「中長期的な大学教育の在り方について」に係る大学分科会の審議経過について

平成21年1月26日
中央教育審議会大学分科会

1.大学分科会における審議の経緯 

 1 中央教育審議会への諮問

 平成20年7月に政府によって閣議決定された「教育振興基本計画」は,大学に関し,平成20年度からの5年間で,特に重点的に取り組む事項として,教育力の強化と質保証,卓越した教育研究拠点の形成と国際化の推進等の施策を示すとともに,この「5年間を高等教育の転換と革新に向けた始動期間と位置づけ,中長期的な高等教育の在り方について検討し,結論を得る」としている。
 このことを受けて,同年9月11日,文部科学大臣から中央教育審議会に諮問「中長期的な大学教育の在り方について」がなされ,大学分科会において,その具体的な検討が付託されたことを受けて,9月25日以降審議を進めてきた。

 2 諮問事項と審議の進め方

 諮問の主な内容は,以下の三つからなっている。

  (1)社会や学生からの多様なニーズに対応する大学制度及びその教育の在り方について

  (2)グローバル化の進展の中での大学教育の在り方について

  (3)人口減少期における我が国の大学の全体像について

 また,これらに関して,諮問理由説明及び論点メモとして,具体的に審議を要する事項が示されている。これらの事項は多岐にわたるものの,各事項は深く関連しているため,審議事項を部会等に分割して検討をゆだねるのではなく,大学分科会として直接に審議を行うこととした。
 なお,審議事項のうち専門的な内容に関しては,大学分科会に置かれた「大学教育の検討に関する作業部会」に計13のワーキンググループ(WG)を設け,各WGが各種の調査・分析・論点整理のための専門的な検討を行うこととした。各WGは,恒常的な組織ではなく,大学分科会の審議に応じて発足し,目的を果たした時点で終了することとしている。また,各WGでの検討状況は,論点がある程度整理されたものから,随時,大学分科会にフィードバックされることとされ,大学分科会を審議の主体としている(なお,WGによっては,今後の大学分科会への報告に向けて,調査・分析に取りかかるものもある)。

 3 審議の経過

 大学分科会は,9月25日以降,7回開催し,諮問内容に関する審議を行ってきた。このうち,諮問後の初回の審議では,総論的な意見交換を行い,それ以降の各回では,審議事項を特定することとした。

 審議は以下の日程で開催された。

 平成20年
 ・9月25日(第70回)        ・総括的な意見交換

 ・10月29日(第71回)       ・設置基準・設置認可について

 ・11月26日(委員懇談会)  ・設置基準・設置認可について

                          ・学位プログラムについて

                          ・AHELO(OECD高等教育における学習成果の評価)について

 ・12月5日(第72回)         ・学位プログラムについて

                          ・大学の機能別分化と大学間ネットワークについて

 ・12月16日(第73回)         ・大学の機能別分化と大学間ネットワークについて

                                      ・私立大学の経営について

                                      ・大学の量的規模について

 平成21年
 ・1月22日(第74回)           ・これまでの審議を踏まえた総括的な意見交換

                                       ・グローバル化の進展の中での大学教育の在り方について

 ・1月26日(第75回)           ・これまでの審議を踏まえた総括的な意見交換

 

 以下に,審議の経過の概要を整理するとともに,主な意見を「(参考)「中長期的な大学教育の在り方について」に関する論点と委員からの主な意見」に取りまとめた。
 今後も,大学分科会として,各界からの幅広い意見もいただきながら,検討を進める必要がある。

 

2.諮問事項に関する審議経過の概要

 1 社会や学生からの多様なニーズに対応する大学制度及びその教育の在り方

(1)学位プログラムを中心とする大学制度と教育の再構成

 1 現状

  平成17年の中教審「将来像答申」において,「現在,大学は学部・学科や研究科といった組織に着目した整理がなされている。今後は,教育の充実の観点から,学部・大学院を通じて,学士・修士・博士・専門職学位といった学位を与える課程(プログラム)中心の考え方に再整理していく必要がある」としている。
 諮問理由説明において,「国際的・歴史的に確立されてきた大学制度の本質,とりわけその団体性や自律性を踏まえつつ,一人ひとりの学生のニーズに応じた大学教育が提供され,その質保証がよりきめ細かく行われるよう,「学位プログラム」を中心とする仕組みの導入の是非について,人的・物的環境の在り方を含め」検討することとされている。

