平成22年5月11日
中央教育審議会大学分科会大学規模・大学経営部会
~我が国の成長を支える私立大学の教育研究機能を充実するため,資源の効果的活用による経営改善を促す~
大学規模・大学経営部会では,我が国の人口構造・産業構造・社会構造等が大きく変わる中で,大学の量的規模や経営の在り方について審議を行ってきた。
具体的には,平成21年6月に,大学の適正規模の観点からの自主的な組織の見直し等について検討課題を整理している。同年8月には,その検討をさらに深め,大学の自主的な経営改善の取組への支援と情報公開の促進について課題を整理した。
また,18歳人口だけでなく,社会人や高齢者等の多様な人々のうち,どの程度が大学で学ぶようになるかを想定することは,大学として必要とされる量的規模,又は政策的に妥当とされる規模を検討していく上で重要である。そこで,本年3月には,大学における社会人の受入れの促進について,論点整理を行った。
今回,私立大学を巡って様々な課題がある中で,私立大学が健全な発展をしていくため,これまでの検討を踏まえつつ,早急に取り組むことが求められる施策として,以下を取りまとめた。
我が国の人口構造,産業構造,社会構造等が大きく変化し,社会全体のグロ-バル化が急速に進む中,大学が,知の拠点として,その活動を通じて,社会に寄与・貢献する機会は大きく拡大している。我が国の大学の過半は私立が占めており,私立大学の教育研究活動の質的向上は極めて重要になっている。
しかしながら,18歳人口の急激な減少や大学数の増加により,私立大学のうち,入学定員が未充足となるところや,単年度の収支がマイナスとなるところの割合が増加している。この傾向は,特に都市部以外の中小規模の大学で顕著になっている。さらに,昨今の国際金融情勢の影響により,資産の減損による運用収入の縮小,寄附金収入の減少等が見られ,学納金以外の資金調達が,個々の大学の努力のみでは限界に達しつつある。
大学が社会の負託に応えて質の高い教育研究活動を持続的に実施するには,経営基盤の安定が不可欠である。学校法人の経営基盤が全体として悪化傾向にある中で,学校法人の経営改善に向けた取組を,これまで以上に強化しなければならない。
私立大学が,活力を維持し新しい時代に向けて発展するためには,「大学における社会人の受入れの促進について(論点整理)」(平成22年3月12日)で述べたとおり,18歳から20歳代前半の若者のみならず,人々の学習ニ-ズに即した魅力ある教育プログラムの実施等を通じて,社会人の受入れを積極的に推進することが重要である。
あわせて,各学校法人は,自主的・自律的に機能別分化を通じて,自らの特色を発揮し,経営資源の有効活用に取り組むことが求められる。具体的には,学校法人において,経営状況の分析・見通しを適切に行った上で,重点的に展開すべき分野を選別し,経営上看過できない状況が発生する前に,自らの進むべき方向性を検討・判断できるよう備えることが重要である。
その内容としては,例えば,以下のような三つの方向性が想定される。
また,大学が,地域社会や学生の視点を重視した教育活動を行う上で,地域社会や学生との信頼関係を築くことが極めて重要である。そのためにも,学校法人は,その設置する大学の教育プログラムや学生の卒業後の進路動向,財務・経営状況を明らかにするなど情報公開を一層推進することが有効である。
学校法人の経営改善は,自己努力・自己責任が原則であり,従来,学校法人に対する経営支援についても,その自主性に配慮して謙抑的になされてきた。
しかしながら,現下の厳しい経営環境にかんがみ,経営改善に努力しようとする学校法人に対し,より一層きめ細かい支援を行うことが必要になってきている。
そこで,今後は,文部科学省及び日本私立学校振興・共済事業団(以下,「私学事業団」という。)の経営支援機能を充実し,学校法人の経営者が,「自立・発展」や「連携・共同」,「撤退」など将来的な方向性を早期に判断し得るよう促すことが重要である。具体的には,経営相談の際に,以下の3つの事項をきめ細かく実施することが考えられる。
(ア) 経営相談を全国的に展開し,地方の学校法人への対応がより機動的に進められるようにすること
(イ) 経営が悪化傾向にある学校法人に対し,早期に経営診断を受けるよう積極的に呼びかけること
