平成21年8月24日
中央教育審議会大学分科会大学規模・大学経営部会
「人口減少期における我が国の大学の全体像」の検討にあたっては,「中長期的な大学教育の在り方に関する第一次報告」(平成21年6月15日)において,量的規模と経営に関する論点を,1.大学全体に関わる事項,2.大学相互間の関係,3.各大学の取組の3つに整理し,各々について検討課題を示した。
1については,我が国の大学教育の量的規模について,必要な規模又は政策的に望ましい(又は妥当な)規模に着目し,社会人,高齢者,留学生等の大学修学の充実やグローバル化を踏まえた検討を行うため,現在,高等教育規模分析第一ワーキンググループにおいて論点整理のための調査・分析等を行っている。特に,大学院の量的規模については,大学院部会に人社系,理工農系,医療系等の作業グループを設置し,学問分野別・学位の種類別の規模の在り方について検討することとしている。
2については第一次報告において,大学間の連携・協力を通じ,機能を補完するための施策の速やかな導入のため,教育・学生支援分野における共同利用拠点の創設を提言したところであり,今後,大学の機能別分化の在り方等について引き続き検討することとしている。
今回は,このうち,特に3に関してさらに議論を深めることとし,第一次報告以降に明らかとなった平成21年度の高等学校卒業者数,大学入学者数,入学定員の状況や,平成20年度の私立大学の収支状況(いずれも速報)を踏まえ,「大学の自主的な経営改善の取組への支援の在り方について」の審議を行った。
また,第一次報告において,量的規模と経営に関する論点と共に一体的に検討していくこととしている「情報公開の促進」のうち,「財務・経営情報に関する情報公開の促進について」の,具体的な方策に関する審議を行った。
以下,これら2点について,審議を行った事項を述べる。
なお,経営改善の取組の支援等については,下記のとおり,18歳人口の減少を踏まえて,平成17年に中央教育審議会が提言を行い,これに基づき具体的検討が行われ,取組が進められてきている。これら経緯に加え,現状として,私立大学の経営状況が一層厳しさを増していること,また,平成5年の205万人をピークに減少してきた18歳人口が,平成21年度以降約10年間120万人前後で推移しその後再び漸減傾向に向かうことを踏まえると,今こそ,経営基盤の基礎固めに重要な時期であるといえる。審議においては,このような認識に立ち,国公私立大学全体がおかれている厳しい経営状況を視野に入れつつ,今回は,私立大学を中心として,当面取り組むべき事柄に焦点を絞り議論を行った。
(経営改善の取組の支援等に関する提言・取組の経緯)
1.平成17年1月:中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」
長期的な18歳人口の減少等を見据えつつ,各大学が自ら経営努力を行っていくことが不可欠であるとして,下記3点を提言。
2.平成17年5月:文部科学省高等教育局私立大学経営支援プロジェクトチーム「経営困難な学校法人への対応方針について-経営分析の実施と学生に対するセーフティーネットの考え方-」
経営分析に基づく早期の指導・助言,学校法人における経営改善計画の作成,各種経営改善方策,経営破綻処理,学生の修学機会確保のための基本的な仕組み(転学支援プロプラム)について,考え方を提示。
3.平成19年8月:日本私立学校振興・共済事業団,学校法人活性化・再生研究会「私立学校の経営革新と経営困難への対応」
2に基づき,引き続き具体的な検討が行われ,定量的に経営判断を行うための指標等が開発された。
これら指標等を使用し,日本私立学校振興・共済事業団や文部科学省が,各学校法人に対して,経営相談や早期の指導・助言等を実施。
◆進学率はこれまで上昇している。
平成21年春の高等学校卒業者数は減少した一方,志願率は上昇し,大学入学者数は前年程度。
◆私立は中小規模,特に都市部以外の地域の大学が未充足の割合が高い。国公私立とも都市部以外の地域で上昇傾向。
(全体)
(入学定員の規模別)
(地域別)
◆全体として悪化傾向。中小規模,特に都市部以外の地域の大学は収支マイナス傾向。
(全体)
(学生数の規模別)
(地域別)
(収支構造)
(注)帰属収支差額比率とは,学校法人の負債とならない収入である帰属収入から消費支出を差し引いた差額(帰属収支差額)が収支全体の何%にあたるかを見る比率である。出資(株式)の概念がなく,また,国公立学校のように施設が公費で賄われていない学校法人では,校地校舎等教育研究に必要な資産相当額を資本(基本金)として帰属収入の中から予め確保しなければならないため,基本金組入相当の帰属収支差額が必要になる。帰属収支差額比率は10%以上が必要と大学関係者において考えられている。