 2 大学分科会における審議

  学位プログラムを中心とする仕組みの導入については,11月26日の大学分科会(委員懇談会)において,学位プログラム検討WGの主査である舘昭専門委員より,「米国の学位プログラムの概要と我が国の学位プログラムの在り方」について意見発表があり,それを踏まえて,同日及び12月5日の大学分科会(第72回)で審議を行った。1月22日の大学分科会(第74回)では,荻上委員より「学位プログラムを中心とした大学制度の再構成について(イメージ案)」について意見発表があり,その後,意見交換が行われている。その際,以下のような意見があった。

○ 日米では設置基準,認可の仕組みが異なるが,アメリカでは,新たなプログラムが学士の学位に相当する内容なのかどうかは,一義的には,学位授与権を持つ大学が判断している。大学内部での管理運営体制,評価体制がしっかりしたものでなければ,このような判断をすることは難しい。

○ 現在の日本の大学は,ほぼ全てが学部を単位とした制度になっており,学位プログラムの導入はこれを大きく変えることとなり,多くの議論が必要となる。例えば,リベラルアーツと専門教育の違いや,国内外における先行事例の研究・カリキュラム編成の在り方やコア・カリキュラムの作成の必要性等について議論が必要である。

○ 学位プログラムの検討は,大学の内部において教育研究の質を担保,向上させるために行うのであり,それができないならば意味がない。大学が質の保証を自ら行うことが重要である。

○ 「学位プログラムを中心とした大学制度」とは,従来のような学部や研究科等の組織に着目した大学制度ではなく,学位の取得を目指す学生の学修の視点に立って,学位のレベルと分野に応じて達成すべき能力を修得するように体系的に設計された,学位プログラムの実施に着目した大学制度とするもの。この取組を通じ,大学の内部統制機能を強化し,大学内部できちんと質保証ができるような仕組みとする。

○ 学位プログラムの実施における「教員組織」や「学生の所属組織」は,様々な形態が考えられる。現行の仕組みのままでも可能であると考えられるが,教員が専門分野別に編成された「教員組織」に所属し,学生が学位プログラムとともに「教育活動の場」に所属することで,学生が取得する学位のための教育プログラムを選択する仕組みとすることも考えられる。

 3 基本的な考え方

  以下の(2)において,質保証の在り方を全体的に検討することの必要性を述べているが,その際,(3)に挙げた当面の対応とは別に,現在の学部や大学院といった組織に着目した整理を,学位を与えるプログラム中心の考え方に再構成していくことで,公的な質保証と,大学の自主的・自律的な質保証を実現していくアプローチが考えられる。
  学位プログラムを中心に大学制度を整理することは,各大学が教育目標を明確化し,体系的な教育課程を整備することにつながる。これにより,学生本位の視点からも,社会や学生に対し,大学の提供する教育サービスの中身を明確に示すことができるようになる。これは,2(1)で述べる大学の国際競争力向上にも関連しており,留学生や海外の関係者に,我が国の大学教育に関する情報を分かりやすく提供する上でも重要である。

 4 今後の対応

  学位プログラムを中心に大学制度を整理することは,学校教育法や設置基準等の法令をはじめ,多くの論点に関わるものである。大学分科会としては,質保証の諸制度について検討する一方,学位プログラムに関しても,引き続き十分に審議し,委員間の共通理解を図りながら,審議を進めることが必要である。その際,(1)学位プログラムを中心とする考え方について,我が国の状況を踏まえた検討が必要であること,(2)国内外の事例について研究する必要があること,が指摘されており,学位プログラム検討WGにおいて,さらに議論を深めた上で,大学分科会にフィードバックを行うこととする。 

