3.留学生にとって魅力ある社会 -日本の社会のグローバル化-

 留学生をさらに我が国に引き付けるためには、卒業・修了後の留学生を引き続き我が国に引き留め社会の一員として迎え入れるとともに、地域・企業等も協力した交流支援などを通じ、我が国そのものがグローバル化していくことが必要である。

(1)将来の魅力あるキャリアのための就職支援・雇用の促進

  1.  将来のキャリア形成を考える留学生にとって、卒業後、我が国で働くことができることは、留学の大きな誘因となる。また、留学生を卒業後も積極的に取り込み、我が国の大学等で学んだ知識や技術を生かして引き続き我が国の企業等で活躍することは、企業等のみならず我が国の発展やグローバル化に大いに寄与すると考えられるとともに、就職企業が留学生の出身国に展開する場合も多いことから、母国と日本との架け橋となって活躍するというODA的な側面も達成でき、より大きな効果が期待できる。
     実際、日本学生支援機構の私費外国人留学生生活実態調査によると、卒業後日本において就職を希望する留学生は全体の56.3%となっており、留学生の6割近くが我が国での就職を希望していることが明らかになっている。一方で、大学等を卒業・修了後引き続き我が国に留まって就職する留学生の数は年々増加しており、日本学生支援機構の調査結果では、平成18年度に卒業(修了)した進路が明らかな留学生32,099人のうちの29.3%の9,411人が日本国内に就職している。この数は2年前の平成16年(国内就職者数5,705人、22.9%)に比べ数、割合とも大幅に増加している。なお、博士課程修了者を見た場合、日本国内で就職した者も母国に帰って就職した者もそれぞれ全体の3割となっているほか、3~5年程度日本で勤務した後、留学経験や日本で勉強したことを生かして母国の日本企業に就職し、日本と母国の架け橋となることを望む者も見られるが、このような留学生の就職に対する意識も、今後のキャリアパスの一つとして考えられ、企業では採用にあたって多様な留学生のキャリア形成に配慮することが望ましい。
  2.  留学生が留学先を決定する上で、将来のキャリアビジョンは大きな決定要因となる。逆に、海外進出している我が国の企業では優秀な留学生の雇用への期待が高い。そして日本企業に就職した元留学生の日本留学への満足度は高いとの調査結果もある。このため、戦略的に人材の需給状況を明らかにしつつ、我が国での就職の倍増を目指すといった、産学官連携による積極的な留学生への就職支援・雇用の促進を展開することが重要である。
     留学生への就職支援については、これまで必ずしも重視されてきたとはいえなかった。しかし、一方で、日本で就職を希望する留学生からは、就職に関する情報の充実などの支援を望む声が強く、産学官が連携協力して就職支援を行う必要がある。
     その取組例として、平成19年度から、経済産業省と文部科学省が共同で、「アジア人財資金構想」を実施しており、専門科目に加えビジネス日本語やインターンシップを組み合わせた優れたプログラムを実施する大学に対し、運営費の助成やプログラムに参加する留学生を国費留学生として採用するなどの取組を進めているが、こうした産学官連携の取組を引き続き推進することが必要である。
     現在、日本学生支援機構では毎年、留学生に対する就職ガイダンスの実施や、留学生のための就職情報誌の刊行などの就職支援のための事業を行っているが、今後、よりきめ細かくかつ、質量とも充実した情報提供が望まれる。
     また、厚生労働省では、日本学生支援機構の地方支部や大学等と連携して、大規模な留学生向けのインターンシップ事業を「外国人雇用サービスセンター」(外国人版ハローワーク)を中心に展開することとしているが、こうした留学生向けインターンシップの促進も望まれる。
     大学等でも、独自に就職ガイダンスやセミナー、就職相談などを実施しているが、その際、前記の国や日本学生支援機構などの取組とも連携して、留学生の特性を考慮した支援の取組とその強化が必要である。
     なお、留学生が卒業後日本に留まって起業を目指す場合に最長で180日間滞在が可能となったことから、今後、就職支援とは別に、起業に関する情報提供など留学生の卒業後の起業への取組も求められる。
  3.  他方、企業の側での雇用の促進にも期待がかかる。独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査では、過去3年間に留学生を採用した企業の割合は全体の約1割に過ぎないものの、採用した企業では引き続きその採用に前向きであるとの結果が出ている。採用に加え、採用後の昇進について日本人と同等に扱うことや高い能力に見合った処遇の提供も含め、企業側の意識の変化や受入れ体制の整備が望まれる。これを促進するためにも、インターンシップは、企業と留学生の相互理解を進める点で効果的であり、積極的な取組が望まれる。
     なお、企業のみならず、大学等や研究機関でも、その環境を国際化するとともに、日本人教員や研究者と切磋琢磨して一層国際競争力を向上させることが求められている。そのためには、特に日本の大学等を卒業・修了した留学生を教員や研究員として採用していくことも望まれる。また、その推進のため、国は、例えば、積極的に外国人教員や研究員を採用する大学等や研究所に対するインセンティブの付与や日本学術振興会の外国人特別研究員事業を活用し、優秀な留学生が大学院修了後も引き続き日本に留まって研究に従事する機会を提供するといった方策を取り入れることも考えられる。
  4.  留学生が国内で就職する際には、就労が可能な在留資格への変更が必要となる。これについては、入国管理や我が国の外国人労働者の受入れの在り方の問題にもなるが、産業界の要請も踏まえつつ、就労可能な職種の明示等在留資格の明確化や、留学生の専攻科目と従事する業務内容の関連性に関する柔軟な取扱いの徹底など、その在り方についても検討することが望まれる。また、卒業・修了後留学生が日本に留まって就職活動できる期間が180日間(内定を得た場合には前記180日間も含め1年間)と限られている点についても、不十分という意見もあり、考慮が求められる。

