「第二次報告」で述べたとおり,平成17年には,大学院教育の実質化(教育の課程の組織的展開の強化。例えば,1.人材養成目的の明確化と,授与される博士又は修士の学位の名称に対応した知識・技能体系の整備,2.養成する人材像に関し,教員間の共通認識に基づく組織的な教育,3.学修課題を複数の科目等を通じて体系的に履修するコースワークの充実等),国際的通用性の確保や信頼性の向上を目指す「新時代の大学院教育(答申)」(以下「大学院答申」という。)を公表した。この答申に基づいて,平成18年に「大学院教育振興施策要綱」(以下「施策要綱」という。)が平成22年度までの5年間の振興計画として策定されている。
現在,大学院部会では,4つのWG(人社系WG,理工農系WG,医療系WG及び専門職学位課程WG)を設置し,「大学院答申」と「施策要綱」に掲げられた提言と施策について,その進捗状況と課題を検証している。今後,この作業を通じて,大学院教育の方向性を明らかにし,平成23年度以降のための新たな「大学院教育振興施策要綱」を策定する予定である。
以下では,大学院部会に属するWGの審議状況のほか,グローバル化の進展に関わり,分科会に設けられた2つのWGの検討状況を整理している。
大学院部会の4つのWGのうち,人社系WG,理工農系WG及び医療系WGでは,課程別(修士課程・博士課程),学問分野別(文学,史学,言語学,法学,政治学,経済学,経営学,社会学,教育学,国際・人間科学,物理学,応用化学,機械工学,材料,土木・建築工学,情報処理,電気・電子,バイオ,農学,広域・融合,医学,歯学,薬学,看護学の計24分野)に,大学への書面調査,ヒアリング及び訪問調査を実施し,「大学院答申」に掲げられた項目の進捗状況を検証している。
(検証項目)
検証では,まず,分野ごとに数件の事例を抽出し,書面調査を実施した(24分野の計約350専攻を対象とし,これは全国の大学院4,291専攻の8%)。書面調査では,各大学院の「大学院答申」の項目ごとの進捗状況を調査し,各大学院の現状(各専攻への進学状況,社会人や留学生の大学院進学状況,大学院生に対する経済的支援の状況,修了者の進路状況と就職状況,標準修業年限内の学位授与状況等)を把握した。あわせて,ヒアリング及び訪問調査により,多面的な検証に取り組んでいる。
これまでの検証を通じて,「大学院答申」の提言に関して,各大学院の取組に一定の進捗が見られるとの意見がある。一方,各専攻の教育研究目的に沿った教育課程の編成,修了者の進路の把握,標準修業年限内の博士の学位の授与等について課題が指摘されている。
各WGでは,引き続き,大学院教育の課題を整理し,大学院教育の充実に向けた方策を検討する。
「大学院答申」では,専門職大学院の在り方の検討について,以下のとおり提起されている。
「専門職大学院制度は発足からいまだ日も浅いが,現在,その発展が積極的に図られている。その一方で,新たな制度としての専門職大学院の急速な広がりに伴う諸課題も浮かび上がってきており,このことは,専門職大学院の果たすべき役割とそれ以外の大学院の果たす役割,さらには学部段階の教育との関係も含めた大学全体に及ぶ課題も投げ掛けている。このため,専門職大学院(専門職学位課程)の実績を見つつ,修士課程及び博士課程との関係等を踏まえて,その在り方については,今後,検討すべき課題であると考える。」
そこで,現在,専門職学位課程WGでは,専門職大学院の各種の現状(例:入学者選抜,在学者,修了者,教員組織,教育課程,学修支援体制,産業界や学協会等との連携,認証評価における取組)について調査している。
また,関係者へのヒアリングや実地調査を通じて,特徴的な傾向や特色ある取組の把握に努めている。
これらの作業を通じて,今後,専門職大学院の課題を明らかにし,その在り方を提言する。あわせて,各専門職大学院が,その規模の在り方について,教育内容や方法の充実等の観点も踏まえ,自主的な見直しに取り組むよう促す方策を検討する。
国際的な大学評価が活発に展開される中,大学が積極的にその教育・研究活動を発信することが,大学の国際的な評価や国際競争力を決定する要素の一つである。とりわけ,大学の機能別分化が進む中,大学院博士課程の教育に重点を置く大学や,国際的な教育研究活動,学生交流に特色を発揮する大学にあっては,国内外の優秀な学生を獲得し,国内外の大学と組織的・継続的な教育連携を構築することに力を注いでいる。
「国際的な大学評価活動に関するWG」では,そうした大学の積極的な情報発信に資するため,以下の「情報の例(案)」の検討を進めている。
なお,国は,我が国の大学制度や,その公的な質保証システム等の仕組みを海外に紹介することが不可欠である。先般,文部科学省は,我が国の公的質保証システムの概要や大学設置基準の英訳試案等を示した英文パンフレットを作成した。こうした取組をさらに強化すべきである。
