第3 教育研究機能の充実のための組織基盤の強化

1 我が国の大学システムとそれに応じた政策展開

(大学の設置形態に関する諸外国と我が国の比較)

 大学の設置形態を比較すると,欧州では,国立又は州立大学が多くを占め,その教育研究活動や,学生への奨学金等に対し,政府が財政支援を行っている。また,米国では,私立が大学数の7割を占めるが,学生の7割は州立大学に在籍しており,連邦政府や州政府の財政支援に加え,奨学金等の学生支援が充実している。
 それに対し,我が国の大学は,国公私立の各設置形態により構成されており,大学数,学生数ともに私立大学が7割以上を占め,教育支出の私費負担割合,特に,家計負担割合が高い状況にある。

(我が国の歴史的経緯とそれを踏まえた複合的な大学システム)

 また,我が国の大学を,歴史的視点からとらえると,明治以降の近代化や,戦後の経済発展における人材養成等,知的基盤の形成や社会経済の発展・成長に,大学は大きく貢献してきた。その際,大学は,設置形態を通じて共通に期待される役割・機能を有することを基盤とし,その上に,設置形態ごとの多彩な特色を生かした教育研究活動を展開して,国公私立大学の全体を通じた複合的な大学システムが発展してきた。
 このことを歴史的・国際的に共通に確立されてきた大学制度の考え方により敷衍すれば,大学は,その設置形態を問わず,憲法に保障された学問の自由と,そこに含まれる大学の自治の理念に基づき,自律的運営により,自由な研究とその研究に裏付けられた教育を行う存在であり,このことは国公私立大学すべてに共通するものである。
 また,我が国の大学は,複数の設置形態に加え,同一の設置形態であっても,総合大学や単科大学等,規模も様々であり,それぞれを構成する学部の分野も様々であって,こうした多様な大学の教育研究活動が源泉となって,これまでの経済・社会・文化の発展を支える幅広い分野の人材養成や学術の進展が実現されてきた。

(「将来像答申」における機能別分化の考え方)

 平成17年の「将来像答申」は,このような我が国の実情を踏まえて,今後の在り方を論じている。
 同答申は,各大学が,その個性・特色に応じて機能別に分化していくことを想定し,それを尊重・促進しつつ大学改革を進めることを提唱している。また,各大学の個性・特色は,各大学が自ら選択するものであり,国公私立大学に期待される使命や役割等の区別は,必ずしも一律かつ絶対的なものではないものの,時代や社会の要請に応じつつ形成され制度に反映されてきた国公私立大学の特色を意識しておくことは,高等教育の発展と国公私それぞれへの支援の在り方を考える上で,今日でもなお十分に意義を有するとの観点に立っている。
 この答申以後,数年の間に,答申の内容に沿った様々な制度的・財政的な仕組みが整備されつつある。

(国立大学)

 このような我が国の各大学のうち,国立大学は,法律によって設置され,国からの財政措置に大きく支えられている。その一方,文部科学大臣による学長と監事の任命,中期目標の提示・中期計画の認可,教職員の身分等に関し,国の関与等が設けられており,また,国の審議会である国立大学法人評価委員会による評価等を通じて,国立大学の教育研究活動や組織運営に関し,不断の評価と検証が求められている。
 国立大学は,その存立基盤や制度的特色に照らして,1.人文社会から自然科学分野にわたる世界最高水準の教育研究の推進や,大規模の施設・設備を要する研究,2.社会的な需要は必ずしも多くなくとも多様な価値観を創造する学問の承継・発展,3.教員,医師等の社会的要請に応じた計画的な人材養成,4.全国的な高等教育の機会均等の確保,5.地域の産業界等と連携して,地域活性化を図る知的拠点の中核,などの役割・機能を,主な使命として担っている。
 これらの役割・機能には,国公私立の設置形態を問わず,大学全体に共通とされるものもあり,また,個々の大学の状況は多様であるが,国立大学全体として,国の高等教育政策をより直接的に体現し,大学改革を牽引する役割・機能を担うことが期待される。

(公立大学)

 公立大学は,地方公共団体が設置するという性格から,地域社会が求める人材の養成や,多様な教育機会の確保等,地域固有の政策を,より直接的に体現する役割・機能を担っている。その教育研究活動は,地域の課題や歴史的経緯を背景として,看護・保健医療・福祉等の超高齢社会への対応,地域産業の活性化,芸術文化の振興,地域の国際化への対応など多岐に及び,それぞれの地域のニーズに応じながら,社会,経済・産業,文化等の発展に貢献している。
 各公立大学の規模は,総合大学や単科大学等,多様であるが,近年,大学数・学生数とも増加傾向にあり,全国的にも,地域の知的拠点としての期待が高まっている。