(2)大学教育の公的な質保証の仕組み

 1 大学分科会における審議

  10月29日の大学分科会(第71回)において,設置認可・設置基準に関する審議(以下の(3))がなされ,その議論を踏まえ,11月26日及び1月22日の大学分科会(それぞれ委員懇談会及び第74回)において,質保証の在り方の整理を行った。その際,以下のような意見があった。

○ 従来は,社会が大学に求める役割に一定の共通性があり,設置認可等を通じて,国がその質保証を担ってきたと言える。その後,大学の多様化が求められ,規制緩和施策が導入されたことにより,大学が市場競争にさらされるようになった。しかし,市場競争に任せるだけでは,有意な機能別分化を図ることができない。今後,各大学が,機能別分化を通じて,それぞれが目指す方向に特化していく中,大学の最低基準等の質保証の在り方等について検討することが必要である。

 2 基本的な考え方

  大学の公的な質保証に関して,従来,設置基準や設置認可の仕組みが,認証評価の在り方と十分に関連づけて議論されてきたとは言えないと思われる。また,公財政支援の在り方は,質保証に重要な役割を果たすことに着眼する必要がある。その他,大学院(専門職大学院を含む。)の在り方や,大学経営等に関する各種の課題も,質保証の仕組みと密接に関係しており,これら全体を視野に入れた構造的な改革が必要である。

  そこで,大学の公的な質保証においては,

  ・最低基準を定める「設置基準」,

  ・最低基準の担保のための「設置認可」,

  ・設置後の確認のための「認証評価」,

 の三つの要素と,

  ・大学の活動を支える公財政支援,

 を一体的に運用していく,公的な質保証の仕組みを構築する必要がある。
 例えば,認証評価については,その制度の在り方を検討するだけでなく,(1)設置認可との関係,(2)機能別や分野別の評価の検討や,その際の基準の在り方(基準については,2(2)で述べる国際的な動向とも関連する),(3)評価の実施主体の在り方,(4)公財政支援との関係,などの論点が想定される。

  また,博士後期課程に関して,設置認可や認証評価を通じて,その適切な在り方を促すことも考えられ,そのための方策の検討も求められる。
  こうした質の保証の仕組みの構築への取組は,2(1)で述べる大学の国際競争力向上の前提でもある。

 3 今後の対応

 公的な質保証の仕組みについては,(3)に挙げた設置基準や設置認可に関し,速やかな対応が必要なもののほか,全体的な検討が必要である。そこで,2(2)のとおり,世界的規模での大学に関する評価活動も見られる状況に留意しつつ,引き続き,大学分科会として審議を続けることとする。

(3)準則化以後の設置基準・設置認可の課題

 1 現状

  平成15年に「事前規制から事後チェックへ」という考え方のもと,設置認可の弾力化(認可事項の縮減と,審査を要しない届出制の導入),審査基準の簡素化・準則化が図られている。
   しかしながら,申請者や申請内容が多様化する中,現行の設置基準には定性的・抽象的な規定が多く,設置審査の具体的な判断指針として有効に機能しにくい面がある。

 2 大学分科会における審議

  10月29日の大学分科会(第71回)において,大学設置・学校法人審議会大学設置分科会の分科会長職務代理である納谷廣美氏(明治大学学長)による意見発表があり,それを踏まえて,同日及び11月26日の大学分科会(委員懇談会)において審議を行った。その際,以下のような意見があった。

○ 専任教員の在り方について,平成15年以前は内規で対応していたが,現在はそれに替わる基準がないため,審査において抽象的に議論せざるを得ず,一定の基準が必要である。

○ 通信教育については,世界の動向を見ると様々なタイプがあるが,郵便による通信教育のほか,インターネットの活用も進んでいる。生涯学習の機会の提供等を含めて,トータルに検討しないと,教育の質保証にかかわる。

○ 学部等を新設する際,学際領域等については,1/2以上の教員が既設学部等に所属していた場合は届出による設置が可能となっているが,当初想定していなかった形態での学部の新設等が起きており,早期に見直す必要がある。

