(1) 歴史的・国際的に確立されてきた共通の考え方を整理すれば,大学は,
とされる。そして,その全体の体系が,各国において制度的保証を受けている。
大学教育の構造転換の検討においては,学生や社会から期待されるニーズの多様化に積極的に対応しつつも,学位を授与する自主的・自律的な存在として,その教育の質が確実に保証されるものでなければならない。
大学教育の質の保証やその向上は,国内社会における大学への信頼の維持・向上の観点とともに,グローバル化が進む中,学位の国際的通用性の観点からも不可欠である。
(2) 大学教育において保証されるべき質の対象には,学生,教育課程の内容・水準,教員,研究者,教育・研究環境の整備状況,管理運営方式など,様々な要素がある。
その上で,最終的に保証されるべきは,学生の学びの質と水準である。その保証は,それぞれの大学が責任を持つことが大前提である。
学生の質は社会が評価するものであり,その評価を大学が直接コントロールすることはできない。大学ができるのは,学生の質を保証するための体系を適切に整えること,そして,その質が常に向上するような工夫改善を可能とする仕組みを機能させることである。
質保証においては,各大学の自主的・自律的な取組が最も重要であり,「学士課程教育答申」で述べたとおり,質の向上の努力を怠る大学があるならば,淘汰を避けることはできない。
公的な質保証システムが担うべき役割は,各大学での自主的・自律的な取組を前提とし,それが実質的に機能するよう制度として確実なものとすることである。各大学において,それぞれが掲げる目標に対応した人材養成を実施するための学内システムが備わっていることが担保できるような環境を整え,それを維持することは国の重要な役割である。
(3) 大学の公的な質保証システムとして,
の3つの要素をあげることができ,これらの関係を再検討するとともに,これらを一体的に運用していくことが求められる。
(4) 第一に,設置基準のあらましは以下の通りである。
教育基本法に大学の規定(第7条)があるほか,学校教育法が大学の目的(第83条)や学位の授与(第104条)等の基本的枠組みを定めている。その上で,文部科学省令である大学設置基準が,「大学を設置するのに必要な最低の基準」(第1条)を定めている。
このような学校教育法や,その施行令・施行規則,大学設置基準(さらに,短期大学,大学院等に関する設置基準を含む。)のほか,学位規則等の一連の条件整備や基準に関するものを「設置基準」と総称している。
(5) 第二に,設置認可審査のあらましは以下の通りである。
公立・私立の大学を設置しようとする場合は,文部科学大臣の認可を受けることとされており,その際,文部科学大臣は,大学設置・学校法人審議会(設置審)に諮問し,設置審は,申請に対する審査を行う。国立大学にも,同様の仕組みが設けられている。
申請内容には,認可後の初年度に入学する学生が卒業する年度(完成年度)までの計画(設置計画)が記載されており,その内容が設置基準に適合していることが,設置認可を行うための最低条件である。そのため,設置認可の意義を担保する目的で,完成年度までは,設置計画履行状況等調査(アフターケア)が行われ,設置計画の履行状況を調査している。
なお,設置認可については,「はじめに」で述べたとおり,平成15年度に,設置基準等の法令上の要件を満たせば設置を認可する「準則主義」に転換している。この際,認可事項の縮減や,審査を要しない届出制の導入,審査基準の簡素化を図っている。
(6) 第三に,認証評価のあらましは以下の通りである。
平成16年度に始まった認証評価制度により,大学は7年以内に一回,文部科学大臣の認証を受けた機関(認証評価機関)による評価を受けることが義務付けられている。
これは,国による事前規制を最小限のものとし,設置後の大学の組織運営や教育研究活動等の状況を定期的に評価する体制を整備する観点から導入されたものである。認証評価では,設置基準に適合していることの確認のほか,各大学の特色ある教育研究の進展に資する観点からの評価等を行う。
(7) 上記の3つの要素からなる公的な質保証システムは,我が国の大学制度において重要な役割を果たしている。一方,各要素の役割と相互の関係について,以下のような意見が出されていることも踏まえ,質保証システムの在り方の再検討を行うことが課題となっている。
(8) 質保証の検討に当たっては,諸外国の取組,さらに国際的な動向に留意する必要がある。
例えば,アメリカでは,アクレディテーションに関し,全国的な質保証の観点からの見直しが行われている。また,イギリスをはじめEU等の諸外国では,大学の自主的・自律的な質保証を促すための詳細かつ具体的なスタンダードが設けられている。そうした制度・取組について,研究する必要がある。
(9) 公的な質保証システムの検討においては,現実に大学の多様化が進み,それぞれが自らの役割を果たしていることにかんがみ,機能別分化を前提とすることが求められる。