(私立大学)

 私立大学は,建学の精神に基づく特質を活かした教育研究を担うなど,我が国の高等教育の質・量の両面にわたる発展に貢献してきた。その上で,基礎・応用・開発の幅広い研究,社会の先端的動向を先取りした教育内容・方法の開発,地域から国際社会まで多様な舞台で活躍する人材養成など,私立大学は,極めて多様な教育研究を展開しており,公教育の重要な一翼を担い,高い公共性と社会的責任を有している。
 今後も,私立大学の特色である自主性が尊重されつつ,それぞれの個性・特色を生かした発展が期待される。

(国公私立大学全体の活性化)

 このように,国公私立大学が,設置形態による特色と,大学としての共通点を踏まえて協調・協力し,社会的変化・要請にこたえながら,大学全体の活性化を図り,我が国の持続的な発展・成長の基盤としての役割を果たしていくことが重要である。
 その際,「将来像答申」にあるように,国公私立大学に期待される使命や役割等の区別は,必ずしも一律かつ絶対的なものではなく,各大学は,それぞれの設置形態において,個性・特色に応じて,個別・具体的に求められる使命や役割を果たしながら,機能別に分化していくことが想定される。高等教育政策の推進に当たっては,各大学が,それぞれの歴史的経緯や分野・地域の状況により,多様な役割を果たしている状況を十分に踏まえなければならない。

2 大学への財政支援

 国から大学への財政支援は,大学の教育研究活動を継続的・安定的に支える基盤的経費(国立大学法人運営費交付金,施設整備費補助金,私学助成等)と,奨学金等の学生に対する経済的支援の大きく二つであった。これに加えて,平成14年度から,国公私立大学を通じた競争的な環境下で,大学の組織的な教育改革に関する新たな取組や,社会的要請に対応した取組への財政支援が行われている。
 このほか,教員個人の研究活動に対する科学研究費補助金や,国家的課題に対応する研究プロジェクトへの支援等が行われている。
 大学への財政支援に当たっては,これらを総合的に展開し,全体として効果を上げることを基本とすべきである。
 なお,我が国では,高等教育への公財政支出の対GDP比が,国民負担率(租税負担率+社会保障負担率)の低さや,少子化の状況を加味しても,国際的に低く,その一方,私費負担の割合が多い状況にある。そうした中で,我が国の大学財政における公費と私費の負担の在り方をどう考えるか,今後,短期的な観点のみならず,中長期的な観点から検討を進めていく必要がある。その際,特に,大学数・学生数とも7割以上を占める私立大学への公財政支援の充実方策について留意しなければならない。

(1)大学の組織的活動に対する支援

 基盤的経費と,国公私立大学を通じた大学教育改革に関する支援は,両者あいまった支援方策(デュアル・サポート)として,教育の質保証・向上や,個性・特色の明確化と,機能別分化を促すために重要な役割・機能を果たしている。
 しかしながら,それぞれの支援を通じた成果や,事業が効率的・効果的に行われたか検証したり,その検証結果を踏まえて施策を提言・展開したりすることが十分でなかったとの指摘がなされている。
 なお,大学の財務環境の面では,寄附金や受託研究等の企業等からの資金も重要な役割を果たしており,他の支援方策と組み合わせて教育研究環境を整備する観点から,税制上の措置の活用を含む環境整備を進める必要がある。

1.大学を支える基盤的経費への支援

(現状と課題)

 大学の基盤的経費は,各大学において,教職員の人件費,教育研究の高度化に対応する施設・設備や,経済的に困難な学生への授業料減免等のために措置されている。これらの国による支援は,大学の教育研究の特性を踏まえ,教員の自由な発想に基づく研究活動や,それに基づく高度な教育を,自律的な大学運営の下で,継続的・安定的に行うために不可欠である。
 この数年間,国公私立大学の法人形態に係る改革が,大学改革の一環として行われ,それによる経営改善の努力が進んでいる。一方,経済の停滞による税収の伸び悩みや,国債発行残高の大幅な増加等に伴う厳しい歳出削減の一環として,国公私立大学の基盤的経費はおおむね削減傾向が続いてきた。

(国立大学)

