「公的な教育機関として公表が求められる情報」の性質を併せ持ち,既に法令に位置づけられており,1.の内容とともに規定することが適当。
このほか,各大学が取り組む教育研究水準の向上のための取組(各種評価の結果を踏まえた教育改善,特色ある教育研究活動の状況,教職員の職能開発の状況等)が考えられる。これらの情報は各大学が自らの判断により,積極的に公表していくことが望まれる。
教育研究への取組について,積極的に国際的に発信することは,諸外国の大学との組織的・継続的な教育連携を加速し,大学教育の国際競争力の向上に資する。
例えば,
○大学院教育,とりわけ博士課程の教育に重点を置く大学,
○国際的な教育研究活動や学生交流に特色を発揮する大学,
では,海外からの学生を受け入れ,また,我が国の学生を海外に送り出すに当たって,学位プログラムや学生支援に関する情報を積極的に公表することが考えられる。
その場合の具体的な対応は,各大学の戦略にゆだねるべきであり,その際の参考として,1.と2.に加えて,以下のとおり,国際的な情報発信の観点から想定される情報例を整理した。
(各大学が自らの方針に基づき発信する情報を定める際の参考に活用されることが期待される。これらは,英語を含む外国語で発信することが想定される。)
○教員当たり学生数(フルタイムとパートタイム教員)
○各授業の平均学生在籍数
○卒業率(修業年限期間及び修業年限期間以降に卒業する学生の割合)
○退学者の状況(他大学等に転学した者がいる場合は,その内訳を表記するなど大学・分野等の特性を踏まえた説明や理由を付す。)
○卒業後の進路状況(就職先や進学先,資格取得の状況等)
○学位授与数
○修得すべき知識・能力の明確化と,それを体系的に修得できる教育課程
○計画的な履修方針に基づいた授業科目名や,その体系(いわゆるナンバリング)とシラバス(学内の関連する学問分野で共通化)
○インターンシップの機会や交換留学,海外研修等の提供状況
○単位認定,学位認定,成績評価の基準(大学として統一方針)
○上記に基づく学修成果を明示するのにふさわしい学位と専攻分野の名称
○論文数・論文被引用数
○研究活動の活発さや優れた研究成果を示す指標(特許数やベンチャー,スピンオフ等)
○海外研究機関との共同研究・連携に関する情報
○研究に要したインプット(大学の総収入と研究費等)
○協定を締結している海外の大学
○上記大学との教員・学生交流や単位互換,ダブル・ディグリー・プログラム等の実績を示す指標
○国内外の大学によるネットワークへの参加状況等
○明確な目標の設定
○国際的な諸課題への取組の姿勢
○情報を収集,分析する機能の充実
○各国からの留学生受入数
○入学手続に関する項目:入学要件(年齢・学歴)及び卒業資格要件,渡日前入学や独自の現地入試実施,日本留学試験の利用状況等
○入学後の生活に関する項目:宿舎整備,日本語指導,カウンセリング,学内文書の英語化,経済的支援等
○入学後の教育に関する項目:教育支援員やTA,RAによるサポート,留学生のTA,RAとしての活用
○学位取得に関する項目
○学位取得後の就職等の状況に関する項目:就職後の進路,海外におけるインターンシップを含む企業との連携状況,OB会など卒業後のネットワーク形成状況等
○英語による授業のみで学位を取得可能なコースの設置状況
○大学間交流協定に基づく交流プログラムの設定状況等
教育情報の公表に関連して,今後さらに具体的な検討を要する課題として,以下を挙げることができる。
これまでの大学審議会や中央教育審議会の答申,また,それを踏まえた大学設置基準の改正を通じて,各大学では,授業科目名やシラバスを学内に明示することが定着しつつある。しかしながら,現段階では,同一大学内でも,異なる学部や,異なる専攻分野の間で,その取扱い方針が統一されていないことが少なくない。
シラバス等の教育情報の公表を進めるに当たり,こうした組織間の差異を克服し,計画的な履修方針に基づいた授業科目名や,その体系(例えば,ナンバリング)を,大学としての統一方針に基づいて構築していくことが求められる。
教育情報を,各大学が同じような形式で,ホームページに公表できるような仕組みの開発や,海外の事例を踏まえたデータベースの構築等,学生や保護者に分かりやすい情報が提供されるよう検討を進めることが望まれる。
上記と関連して,ユネスコの「高等教育機関に関する情報ポータル」は,大学教育の質保証に関する国際的な情報ネットワークであり,既に多くの国が参加しており,こうした国を越えて各国の大学情報を客観的に発信する取組を充実していくことが期待される(http://portal.unesco.org/education/en/ev.php-URL_ID=56729&URL_DO=DO_TOPIC&URL_SECTION=201.html)。
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室
-- 登録:平成22年07月 --