(以下の情報を英語を含む外国語で発信)
「第二次報告」では,グローバル化が進展している大学教育の質を保証するための方策を検討した。その一つとして,我が国の大学と海外の大学の両方が,単位互換を通じて学位を授与できるように,「各国の教育制度の違いや,対象となる学位及び教育プログラムの多様性,各大学における実情等も踏まえつつ,各大学の参考に資するため,ガイドラインのように一定の考え方を取りまとめる」と提言した。
大学の機能別分化が進む中,大学院博士課程や研究に重点を置く大学が,外国の大学とのダブル・ディグリー等により,国内の大学だけでは実施できない質の高い教育を提供することは,国際的な競争環境においてしかるべき位置を占めるためにも重要である。
そうした観点から,「大学グローバル化検討WG」は,各大学におけるプログラム形成のよりどころとなる指針(ガイドライン)を検討している。
なお,我が国の大学が,体系的な教育課程を備え,学修を通じて修得される知識・技能を明確にし,その学修成果にふさわしい名称の学位を授与することは,外国の大学との交流を進める前提でもある。そうした観点からも,「大学院答申」にあるように,今後,各大学での学位プログラムの充実に向けて検討を深めていく。
○ 「ダブル・ディグリー」,「ジョイント・ディグリー」の定義を,以下のように整理している。
我が国と外国の大学が,教育課程の実施や単位互換等について協議し,双方の大学がそれぞれ学位を授与するプログラム。
我が国と外国の大学が,教育課程を共同で編成・実施し,単位互換を活用することにより,双方の大学がそれぞれ学位を授与するプログラム(我が国と外国の大学が,共同で教育課程を編成・実施する場合に,単一の学位記を授与することは,我が国の法令上認められていない。)。
各関係大学が学位記を授与するほかに,共同で編成された教育課程を修了したことを示す証明書(サティフィケート)を発行することが想定される。なお,これには,国内大学の共同実施制度(国公私を通じ,複数の大学が相互に教育研究資源を有効に活用しつつ,共同で教育課程を編成し,共同で一つの学位を授与するもの)は含まない。
○ 各大学では,「デュアル・ディグリー」,「共同学位」,「複数学位」等の用語が用いられることがあるが,これらの定義は,上記の「ダブル・ディグリー」または「ジョイント・ディグリー」のいずれかに包含されると考えられる(各大学が「ダブル・ディグリー」,「ジョイント・ディグリー」以外の用語を使うことは妨げない。)。
○ 学位記を発行する大学の責任と,ジョイント・ディグリーにおいてサティフィケートを発行する場合の様式(日本語,英語)を参考例として提示する。
○ 形成するプログラムが,設置基準等の関係法令と抵触しないよう確認する。
○ 相手方の大学が公的な質保証システムによる認可や,ユネスコが運営する高等教育情報ポータルに掲載されているか確認する。
○ 相手方の大学と教育連携関係を構築する意義や,参加学生数や教員配置等について,学内の共通理解を得る。
○ 相手方の大学との間で協定等を設けるとともに,重要事項を審議する協議会の設置や,窓口となる担当部署を設定し,組織的な教育連携を図る。
○ 相手方の大学における単位制度や履修の順序,単位互換の手続,アカデミックカレンダーの相違等を確認し,学生の履修に支障がないよう留意する。
○ コースワークを重視し,授業内容を反映した科目名によるプログラムの構成に留意する。
○ 魅力あるプログラムの形成や円滑なカリキュラム調整のため,双方の大学が英語等による授業や課程を提供することも考えられる。
○ 各大学が適切に学位審査を行うとともに,論文の数や内容,トピックの選択,使用言語,論文指導における共同指導の在り方等を事前によく検討する。
○ 学位記の発行に際して,英語での併記を検討する。修了したプログラムの概要や,履修を通じて得られる能力等の情報を添付することも考えられる。
○ プログラムにかかる教育研究活動について,自己点検・評価,認証評価等を通じて適切に評価を実施する。
○ ダブル・ディグリー・プログラムを履修する学生の募集に当たり,具体的な手続を定めるとともに,募集要項等の関係書類を原則として公開する。
○ 学生の在籍関係や授業料の取り扱い等について,学生の便益に配慮するとともに,関係大学の学生間での公平性の確保に留意する。
○ やむを得ない事由により授業科目を開設できなくなった場合に,学生に対して適切な措置が図られるよう留意する。
○ プログラムの実施状況等を公表するとともに,あらかじめ学生に明示する。
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室