 3 基本的な考え方

  設置基準や設置認可に関しては,当面,審査基準の明確化や適切な設置審査の観点から,以下に挙げたものについて,速やかに見直しを行うことが必要である。

  ○  設置基準に係る課題

   ・独立大学院(大学院大学)の審査要件の明確化

   ・教員要件の明確化

   ・通信教育設置基準の見直し

   ・学位に付記する専攻名等の在り方

  ○ 設置審査に係る課題

   ・審査期間の適正化

   ・明らかに準備不足の申請に対する審査手続の改善

   ・申請書類に添付する書類や記載内容等の見直し

  ・学際分野の審査体制の見直し

  ・財政支援等を行う自治体との連携の確保

 ○ 届出制度に係る課題

  ・設置に係る学年進行中における届出制度の適用の在り方

  ・学位分野の区分の在り方(学際領域の扱い等)

  ・届出にあたり新たな学位分野を追加する場合の対応

 ○ 設置計画履行状況等調査関係

  ・設置計画履行状況等調査の在り方

  また,2(1)(2)のとおり,大学間の交流・競争や,各種の評価活動が世界的規模で見られる中,大学として国際的に共通して求められる要件について,諸外国の制度や事例を調査しつつ,さらに検討する必要がある。

  例: ・キャンパスや組織の在り方等,大学として求められる要件について

    ・教員個人だけでなく,教員集団全体の質について

 4 今後の対応

  設置基準・設置認可の在り方について,可能なものから速やかに見直すこととし,質保証システム検討WGにおいて,大学設置・学校法人審議会の協力も得ながら具体的な検討を進め,大学分科会にフィードバックを行うこととする。 

2 グローバル化の進展の中での大学教育の在り方

(1) 大学の国際競争力向上のための方策

 1 現状

  我が国の社会や産業界がグローバル化の中で大きく変化する中,大学が,社会等の期待に十分応えていくことが求められるとともに,大学教育の国際的な競争と協働の取組が活発化し,国境を越えた大学教育の提供が普及しつつあるなど,大学の諸活動自体がグローバル化している。

 2 大学分科会における審議

  1月22日の大学分科会(第74回)において,大学グローバル化検討WGにおける検討状況が報告され,それを踏まえて審議を行った。その際,以下のような意見があった。

○ 大学教育の高度化に向けて,国際化はいわば風穴をあける効果がある。例えば,アメリカの大学教育を経験した学生は,そこでの大学の教育やサービスの水準を知り,帰国後に国内大学への要求度が高くなる結果,大学への満足度が低い。

○ 職業資格に関して,国際的に共通の水準が要求される中,その資格につながる大学教育において,国際的な共通水準が担保されていることが前提となる。

 3 基本的な考え方

  欧州では欧州高等教育圏の構築を通じて,教育の質の保証のための共通の枠組みづくりが進みつつある中,我が国の大学が,国際競争力を高めつつ,国際的な観点から質の保証を確保することが重要である。その際,1(2)で述べた大学の質保証に総合的に取り組むことは,国際競争力向上のための前提と言える。

   例:国際競争力向上に関する課題

    ○国際的に評価される教育を行うための方策

     ・教育内容の明確化

     ・学位の国際通用性の向上

     ・交換留学,短期交流促進の促進

    ○組織的・継続的な教育連携関係の構築

     ・国際的な大学ネットワーク形成への対応

    ○国際化の評価

     ・大学の国際化に係る評価とその活用

    ○国際的な情報の発信

     ・日本の大学の情報発信強化

  なお,1(1)で述べた学位プログラムを中心に大学制度を整理していくことの意義を述べたが,これは,我が国の大学の学位の内容を分かりやすいものとし,その国際的通用性を保証する上でも有効と考えられる。

