平成23年11月24日
大学分科会大学院部会
グローバル化が進展する知識基盤社会において,専門分化する膨大な知の体系を俯瞰しながら物事の本質を捉え,新たな価値を創造し,人類社会が抱える未知で複雑な課題の解決を先導する高度な人材として,博士の重要性はますます高まっている。
我が国の博士課程は,優れた修了者を輩出し,我が国の高い研究力を牽引してきたものの,産学官を問わず十分に活躍しているとは言えない。その背景として,教育が個々の担当教員の研究室で行う研究活動に依存する傾向にあることが指摘されている。我が国の博士が,アカデミアはもとより広く産学官の中核的人材としてグローバルに活躍していくためには,広範なコースワークや複数専攻制,研究室のローテーションなどの専攻分野の枠を超えた体系的な教育を経て独創的な研究を計画し遂行させるなど,博士課程の5年間を通じて一貫したプログラムを構築することが必要である。
我が国では,博士課程を持つ大学のほとんどが前期と後期の区分制を採用している。前期の課程は,修士課程として扱われるため,その課程を修了する要件として,修士論文又は特定課題の研究成果という一定の研究成果の審査と試験を課し,修士号を取得して,後期の課程に進むことになっている。
前期の課程を通じて研究成果をまとめることは,研究者としての資質を涵養し,その適性や進路を見極めるために大きな役割を果たすものの,博士課程の5年間を通じて一貫したプログラムを構築する観点からは,研究テーマが早い時期に特定され,狭い範囲の研究に陥る傾向などが指摘されている。
そこで,前期の課程を修了し修士号を授与する要件として,「博士論文研究基礎力審査」(専攻分野に関する高度の知識・能力と関連分野の基礎的素養に関する試験,そして博士論文に係る研究を主体的に遂行するために必要な能力に関する審査)を修士論文又は特定課題の研究成果の審査と試験に代えて課すことができるように,その旨を大学院設置基準に位置づけることが適当である。
(なお,これは修士課程のみの専攻の場合には適用されない。)
大学が「博士論文研究基礎力審査」を課す場合は,教育の質を保証する観点から,
といった2段階からなる厳格な評価とすることが適当である。
また,厳正かつ客観的な審査を確保するため,各大学において,学外教員や関連分野の教員を交えた審査体制が確保されるべきである。
「博士論文研究基礎力審査」を課す場合は,前期の課程では,修士論文の作成に要する時間・学修量以上に,広範なコースワークや複数専攻制,研究室のローテーションなどの体系的な教育を質・量ともに充実させるべきであり,30単位(大学院設置基準に定める最低取得単位数)を超える修了要件の設定などがなされるべきである。
「博士論文研究基礎力審査」により前期の課程を修了し,後期の課程に進学しようとする者の選抜は,各大学において適切に対応することが求められる,
また,後期の課程では,一人ひとりの学生が,体系的な教育を通じて修得した広範な知識や能力を生かし,独創的な博士論文研究を計画し遂行できるよう充実した教育が実施されるべきである。
「博士論文研究基礎力審査」の導入は,博士課程の5年間を通じて一貫したプログラムを構築し,優秀な学生を惹き付け,俯瞰的視点と独創力を備えグローバルに活躍できる優秀な博士を輩出することを目的としている。
各大学においては,こうした趣旨を踏まえ,人材養成目的の設定,学生の選抜,プログラムの編成,博士学位審査等の総合的な改善に取り組むことが強く求められる。
高等教育局大学振興課大学院係