大学における社会的・職業的自立に関する指導等(キャリアガイダンス)の実施について(審議経過概要)

平成21年12月15日
中央教育審議会 大学分科会 質保証システム部会

1.これまでの大学分科会の審議

(1) 大学分科会の第一次及び第二次報告

 中央教育審議会大学分科会では,これまで,大学教育の在り方について審議を行う中で,大学教育の質保証の在り方や,大学教育と卒業後に社会から期待される能力との関わりなどに関し,各種の提言を行ってきた。
 そうした中で,平成20年9月の諮問「中長期的な大学教育の在り方について」を受けた審議を通じて,平成21年6月の「第一次報告」では,「学生の履修指導や就職支援」を検討課題(例)として示した。この課題に関し,ワーキンググループでの論点整理を経て,大学分科会として審議を重ね,同年8月の「第二次報告」では,大学教育の質保証と学生支援の充実の観点から,職業指導(キャリアガイダンス)を法令上に明確化することについて,その際の留意事項を含めて整理した。
 これを受けて,11月以降,大学分科会質保証システム部会では,本件に関する検討を進めてきたところであり,関係団体からのヒアリングも踏まえ,これまでの審議経過を次のように整理した。

【大学分科会「第一次報告」(平成21年6月)】

学生支援・学習環境整備に関する検討課題(例)
ア 質保証において,学生支援に係る事項の重視。
イ 学生生活の場として大学に求められる機能。
ウ 多様なニーズに対応する大学教育を実現するための,学生の履修指導や就職支援,経済的支援等の総合的な学生支援・学習環境整備の在り方。

 

【大学分科会「第二次報告」(平成21年8月)】

○ ……平成20年12月の「学士課程教育の構築に向けて(答申)」で提言したように,学生が入学時から自らの職業観,勤労観を培い,社会人として必要な資質能力を形成していくことができるよう,教育課程内外にわたり,授業科目の選択等の履修指導,相談,その他助言,情報提供等を段階に応じて行い,これにより,学生が自ら向上することを大学の教育活動全体を通じて支援する「職業指導(キャリアガイダンス)」を適切に大学の教育活動に位置づけることが必要である。
○ 例えば,入学時のガイダンス等の導入プログラムから,学生の適性,興味・関心などを踏まえ,履修指導等において,きめ細かい指導・助言が行われるよう職業指導(キャリアガイダンス)の充実に努めることが必要である。
 このため,法令上も,職業指導(キャリアガイダンス)の実施を明確にすることにより,大学において組織的かつ計画的な取組を推進することが重要である。
○ また,教育活動全体を通じて職業指導(キャリアガイダンス)を充実することにより,学生が安心して学び,自己の適性や生き方を考え,主体的に職業を選択し,円滑な職業生活に移行できると期待される。

(法令上の明確化に当たっての留意事項)
・ 就職ガイダンスや職業意識の形成に関する授業科目を開設している大学等が約7割に達しており,また,その状況が各大学の特色に応じて多様である実態を踏まえつつ,一般教育と専門教育とのバランスに留意した制度設計とすること。
・ 現行の大学設置基準では,教育課程及びそれを構成する授業等に関する規定は,大学の自主性・自律性を尊重する観点から,必要最小限に抑制されていることを踏まえ,それとの均衡を失しないこと

 

【参考】中教審・キャリア教育・職業教育特別部会「審議経過報告」(平成21年7月)

 勤労観・職業観や社会的・職業的自立に必要な能力等を,義務教育から高等教育に至るまで体系的に身に付けさせるため,キャリア教育の視点に立ち,社会・職業とのかかわりを重視しつつ教育の改善・充実を図る。
  (中略)
 多くの就業者にとって社会に出て行くための学校教育の最終段階である高等教育修了の段階では,社会への移行に当たり,本人の主体的・自律的選択が求められる時であり,職業指導(キャリアガイダンス)や,キャリアセンター等による,職業・就職に関する情報の提供や相談体制などの機能がとりわけ重要になっている。

 

(2) 「キャリアガイダンス」及び「職業指導」等の用語

 上記の大学分科会の「第二次報告」では,「厚生補導」(学生の人間形成を図るために行われる正課外の諸活動における様々な指導,援助等であり,具体的には,課外教育活動,奨学援護,保健指導,職業指導等を含む。)の領域の一つとして行われてきた「職業指導」の概念に着目して,「職業指導(キャリアガイダンス)」と記載した。
 しかしながら,今回の審議経過概要では,「職業教育」(一定の又は特定の職業に従事するために必要な知識,技能,態度をはぐくむ教育)との誤解が生じ得ることを踏まえて,「職業指導」を用いないこととした。その上で,「キャリア教育」(社会的・職業的自立に向け,必要な知識,技能,態度をはぐくむ教育)の考え方に基づきつつ,学生に対して実際に教育が行われる場合に現れる態様である指導・支援に着目し,「社会的・職業的自立に関する指導等」(キャリアガイダンス)として整理している(用語の整理は「参考1」を参照)。