(2)地域・企業等のコンソーシアムによる交流支援

  1.  留学生交流の取組を大学等のみで行うのではなく、地域において多様な団体や企業等も含めたコンソーシアム形態での交流も、新たな留学生交流の取組として有意義であり、地域で協議会を作るなど積極的な取組が望まれる。例えば、日本のある地域において、大学等がコンソーシアムを形成し、それに地域の文化資源や地場産業も含め世界の特定地域とのローカル・トゥ・ローカルレベルの交換留学は、地域活性化にもつながるものである。
     また、例えば、留学生をボランティアベースで地域の小学校等に講師として招き、英語をはじめとした外国語や国際理解教育を担当させるといった活動も、地域の一員として留学生が活躍し、地域にとけ込むきっかけになると同時に、児童生徒の外国語能力の向上や異文化理解などの面でも有益である。このように、生活者としての留学生を地域をあげて受け入れ、留学生と地域との交流を進めることについては、大学等をはじめ留学生に関する関係学協会やNPO、ボランティア団体等も含む関係者が協議する場をつくるなど連携を進める取組が重要である。
  2.  米国では企業が主催し、夏休みの間、世界の優秀な学生を集めたサマースクールを開催している例があり、これが将来の世界的な人的ネットワーク形成に役立っているとも言われている。短期交流は大学等の主導で行うことが多いが、経済的負担もあり、必ずしも十分とはいえない中、企業の協力によるこうした取組は、学生側からみれば、国際経験の涵養のみならず国際間の学生交流を通じたネットワークづくりの促進につながり、他方、企業にとっては、国際レベルで学生の意識を理解できるとともに、企業の名を国際的に通用させ、将来の採用活動に役立つ場合もある。国においては、このような取組を促進することが望まれる。
     従来から、企業の出資による奨学財団を通じた奨学金など、企業が留学生に対して奨学金を支給したり、企業の社員寮を留学生宿舎として提供するなど、留学生への生活支援に対する積極的な取組みが行われてきている。こうした企業の取組を一層促進することも求められる。

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