 4 今後の対応

  今後,大学グローバル化検討WGにおいて,大学の国際競争力向上にかかる内外の取組等について調査・分析し,大学分科会における審議に役立てることとする。 

(2) 世界的規模での大学に関する評価活動への対応

 1 現状

  経済協力開発機構(OECD)において,高等教育における学習成果の評価 (AHELO: Assessment of Higher Education Learning Outcomes) のフィージビリティ・スタディの実施が提案されている。これは高等教育の学習成果に着目した評価活動を目指すものであり,我が国としても既に参加を表明し,工学分野への参加が決定している。    また,民間等による国際的な大学評価活動については,様々な課題が指摘される一方,その影響力を増しているとの指摘がある。例えば,イギリスのタイムズ紙の高等教育別冊 (The Times Higher Education Supplement) が公表する大学ランキングでは,(1)各国学者のピア・レビュー,(2)雇用者の評価,(3)学生一人当たり教員比率,(4)教員一人当たり論文引用数,(5)外国人教員比率,(6)留学生比率,の六指標に重み付けをしてランキングを算出しており,多くの国の大学関係者に関心を持たれている。また,EUでは,大学教育等を評価対象とする新たな大学ランキング・システムを模索するといった動きも見られる。

 2 大学分科会における審議

  11月26日及び1月22日の大学分科会(それぞれ委員懇談会及び第74回)では,OECD高等教育における学習成果の評価(AHELO)に関するWGによるAHELOへの対応に関し,専門的な調査審議の状況が報告がされている。
   また,1月22日の大学分科会(第74回)において,主要国における大学の質保証制度や,国際的な評価活動に関する事例が報告されている。

 3 基本的な考え方

  AHELOにおける学習成果に関する評価活動への参画,また,大学ランキングや関連する諸外国の取組に関する調査・分析は,1(2)(3)に挙げた我が国の大学の質保証の在り方を検討する上で不可欠である。

 4 今後の対応

  AHELOにおける学習成果に関する評価活動については,AHELOに関するWGにおいて,評価方法の検討も含め必要な検討を進め,大学分科会として,その進捗に対応していく。
   国際的な大学評価活動についても,今後,国際的な大学評価活動に関するWGにおいて,各種の手法やそれを受けた各国の取組について調査・分析し,大学分科会における審議に生かすこととする。 

3 人口減少期における我が国の大学の全体像

(1) 大学教育の量的規模

 1 現状

  平成20年度の大学・短大進学率は55.3%に達し,大学教育を希望する若者の割合は上昇傾向にある。一方,少子高齢化の影響により,日本の人口が減少局面に入っている中,社会人や留学生からの学修需要や,産業構造の変化に対応する人材養成も求められる。
   そこで,今回の諮問理由説明において「人口減少などの社会構造の変化や新たな需要を踏まえ,大学教育システムの在り方の見直しが必要」とされている。

 2  大学分科会における審議

   9月25日及び12月16日の大学分科会(それぞれ第70回と第73回)における意見交換において,以下のような意見があった。

○ 日本の大学教育の量的規模は,国際的にも過大とは言えず,社会人学生も少ない。大学は,リーダーとなるべき人材育成と底上げのために積極的に役割を果たすべきであり,量的規模の在り方も,それに相応すべきである。

○ 大学院の整備が進められてきたが,修士課程修了者や博士課程修了者が,それぞれどんな役割を果たすべきか,どの程度の養成数が必要か,などについて国際的に見て適正かどうかという観点を踏まえた検討が必要である。

○ 社会人や,意欲があっても経済的事情により進学をあきらめた者は,大学全入に関して語られる際の志願者数の算定に含まれていない。大学の規模を語る際には,そうしたことにも留意する必要がある。

○ 量的規模の検討に際しては,大学への進学需要,卒業後の労働需要のほか,質の観点が挙げられる。学生が十分に勉強しないと言われる現在の状況を前提として考えるのではなく,大学の質を強化し,学生に学修のインパクトを与えるよう改めていくことを前提とするならば,適正規模がさらに拡大してもよいという考え方もあり得る。

○ 我が国は社会人学生の入学が停滞していることが欧米諸国と異なる。社会人学生を積極的に受け入れると    している大学院の専攻は800程度存在し,全体のほぼ半数となるが,実態としては,ほとんどが従来型の大学    院であり,十分に社会人に対応したものとなっていない。大学が多様なニーズと潜在的な需要があると想定され   る中で,どのように対応するかが問われている。

