第一次報告は,公的な質保証システムについて,その要素である設置基準,設置認可審査,認証評価の課題を挙げつつ,改善の方向性等を示した。その後も,質保証システム部会や,関連する部会又はWGにおいて具体的な審議・検討を継続しており,今回は,これまでの審議・検討を踏まえ,上記の3つの要素に関する歴史的経緯をあらためて整理し,公的な質保証システムの再検討が求められる背景を再確認している。
あわせて,これまでの審議経過に基づき,第一次報告に掲げた検討課題の進捗や,その後の審議で明らかになった課題を整理した。
1.大学は,学生や社会からのニーズの多様化に積極的に対応しつつも,学位を授与する自主的・自律的な存在として,その教育の質を確実に保証しなければならない。大学教育において最終的に保証されるべき質は,学生の学びの内容と水準である。大学教育の質保証とは,第一義的には,大学がそれぞれの教育活動を通して,どのような知識技術体系を修得させることとしているのか,あらかじめ設定し,その設定内容を学生及びその費用負担者に明示した上で,それを確実に実行することである。
また,大学において,一定の内容と水準の教育が行われることを確実にするためには,学内の教職員が,それらの必要性について理解を共有し,学内外の関係者による客観的な評価等にさらされることが肝要である。
公的な質保証システムは,大学の教育活動が一定の内容・水準をもって継続的になされることを可能とするための条件整備を大学が行うとともに,各大学の自主的・自律的な質保証活動が実質的に機能することを促すものである。
2.我が国の公的な質保証システムは,従来,設置基準と,その設置基準等に基づいて行われる設置認可審査による事前規制型であった。これは,大学の自主性・自律性を尊重し,設置認可後の大学に自律的な質保証機能が備わっていることに着目したものであり,我が国の高等教育の整備に際し,質の保証の観点から一定程度の共通性を担保する上で重要な役割を果たしてきた。
3.一方,事前規制型だけでは,教育活動に必要な諸条件の確認にとどまり,実際の教育活動の質を直接的に保証することが難しく,また,進学率の上昇や社会の成熟化に伴い,多様な大学教育が求められる中,事前規制型の質保証システムへの過度の依存は,大学の画一化や,新たな取組の抑制につながる懸念もあった。
そこで,これまで重視されてきた大学の自主性・自律性を踏まえつつも,事前規制だけでない質保証システムを構築していくことが求められた。
4.従来も,設置基準の弾力化,設置認可手続きの見直し,自己点検・評価の義務化等,質保証システムについて順次改善を行ってきたが,我が国の行政システムにおいて,国の規制を可能な限り見直し,事前規制型から事後確認型への移行が求められたことも踏まえ,平成14年に学校教育法を改正し,認証評価制度を導入した(平成16年4月施行)。
設置認可については,平成15年度に,大学設置基準等の法令上の要件を満たせば設置を認可する「準則主義」に転換している。また,認可事項の縮減や,審査を要しない届出制の導入,審査基準の簡素化を図っている。
5.このように,事前規制型から,事前規制及び事後確認の併用型に転換したことにより,我が国の公的な質保証システムは一定水準以上の大学であることを保証する事前規制型の長所と,大学の多様性に配慮しつつ,恒常的に大学の質を保証する事後確認型の長所をあわせもつものとなっている。したがって,公的な質保証システムとしては,この組み合わせが最も効果的・効率的であると考えられる。
6.設置基準,設置認可審査,認証評価の3つの要素からなる公的な質保証システムに関し,後述する様々な課題が見られることを踏まえ,各要素の役割と相互の関係をあらためて検証し,その制度・運用を改善し,質保証システムを充実していくことが課題となっている。
1.大学については,教育基本法における大学の規定(第7条),学校教育法における大学の目的(第83条)や学位の授与(第104条)等により基本的枠組みが定められている。そのような体系の一環として,文部科学省令である大学設置基準が,「大学を設置するのに必要な最低の基準」(第1条)を定めている。
このような学校教育法や,その施行令・施行規則,大学設置基準(さらに,短期大学,大学院等に関する設置基準を含む。)のほか,学位規則等に定める一連の規定内容のうち,大学の基本的な枠組みや条件整備等に関する最低基準を包括して,広義の「設置基準」としてとらえることができる。