 平成16年度以降,国立大学法人運営費交付金が,毎年度減額(平成22年度までに830億円の削減)となっており,施設整備費も平成16年度以降,それ以前と比べて低い水準で推移している。また,国家公務員に準じた人件費改革の一環として削減の取組を行うことが求められ,このことが教育研究に深刻な影響を及ぼしつつある。

(公立大学)

 地方公共団体が負担する設置・管理経費に対し,地方交付税交付金の普通交付税額の算定のための基準財政需要額への算入という形での措置がなされている。平成16年度以降,一定の基準に基づく単位費用が削減傾向(平成22年度までの6年間で26%減)にあり,厳しい財政状況ながら,地方公共団体の努力により,必要額を確保しているものの,多くの公立大学で教職員の人件費等が削減されるといった影響が出ている。

(私立大学)

 経常費補助金による補助割合が,経常費全体の約1割となっており,平成18年度から平成22年度にかけて減少傾向(削減額91億円,削減率2.7%)にある。また,収入で支出を賄えない学校法人も増加し,特に地方の中小規模大学の経営状況が厳しくなっており,教職員一人当たり人件費や,施設・設備支出が減少するなどの影響が出ている。
(注:これらは平成22年6月現在の現状)

 このような状況において,教員の研究に携わる時間の減少,教育研究に必要な設備や大学附属病院等の施設設備の更新の遅れ,図書館等資料費の減少等,大学の日常的な教育研究活動や学生支援に与える影響が懸念される。

(今後の改善の方向性)

 大学は,新しい時代の変化や社会的要請にこたえ,多様かつ広範な分野にわたる学術研究を総合的に行い,人類の知的資産となる新しい知識と技術を創造・蓄積するとともに,それを踏まえた教育活動を通じて,次代を担う人材を養成するなど,本来的な使命を持っている。
 現下の厳しい財政状況であっても,大学が,こうした役割・機能を十分に担えるよう,継続的・安定的な教育研究活動を維持・発展させるために必要な基盤的経費の確保が求められる。また,大学の教育研究の特性を踏まえ,教育研究に直接携わる要員の人件費確保に特に配慮することが重要である。
 その際,自主的・自律的な存在である大学は,大学への公財政支出が,大学としての機能の効果的な発揮を求めて,国民から負託されたものであることを自覚し,大学の教育研究への影響を含めた評価・検証等を行い,その成果を活用し,大学の経営改善を図りながら,その資源を適正に管理し,最大限有効に活用すべきことに留意する必要がある。

2.国公私立大学を通じた大学教育改革の支援

(現状と課題)

 国公私立大学を通じた大学教育改革の支援には,
 ○大学に対する社会的要請を踏まえる必要があること,また,
 ○大学が,学びの内容と水準を保証するため,体系性・一貫性のある教育課程を整え,それに基づいて教育を行い,その学修成果に対応する学位を授与するという学位プログラムの確立を促すこと,

が重要である。そうした認識に基づいて,大学・産業界等の関係者からの意見聴取を踏まえつつ,これまでの成果と課題を整理すると,以下のとおりである。

○取組の成果
(大学教育の活性化)
  • 申請・採択を通じて改革意識が向上し,教育力を高める取組に意欲。
  • 学部・研究科を超えた改革を通じ,学長等がリーダーシップを発揮。
  • 支援対象大学に限らず,取組の成果が他大学にも波及。
(教育研究活動の改善)
  • 大学の教育研究の特色が明確化。
  • グローバル化の中で,我が国の大学の国際化の推進に貢献。
  • 地域や産業界等の社会の要請にこたえる人材養成機能が強化。
  • 支援対象大学において,支援終了後も事業が継続・発展。
○課題
  • 各事業の目的と,政策目標との関係性の再整理。
  • 他の競争的資金等と重複や混同が生じないよう,目的の一層の明確化。
  • 申請や事業の運用に係る事務負担軽減等。
  • 審査・選考過程の一層の透明化,各大学のインセンティブとなる成果の把握・分析,検証・評価の考え方や基準の明確化。
  • 事業終了後の成果等のフォローアップ体制の充実。
(今後の改善の方向性)

 大学教育の質保証を強化し,あわせて,各大学が主体的に自らの個性・特色を明確にし,機能別に分化していくよう支援し,さらに,そうした取組が国民に分かりやすいものとなるよう,次の改善の検討を進める。

主な検討課題
(ア)事業全体について

○明確な教育目標,修得すべき知識・能力の体系を備えた学位プログラムを提供する取組への支援を強化し,事業目的を明確化。
○社会的要請が高く,また,大学教育政策として優先順位が高いものを分かりやすく示し,重点的に支援。