 3 基本的な考え方

  量的規模については,

  ・少子高齢化とグローバル化が進展する中での大学の役割

   ・留学生,社会人など多様な年齢層の者の受入れの見込み(国内からの学生については,我が国の人口の中で,  どの程度の割合の者が大学教育で学ぶことが期待されるか)

   ・社会ニーズを踏まえた専門的人材の養成と研究者の確保

   ・機能別分化を通じた大学の健全な発展

 など,多岐にわたる論点があり,そうした問題意識を踏まえつつ,学士課程,修士課程,博士課程の別に,可能であれば分野別に,また,2(1)に述べた国際的な動向にも照らしつつ,およその量的規模について試算することが考えられる。
   量的規模の問題は,大学の質の在り方とも関連しており,1(2)に挙げた質保証の仕組みを踏まえた検討が必要である。

 4 今後の対応

 「大学教育の転換と革新(2025年に向けた展望)」に示された将来規模も念頭に置きつつ,高等教育規模分析第一WGにおける調査・分析を行いながら,大学分科会として引き続き審議を行うこととする。

(2) 大学の健全な発展のための収容定員の取扱いの適正化 

  1 現状

(定員超過について)
  国立大学では,運営費交付金の取扱いに関し,一定の定員超過率(平成20年度は1.3倍,21年度は1.2倍,22年度より1.1倍)以上の学生数分の授業料収入相当額の100%を国庫納付するなどの取扱いとされている。私立大学では,一定の定員超過率(収容定員の1.5倍,入学定員の1.3倍(入学定員については経過措置あり))以上にある学部等への経常費補助金を不交付とするなどの取扱いとされている。
  また,入学定員に対する超過率が1.3倍以上の場合に,学部等の設置を認可しないこととされている。
(定員割れについて)
  国立大学では,収容定員に対する在籍者数が90%を下回った場合,運営費交付金の積算のうち学生受入に要する経費措置額の未充足分に相当する額を国庫納付するなどの取扱いがある。私立大学では,在籍学生数の収容定員に対する割合が50%以下である学部等への経常費補助金を不交付とするなどの取扱いがある。

  2 大学分科会における審議

  12月16日の大学分科会(第73回)において,黒田壽二臨時委員より「私立大学の健全な発展について」の意見発表があり,それを踏まえた意見交換が行われた。その際,以下のような意見があった。

○ 入学定員の取扱いの適正化を促進するため,定員超過状況を勘案した基盤的経費の在り方に関し検討すべきである。その際,小規模な大学に対する配慮についてどう考えるか検討する必要がある。

○ 定員の扱いを厳格にするに当たっては,例えば,大学院生の多い大規模校では,多額の研究予算を必要とする現状があるなど,国公私の設置形態等の大学全体の構造や財政負担の問題を取り上げるべきである。また,学生や社会からの要求に重点を置いて議論を組み立てる必要がある。

  3 基本的な考え方

   学生数を収容定員に基づいて適正な数とすることは,教育にふさわしい環境を確保し,1(2)に挙げた大学の質保証の取組を進める上で必要である。
  また,(1)で述べた人口減少期において,定員割れが常態化している大学は,一般的には,収容定員を適正規模に削減しなければ,実在学者数に比して過大な教員数や施設設備を保有し続けることが経営上の悪化につながりかねず,適切な対応が必要である。

  4 今後の対応

   高等教育規模分析第二WGにおいて調査・分析を行いながら,今後も大学分科会として引き続き審議を行うこととする。 

(3) 大学の経営に関する情報公開の促進

  1 現状

   各大学は,教育研究活動等の状況に関する積極的な情報提供のほか,近年の設置基準の改正により,学部・学科・課程ごとの教育研究上の目的を公表すること,また,成績評価基準等を学生に対して明示することが定められている。また,大学の運営状況に関する情報発信についても,各大学において取組が進められている。
  しかしながら,大学の経営状況に関する情報については,いまだに学生や社会にとって分かりにくいとの指摘がある。