2.こうした設置基準(以下では「設置基準」と表記する場合は,上記のとおり,大学設置基準以外の規定を含めて論じることとする。)の内容については,次の4つに大別することができる(対象となる規定は「別表:質保証に関する規定」を参照)。
ア 大学の入学資格や修業年限,組織編成等の基本的枠組みに関する規定
イ 大学が備えるべき教員組織,施設設備等の人的・物的要素の最低基準を定める規定
ウ 大学の教育活動やこれに関連する活動の規範を定める規定
エ 学生の履修や卒業要件に関する規定
3.なお,大学設置基準には,最低基準に関するものとともに,望ましい水準や努力義務等に関する規定も含んでいることに留意しなければならない。
4.設置認可審査においては,設置基準を認可に際しての基準とし,各大学の設置趣旨や人材養成目的に応じた対応,各大学の創意工夫を促す観点から,専門家による高度な専門性に基づく審査(ピア・レビュー)に多くを委ねている。
しかし,設置基準は審査基準そのものではないので,定性的・抽象的な規定も多い。従前は,これを補うため,大学設置・学校法人審議会(設置審)の細則として審査内規等が設けられていたが,順次行われてきた設置基準の弾力化や,平成15年の設置認可の準則化により,審査に当たっての設置基準を補うための規定は廃止されている。
5.このことにより,各大学の主体的な判断による新たな大学等の設置や組織改編が迅速に行われるようになるなどの成果も見られるが,ピア・レビューによる判定に関して,審査基準として適用すべき水準の在り方を常に点検することが不可欠である。
また,設置基準は,申請者側と審査側の双方に,大学についての観念や大学教育の理念に関する共通理解があることを前提に作られている。しかしながら,近年,多様な申請者から,新たな考え方に基づく申請も見られる中で,設置認可審査において判断に苦慮する事例も生じている。そこで,現行の設置基準には定性的・抽象的な規定が多いことを踏まえ,設置認可審査における具体的な判断指針として有効に機能する仕組みを検討することが求められる。
このことは,設置基準を,設置認可後の自律的な質保証の指針として活用していくためにも重要である。
6.さらに,設置認可審査は,書面審査が中心であり,設置基準に定められている事項には,審査時に十分には明らかでないものも存在するため,設置認可後の状態を確実に把握することも求められる。
1.公立・私立の大学を設置しようとする場合は,文部科学大臣の認可を受けることとされており,その際,文部科学大臣は設置審に諮問し,設置審は申請に対する審査を行う。国立大学にも,同様の仕組みが設けられている。
審査のための申請書には,認可後の初年度に入学する学生が卒業する年度(完成年度)までの計画(設置計画)が記載されており,設置認可審査では,大学の基本的な枠組みや条件整備等に関し,設置基準に適合しているか審査するだけでなく,設置計画が,設置基準に定める内容を実質的に実現し得る内容のものとなっているかという観点からの確認を行っている。この申請は,各大学が社会に対して着実に実現していく構想を表したものである。
2.設置認可は,学校教育法第4条等の規定に基づいて,大学からの申請を受けて国が行うものであり,設置審による設置認可審査は完成年度までの設置計画に基づいて行われる。認可の効力は認可時点から発生するが,設置認可の意義を担保するため,完成年度までの間,設置審による「設置計画履行状況等調査」(アフターケア)により,設置計画の内容に著しい変更や不履行がないか確認が行われる。
設置認可の対象は,学位の種類・分野の変更や,学部・研究科等の教育研究上の組織の設置・変更等であり,完成年度後における担当教員や教育課程の変更等は,各大学の判断によって行われる。
以上にかんがみれば,設置認可は,特定の学位を付与するための教育課程(学位プログラム)を持続的に行うことを保証するものでなければならない。
1.平成16年度に始まった第三者評価制度により,大学は,「教育及び研究,組織及び運営並びに施設及び設備の総合的な状況」(学校教育法第109条)について,7年以内ごとに一回,文部科学大臣の認証を受けた機関(認証評価機関)による評価(認証評価)を受けることが義務付けられている。
これは,国による事前規制を最小限のものとし,設置後の大学の組織運営や教育研究活動等の状況を定期的に事後確認する体制を整備する観点から導入されたものである。