その一方,大学の多様性を前提としつつ,学位の国際的通用性の観点から一定レベルの質が保証されることも要請される。国際的には,いわゆるディグリー・ミルなど大学としての実質を備えていない機関の存在が問題となっているが,学位の国際的通用性の観点からも,我が国の大学が,その質保証において疑義が持たれるような状態をもたらしてはならない。
(10)質保証システムをなす3つの要素に加えて,大学の活動を支える公財政支援が質保証システムに果たすべき役割を検討することも課題である。
1.設置基準は「最低基準」であるとともに,設置後の「水準の向上を図る」ことを大学に促す2つの性格を持つ(大学設置基準第1条)。また,設置基準には多様な性格を持つ規定が存在しており,その中には定性的な基準も多い。
設置認可審査は,ピア・レビューによって判定がなされており,設置基準のうち,審査基準として適用すべき水準の在り方を常に点検することが不可欠である。従前は,設置基準を補うために,設置審の細則として審査内規が設けられていたが,平成15年の準則化により廃止されている。
さらに,設置認可審査は,書面審査が中心であり,設置基準に定められている事項には,審査時に十分には明らかでないものも存在するため,設置認可後の状態を確実に把握することも求められる。
また,設置基準は,申請者側と審査側の双方に,大学についての共通理解があることを前提に作られている。しかしながら,近年,多様な申請者から,新たな考え方に基づく申請も見られる中で,設置認可審査において判断に苦慮する事例も生じている。そこで,現行の設置基準には定性的・抽象的な規定が多いことを踏まえ,設置認可審査に際しての具体的な判断指針として有効に機能する仕組みを検討することが求められる。
2.上記の課題を踏まえ,設置基準と設置認可審査に関連し,次のような意見も審議を通じて出されている。
ア 設置基準の見直しに当たっては,新規の申請が困難な形にならないようにしつつ,設置認可後も厳しくチェックされ,条件を満たさないのであれば退場させるようにすべき。
イ 大学が自主性・自律性を有し,学位を授与する存在であることは大変重みがあるということが共通に認識されるべき。
ウ 認可を要しない届出制度は,大学の見識に期待して制度化されたものであるが,本来認可を要すると思われる事例を届出で対応しようとする事例も見られるなどの課題があり,早急な見直しが必要。
3.なお,第4期の大学分科会では,設置基準と設置認可審査のうち,速やかに対応すべきものについて問題提起を行っており,その後,設置審での検討も踏まえ,現在までに以下の事項が対応されたところである。
(設置認可審査に係る課題)
(設置後のフォローアップに係る課題)
4.以上のような観点から,設置基準及び設置認可審査に関連する制度等について以下のような検討課題が考えられる。
検討課題(例)ア 平成15年の審査内規等の廃止により,定性的・抽象的な基準となっている部分について,具体化・明確化。 (a) 設置基準に規定する内容をより具体的なものとし,設置認可審査における審査基準として活用しやすいよう整理,又は, イ 設置認可時の審査基準としての設置基準に規定すべき範囲。その際,定性的に規定している事項を審査基準として定量化する範囲。 ウ 設置認可審査は,書面審査が中心であり,その時点では十分には明らかでない事項の認可後の確認方法。 エ 大学としての観念や,大学教育の理念に包含され,共通に理解されているルールの実定化。 オ 上記の考え方に基づき,設置基準における以下の事項について,順次具体的に検討。
カ また,以下の事項も,引き続き検討。 (設置基準に係る課題)
(設置認可審査に係る課題)
(届出制度に係る課題)
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1.認証評価は,各大学の特色ある教育研究の進展に資するものであることが前提であり,また,大学が自己点検・評価を適切に実施し,その結果が教育の質の向上のために有効に活用されるための仕組みが備わっているかどうかを確認することが重視されなければならない。
2.一方,認証評価を事後評価と見た場合,その性格・目的や,審査すべき「教育及び研究,組織及び運営並びに施設及び設備の総合的な状況」(学校教育法第109条)について,各認証評価機関が具体化する際の一層の工夫が求められる。
認証評価を行うための基準(大学評価基準)の内容は,設置基準に適合しなければならない(学校教育法第110条第2項に規定する基準を適用するに際して必要な細目を定める省令第1条)とされており,大学評価基準において,設置基準の各条項に規定されている事項がどう対応しているか分かりやすく示すことが求められる。
また,認証評価機関において,設置基準を上回る基準を大学評価基準に盛り込むことも想定され,例えば,具体の認証評価において「不適合」の判定がなされた際に,その根拠となる事由が,設置基準の求める水準を下回るものなのかどうか分かりやすくすることも検討課題としてあげられる。
