(1) 大学は,中世ヨーロッパで登場して以降,国を越えた学生や教員・研究者の移動・交流や,国際的通用性を前提とする学位の授与など,その教育と研究は本来的にグローバルな活動を伴う。
大学の国際化,すなわち,国の内外から広く優秀な学生,教員・研究者を集わせ,大学の教育・研究機能を高めることは,高度な研究と全人格的な教育を行う大学の内在的要求に応えることである。特に,多様な文化や背景を持つ者がともに学ぶことは,新たな知的発見を通じ,知識技能のみならず,人格的にも大きな成長が期待できる。ややもすれば内に閉じていると指摘されることがある我が国においてこそ,大学教育のグローバル化に積極的に取り組み,大学教育の構造転換を果たすことが求められる。
同時に,急速に進む社会や産業界のグローバル化の中で,大学の教育研究機能が,社会の発展を支える重要な要素のひとつとして,我が国の国際競争力を高めることに貢献することが求められている。
(2) 我が国の大学は,理工系を中心とした研究面で国際的に評価される優れた成果が多い。
しかし,留学生や,海外の優れた教育者・研究者の受入れ,また,海外の大学との教育の連携に課題があり,我が国の大学が有する優れた研究能力が,必ずしも我が国の大学の国際的な魅力に結びついていない。
(3) 学生や教員・研究者の国際的流動性が急速に高まる中,各国では,短期教育プログラムや教育連携プログラムの開発,大学間ネットワークの構築等,今後を見据えた体制整備をはじめ,積極的な取組が見られる。
我が国の大学が,機能別分化が進む中で,上記の国際的な動向に対応して時機を逸することなく,魅力ある教育を提供し,そして,その情報を積極的に発信することは,大学間の国際的な競争と協働における基盤となる。
(4) 「第1」で述べた大学教育の質保証は,国際的にも重要視されている。
一般に,アメリカでは,事後評価としてのアクレディテーションが重視され,また,ヨーロッパでは,設置認可制度と事後評価を組合せた公的な質保証システムが構築されている。
こうした各国による質保証システムの構築については,2005年のユネスコ・OECDの「国境を越えて提供される高等教育の質の保証に関するガイドライン」により,各国政府が,それぞれの高等教育の質を確保すべきこととされている。
(5) アメリカでは,最近の高等教育法改正(2008年8月)により,アクレディテーションに関し,学生の学習到達度や適正手続き,情報公開等について新たに定められている。
イギリスやEUでは,大学や学位の在り方について,詳細かつ具体的なスタンダードが定められている。近年,イギリスでは,設置認可・機関評価等に際しての制度や基準を定めた「アカデミック・インフラストラクチャー」(高等教育の枠組み,分野別の基準,各大学のプログラム概要,行動規範の4種類)の整備が行われている。また,大学の教育活動に関する情報公開も積極的に行われている。
そのほか,ヨーロッパでは,EUの経済力強化の「リスボン戦略」の一環として,2010年までに「欧州高等教育圏」を創設することとしている。これは,各国の学位制度を共通の枠組みに整理するとともに,「質保証の基準・ガイドライン」により,各国において内部質保証と第三者機関による外部質保証の実施を求めるなど,質保証に関わる諸施策を重視している。
これらは,国境を越えて,学生や教員・研究者の流動性を促進する上で,また,単位互換やジョイント・ディグリー等の教育活動を促進する上での基盤となっている。
(6) 近年の高等教育の拡大や国際化の進展の中,高等教育の多様な質を評価することの重要性への認識が高まっている。
政府・大学・質保証機関による学習成果の評価方法の改善のため,OECDは,学習成果の評価(AHELO:Assessment
of Higher Education Learning Outcomes)に関する国際的な検討の可能性を探るフィージビリティ・スタディ(試行的に試験を行い,本格的な実施可能性を明らかにすること)の実施を提案している。
これを受けて,我が国は,AHELOについて,工学分野に参加することとしている。
(7) また,民間等による国際的な大学評価活動については,様々な課題が指摘される一方,影響力を増しているとの指摘がある。
例えば,イギリスのタイムズ紙の高等教育別冊が公表する大学ランキングでは,1.各国研究者のピア・レビュー,2.雇用者からの評価,3.学生一人当たり教員比率,4.教員一人当たり論文引用数,5.外国人教員比率,6.留学生比率の6指標に重み付けをしてランキングを算出している。そのほかにも,上海交通大学やパリ国立高等工業学校等による分析等,世界中において様々な観点から,評価活動が行われている。
また,EUでは,大学教育等を評価対象とする新たな大学ランキング・システムを模索する動きも見られる。