◆教育の質の向上,経営基盤の安定化に向けて自主的に取組を実施。
(教育の質の向上の取組)
大学経営にあたり,教育の質の向上に取り組むべきであることはいうまでもなく,私立大学団体では,各大学の質向上に対する取組の現状を調査・分析し,各大学や大学全体として取り組むべき事柄を明らかにするなど,自主的な取組が進められている。
(経営基盤の安定化への取組)
教育の質向上のためには,経営基盤の安定が不可欠であり,限られた教育研究資源を効率的に活用することで,経営基盤強化を図る取組は,様々な方法により自主的・自律的に進められている。
ア 大学間連携の強化
コンソーシアムの結成,複数大学による教育課程の実施に向けての構想等が進んでいる。
イ 地方公共団体との連携
事業面での協力,地方公共団体関係者の学校法人役員としての参画等,多様な事例がある。
ウ 学部・学科等の改組,入学定員の調整
改組により新たな需要喚起による経営改善を目指す事例も多くみられる。この場合,収容定員の増減を伴うこともある。
今後の見通しに基づき,学部・学科等を廃止し,他学部等に統合するという判断を行った設置者もある。この場合には,在学生の教育を支障なく実施し,地域を含む関係者の十分な理解の下に構想を進めていく必要がある。
エ 大学・学校法人の組織の一元化
近年の事例として,同一法人内での大学の統合,学校法人間の合併による大学の統合再編が見られる。
大学の支援にあたっては,
であることを踏まえ,現状に基づき,これまでの取組に加えて対応が必要と考えられる次の課題に関し,各大学の自主的な取組を促す支援を行うことが重要。
(課題)
1.大学教育需要への対応の必要性
2.都市部以外の地域での大学教育機会の提供や学生支援の必要性
3.大学経営から撤退する場合の支援の必要性
以上のような課題に対応するため,第一次報告において示した事柄に加え,大学全体に関わる事項や大学相互間の関係に関わる事柄も含め,以下のような検討課題が考えられる。 なお,安定的・継続的な大学経営のため,基盤的経費の確保は必須である。このため,その充実に向けて,後に述べるとおり情報公開を促進しつつ,引き続き基盤的経費の支援に努めていく必要がある。
ア 経営基盤の強化に資する各種取組の促進 1.国公私を超えた大学間の戦略的な連携取組の支援 2.産学連携,地域連携の取組の支援 3.都市部以外の地域の大学教育機会の確保 4.競争的資金等の財政支援の仕組の工夫 5.大学による学生に対する経済的援助への支援 6.経営基盤の強化に資するその他の各種取組の促進 イ 学校法人の経営困難からの再生,撤退,経営破綻時の支援 経営困難に至る前における,一定の経営判断指標に基づく早期指導・助言の実施と経営困難時における各種支援策の実施
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ア 規模の検討に関連して,大学教育の質保証の前提でもある健全な大学経営を促すために,私立大学に関する具体的な制度の見直し。 (複数大学の連携に関する検討例) (各大学の取組に関する検討例) イ 高等教育機関の全国的な地域配置の状況や,学部・学科等の学問分野構成についての情報収集と提供,また,人材需要動向についての予測等の恒常的な把握・提供に関するシステムの整備。 ウ 学校法人の経営困難,経営破綻時の支援(ガイドラインの作成,学生の修学機会確保のための支援策,募集停止後の支援の在り方の検討)。 |
公表の対象とすべき情報には多様なものが存在する。それぞれの公開の必要性を検討するにあたっては,大学や大学の設置者が有する特性を踏まえ,公開を必要とする情報の内容や対象者等を考慮し,具体的な範囲・種類・詳細の程度等を検討していく必要がある。
1.学校教育法に定める学校としての公開の意義
大学は,学校教育法に定める学校であり,特に,高度な教育研究活動が求められる。
(公開すべき情報の内容)
◆学校としては,教育研究活動に関する情報を中心に公開が必要である。
(主たる対象者)
◆主たる情報公開の対象者は,学生,志願者,学費負担者であると考えられる。
2.公益を目的とする活動を行う法人・団体としての公開の意義
大学の設置者は,学校教育法に定める学校の経営という公益を目的とする活動を行う法人・団体であり,このため,各種の税制優遇措置などが行われている。