 

2.社会的・職業的自立に関する指導等に係る規定を大学設置基準に位置づける理念

(1) 社会的・職業的自立に関する指導等の考え方と現状

 大学は,学術の中心として,広く知識を授けるとともに,深く専門の学芸を教授研究し,知的,道徳的及び応用的能力を展開させることを目的としており,大学教育や学生生活の経験を通じて獲得する成果(知識・技能,態度・志向性等)には,専門分野に関する知識・技能とともに,社会的・職業的自立に必要な資質能力が本来的に内在していると言うことができる。
 社会的・職業的自立に関する指導等(キャリアガイダンス)は,このことを踏まえ,各大学の実情に応じて,社会的・職業的自立を図るために必要な能力を培うために,教育課程の内外を通じて行われる指導又は支援であり,具体的には,教育方法の改善を通じた各種の取組のほか,履修指導,相談・助言,情報提供等が想定される。
 各大学では,教育課程を通じて,それぞれの個性・特色や学問分野に応じた取組を行うほか,厚生補導を通じて,学生に対する各種の職業意識の形成や就職支援を行っている(取組事例は「参考2」を参照)。これは,単に卒業時点の就職を目指すものではなく,生涯を通じた持続的な就業力の育成を目指し,豊かな人間形成と人生設計に資することを目的として行われる。

(2) 社会的・職業的自立に関する指導等に係る規定を法令上に明確化する趣旨

 学生の社会的・職業的自立は,産業界や地域の各種団体を含む社会全体として支援していくことが不可欠であるが,平成20年の答申「学士課程教育の構築に向けて」で述べたとおり,若者の過半数(56%)が大学に進学しているとともに,職業の種類や,企業等の事業所の業種・規模・業務内容等が多様化している中,大学教育を通じて,社会人・職業人としての基礎能力や,産業構造等の変化に対応できる柔軟な専門性と創造性の高い人材の育成が強く要請されている。また,現在の厳しい雇用情勢や,学生の多様化に伴う卒業後の移行支援の必要性等を踏まえ,学生が,それぞれの専門分野の知識・技能とともに,職業を通じて社会とどのように関わっていくのか,明確な課題意識と具体的な目標を持ち,それを実現するための能力を身につけられるようにすることが課題となっている。
 この点に関し,我が国の大学における認識や対応は,総じて抽象的であり,国際的な大学教育の動向に照らしても曖昧と言わざるを得ず,その結果,学生の卒業後の社会的・職業的自立という観点から,その教育と学生支援に十分に取り組んできたとは言えないとの指摘もされている。
 そこで,大学の自主性・自律性や,それぞれの多様性を前提としつつ,すべての大学において,教育課程の内外を通じて,社会的・職業的自立に向けた指導等に取り組むため,その体制を整えることについて大学設置基準に位置づけることが求められる。

(3) 大学の機能別分化を踏まえた対応

 大学の機能別分化が進む中,各大学の教育研究目的,設置する学部・研究科の種類,学生数等の規模,学生や教職員の状況は多様であり,また,既に大学において多様な取組がなされていることにかんがみ,大学設置基準に位置づけるに当たって,大学の取組を画一的なものとしないよう留意する必要がある。

 

3.上記の現状と理念を踏まえた大学設置基準の改正

(1) 大学設置基準の改正の考え方

 社会的・職業的自立に関する指導等について,大学設置基準には,大学として最低限必要な事項を規定するという観点を踏まえ,次のような趣旨を設けることが考えられる。

 大学は,当該大学及び学部等の教育上の目的に応じ,学生が卒業後自らの能力を発揮し,社会的及び職業的自立を図るために必要な能力を,教育課程の実施及び厚生補導を通じて培うことができるよう,大学内の組織間の有機的な連携を図り,適切な体制を整えるものとする。

 

 大学設置基準には,「第6章 教育課程」(第19条から第26条まで)と「厚生補導の組織」(第42条)の規定があり,今回の規定は,これらの関係条文の後に置くことが適当である。短期大学の設置基準にも,その特性を踏まえつつ大学設置基準と同様の規定を設けることが適当である。
 大学設置基準における厚生補導の規定は,大学院生を含む全学的な取組として設けられており,大学院における社会的・職業的自立に関する指導等についても,大学設置基準に基づく実施体制を活用した取組が求められる。
 なお,高等専門学校は,職業に必要な能力を育成することを目的とする教育機関として,職業的自立に関する指導等のための全学的な体制を整備しており,その設置基準について,大学設置基準と同様の改正は行わない。