(1) 大学のグローバル化に際しては,大学の質保証への総合的な取組が,国際競争力向上に欠かせない。
ヨーロッパでは「欧州高等教育圏」の構築を通じて,教育の質保証のための枠組み作りが進みつつあるなど,各国・各地域が積極的に取り組んでいる。
学位の国際的通用性の観点からは,諸外国の質保証制度や取組の動向を注視する必要があり,これらのうち,我が国の質保証システムに参照すべきものとして,どのようなものがあるか,さらなる検討を行う。
(2) その際,次のような点に留意する。
1.人材養成目的に沿った組織的・体系的な教育の実施
大学の国際競争力について考える場合に,(a)
大学で行われる研究・教育の目的と内容が明確であること,(b) その目的と内容に相応しい教育を提供すること,(c)授与される学位が国際的に通用するものであることが求められる。
大学で提供される教育が,上記の観点を踏まえつつ,人材養成の目的に沿って組織的・体系的なものとなるよう,大学全体として対応することが望まれる。
2.各国の動向を踏まえた対応の必要性
ヨーロッパでは,ボローニャ・プロセスの導入に伴い,学修期間の短期化,教育課程のモジュール化が進められており,これらの国の大学との交流に際し,流動性を高めるための短期留学,単位互換やダブル・ディグリー等を積極的に推進することが求められている。
また,アメリカでは,有力大学を中心に学部学生の留学が促進されており,各国では,こうした需要に対応すべく,短期プログラムや教育連携への取組が見られる。
このほか,国際的共通言語としての英語の役割が浸透する中,英語圏の大学が多数の留学生を集めており,それに対して,非英語圏諸国でも,英語のみで提供される授業を通じて,単位や学位が取得できるコースの設置が進められている。
3.情報発信の重要性
我が国の大学に関する情報を効果的に発信するには,まず,我が国の大学の教育研究成果について積極的な情報の発信と提供が欠かせない。特に,日本ならではの教育研究上の成果が十分に発信され,日本の大学教育が,世界の学生,教員・研究者に魅力あるものとして伝える努力が求められる。
その上で,我が国の大学制度に関する情報提供が欠かせない。
我が国全体の大学の信頼性を高めるため,設置基準,設置認可審査,認証評価といった日本の質保証システムの内容について積極的に情報提供していくことが望まれる。また,情報提供の在り方として,国際的な情報発信媒体の活用も視野に入れることが考えられる。
関連して,我が国の大学制度に用いられる用語を,英語で適切に表記することの検討も求められる。
例えば,「学部」「学科」「課程」「研究科」「専攻」「大学院」等の用語には,組織としての意味と,学位プログラムとしての意味の両方があり,これらの用語の英語表記について,質保証システムの検討ともあいまって検討が求められる。
「第1」の「4」で取り上げた「学位プログラムを中心とする大学制度と教育の再構成」は,我が国の大学の学位の内容を分かりやすいものとし,その国際的通用性を保証する上でも有効と考えられる。
(3) 以上のような観点から,大学の国際競争力向上のための方策について,以下のような検討課題が考えられる。
検討課題(例)ア 国際的に評価される教育を行うための方策。
イ 組織的・継続的な教育連携関係の構築。
ウ 国際化に関する評価。
エ 国際的な情報の発信。
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(1) AHELOを通じて,学習成果に関する国際的な評価活動に参画することは,我が国の大学の質保証の在り方を検討する上で不可欠である。我が国としては,評価方法の検討も含めて,フィージビリティ・スタディの実施に向けて,積極的に取り組むべきである。
(2) 国際的な大学評価活動が広く見られるようになった背景としては以下の2つなど考えられる。
また,国際的な大学評価活動は,ややもすれば,限られた情報に基づく一面的な評価につながる懸念もあるが,その一方,諸外国の大学における活動に対する調査と分析は,我が国の大学の質保証の在り方を検討する際に参考となる上に,各国の大学の強みと弱みの分析にも有用との意見もある。
国際的な大学評価の活動については,他国の動向も踏まえつつ,大学教育の国際的通用性,国際競争力に関する諸課題とあわせて,引き続き対応を検討すべきである。
(3) 以上のような観点から,国際的な評価活動への対応について,以下のような検討課題が考えられる。
検討課題(例)ア AHELOに係る今後の対応。
イ 国際的な評価活動への対応。
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