3.なお,各大学では,認証評価の前提である自己点検・評価を通じて,自ら質を高めるために努力していくことが求められており,それについて課題のある大学への公財政措置の在り方や,その際の認証評価結果の活用の在り方について検討すべきとの指摘もある。
4.また,認証評価における実務の実態にかんがみ,その省力化の検討を求める指摘もある。
5.以上のような観点から,設置基準及び認証評価に関連する制度等について,以下のような検討課題が考えられる。
検討課題(例)ア 認証評価機関と評価を受ける者が,大学評価基準を共通に理解して認証評価を行うため,設置基準との関係を踏まえた大学評価基準の趣旨や判断項目等の一層の具体化。 イ 認証評価の判定において,以下を明示することの是非。 ウ 認証評価の結果が不適合となった場合,その結果及び理由と設置基準等との関係の整理,また,その結果の取り扱い。 エ 自己点検・評価と認証評価等の各種評価システムの在り方及び省力化。 |
1.設置認可審査は,学部・学科等の教育研究上の組織を単位として行われる。それに対し,認証評価は,機関別の評価活動である。
一般的には,機関別評価のみでは,各学部・学科等の教育課程の内容や専任教員の適格性まで踏み込んで評価することは困難である。
また,アフターケアの結果を認証評価で参照するかどうかは,各認証評価機関の任意とされている。
こうしたことから,設置認可審査やそのアフターケアを通じて明らかになった課題等を,認証評価に引き継ぎ,その大学の質保証に生かすという質保証のシステムにおける一貫性や体系性について検討が求められる。
2.以上のような観点から,設置認可審査及び認証評価に関連する制度等について,以下のような検討課題が考えられる。
検討課題(例)ア 専門職大学院以外の大学における分野別評価の導入。ただし,分野別評価の実施に想定される実務量に留意。 イ アフターケアが完成年度までであるのに対し,認証評価は7年以内に一度であり,この2つの接続と連携。 ウ 法令違反状態の大学に対する是正措置として,設置審への諮問を経て,(a) 改善勧告,(b) 変更命令,(c) 学部等の廃止命令,(d) 学校閉鎖命令の段階的な措置が制度化されている(学校教育法第15条,第13条)が,アフターケア終了後に,大学における設置基準の適合性の確認方法。 エ 現行の設置認可と認証評価の関係は,大学による自主的・自律的な質保証が行われることを前提としており,これを十分に機能させるための仕組み。 オ 所定の期間内に,認証評価を受けない大学があった場合の対応。 カ 専門職大学院における認証評価の特例措置(免除規定)の在り方。 |
(1) 従来,大学の在り方に関する議論では,教育と研究が着目されてきた。しかしながら,学生支援や学習環境整備について,十分な議論がなされてきたとは言えない。
この場合,学生支援とは,経済的支援にとどまらず,履修指導や,進路・就職相談等を含む。また,正課外教育の在り方,例えば,図書館等の学習環境や,部活動を含むキャンパスライフについても,質保証の観点からの検討が求められる。
(2) 学生支援や学習環境支援の充実に当たっては,学生の多様化が進展している現状や,国の内外から幅広い年齢層の者が,学生や教員・研究者として集い,相互に交流しながら,学んでいく場をどう整えるかが課題となる。また,優れた学生を広く世界から集めるなど,我が国の大学の国際競争力の向上の前提でもある。
(3) 以上のような観点から,学生支援・学習環境整備に関して,以下のような検討課題が考えられる。
検討課題(例)ア 質保証において,学生支援に係る事項の重視。 |
(1) 現在の設置基準の諸規定や諸制度は組織を中心に構成されており,これを,学位プログラムを中心としたものに再整理することの必要性は「将来像答申」以降指摘されてきた。
(2) 大学制度や教育活動について,学位を与えるプログラム中心の考え方に再構成することで,公的な質保証と,大学の自主的・自律的な質保証を実現していくアプローチが考えられる。
その場合,以下のようなメリットが考えられる。
(3) ただし,学位プログラムを中心とする大学制度と教育の再構成については,そもそもの見直しの必要性や,国際的・歴史的に確立されてきた大学制度の本質,とりわけ団体性や自律性との関係もあり,導入の是非について,委員間の共通理解を図りながら引き続き審議を行うこととする。
(4) 以上のような観点から,学位プログラムを中心とする大学制度と教育の再構成に関して,以下のような検討課題が考えられる。
検討課題(例)ア 学位プログラムを中心とした大学制度を導入する意義。
イ 学位プログラムの実施に係る教育課程等。
ウ 学位プログラムを中心に整理した場合の大学の管理運営の在り方。
エ 学位プログラムを中心に整理した場合の学校教育法の規定やその他の関係法令の規定等の在り方。
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