(2) 留意事項

1.各大学における社会的・職業的自立に関する指導等の在り方

 社会的・職業的自立に関する指導等として,各大学がどのような取組を行うかは,それぞれの教育研究目的,設置する学部・研究科の種類,学生数等の規模,学生や教職員の状況により多様と考えられるため,特定の教育内容・方法が大学に課されるべきではない。例えば,医療系人材や教員等の専門職業人の養成を目的とする学部等では,その教育活動の全体が,卒業後の職業との関わりを重視して構成されているように,分野により多様であることを踏まえる必要がある。

2.教育課程の編成における取扱い

 各大学では,教育課程の内容と実施方法に関する方針を定める中で,個別の授業科目のシラバスや,体系的な教育課程の編成を通じて,社会的・職業的自立に関する指導等の在り方を明らかにし,学生に対し,その内容の理解を図ることが求められる。
 なお,教育課程の編成と実施に当たっては,大学として保証すべき教育の内容・水準に十分留意する必要がある。例えば,幅広い職業意識の形成に着目した授業科目を開設する場合に,大学の判断により,それが教育課程の一部として位置づけられるのにふさわしい内容・水準であることを明らかにするとともに,専門教育等とのバランスにも留意しつつ,過度に傾斜しないような配慮が考えられる。

3.学内における実施体制の確保

 今回の大学設置基準の改正は,社会的・職業的自立に関する指導等の実施に当たり,大学の判断に基づいて設けられている各種の組織(例えば,教育を行う様々な学内組織,厚生補導を行うための組織,教務部・学務部等の事務組織)の緊密な連携や,そうした組織の活用を通じて体制を整える必要性を規定している。したがって,学内に専任の教職員を配置する,または独立した組織を設けるなど,組織の設置を画一的に課すものではない。
 なお,大学において,社会的・職業的自立に関する指導等に具体的に取り組む際には,それぞれの大学の教育理念や,個性・特色,学生の状況等を踏まえた対応が必要であり,そのためにも,学内における専門性の高い人材の養成・確保や,学内の教職員による理解の共有化を図ることが求められる。

4.大学の取組状況の公表

 各大学では,その社会的・職業的自立に関する指導等の取組について,広く社会に説明していくことが求められる。また,認証評価により,各大学の理念や教育研究目的等を踏まえた適切な評価を受け,その評価結果が社会に明らかにされることが期待される(現在も各認証評価機関では,「進路選択の指導」等の評価項目を設けて評価を実施している。)。

5.産業界や各種団体をはじめとする社会との連携と協力

 学生への社会的・職業的自立に関する指導等は,大学だけでなく,社会全体として支援すべきものであり,産業界や地域の各種団体をはじめとする社会との連携と協力が求められる。
 また,雇用情勢の悪化による学生の不安な心理が就職活動の早期化をもたらしているとの指摘もあり,学生の落ち着いた学習環境の確保が必要である。こうした面からも,大学側の学生の就職に関する「申合せ」や,企業側の採用選考に関する「倫理憲章」の周知徹底を図っているが,学生の就職活動の早期化の現状は依然として続いており,大学,産業界や地域の各種団体,関係行政機関等の連携・協力による更なる改善の努力が不可欠である。

(3) 大学設置基準の規定の考え方の明確化

 大学設置基準の規定に関して,上記を踏まえた考え方について,後日誤解が生じないよう施行通知や解説等の文書により明確にする必要がある。

 

(参考1)用語解説

【厚生補導】

 学生の人間形成を図るために行われる正課外の諸活動における様々な指導,援助等であり,具体的には,課外教育活動,奨学援護,保健指導,職業指導等を含む。
 (大学設置基準は,第42条で「大学は,学生の厚生補導を行うため,専任の職員を置く適当な組織を設けるものとする」と規定している。)

【キャリア教育】

 社会的・職業的自立に向け,必要な知識,技能,態度をはぐくむ教育。より詳しくは「一人ひとりのキャリア発達を支援し,それぞれにふさわしいキャリアを形成していくために必要な知識,技能,態度をはぐくむ教育」(平成21年7月の中央教育審議会キャリア教育・職業教育特別部会の「審議経過報告」)。
 (このうち高等教育においては,平成12年の大学審議会の答申「グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について」が,キャリア教育を「学生が将来への目的意識を明確に持てるよう,職業観を涵養し,職業に関する知識・技能を身に付けさせ,自己の個性を理解した上で主体的に進路を選択できる能力・態度を育成する教育」と整理している。)