(社会的要請が高い政策課題として考えられる例)

  • 環境,医療等の成長を牽引する人材養成の世界トップレベルの大学院教育
  • アジアをはじめとする国際舞台で活躍する人材養成
  • 地域活性化に貢献する人材養成
  • 学生の就業力育成
  • 学びたいときに学ぶことができる社会人の学修支援
  • そのほか,教育の質の向上・保証

○教育取組の成果・効果を測る指標の明確化。
○大学間や地域・産業界等との連携体制の構築。
○手続きの簡素化による負担軽減等,大幅な運用の改善。
○成果や進捗状況を踏まえ,適宜,見直しを行う仕組み。

(イ)世界レベルの卓越した教育研究拠点形成への支援

○大学院教育プログラムの指標等の明確化。
○産学官連携の下での大学院博士課程教育の実施,多様なキャリアパスの確立。
○事業期間終了後,特に優れた取組を充実・発展させる仕組み。

(ウ)競争的な環境下で大学教育を改善する取組への支援

○申請,採択において,情報公開や機能別分化を促進する方策を検討。
○成果を国民に分かりやすく示し,他大学への波及効果を高める仕組み。

(2)学生への経済的支援

(現状と課題)

 国公私立を問わず,大学の授業料は年々上昇し,教育費の私費負担が増加傾向にある。経済的に困難な状況にある者が,教育費の負担増を恐れ,進学を断念することがないよう,教育の機会均等を図る観点から,教育費負担を軽減することが課題となっている。
 また,進学希望者が,将来の経済的負担を見通すことができるよう,奨学金等の経済的支援に関し,情報の提供と相談体制の整備も欠かせない。

(今後の改善の方向性)

 すべての意欲と能力がある者が高等教育を受けられるよう,学生への経済的支援について,次の検討を進める。

主な検討課題
(ア)総合的な経済的支援の在り方

○低所得層の学生への授業料減免事業や奨学金による国の支援策の充実。
○諸外国の施策を参考とした給付奨学金,教育費減税の在り方,大学の自主的な経済的支援等の検討。
○優秀な学生が,経済的な不安を抱えずに大学院進学を果たし,自立して教育研究活動へ参画し,高度な能力を修得させるため,TA,RA,研究奨励金(フェローシップ)等の充実。
○大学の設置形態に配慮した教育費負担軽減の在り方についての議論。

(イ)個人のニーズに応じたきめ細かな支援の在り方

○各大学は,進学コストの提示と経済的支援の見通し(ファイナンシャル・プラン)の作成支援,高等学校も含む情報提供,相談体制の強化。
○大学・大学院の卒業・修了者の雇用や所得に関する現状等を踏まえ,経済的困窮等の場合の返還猶予制度のほかに,所得等に応じた減額返還制度の導入。また,そうした制度について周知。

3 私立大学の健全な発展

(1) 現状と課題

 我が国の大学の過半を私立が占めており,私立大学の教育研究活動の質的向上は極めて重要である。しかしながら,18歳人口の急激な減少や大学数の増加により,私立大学のうち,入学定員が未充足のところや,単年度収支がマイナスとなるところの割合が増加している。この傾向は,特に,都市部以外の中小規模大学で顕著であり,さらに,昨今の国際金融情勢の影響により,資産の減損による運用収入の縮小,寄附金収入の減少等が見られる。
 大学が,社会の負託にこたえ,質の高い教育研究活動を持続的に実施するには,経営基盤の安定が不可欠であり,学校法人の経営基盤が全体として悪化傾向にある中,学校法人の経営改善に向けた取組を,さらに強化しなければならない。
 あわせて,各私立大学は,自主的・自律的な機能別分化を通じて,自らの特色を発揮し,経営資源の有効活用に取り組むことが求められる。具体的には,経営状況の分析・見通しを適切に行い,重点的に展開すべき分野を選別し,経営上看過できない状況に至る前に,自らの進むべき方向性を検討・判断できるよう備えることが重要である。
 また,大学は,地域・社会や学生との信頼関係を築きながら,そうした者の視点を重視した教育活動を行うことが求められる。そのためにも,学校法人は,その設置する大学の教育プログラムや,学生の卒業後の進路動向,財務・経営状況等の情報に関し,一層の公表・公開を推進することが有効である。

