(1) 18歳人口の増減や,高等教育への進学動向を踏まえ,高等教育機関の整備を計画的に行うことを目的として,昭和51年度以降,5回にわたり「高等教育計画」が策定された(平成12~16年度は「将来構想」)。高等教育計画では,18歳人口の増減等に基づき,計画期間中の進学率や入学定員の規模等を想定した上で,大都市圏における大学等の新増設を抑制するなど,地域別・分野別の抑制方針について定めていた。
「はじめに」で述べたとおり,近年の大学数・学生数の増加には,大学への進学意欲の高まりの中で,平成15年度から,大学や学部の収容定員の増を抑制してきた方針を,基本的に撤廃したことが影響している。
(2) 人口構造・産業構造・社会構造等が大きく変わる中,大学教育の構造転換に積極的に取り組むことが必要であり,そうした構造転換を想定しつつ,量的規模について検討することが求められる。
その際,我が国が成熟した国家として,大学教育を通じ,知性ある公共的な市民をいかに育成していくかという基本的理念を欠かすことはできない。また,我が国の国際競争力の維持・向上の観点,地域の人口動態の動向,大学教育と対象とする学生像,また,卒業後の進路も踏まえた教育内容・方法,学生支援・学習環境整備等の多様な論点が考えられる。
(3) 量的規模の検討に関連して,大学教育の質保証の前提でもある健全な大学経営を促すために,具体的に制度を見直していかなければならない。また,情報公開の促進も求められ,これらを一体的に検討することとする。
(4) 上記の問題意識を踏まえるならば,大学の量的規模と経営に関する多岐にわたる論点について,以下の3つに整理することができる。
(5) 上記のうち、第一として,大学全体に関わる現状に関し,以下を指摘することがきる。
(6) 第二として,大学相互の関係に関わる現状に関し,以下を指摘することができる。
(7) 第三として,各大学の取組に関わる状況に関し,以下を指摘することができる。
ア 大学間連携の強化
コンソーシアムの結成,複数大学による教育課程の実施に向けての構想等が進んでいる。
事業面での協力,
イ 地方公共団体との連携
事業面での協力,地方公共団体関係者の学校法人役員としての参画等,多様な事例がある。
ウ 学部・学科等の改組,入学定員の調整
改組により新たな需要喚起による経営改善を目指す事例も多くみられる。この場合,学生定員の増減を伴うこともある。
今後の見通しに基づき,学部・学科等を廃止し,他学部等に統合するという判断を行った設置者もある。この場合には,在学生の教育を支障なく実施し,地域を含む関係者の十分な理解の下に構想を進めていく必要がある。
エ 大学・学校法人の組織の一元化
近年の事例として,同一法人内での大学の統合,学校法人間の合併による大学の統合再編が見られる。
(1) 大学教育の量的規模を検討する際には,我が国の発展に大学が果たすべき役割にかんがみ,社会人,高齢者等の大学就学の充実やグローバル化を踏まえなければならない。
大学教育の構造転換を果たしていく中で,18歳人口を主たる入学者として想定する現行の大学教育を,一人ひとりにとって,恒常的に知識技能を身につけられる場に大きく転換していくことが強く求められる。国の内外から幅広い年齢層の者が集ってともに学ぶことは,高度な研究と全人格的な教育を行う大学の内的欲求にも応えるものである。
これまでも「将来像答申」等の累次の答申を通じて,大学教育を通じた生涯学習社会の推進に関する提言を行ってきたが,その具体化をさらに進める検討が必要である。
近年,我が国では社会人学生の入学は停滞している。例えば,社会人学生を積極的に受け入れているとされる大学院の専攻は800程度存在し,これは,全体のほぼ半数となる。しかしながら,その多くの実態は,ほぼ従来型の大学院であり,十分に社会人に対応したものとなっていないとの指摘もある。大学が多様なニーズと潜在的な需要があると想定される中で,どのように対応するかが問われている。
そのほか,量的規模の検討においては,人口構造,産業構造,社会構造等の大きな変化,また,大学及び社会全体のグローバル化が急速に進む中,各大学が果たしていくべき役割を踏まえることが求められる。例えば,大学への進学需要や,卒業後の労働需要のほか,教育の質の観点も,量的規模の検討に際して考慮する必要がある。また,授与する学位の国際的通用性や,その裏付けとなる単位の実質化が求められている中,大学の質を強化し,学生の学修意欲を高めていくように,教育内容・方法を見直していくことを前提とするならば,適正な量的規模について多様な議論が可能であるとの考え方もある。
