第1 全体的な審議状況

(分科会の審議とその体制)

 中央教育審議会大学分科会(以下「分科会」とする。)では,中長期的な大学教育の在り方について審議を進めている。
 分科会では,中長期的な大学教育の在り方の審議のために,部会・ワーキンググループ(以下「WG」とする。)を設け,個別テーマの議論を深めることとしている。部会には,「質保証システム部会」,「大学院部会」,「大学規模・大学経営部会」,「大学行財政部会」,「認証評価機関の認証に関する審査委員会」,「法科大学院特別委員会」がある。WGには,「大学グローバル化検討WG」,「国際的な大学評価活動に関するWG」等があり,加えて,大学院部会には,分野別の「人社系WG」,「理工農系WG」,「医療系WG」と「専門職学位課程WG」がある。

(「第三次報告」までの審議状況)

 分科会では,これまで審議経過の概要を随時公表しており,今回,4回目として,本年2月から6月までの審議経過を取りまとめた。

「第一次報告」から「第三次報告」までの概要

○平成21年6月「第一次報告」

(主な項目)公的な質保証システムに関する論点整理。グローバル化の進展に関する論点整理。大学の量的規模の検討の論点整理。大学の適正規模を踏まえた自主的な組織の見直しの支援の提言。大学教育・学生支援の共同利用拠点制度の創設の提言。

○平成21年8月「第二次報告」

(主な項目)公的な質保証システムに関し,設置基準・設置認可審査・認証評価に関する経緯と課題の整理。また,大学院教育の実質化に関する課題整理。学生の経済的支援の提言。

○平成22年1月「第三次報告」

(主な項目)「社会的・職業的自立に関する指導等」の設置基準改正。教育情報の公表の検討の開始。大学院教育に関する大学の取組の検証の開始。海外大学とのダブル・ティグリー等のガイドライン案の作成。大学の自主的な経営改善への支援の検討課題の整理。社会人学生の受入れ促進支援の検討開始。

 各回の報告に収録している各項目の審議の進展の程度は,それぞれを担っている各部会・WGの議論の状況に応じて,1.制度改正を含む具体的な提言に至っているもの,2.一定の方向性を提示し,更なる審議を要するもの,3.論点整理にとどまり,方向性も含めて具体的な審議を要するもの,など多様となっている。

(平成22年2月以降の審議状況)

 平成22年2月以降,分科会は,3月から6月まで4回開催され,中長期的な大学教育の在り方を中心に審議を行った。

大学分科会の開催状況

○3月17日(第87回)

  • 認証評価機関の認証の答申

○4月28日(第88回)

  • 東アジア域内との質保証を伴う交流の促進
  • 教育情報の公表の促進
  • 社会人学生の受入れ促進

○5月26日(第89回)

  • 大学設置基準等の改正の諮問・答申(教育情報の公表の促進)
  • 私立大学の健全な発展,大学行財政
  • 大学院教育の施策の検証
  • 大学のグローバル化の推進
  • 国際的な情報発信

○6月29日(第90回)

  • 大学院設置基準等の改正の諮問・答申(国際連合大学への対応)
  • 東アジア域内の教育の質保証
  • 大学行財政,大学院教育
  • 大学分科会の審議経過概要の取りまとめ

(上記のほかに,部会・WGが開催されている)

(分科会の審議に基づく諮問・答申)

 学校教育法第94条等により,文部科学大臣は,大学設置基準等の改正に当たり,分科会の議を経ることとされており,分科会では,中長期的な大学教育の在り方に関する審議と並行して,これらについても審議している。
 本年2月以降,第89回分科会では,教育情報の公表の促進のため,学校教育法施行規則の改正にあわせて,大学設置基準等を改正することとされた(概要は「第2」の「1」を参照)。第90回分科会では,国際連合大学が修士・博士課程の教育プログラムを開設することを受けて,国内の大学院入学資格との接続や,単位互換を可能とするため,大学院設置基準等を改正することとされた。
 また,学校教育法第112条等により,認証評価機関を認証するための審査も,分科会の任務とされている。第87回分科会では,「認証評価機関の認証に関する審査委員会」を経て,専門職大学院に関し,新たな認証評価機関を認証することとされた。

(大学を取り巻く諸状況)