各大学には認証評価を受ける義務が課せられており(学校教育法第109条第2項),所定期間内ごとに認証評価を受けない大学は法令違反となる。
2.認証評価は,その導入を提言した平成14年8月の「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について(答申)」において,「国の認証を受けた機関が,自ら定める評価の基準に基づき大学を定期的に評価し,その基準を満たすものかどうかについて社会に向けて明らかにすることにより,社会による評価を受けるとともに,評価結果を踏まえて大学が自ら改善を図ることを促す制度」とされているように,大学評価基準(各認証評価機関が認証評価を行うに定める基準)に適合していることの確認を行う適格認定としての性格を持つ。そこで,認証評価の結果は,「適合」,「不適合」又は「保留」等の概念で示されている。
大学評価基準は,各認証評価機関が定めるものであり,文部科学省令(学校教育法第110条第2項に規定する基準を適用するに際して必要な細目を定める省令第1条)により,学校教育法や大学設置基準に適合していることのほか,各大学の特色ある教育研究の進展に資する観点からの評価項目が含まれることが求められている。
3.認証評価は,各大学の特色ある教育研究の進展に資するためになされることが前提である。そのために,各大学において,自己点検・評価の結果が教育の質の向上に活用される仕組み,すなわち内部質保証の仕組みが備わり,それが確実に機能していることが,認証評価を通じて確認されることが重視されなければならない。
4.また,認証評価における事後確認の機能に着目する場合,その性格・目的や,審査すべき「教育及び研究,組織及び運営並びに施設及び設備の総合的な状況」について,各認証評価機関において,具体化するための一層の工夫も求められる。
また,認証評価機関には,学校教育法や大学設置基準の各条項に規定されている事項が,大学評価基準にどう対応しているか分かりやすく示すことも期待される。
その際,認証評価機関において,設置基準を上回る基準を大学評価基準に盛り込むことも想定され,例えば,具体の認証評価において「不適合」の判定がなされた際に,その根拠となる事由が,設置基準の求める水準を下回るものなのかどうか分かりやすくすることも検討課題として挙げられる。
5.個々の大学の設置認可は,国による行政行為として行われるのに対し,認証評価における各大学の評価の実施主体は,国の認証を受けた認証評価機関であり,その際の評価基準(大学評価基準)も各認証評価機関が定めている。したがって,設置認可と認証評価では,その実施主体が異なっているが,大学の質保証を体系的に行っていく観点からは,認証評価において,事後確認の機能に着目した検討が求められる。
例えば,設置認可審査と設置計画履行状況等調査を通じて明らかになった課題等が認証評価に引き継がれ,活用されるなど,設置認可審査と認証評価との一貫性や体系性に関する十分な配慮が求められる。
上記の課題を受けて,第一次報告及びそれ以降の審議を通じて,以下のような検討課題が考えられており,これらに関して検討を行うこととしている。
検討課題(例)
ア 平成15年の審査内規等の廃止により,定性的・抽象的な基準となっている部分について,具体化・明確化。また,大学としての観念や,大学教育の理念に包含され,共通に理解されているルールを実定化。
その際,設置基準が,設置認可審査における最低基準と,設置後の水準向上の2つの性格を持つことにかんがみ,設置認可審査時に適用すべき基準に関し,以下を検討。
(a)設置基準に規定する内容をより具体的なものとし,設置認可審査における審査基準として活用しやすいよう整理,又は,
(b)設置基準と別に,設置認可審査の作業における判断の拠り所とするための,より具体的な基準を整備。
イ 設置認可審査は,書面審査が中心であり,その時点では十分には明らかでない事項の認可後の確認方法。
ウ 大学設置基準において,成績基準の明確化,シラバスの作成,教員の組織的な研修及び研究の実施,情報公開など大学の内部質保証の取組が規定されているが,各大学における自律的な質保証が一層促進される観点から,大学内部の質保証のための仕組みについて,諸外国の制度も参照しつつ検討。
エ 上記の考え方に基づき,設置基準における以下の事項について,順次具体的に検討。