  2 大学分科会における審議

   12月16日の大学分科会(第73回)において,黒田壽二臨時委員より「私立大学の健全な発展について」の意見発表があり,それを踏まえた意見交換が行われた。その際,以下のような意見があった。

○ 志願者への情報公開の促進が必要である。事業報告書において,教育研究活動だけでなく,財務内容,志願状況等経営状況を記載することが必要である。

○ 学校法人における決算資料等においては,各大学の経営状況が明確で分かりやすいものとする必要がある。

  3 基本的な考え方

   進学希望者の進路選択に資するとともに,大学の社会に対する説明責任を果たすため,教育研究活動に関する情報公開を一層促進する必要がある。また,経営状況に関する情報公開についても促進する必要がある。

  4 今後の対応

   大学における情報公開の促進方策について,今後も大学分科会において検討することとする。

(4) 大学の機能別分化の促進

  1 現状

   平成17年の「将来像答申」において,大学が有する機能は,

  (1)世界的研究・教育拠点,(2)高度専門職業人養成,(3)幅広い職業人養成,

  (4)総合的教養教育,(5)特定の専門的分野(芸術,体育等)の教育・研究,

  (6)地域の生涯学習機会の拠点,(7)社会貢献機能(地域貢献,産学官連携,国際交流等)

  の七つに大別されている。各大学はこれらの機能の全てではなく,一部を保有するのが通例である。

  2 大学分科会における審議

   機能別分化については,12月5日,12月16日の大学分科会(それぞれ第72回,第73回)で審議が行われた。その際,以下のような意見があった。

○ 地方の大学において,その地域で何が求められているかを明確にしていくことで学生を確保していく取組が見られている。

○ 国立大学の機能別分化や,地方国立大学に求められる役割を明確にすることが求められる。地方国立大学の意義が地域貢献だけでは,公立大学に任せればよいことになってしまう。地域における存在意義を高めることができるか検討しつつ,機能別分化を進めることが必要である。あわせて,世界的な教育研究拠点をどうつくっていくかも必要な視点である。

○ 大学政策においては,多様な大学を一括りにして論ずるのではなく,大学の機能別分化の分類の在り方を精査し,それぞれに応じた施策を講じる必要がある。

○ 教育研究において国際的な競争を意識する大学に対して,通常の認証評価と別に,追加的な評価があるべきであり,それが公財政支援と結びつけることについて検討すべきである。その際の評価手法については,なおざりな評価にならないよう明確にする必要がある。なお,公財政支援の検討においては,地域の人材育成に重要な役割を果たす大学など,大学の多様な状況への配慮が必要である。

  3 基本的な考え方

  (1)で述べたとおり,我が国の人口が減少する中では,社会や学習者の多様化・高度化する需要に対応していくためには,各大学に,教育活動や学生支援の機能や施設等の一律の整備を求めるのは困難と考えられる。そこで,各大学の個性化・特色化を推進することで,我が国の大学の多様性を総体として確保することが必要である。これは,教育研究の充実,高度化を実現することにつながるとともに,(5)に述べる大学間のネットワークを進める上でも効果的である。
 そこで,各大学が自らの選択に基づき,これらの機能への比重の置き方を不断に見直し,緩やかな機能別分化を図っていく取組を一層促進することが求められる。
 また,機能別分化の検討は,1(2)で述べた,大学の質の保証の仕組みの検討とも関わっており,例えば,博士後期課程について,設置認可や認証評価を通じて,適切な在り方を促す方策の検討も考えられる。
 なお,機能別分化の促進とは,一定の固定化された類型への種別化ではなく,また,各大学に対して,多様な学内の取組や活動を特定機能に重点化するよう求めるものでもない。機能別分化の分類の方法も,必ずしも「将来像答申」の七つに限定して考えるべきではなく,我が国の大学の現状に照らした検討も望まれる。

  4 今後の対応

   大学の機能別分化に関し,その分類の在り方や,公的質保証システムと関連する公財政支援,また,自主・自立的な質保証活動を通じた具体的な促進方策について,今後とも大学分科会として審議を行うこととする。 