(2) かつての「高等教育計画」では,18歳人口の増減の動向,進学率,大学の質的な充実の観点等を踏まえて,大学等の新増設が抑制されたように,主に規模の上限が念頭に置かれた。
それに対し,今後は,人口構造・産業構造・社会構造等が大きく変わる中での大学の果たすべき役割や,大学の国際競争力の向上が重要な課題となっている状況を踏まえ,必要な規模又は政策的に望ましい(又は妥当な)規模に着目した検討が必要と考えられる。
なお,量的規模の検討においては,上記の「高等教育計画」のほか,諸外国における施策も参考とすべきである。
(3) 以上のような観点から,これらの大学全体に関連する制度等について,以下のような検討課題が考えられる。
検討課題(例)ア 18歳人口だけでなく,我が国の人口全体が減少期を迎えた中,我が国の発展に大学が果たすべき役割にかんがみ,社会人,高齢者,留学生等の大学就学の充実やグローバル化を踏まえた量的規模の検討。 イ 国際的にも大学教育の改善・充実が大きな課題となっている中,我が国の大学教育について,学士・修士・博士ごとに,およその規模の検討。 ウ あわせて分野別(とりわけ計画的養成を必要とする分野)や地域別の在り方について,一定の考え方の検討。 |
1. 大学を取り巻く環境が大きく変化する中,「将来像答申」では,機能別分化の分類として,
(a) 世界的研究・教育拠点,
(b) 高度専門職業人養成,
(c) 幅広い職業人養成,
(d)
総合的教養教育,
(e) 特定の専門的分野(芸術,体育等)の教育・研究,
(f)
地域の生涯学習機会の拠点,
(g) 社会貢献機能(地域貢献,産学官連携,国際交流等),
の7つを掲げている。
2. 規模の検討に当たっては,各大学が,それぞれの地域や社会等の期待に応えながら発展していくことを想定し,大学の機能別分化の促進について具体的な検討を進めるべきである。
3.そこで,今後,機能別分化の在り方について,大学を取り巻く今日的な状況等も踏まえて,引き続き研究する。あわせて,以下のような検討課題が考えられる。
検討課題(例)ア 各大学の自主性を尊重しつつ,機能別分化を促進する方策(制度面,財政面)。 イ 各大学が連携協力して,人的・物的資源を共同利用し,その有効活用を図る方策。 ウ 大学が機能別分化していく中での質保証の在り方。 |
1.大学教育の一層の充実を図る観点からは,各大学が自らの強みを持つ分野へ取組を集中・強化するとともに,他大学との連携を進めることによって,大学教育全体としてより多様で高度な教育を展開していくことが重要である。
このため,各大学が連携協力し,それぞれが有する人的・物的資源を共同利用し,その有効活用を図る取組の一層の促進を図ることが求められる。
2.平成15年以前の国立大学では,国立学校設置法施行規則において,大学附置の全国共同利用施設が個別に規定されていた。
しかしながら,法人化後にこの規定は廃止され,その設置改廃は各国立大学の判断に委ねられることとなった。
学術研究分野に関しては,平成20年に国公私を通じた共同利用・共同研究拠点が制度化(学校教育法施行規則の改正)され,既に7拠点が認定されている。また,拠点に対しては別途財政支援も講じられている。
一方で,優れた教育や学生支援を行う機能や施設に関しては,同様の仕組みは設けられていない。そこで,学術研究分野に加えて,教育や学生支援における大学間ネットワークの構築に関する検討が必要となっている。
3.以上のような観点から,大学間の連携・協力を通じ,機能を補完するための施策の速やかな導入のため,以下のような検討課題が考えられる。
検討課題(教育・学生支援分野における共同利用拠点の創設)ア 制度の概要 イ 具体的な拠点の例
ウ 認定基準(骨子案)
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1.上記「2」のとおり,今後,大学の量的規模について検討することとしており,その際,大学教育が社会に果たす積極的な役割にかんがみて,(a) 進学率の動向(現在,大学・短期大学で55.3%),(b) 社会人学生や留学生の増加(現在,学士課程入学者のうち,社会人は2%程度,留学生は2.0%),(c) 我が国の社会や産業界に必要な人材需要,等の観点からの検討も必要となる。