(2) 今後の改善の方向性

1.経営指導・経営相談の充実

 学校法人の経営改善は,自己努力・自己責任が原則であり,従来,学校法人に対する経営支援は,その自主性に配慮し,謙抑的になされてきた。
 しかしながら,現下の厳しい経営環境にかんがみ,経営改善に努力しようとする学校法人に対し,より一層きめ細かい支援を行うことが課題になっている。
 そこで,今後,文部科学省と日本私立学校振興・共済事業団(以下,「私学事業団」という。)の経営支援機能を充実し,

○自己の強みを最大限活用した「自立・発展」
○規模のメリットを活用し,相互補完効果を生む「連携・共同」
○不採算部門の縮小・廃止を行う「撤退」

といった,将来的な方向性を早期に判断し得るよう促すことが求められる。
 具体的には,経営相談の際に,以下の3つの事項をきめ細かく実施することが考えられる。

○経営相談を全国的に展開し,地方の学校法人への対応がより機動的に進められるようにすること,
○経営が悪化傾向にある学校法人に対し,早期に経営診断を受けるよう積極的に呼びかけること,
○私学経営に関する専門的知識を有した人材の確保や事例の収集など,専門性を高めること。

 また,文部科学省と私学事業団では,学校法人の経営者が,経営状況の把握,改善に向けた方向性の認識,改善計画の実行,のいずれの段階でも,経営相談を受けやすくするよう配慮することが重要である。
 あわせて,万が一の経営破綻等の場合に備え,学生の修学機会を確保する観点から,転学を支援する仕組みを構築するなど,学生のセーフティーネットを整備していくことが望まれる。

具体的施策
(ア) 経営相談機能の充実
(私学事業団において実施)

○理事長・学長を対象とするリ‐ダ‐ズセミナ‐を全国で開催。
○専門家の人材バンクを創設(私学経営の専門的知識を有した人材を登録・管理し,学校法人の要望に応じて活用)。
○連携・共同の情報を収集・提供(コンソ‐シアムや共同学部・共同事務局の設置,施設の共同利用等の事例や,学校法人の意向・要望等)。
○経営の分析,診断,指導・助言を積極的に実施(経営悪化傾向の学校法人が,早期に経営診断を受けるよう呼びかけ。学校法人の依頼に応じ,将来的な経営改革を提案。また,学校法人の経営の状況と見通しを分析・診断・指導助言できるよう,経営判断指標の精緻化と活用)。

(文部科学省において実施)

○学校法人運営調査委員を積極的に活用(経営悪化傾向にある学校法人への調査を集中的に実施)。

(イ)自己の強みを最大限活用した取組の支援
(大学機能の高度化を推進する取組の支援)

○我が国の成長を支える教育研究の基盤形成や,東アジア地域など世界を視野に入れた人材育成(例:成長分野における人材育成プログラム,社会人の就業やキャリア・アップにつながる学修プログラム 等)。

(経営改善を促進するための私学助成)

○「募集定員」を参酌した私学助成(学則定員を下回る「募集定員」(一定期間)を参酌した措置を講じるなど,適切な定員規模に誘導)。
○我が国全体として,適切な条件により大学教育が行われるよう,定員管理の取扱いの適正化(私学助成で,地域の高等教育機会の確保や大学の規模に配慮しつつ,定員超過した大学に対する補助金の減額措置を一層強化。
国立大学でも,定員超過への対応の取組をさらに進める)。
○経営改善のインセンティヴとなるような私学助成の工夫。

(ウ) 教育研究機能の充実のため,大学間の連携・共同の取組の支援

○学校法人や大学の合併・統合計画を重点的に支援(私学助成での取組)。
○大学・短大間の連携に向けた共同事務局設置や教育プログラムの共同実施,施設の共同利用の推進・支援(国公私を通じた取組)。
○複数の大学・短大を通じた専門的知識・技能の学修プログラムの推進。
○連携の枠組みづくりのため,各地域に,国公私立大学,地方自治体,産業界等からなる協議会の設立を促進。

(エ) 円滑な学生募集停止,学校再生の取組の支援 

○学生募集停止に関するガイドラインの作成・提供。
 ・募集停止を実施する上で参考となる留意事項を整理したガイドライン
 ・募集停止となるキャンパスについて,再活用を希望する学校法人を募集
する選択肢
○学校再生のための専門家の人材バンクを創設(再掲)。

(オ) 学生のセーフティーネットの整備(転学生の受入れに関する当面の支援)