(5) 大学間ネットワークの構築

  1 現状

   現在,コンソーシアムを通じた大学間連携,連合大学院等の取組が見られるほか,戦略的大学連携支援事業による大学間連携への支援も始まっている。設置基準の改正により,大学における教育課程の共同実施も導入されることとされている。
 学術研究の分野では,平成20年の学校教育法施行規則の改正により,国公私を通じた共同利用・共同研究拠点が制度化され,既に七拠点が認定されており,各拠点に対する財政支援も講じられている。しかしながら,優れた教育や学生支援を行う機能や施設については,同様の仕組みは設けられていない。

  2 大学分科会における審議

   12月5日の大学分科会(第72回)において,

・長崎大学教授の青木克己氏より,全国共同利用機関である長崎大学熱帯医学研究所における共同利用について,

・東京学芸大教授の吉谷武志氏より,教育分野での全国共同利用機関である国際教育センターにおける共同利用について,

・一橋大学理事の山内進氏より,小平国際学生宿舎における複数大学の留学生のための共同利用について,

・河田悌一専門委員より,人文学及び社会科学共同研究拠点である関西大学ソシオネットワーク戦略研究機構について,

  各大学における取組の説明があった。同日及び12月16日の大学分科会(第73回)における審議において,以下のような意見があった。

○ 私立大学にも共同利用の研究拠点を設ける制度が導入され,学外の者を含めた運営委員会を設置し,国公私を越えた取組が進んでおり,成果を上げている。

○ 大学の地域連携や,大学間ネットワークを組もうとする動きが国公私を通じて進められており,このこと自体は評価できる。ただし,こうした動きが進んだ場合にどうなるか,特に,地方大学の在り方について,人材養成の観点からどう考えるべきか,また,教育を中心とする大学における教員の研究活動の在り方などが課題となる。

  3 基本的な考え方

 (1)で述べたとおり,人口減少期における我が国の大学の発展について検討する必要があり,その際,以下のような考え方で大学間ネットワークを活用することが考えられる。これらは,1(2)で述べた質保証の仕組みの構築とも関連する。

○ (4)のとおり大学の機能別分化が進むことで,各大学が,教育活動や学生支援に関し,比較優位性を持つ機能や施設を持つようになれば,それを他大学に積極的に提供し,有効活用を図ることができる。

○ また,地域や大学の特性に応じた特色ある取組や,個々の大学を越えた教員グループの活動を,複数大学の協力による新たな拠点形成に発展させることができる。

   そこで,大学間のネットワークの構築を促進するため,国公私を通じて,教育や学生支援を行う共同利用施設を認定する仕組みを創設することについて検討が必要である。その際,以下のような,各施設等の特性に応じたきめ細やかな検討が求められる。

・学生が直接利用する施設等の場合,そこが教育活動の場であり,各大学の教育理念・目的と密接に関係していること

・学生の利便性に配慮する必要があること

・大学間の責任の在り方について検討する必要があること

・適正な経費負担の在り方について検討する必要があること

  4 今後の対応

   大学間ネットワーク化を通じた質保証の在り方について,特に,教育や学生支援を行う共同利用施設等に対する国公私を通じた支援の仕組みについて,全国共同利用検討WGで関係法令の整備を含めた具体的な検討を行い,大学分科会にフィードバックすることとする。 

その他

 諮問事項について,上記の審議事項について,引き続き審議を深める必要があるほか,あわせて,未だ審議に着手できていない事項,例えば,

○「1 社会や学生からの多様なニーズに対応する大学制度及びその教育の在り方について」は,
   ・認証評価制度
   ・学生の履修支援

○「2 グローバル化の進展の中での大学教育の在り方について」は,
   ・アジア域内等の国際的な学生・教員の流動性向上の促進等

○「3 人口減少期における我が国の大学の全体像について」は,
   ・全国レベルと地域レベルのそれぞれの人材養成需要に対応した大学政策

○上記1~3に関連して,
   ・財政基盤の在り方

等についても,大学分科会として検討する必要がある。

 

 

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