2.一方,私立大学の定員充足率が低下傾向にあり,今後,18歳人口は,地方部を中心にさらに大きく減少するという見通しに立つとき,教育の質と経営基盤の安定が表裏一体のものであることを踏まえ,大学が自主的な教育研究組織や収容定員の見直しを行う場合の支援策について,速やかに整備することが求められる。
3.以上のような観点から,各大学がそれぞれの持つべき機能を考慮した上で構想する,自主的な教育研究組織や収容定員の見直しに関連する制度等について,速やかな導入のため以下のような検討課題が考えられる。
検討課題(例)ア 規模の検討に関連して,大学教育の質保証の前提でもある健全な大学経営を促すために,私立大学に関する具体的な制度の見直し。 (複数大学の連携に関する検討例)
(各大学の取組に関する検討例)
イ 高等教育機関の全国的な地域配置の状況や,学部・学科等の学問分野構成についての情報収集と提供,また,人材需要動向についての予測等の恒常的な把握・提供に関するシステムの整備。 ウ 学校法人の経営困難,経営破綻時の支援(ガイドラインの作成,学生の就学機会確保のための支援策,募集停止後の支援の在り方の検討)。 |
1.収容定員は,大学の規模や教育環境との関わりの中で定められているが,質保証の観点から,国公私立を通じ適正な定員規模の取扱いのための取組も求められる。
2.定員超過に関する国立大学と私立大学における取扱いは,それぞれ以下の通りである。
国立大学では,運営費交付金の取扱いに関し,一定の定員超過率(平成20年度は1.3倍,21年度は1.2倍,22年度より1.1倍)以上の学生数分の授業料収入相当額の100%を国庫納付するなどの取扱いとされている。
私立大学では,一定の定員超過率以上にある学部等への経常費補助金を減額又は不交付とするなどの取扱いとされている(収容定員の1.07倍以上になると段階的な減額措置があり,収容定員の1.5倍又は入学定員の1.3倍以上になると不交付とされる(入学定員については経過措置あり))。
なお,入学定員に対する超過率が1.3倍以上の場合に,学部等の設置を認可しないこととされている。
3.また,定員割れに関する国立大学と私立大学における取扱いは,それぞれ以下の通りである。
国立大学では,収容定員に対する在籍者数が90%を下回った場合,運営費交付金の積算のうち学生受入れに要する経費措置額の未充足分に相当する額を国庫納付するなどの取扱いがある。
私立大学では,在籍学生数の収容定員に対する割合が一定以下である学部等への経常費補助金を減額又は不交付とするなどの取扱いがある(収容定員に対する在籍学生数が91%未満の場合に段階的な減額措置があり,50%以下の場合は不交付)。
4.なお,国立大学法人については,文部科学大臣が定める「国立大学法人の組織及び業務全般の見直しについて」に基づき,法人のミッションに照らした役割や機能別分化の促進の観点,分野ごとの需給見通し等を勘案しつつ,教育の質の維持・向上の観点から,大学院博士(後期)課程,法科大学院等の自主的な入学定員や組織等の見直しを進めることとされている。
5.以上のような観点から,大学の健全な発展のための収容定員の取扱いの適正化に関連する制度等について,以下のような検討課題が考えられる。
検討課題(例)ア 定員割れをしている学部等の設置認可の厳格化 イ 定員超過の取扱いの厳格化 |
(1) 進学希望者の進路選択に資するとともに,社会への説明責任を果たす観点から,各大学の教育研究活動や各学校法人の経営状況に関する情報公開を一層促進することが求められる。
教育の質保証の観点からも,教育研究の評価と合わせて,財務・経営に関する情報が公開されていく必要がある。
(2) 以上のような観点から,情報公開の促進に関連する制度等について,以下のような検討課題が考えられる。
検討課題(例)ア 教育研究活動に関する情報公開の促進。 イ 財務・経営情報に関する情報公開の促進。 |
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