○転学受入れ校に対する補助金の措置。
 ・募集停止や経営破綻した大学から転学生を受け入れる大学に,補講や入学金・授業料の差額の補填に必要な経費を支援
 ・転学生の受入れ校は,私学助成上,定員超過の際の減額措置の例外
○転学を希望する学生の受入れと,学籍簿の管理。
 ・転学を希望する学生の近隣大学での受入れが不可能な場合,本人の意向を踏まえ,放送大学で可能な限り受け入れ
 ・経営破綻等により学校法人が解散した場合の学籍簿の管理について検討

2.財務・経営に関する情報公開の促進

 大学の情報の公開については,大学やその設置者の特性,対象となる情報の種類や対象者等を考慮した上で,公開すべき情報の種類と範囲を検討しなければならない。
 このうち,1.学校教育法に定める学校として,その教育情報を公表することについては,学校教育法施行規則等の改正により,公表すべき情報の種類と範囲が明らかにされたところである。一方,財務・経営に関する情報については,国公私立大学のそれぞれの特性に配慮しつつ,設置形態を通じて同等程度の情報が自主的に一般に公開されることを促すべきである。
 そうしたことを踏まえ,私立大学関係団体では,大学法人の財務・経営情報の公開に関して調査・検討を進め,平成22年7月には,情報公開の項目例等に関する自主的な取組目標について中間報告を行っている。そこでは,以下の2つの基本的視点を掲げている。

○私立大学は,その役割の重要性と高度の公共性にかんがみ,教育方針やその内容とともに,財務・経営の透明性を図り,広く社会一般にその存在意義を明らかにすること。
○私立大学が,知識基盤社会における必要不可欠な存在として,今後もその使命を果たしていくためには,社会一般に開かれ,幅広い層からの理解と評価を得ることが肝要であること。

 その上で,公開に当たって,3つの考え方を整理している。
(ア)公開する項目は,財務の状況(財産目録,貸借対照表,収支計算書等)のほか,学校法人の概要(建学の理念・精神,将来のビジョン,沿革,設置学校等),事業の概要(主な事業計画,教育研究や学生支援の概要等),
(イ)公開する書類は事業報告書の形式とし,刊行物・インターネットの利用その他広く周知を図ることができる方法によって行う,
(ウ)情報公開の基本的考え方,公開する項目等について,私学団体を通じて周知を図る,

 こうした取組を踏まえつつ,各大学においては,積極的な情報公開が進むことが期待される。
 また,文部科学省は,各学校法人に,積極的な情報公開を促すとともに,会計方針の取扱いなど,情報内容の一層の共通化・充実に向けた検討が望まれる。将来的には,状況に応じて必要な事項を法令等で明確化することも視野に入れ,情報公開を促進する環境を整備することが重要である。
 さらに,私学助成を受けている学校法人については,そのことを踏まえた取組が必要である。

3.公財政措置の充実

 以上で述べたように,我が国の成長を支える私立大学が経営改善や情報公開を実施しながら,将来に向けて発展していくためには,その多様な機能に着目して,基盤的経費の助成と競争的資金配分を有効に組み合わせ,多元的できめ細かなファンディング・システムを充実することが望まれる。
 私立大学における人材育成や先端的・独創的研究,社会貢献活動を一層促進するために,私学助成を拡充し,基盤的経費の助成を充実するとともに,我が国の政策的課題への各大学の個性・特色ある取組を財政的に支援することが重要である。
 また,学校運営の財源の多様化は,学校法人の経営基盤の安定化に寄与し,大学の社会貢献を一層促すためにも有効であり,国は,学校法人のそうした努力を積極的に支援する。各大学が,幅広い社会の各層からの理解と支持を得て,個人や民間企業など社会全体から広く寄附金が集まるよう,寄附税制の拡充を図り,我が国において寄附文化の醸成を図っていくことが求められる。

具体的施策
○私学助成等の充実

・私立大学の多様な発展を一層促進するために,基盤的経費の助成を拡充,我が国の政策的課題への大学の個性・特色のある取組を支援。

○幅広い社会の各層から広く寄付金が集まるよう寄附税制の一層の充実。

4 幅広い年齢層の者が学ぶ大学教育の推進

(1)これまでの施策と課題

1.これまでの施策

(幅広い年齢層の者の大学就学を促進する制度改正)

 これまでの大学審議会や中央教育審議会の答申を踏まえて,以下の改革が講じられてきた。

(ア)設置認可の抑制の例外として,社会人受入れのための大学等の設置・収容定員増を認める(昭和51年から平成14年まで実施し,以後,抑制方針そのものが撤廃)