(公開すべき情報の内容)
◆公益性の高い法人・団体としては,活動の意図や状況を広く社会に説明することが求められる。このため,設立理念,事業目的,主な事業の内容・状況,事業による収支,財産状況などを公開していく必要があると考えられる。 なお,大学の設置者が行う主たる事業は当然に教育研究活動であり,このため,財務・経営に関する情報と教育研究に関する情報との双方を公開する必要がある。
(主たる対象者)
◆主たる情報公開の対象者は,社会一般(不特定多数の者)であると考えられる。
3.公費が支出されている法人・団体としての公開の意義
多くの大学の設置者は,補助金,運営費交付金等の公費を得ており,その原資は,税金によっている。
(公開すべき情報の内容)
◆公費を得ている法人・団体としては,公費の使途や収支,財産状況を十分に説明していく必要があると考えられる。
(主たる対象者)
◆主たる情報公開の対象者は,納税者全般であると考えられる。
1.学校教育法に定める学校としての情報公開
教育研究活動の情報の公表については,学校教育法において,「大学は,教育研究の成果の普及及び活用の促進に資するため,その教育研究活動の状況を公表するものとする。」とされ,公表義務が定められている。
2.公益を目的とする活動を行う法人・団体としての情報公開
(国公立大学法人等)
国立大学法人や公立大学法人は,国立大学法人法や地方独立行政法人法により,下記書類の公表が義務づけられている。
なお,地方公共団体が設置する公立大学については,各地方公共団体の判断や情報公開条例に基づき,各種情報の公開が行われている。
(学校法人)
学校法人は,私立学校法に基づき,下記書類について,利害関係人(学生や保護者,教職員,債権者等。志願者は含まない。)から請求があった場合に,閲覧に供することとされている。平成20年度において,約9割の学校法人で自主的に一般公開が行われているが,特に事業報告書については,国が記載例として大枠のみ示していることもあり,各学校法人毎に,公表されている事項の種類や詳細が異なっている。
なお,学校法人については,大学(短期大学含む)を設置する法人のみならず,高等学校,中学校,小学校,幼稚園のみを設置する,規模の小さな法人を含めた制度となっている。
3.公費が支出されている法人・団体としての情報公開
(国公立大学法人等)
同上
(学校法人)
私立学校振興助成法に基づき,経常的経費の助成を受ける学校法人は,財務諸表を所轄庁に届け出なければならない。また,当該財務諸表には,公認会計士又は監査法人の監査報告書を添付しなければならない。なお,届け出られた財務情報の大科目等については,情報公開法による公開の対象となっている。
<基本的考え方>
大学の設置者の財務・経営情報について,公開すべき情報項目等の具体的検討にあたっては,上述のとおり,1.学校教育法に定める学校として,2.公益を目的とする活動を行う法人・団体として,3.公費が支出されている法人・団体としての公開の意義を踏まえ行う必要がある。
また,情報公開の促進方法としては,A.法令による一律の義務化,B.国からの指針の提示及び自主的公開の働きかけ,C.大学関係者による指針の作成及び自主的公開などが考えられるが,実質的に国公私立大学が同一レベルで情報公開がなされることを目指すことが主眼であり,そのための手法を柔軟に検討し,各大学の設置者が,自らの特質に基づく説明責任を自覚して,自主的に,同等程度の情報を一般に公開していくことができるよう促していくことを重視すべきである。
以上の観点から,財務・経営情報の公開の促進に関する以下のような具体策について,将来的には,状況に応じて必要な事項を制度化することも視野に入れつつ,検討していくことが考えられる。
なお,財務・経営に関する情報については,たとえば,入学定員や入学者数などのように,教育研究活動に関する情報にも該当するものがありうる。教育研究活動やこれらに関する評価,また,学生支援に関する情報の公開については,別途,質保証システム部会で,公開すべき内容の指針など具体的な検討を行うこととしていることから,今後,下記に沿って,財務・経営に関する情報公開項目例について検討が行われる際には,質保証システム部会の検討状況も踏まえつつ,適切に整理される必要がある。
ア 財務・経営情報に関する情報公開の促進策 (公開すべき情報項目) 2.作成基準 (公開の促進方法)
(公開情報の正確性,信頼性の確保) |
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室