 知識基盤社会において,大学は,多様な学問の継承・発展,新たな知識・技術の創造と社会への還元,時代の要請にこたえる知性豊かな人材養成等を行う教育研究拠点として,我が国の持続的な発展と成長に不可欠の存在である。
 加えて,現下の国内外の諸情勢を反映し,大学の社会的役割は一層増大している。国内では,少子高齢化,労働力人口の減少,厳しい経済情勢での雇用や社会・経済的格差への懸念,財政状況の悪化,社会における安全・安心の確保等の様々な課題が生じている。国際社会では,アジア地域の経済活動の一体化の進展,グローバル化に伴う経済競争が激化し,また,地球環境問題や食糧・エネルギー,医療・健康問題等,人類全体で取り組むべき問題が深刻化している。
 このような状況は,我が国が,時代の変化や産業構造の転換等を通じて,新たな発展・成長の道を見出していく好機でもあり,大学教育が,時代にふさわしいリーダーシップの育成や,産業構造の転換に幅広く対応する知識・能力の修得のために果たせる役割は少なくない。
 また,これまで高等教育への進学意欲が全体的に高まる中で,女性の進学率は大学院を含めて上昇しており,今後,大学等の教員や研究者としての採用を含む,女性の能力を発揮できる環境の一層の整備に取り組むことは,我が国の発展と成長にも大きく資するものと考えられる。さらに,我が国では,幅広い年齢層や,多くの国・地域からの学生の割合が高いとは言えず,様々な背景を持つ学生がともに学ぶ環境を整備していくことは,大学が国内外の諸情勢に対応した教育を展開していくに当たり,重要な課題となっている。
 これらの状況を踏まえて,各大学では,それぞれの個性・特色に応じて,様々な改革に積極的に取り組むことが急務となっている。

(大学教育の質保証)

 こうした問題意識を受けて,各部会・WGが扱っている内容は多岐にわたるが,それぞれのテーマは別個のものではなく,相互に関連しており,全体的な視点を要するものが多い。
 その中で,とりわけ課題となるのが,大学教育の質保証である。
 大学教育で保証されるべき質は,学生の学びの内容と水準であり,社会や学生のニーズが多様化・複雑化している中,その質を保証するため,以下の2つの観点を踏まえた施策や事業展開が重要と考えられる。

  1. 大学教育が,学位を与える課程(プログラム)として構成されることに着目した質保証。
  2. 各大学の個性・特色に基づく機能別分化の推進。

(大学教育が,学位プログラムとして構成されることに着目した質保証)

 大学進学率が5割を超え,また,幅広い年齢層の者を対象とする大学教育の展開が課題となっていることを受けて,各大学では,多様化・複雑化する学生・社会からのニーズに的確にこたえた教育に取り組むことが求められる。また,学生の国際的な流動性の高まりや,国境を越えた教育の質保証の潮流をとらえて,各大学では,体系的なカリキュラムの整備と,それに沿った教育の実施,そして,修得すべき専門的知識・技能を明確化することが不可欠となっている。
 このような問題意識は,これまでの中央教育審議会の答申に共通する。
 平成17年1月の「我が国の高等教育の将来像」(将来像答申)では,現在の大学が,学部や研究科等の組織に着目して整理されているのに対し,これを教育の充実の観点から,学士・修士・博士・専門職学位・短期大学士といった学位を与える課程(プログラム)中心の考え方に再整理していく必要性を指摘している。
 この考え方は,同年9月の「新時代の大学院教育」(大学院答申)や,平成20年の「学士課程教育の構築に向けて」(学士課程答申)において,大学院教育(修士課程・博士課程)と学士課程教育の改善・充実が強く求められていることにも引き継がれている。
 大学教育における学位の質の保証に当たっては,以下の考え方に沿って,教育の在り方を検討する必要がある(「第2」以降の各テーマに関連)。
 ○体系的なカリキュラムの整備と,それに沿った教育の実施。
 ○修得すべき専門的知識・技術の明確化。
 ○学位に付される専門分野名が,修得した知識・技術の内容に対応。

(各大学の個性・特色に基づく機能別分化の推進)

 「将来像答申」では,各大学の個性・特色に応じた機能別分化の方向性が提示されている。各大学が,その自主性・自律性に基づき,保有する幾つかの機能の比重の置き方の違いを踏まえて,緩やかに機能別に分化していくことが想定され,それに基づく高等教育政策の充実が提言されており,現在までに,こうした方向性を踏まえた仕組みが整備されつつある。
 今後の大学運営では,個々の大学が,自らの選択に基づき,限られた資源を集中的・効果的に投入し,それぞれの強みを生かしながら発展するとともに,複数の大学が連携協力することで,大学全体として多様な機能が提供され,地域・社会が抱える課題の解決や雇用創出につながる人材養成等を行うことが求められる(「第6」の「4」参照)。

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高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)