(イ)大学教育の弾力化
○昼夜開講制(学士課程は平成3年,修士課程は昭和49年,博士課程は平成5年)
○優秀な学生の早期修了(修士課程は平成元年,学士・博士課程は平成11年)
○多様なメディア等を利用して行う授業の実施(平成10年)
○修業年限を超えて在籍する長期履修学生制度(平成14年)
○サテライトキャンパスの制度化(平成15年)
○科目等履修生制度(学士課程は平成3年,修士・博士課程は平成5年)
○履修証明制度(平成19年)

(ウ) 上記(イ)に加え,大学院教育の弾力化
○社会人の博士課程(後期)への入学資格の弾力化(平成元年)
○夜間大学院(修士課程は平成元年,博士課程は平成5年)
○修士課程における優秀な学生の早期修了(平成元年)
○修士課程の標準修業年限に関し,短期在学コース(平成11年)と長期在学コース(平成11年,なお,夜間の場合は平成元年)
○通信教育(修士課程は平成10年,博士課程は平成14年)

(幅広い年齢層の者の学修に係る経済的負担の軽減)

 社会人の学修に係る経済的負担の軽減策として,次のものが挙げられる。
 ○奨学金事業や授業料等の減免制度
 ○教育訓練給付制度における指定講座制度の活用
 ○社会人を大学に派遣する企業等の経済的負担軽減策として,中小企業が雇用者を大学等に派遣する場合の法人税額控除

(公務員の休業制度)

 公立学校の教員が,大学に修学して専修免許状を取得できるよう,「大学院修学休業制度」が,平成12年に創設されている。国家公務員でも,平成19年に,大学等での修学や国際貢献活動を希望する職員のための休業制度が導入された。これらと類似の制度を設ける国立大学法人も見られる。

2.依然として伸び悩む社会人の大学就学

 このように,これまで大学制度の弾力化をはじめ,社会人の学修に係る負担を軽減する施策が講じられてきた。
 我が国の大学院に関しては,調査によれば,大学を卒業した就業者のうち,「機会があれば,修士課程に修学したい」と考える者は15%であり,これに「関心はある」とする者を含めると49%に達する。しかし,実際に大学を活用したことがある就業者は12%であり,大学院への入学者に占める社会人学生の割合は17%にとどまる。
 また,高等学校を卒業して就業している者のうち,大学を活用したことのある者は3%に過ぎない。国際比較でも,大学の学士課程等に相当する課程への入学者のうち,25歳以上の者の割合は,OECD平均が21%であるのに対し,我が国では2%(通学制と通信制の合計)と推計され,極めて低い水準にある。
 こうした状況について,我が国では,学修目的に合った教育プログラムの不在や,職業との両立や時間・費用が大学就学を妨げる要因となっている,などの指摘がある。

(2) 今後の対応

(幅広い年齢層の者の大学教育への受入れを促進する意義)

 人口構造・産業構造・社会構造が大きく変わる中,大学における社会人受入れの促進は,我が国の知的資本としての成人層の能力向上という,我が国社会全体の課題への対応策として取り組まれるべきである。
 幅広い年齢層の者が大学教育で学ぶことは,

 ○多様かつ明確な学修ニーズを持つ一人ひとりの要請にこたえる,
 ○そうした活動は,大学に対する社会的要請にこたえる,
 ○様々な年齢層の学生が就学することは,大学教育の現代化に寄与する,

といった意義がある。

(教育プログラムの整備において,学習者層として想定される者)

 これまで,各大学では,社会人のリカレント教育や生涯学習機会の提供を目的として,社会人向けの教育プログラムが実施されてきた。今後は,大学が,社会の成長や経済の活性化を支える知的資本として,社会人の能力向上の機会を提供するという社会的要請にこたえていくことが必要である。その際,学ぶ意欲を持つ者のそれぞれの目的(以下の例を参照)に応じ,教育プログラムを編成・実施することが,幅広い年齢層の学修を促進すると考えられる。

1.就業者のうち,自主的に,又は企業研修等として就学する者

(学ぶ目的の例)専門的知識・技能の向上,業務の高度化・現代化に伴う知識・技能の獲得(情報化,国際化,労働集約化,制度改正への対応等),企業経営の中核を担うための職能開発等。