オ 大学は,学部,学科又は課程ごとに,人材養成目的その他の教育研究上の目的を定めて公表することが,平成17年1月の「我が国の高等教育の将来像(答申)」等を踏まえ,平成19年の大学設置基準の改正(平成20年4月施行)により制度化(大学院は,平成19年4月から制度化)されており,大学のそうした取組について,学生の学びの内容と水準を真に保証するものとなるよう検証。
カ また,以下の事項も,引き続き検討。
(設置基準に係る課題)
(設置認可審査に係る課題)
(届出制度に係る課題)
検討課題(例)
ア 認証評価機関と認証評価を受ける者の双方が,大学評価基準を共通に理解して認証評価を行うことができるようにするため,設置基準との関係を踏まえた大学評価基準の趣旨や判断項目等の一層の具体化。
また,今後,大学の機能別分化が進んでいくと考えられる中,その状況を見据えた認証評価の在り方を検討。
イ 機関別評価の第二サイクルが始まる平成23年度に向けて,具体的に検討。
(認証評価の効率的・効果的な実施の観点から,大学評価基準は,当面,以下の事項に関して順次対応を図ることとし,その具体的な内容について検討。)
ウ 各認証評価機関の連携による取組を進めていく観点から,当面,以下の事項について順次対応。
エ 認証評価の結果が不適合となった場合,その結果及び理由と設置基準等との関係の整理,また,その結果の取扱い。
検討課題(例)
ア 機関別評価の第二サイクルが始まる平成23年度に向けて,具体的に検討。
イ 上記のほか,以下の事項についても今後検討。
学校教育法 | 学校教育法施行規則 | |
---|---|---|
ア 大学の入学資格や修業年限,組織編成等の基本的枠組みに関する規定 | ○第83条(大学の目的) ○第85条(教育研究上の基本組織(学部)) ○第87~89条(修業年限,その特例) ○第90条(入学資格) ○第92条(学長,教授等必要な職員) ○第93条(教授会の設置) ○第104条(学位の授与) ○第108条,第122条,第132条(編入学) |
○第143条(教授会の権限) ○第146~149条(修業年限及びその特例に関する細目) ○第150~154条(入学資格に関する細目) ○第161条,第162条,第178条,第186条(編入学,転学等) |
イ 大学が備えるべき教員組織,施設設備等の人的・物的要素の最低基準を定める規定 | ○第92条(学長,教授等必要な職員)[再掲] ○第114条(事務職員) |
|
ウ 大学の教育活動やこれに関連する活動の規範を定める規定 | ○第109条(自己点検・評価) ○第113条(教育研究活動の公表) |
○第4条(学則記載事項) ○第24条(指導要録) ○第28条(備えるべき表簿) ○第163条(学年の始期,終期) ○第166条(自己点検・評価に関する細目) |
エ 学生の履修や卒業要件に関する規定 | ○第87~89条(修業年限,その特例)[再掲] ○第104条(学位の授与)[再掲] ○第105条(履修証明書の交付) |
○第144条(入学,退学,転学,留学,休学,卒業の決定) ○第164条(履修証明書の交付に関する細目) ○第173条(卒業証書授与) |
(学士課程関係の規定の整理を試みたもの。なお【 】は告示に委任している法令)
大学設置基準 | 学位規則 | 告示 |
---|---|---|
○第3~6条(教育研究上の基本組織(学部,学科,学部以外の基本組織)) ○第18条(収容定員) ○第40条の4(大学等の名称) |
○第2条(学位授与の要件) | ○大学入学に関し高等学校を卒業した者と同等以上の学力があると認められる者を指定する件【学校教育法施行規則】等 |
○第7条(教員組織の編成) ○第10条(授業科目の担当) ○第12~13条(専任教員) ○第13条の2~17条(学長,教授,准教授,講師,助教,助手の資格) ○第34条(校地),○第35条(運動場),○第36条(校舎等施設),○第37条(校地の面積),○第37条の2(校舎の面積),○第38条(図書等の資料及び図書館),○第39条(附属施設),○第39条の2(薬学実務実習に必要な施設),○第40条(機械,器具等),第40条の2(二以上の校地における施設整備),○第40の3(教育研究環境の整備) ,○第41条(事務組織),○第42条(厚生補導の組織) ○第53条(段階的整備) |