【社会的・職業的自立に関する指導等(キャリアガイダンス)】

 各大学の実情に応じて,社会的・職業的自立を図るために必要な能力を培うために,教育課程の内外を通じて行われる指導又は支援であり,具体的には,教育方法の改善を通じた各種の取組のほか,履修指導,相談・助言,情報提供等が想定される。上記のキャリア教育の考え方に基づきつつ,学生に対して実際に教育が行われる場合に現れる態様である指導・支援に着目して,このように整理している。
 (平成18年に改正された教育基本法は,第2条第2号に「教育の目標」の一つとして「職業及び生活との関連を重視し,勤労を重んずる態度を養うこと」を規定している。また,学校教育法は,第83条に「大学の目的」として「学術の中心として,広く知識を授けるとともに,深く専門の学芸を教授研究し,知的,道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする」と規定している。)

【職業指導】

 昭和33年の学徒厚生審議会の答申「大学における学生の厚生補導に関する組織およびその運営の改善について」は,職業指導を「学生がその個性と能力に応じた職業につくことができるようにすること」と整理し,これを厚生補導の領域の一つに位置づけている。
 (平成21年8月の大学分科会の「第二次報告」は,この職業指導の概念に着目して,「職業指導(キャリアガイダンス)」について提言した。しかしながら,「職業教育」(一定の又は特定の職業に従事するために必要な知識,技能,態度をはぐくむ教育)との誤解が生じ得ることを踏まえて,この審議経過概要では,「職業指導」を用いず,上記のとおり「社会的・職業的自立に関する指導等」として整理することとした。)

 

(参考2)社会的・職業的自立に関する指導等(キャリアガイダンス)に関連する取組例

 各大学は,社会的・職業的自立に必要な資質能力の涵養のため,教育課程を通じて,それぞれの個性・特色や学問分野に応じた取組を行うとともに,厚生補導を通じて,学生に対する各種の職業意識の形成や就職支援を行っている。

(1) 教育課程内での取組について

 教育課程内で行われるものは,各大学が自主的に定める教育課程の編成方針により多様であるが,大まかに3つの形態が見られる。なお,以下の例には挙げていないが,医療系人材や教員等の専門職業人の養成を目的とする学部・学科等では,その教育活動の全体が,卒業後の職業との関わりを重視して構成されている。

1.専門教育や一般教育におけるキャリア形成支援

 多くの大学において,専門教育や一般教育を通じて,学生の視点に立った取組が見られる。

例1:教育課程の全体を通じて,キャリア志向の取組を進める。
○A大学(文科系の私立大学):キャリア形成に必要な能力(コミュニケーション能力,プレゼンテーション能力,異文化理解能力,IT能力,クリティカル思考等)を「卒業成長値を高める『10の底力』」と位置づけ,全授業が,どの能力を伸ばすかシラバスで明確にして実施。セメスター終了時に,学生は自己評価を行い,自らに必要な基礎力を伸ばす。
○B大学(社会学系の国立大学):大学院を,学生の「キャリアデザインの場」と位置づけ,教員の研究や教員の補完ではない,自立的研究者となる資質能力を育成する観点から,教育内容の充実,就職・進学支援を体系的に実施。例えば,博士後期課程の学生を対象とする「企画と実践」は,海外研究者を交えた研究集会の企画運営を行う経験を積む。

例2:個別の授業における教育方法の工夫改善を通じてキャリア志向の取組を行う。
○C大学(総合型の国立大学):全学生が基礎科目「情報」を履修。「情報」では,情報に関する系統的な知識と経験(情報社会人の基本的素養)を修得し,希望する学生は「情報システム利用入門」で情報システムの利用方法を履修。
○D大学(文科系の私立大学):「企業倫理」の講義を通じて,専門分野の知識を修得しつつ,ディスカッション能力,話す力,まとめる力等を養成する。

 

2. 幅広い職業意識の形成等を目的とする授業科目の実施

 大学によっては,幅広い職業意識の形成に着目した授業科目を設ける事例も見られる。

例3:職業意識啓発のため,大学教員がコーディネーターを務め,卒業生や外部講師による体験を伝達。
○E大学(総合型の国立大学):学部2~3年生向けの「キャリア形成論」において,産業界,法曹界等で活躍する卒業生によるシリーズ講義を実施。
○F大学(総合型の私立大学):「人材育成学」における外部講師によるキャリア形成経験を聞き,社会・企業との関わりの中で自分自身を見つめ直す。