2.厳しい雇用情勢等を背景として,自己の職業能力開発に取り組む20~30代の若年層

(学ぶ目的の例)就業に必要な職業知識・技能の修得等。

3.子育て等に従事する女性のうち,就業を中断後,復職等を希望する者(特に,医師,看護師,保育士等の資格職業への復職希望者)や,新たに就業を希望する者

(学ぶ目的の例)復職希望者の場合は自らの職業に係る知識・技能の現代化,就業希望者の場合は就業に必要な職業知識・技能の修得等。

4.退職等を迎えた高齢者

(学ぶ目的の例)職業経験を生かした起業(営利目的,社会貢献目的の双方を含む)等の準備や,地域活動への参画の準備等。
 また,就業等を直接の目的としない者も,生き生きとした生活を送るため,生活の一部として継続的な学ぶ機会を求めることが想定される。

(大学と国に期待される取組)

 大学の機能別分化が進む中,とりわけ,幅広い職業人養成等に重点を置く大学や,短期大学では,企業や公的部門の教育・訓練との連携をはじめとして,産業界や地域と密接に関わりながら,社会人等の需要に対応した学修内容・方法を開発,提供していくことが期待される。
 今後,幅広い年齢層の者が恒常的に大学で学び,その成果をもって,職業生活や地域社会でさらに活躍できる社会を目指して,大学と産業界や地域社会が一体となって取り組むことが重要である。

1.大学に期待される取組
(ア)大学教育の充実と学修成果の評価
○社会人の学修動機にこたえる学位プログラムの編成

 学修を通じて修得できる知識・技能を明確化し,授与する学位の分野を教育内容に則したものとする。そうした情報を公表。

○履修証明制度の活用の促進

 地域の需要に対応した人材育成プログラムや,産業界や自治体の研修と連携。

○大学間連携により地域の需要に対応した教育プログラムの実施

 地域の大学群全体での人材養成のため,施設設備の共同整備や教育資源の効率的・効果的活用。産業界,自治体,関係機関と連携し,地域の人材育成需要に対応した教育プログラムを実施。

(イ)大学就学に係る負担の軽減
○情報通信技術を活用した多様・柔軟な学修方法

 情報通信技術や,これまでの制度改正を活用し,社会人に配慮した多様・柔軟な学習方法を提供。こうした学修を可能とする学内体制や学校運営体制を整備。

○経済的負担の軽減

 社会人,高齢者等の多様な年齢層を対象とする経済的負担の軽減(入学料免除,単位制授業料,授業料分割納入制度,授業料減免措置,奨学金制度等)。履修や経済支援の情報提供・相談を行う体制を整備。

○大学就学と職業生活の両立を図る学習環境の構築

 企業・産業界との連携を強化し,企業等の人材育成での大学教育の活用を促す。地域の産業界,自治体,関係機関と連携した地域の需要に対応した人材育成,コミュニティ形成支援を進め,「地域で学び,地域で働く」環境を構築。

2.国の支援策
(ア) 大学教育の充実と学修成果の評価
○社会人の学修動機にこたえる学位プログラムの編成支援

1.に関する大学の取組を促進。

○履修証明制度の活用の促進

 履修証明制度の改善を図る(制度面,運用面)。履修証明制度と他制度等の連携
(ジョブ・カード制度との連携強化,教育訓練給付制度の活用等)。

○学校種を超えた,教育プログラムや修得技能レベル等の認証システム

 諸外国の資格枠組み制度も参考に,学校種を超えた技術教育等の教育プログラムや修得技能レベル等の認証システムを構築。これにより,履修証明制度の職業能力等の証明としての活用を支援・促進。

○大学間連携による地域の人材育成需要に対応した教育プログラムの支援

 大学間連携や大学と産業界,自治体,関係機関との連携の媒介役の機能を有する体制の整備により,地域の大学群による人材育成需要に対応した教育プログラム等の実施を促進。

(イ) 大学就学に係る負担の軽減
○通学制と通信制の在り方の見直し等

 多様かつ柔軟な学修を可能とする観点から,通学制と通信制の区分の在り方を,区分の存続の是非も含めて見直し。また,学位の分野ごとの教育内容の標準化や共通教材の作成を推進。公民館等の教育施設を活用して地域住民の身近な場所で大学教育を提供し,その学修の累積による学位取得を可能とする。

○経済的負担の軽減

 社会人,高齢者等の多様な学習者を対象とする経済的負担軽減策を充実(各大学の取組の促進,奨学金制度,税制優遇措置等)。また,企業の人材育成投資の促進(人材投資税制の拡充等)。各大学における履修や経済支援に関する情報提供・相談を行う体制の整備を支援。

○大学就学と職業生活の両立を図る就労環境の構築

 雇用者の大学就学と職業生活の両立を図る企業の行動指針を策定。大学就学を希望する社会人の支援や,企業等の人材育成における大学教育の活用を促進。

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高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)