○大学新設等の場合における教員組織,校舎等の施設及び設備の段階的整備について定める件【大学設置基準】 ○薬学部における実務家教員の要件等【大学設置基準】等 |
|
○第2条(情報の積極的な提供) ○第2条の2(教育研究上の目的公表等) ○第2条の3(入学者選抜の方法) ○第19~21条(教育課程,単位の計算方法) ○第22~23条(授業期間) ○第24~25条(授業を行う学生数,授業の方法) ○第25条の2(成績評価基準等の明示等) ○第25条の3(教育内容等の改善のための組織的な研修等),○第27条(単位の授与) |
○高度メディア授業について定める件【大学設置基準】 ○大学が授業の一部を校舎及び附属施設以外の場所で行う場合について定める件【大学設置基準】等 |
|
○第27条(単位の授与)[再掲] ○第27条の2(履修科目の登録の上限) ○第28条(他の大学・短大の授業科目の履修等) ○第29条(大学以外の教育施設等での学修) ○第30条(入学前の既修得単位等の認定) ○第30条の2(長期にわたる教育課程の履修) ○第31条(科目等履修生等) ○第32条(卒業の要件) |
○第2条(学位授与の要件)[再掲] ○第10条(専攻分野の名称) ○第13条(学位規程の制定・報告) |
○大学が単位を与えることのできる学修を定める件【大学設置基準】等 |
公的な質保証システムの在り方の検討に当たっては,関連する以下の事項についても具体的な検討が必要である。
1.大学に関する情報公開は,大学の教育研究等の質保証の観点と,公共的な存在である大学及びその設置者(国立大学法人,地方公共団体,公立大学法人及び学校法人)の財務・経営の透明性の観点の両面から要請されると考えられる。本報告は,大学の質保証の観点からの情報公開について述べる。なお,財務・経営の透明性の観点からの情報公開については審議中であり,今後あらためて整理する。
2.大学の質保証の観点からの情報公開には,質保証の対象となる学生に対する学びの内容と水準の提示と,それらに関する情報公開がある。
学生に対する学びの内容と水準を保証し,社会からの評価を通じて質を保証していく観点から,各大学において,教育研究等に関する基本的な情報の整備・公開を積極的に進めることが極めて重要である。その際,各大学において情報公開のための体制を整備することが求められる。
そのような動きを加速するため,各大学の教育研究等に関し,公表が求められる内容の具体化(例:人材養成目的,教員の教育研究業績,入学者選抜の状況,学生の卒業後の進路),情報を提供するためのデータベースの構築等,国内外への情報発信を推進する方策の検討が課題となっている。また,大学の教育研究等を支える経営理念・方針の明確化も求められる。
なお,大学の情報提供が不十分な場合の対応について検討することも課題となると思われる。
3.認証評価の前提となる自己点検・評価は,全大学に義務として課されているが,自己点検・評価を通じ,大学の教育理念・目標の達成に向けて,学生の入学と卒業や教育課程の管理が適切に行われているか確認し,その結果を自己改善に結びつけていくことが重要である。
自己点検・評価に当たっては,学内の情報を集約・分析するための部署や担当者の配置等を進めることも求められており,各大学における整備を促進するとともに,これを担う専門的職員の職能開発(SD:スタッフ・ディベロップメント)に向けて,各大学や大学団体等が取り組んでいくことが求められる。
また,自己点検・評価の質を高めるとともに,その実質化を進めるために,自己点検・評価の内容の共通化を検討するとともに,自己点検・評価が適切に行われていない場合の対応について検討することも欠かせない。
4.イギリスにおける高等教育の質保証に関する各種の枠組みの構築や,EUにおける質保証のための基準と指針の策定等,諸外国の動向も踏まえ,大学の自主的・自律的な質保証を促すとともに,それが結果として,各種の評価活動にも参照されるような具体的な基準の開発に向けて,学協会や大学団体等の協力を得ながら検討を進めていくことも課題となっている。
この点に関し,現在,日本学術会議において,文部科学省からの審議依頼に基づき,大学教育の分野別質保証の在り方に関する検討が行われており,その状況を踏まえつつ,適宜連携を図っていくことも求められる。
このほか,学協会や大学団体,大学コンソーシアム等による質保証のための主体的な取組の支援を推進することも期待される。
