18歳人口が減少して約120万人規模で推移する一方で,大学・学部等の設置に関する抑制方針が基本的に撤廃されたこと等により,「進学率」の指標としての有用性は減少し,主として18歳人口の増減に依拠した高等教育政策の手法はその使命を終え,「高等教育計画の策定と各種規制」の時代から「将来像の提示と政策誘導」の時代へと移行する。
国の今後の役割は,1.高等教育のあるべき姿や方向性等の提示,2.制度的枠組みの設定・修正,3.質の保証システムの整備,4.高等教育機関・社会・学習者に対する各種の情報提供,5.財政支援等が中心となろう。
18歳人口が減少を続ける中,大学・短期大学の収容力(入学者数わる志願者数)は平成19(2007)年には100%に達するものと予測される(従前の試算より2年前倒し)。
様々な変化を背景に,全体規模の面のみからすれば,高等教育についての量的側面での需要はほぼ充足されてきており,同年齢の若年人口の過半数が高等教育を受けるというユニバーサル段階の高等教育が既に実現しつつあると言える。しかし,今後は,分野や水準の面においても,誰もがいつでも自らの選択により学ぶことのできる高等教育の整備,すなわち,学習機会に着目した「ユニバーサル・アクセス」の実現が重要な課題である。
今後,少子化の影響等により,在籍者数が大幅に減少して経営が困難となる機関も生ずることが予想される。中には,学校の存続自体が不可能となることもあり得る。その際には,特に在学生の就学機会の確保を最優先に対応策が検討されるべきであり,そのための関係機関の協力体制が必要である。
大都市部における過当競争や地域間格差の拡大によって教育条件の低下や学習機会に関する格差の増大等を招くことのないような方策を講ずることは重要な課題である。その際,人材の流動性や遠隔教育の普及等とともに,地方の高等教育機関は地域社会の知識・文化の中核として,また,次代に向けた地域活性化の拠点としての役割をも担っていることに留意する必要がある。
今後の様々な人材需要に対しては,各高等教育機関が,幅広い基礎的な教育を充実すること,柔軟に教育組織を改組すること,社会人の再教育を充実させること等により対応を図ることが基本である。国は,高等教育機関の自主的・自律的努力を支援するとともに,人材需要見込み等を的確に把握して情報提供する仕組みを整えるべきである。
抑制方針が維持されている医師,歯科医師,獣医師,教員及び船舶職員の5分野の取扱いについては,人材需給見通し等の政策的要請を十分に見極めながら,抑制の必要性,程度や具体的方策について,必要に応じて個別に検討する必要がある。
新時代の高等教育は,全体として多様化して学習者の様々な需要に的確に対応するため,大学・短期大学,高等専門学校,専門学校が各学校種ごとにそれぞれの位置付けや期待される役割・機能を十分に踏まえた教育や研究を展開するとともに,各学校種においては,個々の学校が個性・特色を一層明確にしていかなければならない。
特に大学は,全体として
1.世界的研究・教育拠点,2.高度専門職業人養成,3.幅広い職業人養成,4.総合的教養教育,5.特定の専門的分野(芸術,体育等)の教育・研究,6.地域の生涯学習機会の拠点,7.社会貢献機能(地域貢献,産学官連携等)
等の各種の機能を併有するが,各大学ごとの選択により,保有する機能や比重の置き方は異なる。その比重の置き方が各機関の個性・特色の表れとなり,各大学は緩やかに機能別に分化していくものと考えられる。(例えば,大学院に重点を置く大学やリベラル・アーツ・カレッジ型大学等)
18歳人口が約120万人規模で推移する時期にあって,各大学は教育・研究組織としての経営戦略を明確化していく必要がある。
高等教育の将来像を考える際には,初等中等教育との接続にも十分留意する必要がある。その際,入学者選抜の問題だけでなく,教育内容・方法等を含め,全体の接続を考えていくことが必要であり,初等中等教育から高等教育までそれぞれが果たすべき役割を踏まえて一貫した考え方で改革を進めていく視点が重要である。また,より良い教員養成の在り方についても検討していく必要がある。
このため,各大学は,入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を明確にし,選抜方法の多様化や評価尺度の多元化の観点を踏まえ,適切に入学者選抜を実施していく必要がある。また,教育の実施や卒業認定・学位授与に関する方針(カリキュラム・ポリシーやディプロマ・ポリシー)を明確にし,教育課程の改善や「出口管理」の強化を図ることも求められる。
生涯学習との関連でも,高等教育機関は履修形態の多様化等により,重要な役割を果たすことが期待される。
国内外の高等教育機関の国際展開等の国際化の進展や情報通信技術の発達,e-Learningの普及等の中で,各高等教育機関は個性・特色の明確化を一層進める必要がある。
高等教育の量的側面での需要がほぼ充足されてくる一方,特に大学設置に関する抑制方針の撤廃や準則主義化等もあり,大学等の新設や量的拡大も引き続き予想され,また,各高等教育機関が個性・特色を明確にしながら,大学が自律的選択に基づいて機能別に分化するなど全体として多様化が一層進むにつれて,学習者の保護や国際的通用性の保持のため,高等教育の質の保証が重要な課題となる。
個々の高等教育機関は,教育・研究活動の改善と充実に向けて不断に努力することが大切である。また,高等教育の質の保証の仕組みを整えて効果的に運用することは,国としての基本的な責務である。
高等教育の質の保証の仕組みとしては,事後評価のみでは十分ではなく,事前・事後の評価の適切な役割分担と協調を確保することが重要である。設置認可制度の位置付けを一層明確化して的確に運用するとともに,認証機関による第三者評価のシステムを充実させるべきである。
個々の高等教育機関が質の維持・向上を図るためには,自己点検・評価がまずもって大切である。
また,教育内容・方法や財務状況等に関する情報や設置審査,認証評価,自己点検・評価により明らかとなった課題や情報を当該機関が積極的に学習者に提供するなど,社会に対する説明責任を果たすことが求められる。
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室
-- 登録:平成21年以前 --