(ウ) 私学経営に関する専門的知識を有した人材の確保や事例の収集など,専門性を高めること
また,文部科学省及び私学事業団においては,学校法人の経営者が,経営状況の把握,改善に向けた方向性の認識,改善計画の実行といういずれの段階においても身近に経営相談を行うことが可能となるよう,配慮に努めることが重要である。あわせて,経営破綻など万一の場合に備え,学生の修学機会を確保する観点から,転学支援システムを構築するなど学生のセ-フティネットの整備に向けた取組を推進することが重要である。
【具体的施策】 1 経営相談機能の充実
私学事業団において,次の取組を行う
2 自己の強みを最大限活用した取組の支援(1)大学機能の高度化を推進する取組の支援
我が国の成長を支える教育研究の基盤形成や東アジア地域など世界を視野に入れた人材育成を行うため,下記のような施策に取り組み,大学機能の高度化を推進 (2)経営改善を促進するための私学助成
※関連する取組
3 大学間の連携・共同の取組の支援
4 円滑な学生募集停止,学校再生の取組の支援
5 学生のセ-フティネットの整備当面,転学生の受入れに関する支援として,以下のような取組を行う
|
学校法人は,学生に対しその在学中の健全経営を担保する責務があり,学生はもとより保護者や入学志願者など社会全体に対して説明責任がある。
これまでの部会での検討を踏まえて,私学の関係団体が,大学法人の財務・経営情報の公開の在り方に関して調査・検討を進めており,本年4月には,情報公開の項目例等に関する自主的な取組目標について中間報告を行っている。
そこでは,以下の二つの観点に立っている。
高度の公共性を有する学校法人が,教育方針や内容はもとより財務と経営の透明性を確保し,広く社会にその存在意義を明らかにすることは,極めて重要な行為であること,
財務・経営情報の公開は,経営力の強化をもたらすと同時に,学校関係者をはじめとする社会一般に対し,学校法人についての理解と評価を得るものであること,
その上で,公開の考え方を以下のとおり整理している。
(ア)方法については,ホ-ムペ-ジによる一層の活用が望ましいこと
(イ)項目については,財務の状況(財産目録,貸借対照表,収支計算書)をはじめとして,学校法人の概要(建学の理念・精神,将来に向けてのビジョン,沿革,設置学校等),事業の概要(主な事業の計画,教育研究や学生支援の概要等)とすること
(ウ)書類の形式については,事業報告書を中心に分かりやすい公開を心がけること
(エ)公開の促進方法については,私学の関係団体を通じ周知徹底を図ること
私学の関係団体では,今後さらに,財務・経営情報の公開の在り方について検討し取組を進めることとしており,団体内において,積極的な情報公開の実施を促していくことが期待される。そして,文部科学省においては,各学校法人に対し積極的な情報公開の取組を促していくことや,会計方針の取扱いなど情報内容のより一層の共通化・充実に向けた検討が必要である。その上で,将来的には,状況に応じて必要な事項を法令等で明確にすることも視野に入れつつ,情報公開の一層の促進に向け,環境の整備を図ることが重要である。
なお,教育情報については,質保証システム部会において,本年3月に公開に関する考え方と公開すべき項目例について整理がなされており,現在,文部科学省において,所要の法令改正に向けて準備が進められている。
【具体的施策】
|
これまで私立大学は,我が国の高等教育の普及と発展に大きく寄与してきており,これからも人材の輩出をはじめとして,その機能の向上が期待されている。我が国の成長を支える私立大学が将来に向けて発展していくためには,その多様な機能に着目して,基盤的経費の助成と競争的資金配分を有効に組み合わせ,多元的できめ細かなファンディング・システムを充実させることが重要である。
今後とも,私立大学における人材育成や先端的・独創的研究,社会貢献活動を一層促進するために,私学助成を拡充し,基盤的経費の助成を充実するとともに,我が国の政策的課題への各大学の個性・特色ある取組を財政的に支援することが重要である。
【具体的施策】
|
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室