5.設置認可後完成年度までの設置計画履行状況等調査と認証評価の期間におけるチェックや,設置基準違反が疑われる事例についての詳細な調査等を行うための仕組みについて検討していくことも求められる。
6.質保証システムを構成する3つの要素に加えて,大学の活動を支える公財政支援が質保証システムに果たすべき役割を検討することが必要である。
1.従来,大学の在り方に関する議論では,教育と研究が着目されてきた。
しかしながら,社会や学生のニーズが多様化しているにも関わらず,学生支援や学習環境整備に関しては十分な議論がなされてきたとは言えない。
この場合,学生支援には,学生相談,学修支援,経済的支援等が挙げられ,また,正課外教育の在り方,例えば,図書館等の学習環境や,部活動を含むキャンパスライフも,学習環境整備の観点から検討していくことが求められる。
2.学生支援や学習環境支援の充実に当たっては,国の内外から幅広い年齢層の者が,学生や教員・研究者として集い,相互に交流しながら,学んでいく場をどう整えるかが課題となる。また,学生支援や学習環境整備の充実は,優れた学生を広く世界から集めるなど,我が国の大学の国際競争力の向上の前提でもある。
3.そこで,大学の公的な質保証システムとしての設置基準,設置認可審査,認証評価の在り方に関する検討の一環として,学生支援・学習環境整備の観点をどのように考慮していくかが課題となっている。
4.以上のような観点から,学生支援・学習環境整備を充実する方策について,以下のような検討課題が考えられる。
検討課題(例)
ア 学生支援・学習環境整備に係る質保証を促す具体的な指針として,大学としての観念や,大学教育の理念に包含され,共通に理解されているルールを確認的に具体化・明確化。
1.若年者の非正規雇用割合や早期離職者の増加など雇用情勢の変化の中で,就職や将来の進路に不安や悩みを持つ学生が増加している。
このため,中学校・高等学校における進路に関する指導や相談と同様に,大学においても,各大学の自主性に基づきつつ,教育課程内外において,学生が自らの職業観,勤労観を培い,自ら向上するための支援を行うことが喫緊の課題となっている。
2.このような現状を踏まえ,平成20年12月の「学士課程教育の構築に向けて(答申)」で提言したように,学生が入学時から自らの職業観,勤労観を培い,社会人として必要な資質能力を形成していくことができるよう,教育課程内外にわたり,授業科目の選択等の履修指導,相談,その他助言,情報提供等を段階に応じて行い,これにより,学生が自ら向上することを大学の教育活動全体を通じて支援する「職業指導(キャリアガイダンス)」を適切に大学の教育活動に位置づけることが必要である。
3.例えば,入学時のガイダンス等の導入プログラムから,学生の適性,興味・関心などを踏まえ,履修指導等において,きめ細かい指導・助言が行われるよう職業指導(キャリアガイダンス)の充実に努めることが必要である。
このため,法令上も,職業指導(キャリアガイダンス)の実施を明確にすることにより,大学において組織的かつ計画的な取組を推進することが重要である。
4.また,教育活動全体を通じて職業指導(キャリアガイダンス)を充実することにより,学生が安心して学び,自己の適性や生き方を考え,主体的に職業を選択し,円滑な職業生活に移行できると期待される。
5.以上のような観点から,新たな大学の教育活動としての職業指導(キャリアガイダンス)の導入について,以下のような検討課題が考えられる。
検討課題(例)
ア 学生が入学時から自らの職業観,勤労観を培い,社会人として必要な資質能力を形成していくことができるよう,教育課程内外にわたり,授業科目の選択等の履修指導,相談,その他助言,情報提供等を段階に応じて行い,これにより,学生が自ら向上することを大学の教育活動全体を通じて支援する「職業指導(キャリアガイダンス)」を適切に大学の教育活動に位置づけることが必要。
イ 法令上も,以下の点に留意しつつ,職業指導(キャリアガイダンス)の実施を明確化。
第一次報告では,グローバル化の進展の中での大学教育の在り方に関し,その時点までの審議経過を整理したが,その後も,大学グローバル化検討WGを中心に,大学の国際化の意義や質保証等の論点について検討を行った。第二次報告では,これらを踏まえつつ,質保証に関わりの深い課題に関して審議経過を整理した。