例4:特定学部・研究科の教員が,キャリア支援センター等と連携して,キャリアや実社会の問題について専門的,集中的に講義を行う。
○G大学(総合型の国立大学):1~2年生を対象とする講義「職業社会と資格制度」「進路と職業」の講義により,経済・労働・教育訓練の具体的事例を取り上げながら,学生が自己理解・啓発を深め,将来の職業生活に向けた指針・展望を得る。
○H大学(工学系の公立大学):教養教育科目や専門教育科目と別に,各種のキャリア形成科目を開講。具体的には,働くことの意義やコミュニケーションについて,グループ講義等を通じて学ぶ「キャリア形成論」や,事例に則して技術者としてのモラルを学ぶ「技術者倫理」等を実施。
○I短期大学(文科系の私立短大):1年生は「キャリアマインド形成セミナー」でプレゼンテーション能力やコミュニケーション能力を高め,2年生は「キャリアアップセミナー」で進路について考える。

 

3. インターンシップの実施

 一般的な職業観・勤労観の育成や,専門教育の実地学習のために,授業科目として位置づけてインターンシップを実施する大学が増加している。平成19年度には,大学の学部の55.2%(1,092学部),大学院研究科の12.3%(211研究科),短期大学の学科の29.4%(242学科)がインターンシップを実施している(ただし,この統計には,専門職業人養成の目的に必須とされる実習(例:医療系分野における各種の実習や,教職課程における教育実習)を含んでおらず,それらを含めると実施割合はさらに増える。)。
 例えば,すべての学部・研究科,学年の学生がインターンシップに参加できるような体制を整備している大学や,大学コンソーシアムがインターンシップの受入可能な企業等の団体を把握し,各大学にその情報を提供している取組等,多様な事例が見られる。

(2) 教育課程外での取組について

 多くの大学で,「厚生補導」の領域の一つとして,学内に就職支援のための体制を整備し,各大学の方針・実情に基づいて,学生の入学から卒業・修了までの段階に応じて体系的に組み合わせた取組が見られる。

教育課程外での取組例:
1.求人情報の提供及び求職申込みの受理
2.オリエンテーション及び履修指導
3.適性試験に基づく相談,就職に関する個別カウンセリング及び就職相談会の実施
4.ビジネスマナー講座,プレゼンテーション能力養成講座,種々の資格取得講座の開設
5.ホームページ,大学独自の就職情報誌・パンフレット,メーリングシステム等を通じた学生への情報提供

 

(参考3)諸外国における質保証の観点からの取組例

 諸外国の大学教育の質保証システムは,それぞれの大学制度や社会背景により多様であることを踏まえる必要があるが,一般に,ヨーロッパでは,事前規制としての設置認可と事後評価の組合せにより,アメリカでは,事後評価としてのアクレディテーションにより,公的な質保証システムが整備されている。
 そうした質保証システムの充実が進む中,近年,大学における職業に関連する規定等の整備が進んでいる。

○イギリス:QAA(Quality Assurance Agency)が作成し,設置認可審査を行う際にも使用される「大学行動準則」(Code of Practice)の一つとして,2001年に「キャリアに関する教育・情報・指導」(Career Education, Information and Guidance)が設けられている。この行動準則は,基本原則として「大学は,『キャリアに関する教育・情報・指導』に関し,明確かつ文書化され,分かりやすい方針を持たなければならない」と規定している。
○フランス:2007年施行の「大学自由責任法」により教育法典を改正し,大学の学生支援機能を充実しており,各大学への学生就職支援局の設置(第L611-5条)と,就職状況等に係る統計の公表(第L612-1条)等を規定している。
○ドイツ:連邦政府の高等教育大綱法は,「高等教育機関の使命」の一つとして「職業活動への準備」を掲げている。
 州レベルでも,例えば,ノルトライン・ヴェストファーレン州では2006年制定の「高等教育自由法」が,「一般大学(Universität)は,研究,教育,学修,若手研究者の育成,知識移転(とりわけ科学的な継続教育,技術移転)によって,科学的な認識を産出するとともに,科学を保護育成し,発展させることに資する。一般大学は,科学的な認識と方法の使用が必要となる国内外の職業活動に対して準備させる」と規定している。
○アメリカ:連邦政府教育長官が認証する6つの地区アクレディテーション協会のうち,カリフォルニア州をはじめとしたアメリカ西部地域を担うWASC(Western Association of Schools and Colleges)は,そのアクレディテーション基準に,学生支援の一環として,「キャリアカウンセリング」の実施を挙げている。

 

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