1.大学教育において保証されるべき質としては,学生,教育課程の内容・水準,教職員,研究者,教育・研究環境の整備状況,管理運営方式等の様々な要素がある。これらについて,各大学が,諸外国の取組や国際的な動向を踏まえながら改善していくことは,世界的な視野からの人材確保の観点のみならず,我が国の大学制度への信頼性の確保からも重要な課題である。
その点で,グローバル化の進展の中での質保証への取組は,国際化を直接の活動目的としているか否かにかかわらず,全大学に当然に期待される。
2.我が国の大学制度への信頼性の確保の観点からは,公的な質保証システムとしての設置基準,設置認可審査及び認証評価の3つの要素が十分に機能するよう,不断の検討と改善を行うことが不可欠である。
加えて,我が国の質保証システムの仕組みとその内容に関し,諸外国に対し積極的に情報提供していくことが重要である。また,情報提供の在り方として,国際的な情報発信媒体の活用も視野に入れるほか,国際化拠点整備事業により設置される大学海外共同利用事務所の活用等,提供される側に立った情報の提供が求められる。
3.国際的な情報発信に当たっては,我が国における質保証の枠組みについて,その根拠となる学校教育法や大学設置基準等の各種の法令等を理論的に整理するとともに,これを英語で適切に表記することも求められる。このため,公的な質保証システムに関する検討状況を踏まえつつ,表記の在り方を引き続き検討していく。
なお,我が国の大学の学位の内容を国際的に分かりやすいものとしていくことが重要な課題となっており,このためには,学位プログラムの位置づけを明確化していくことも有効と考えられる。これに関連して,近年,我が国における学位の名称数が多くなっていることについても,国際的通用性の観点から留意すべきである。
4.我が国の大学に関する情報を効果的に海外に発信するには,まず,我が国の大学の教育研究上の成果に関する情報を積極的に発信・提供していくことが重要である。特に,日本ならではの教育研究上の成果を十分に発信し,日本の大学教育を,世界の学生,教員・研究者に魅力あるものとして伝える努力が求められる。
5.ヨーロッパでは,エラスムス計画による学生・教員の流動性の向上が,ボローニャ・プロセスの推進の原動力になっていったことを踏まえるならば,我が国の各大学が,アジア地域をはじめ各国・地域と継続的に交流していくことが期待される。このため,我が国の質保証の仕組みを海外に発信し,普及させていくことの検討も求められる。
6.上記の際の推進力となる重要な取組の一つとして,以下に述べるダブル・ディグリーをはじめとする組織的,継続的な教育連携関係構築の促進が考えられる。
国際的な共同教育プログラムを通じて,組織的・継続的な教育連携を構築していくことは,留学生30万人計画を推進する上でも重要である。
7.単位互換制度の活用により,我が国の大学が,国外の大学とともに,それぞれ学位を授与する,いわゆるダブル・ディグリーを授与することが可能となっているが,これにより,大学にとっては,組織的・継続的な教育連携関係を強化し,魅力的な教育プログラムの構築に資することが考えられる。学生にとっては,我が国と海外の大学の複数の学位を取得する際,それぞれの大学の学位プログラムを履修するよりも短い期間内で,両方の学位を取得することが期待できるなどのメリットが考えられる。
ダブル・ディグリーの実施に当たっては,実施する大学において,国際的な質保証の動向に留意しつつ,参加大学間の履修スケジュールの調整や,単位互換の対象となるプログラムの質の確認,研究指導や学位審査の取扱い等について,十分に検討することが望まれる。これらの留意事項について,各国の教育制度の違いや,対象となる学位及び教育プログラムの多様性,各大学における実情等も踏まえつつ,各大学の参考に資するため,ガイドラインのように一定の考え方を取りまとめることも有益であると考えられる。
8.以上のような観点から,グローバル化の進展の中での質保証に関し,以下のような検討課題が考えられる。
検討課題(例)
ア 諸外国における質保証に関する制度・動向の調査・分析。
イ 大学制度に関する情報発信。
ウ いわゆるダブル・ディグリーに関し,以下のような点について,一定の考え方を検討。
エ なお,大学の国際競争力向上の観点から,以下の事項について引き続き検討。
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室