別紙2 人社系大学院の目的とそれに沿った教育研究の在り方について[これまでの意見整理(案)]

1.人社系大学院の目的・役割

博士課程の教育・研究に関する基本的な在り方について

  • 人社系大学院の博士課程においては、従来、教員養成分野を除いて、その前期・後期を通じ、研究者を養成することを基本に大学院教育を行ってきたが、最近では、以下に示すとおり、大学院に多様な学生が進学しており、その結果、特に博士課程(前期)については、学生が求める機能も多様化している。
    • 経済学分野では、博士課程(前期)修了者の市場が中途半端であるため、適切な進路が保証されていない。
    • 社会学分野の博士課程(前期)では、社会調査士の資格取得を目指す学生が多い。
    • 心理学分野において、修士の学位は臨床心理士の資格取得に不可欠である。
    • 数理統計分野では、博士課程(前期)の教育が就職のために不可欠である。また、博士課程(前期)修了者のうち3割は、後に博士の学位を取得している。
    • 教員養成分野の修士課程は現職の教員の再教育機能を果たし、また、近年設置された教員養成分野の博士課程は、大学教員の養成機能を期待されている。
  • 人社系の研究者養成を目的とする大学院では、将来、当該領域において研究者として自立できるだけの幅広い専門的知識、様々な研究手法(研究に必要なフィールドワークや文献調査のデザインを行わせる 等)や研究遂行能力と、専門分野を超える幅広い視野を修得させることを目的とすることが必要。
     その場合、基本的に、5年一貫制博士課程のみならず、区分制博士課程においても、その前期・後期を通じて5年間を一貫した教育によって、体系的な教育課程を編成し、研究者を養成することが必要。
  • 特に区分制博士課程にあっては、研究者以外の様々なキャリアパスを指向する学生が在籍しており、博士課程(前期)のみで修了する者も多いことから、当面、博士課程の前期・後期を通じた研究者養成プログラムと、博士課程(前期)を終えた段階で就職する学生のための高度職業人養成プログラムをそれぞれ独立した専攻として設置するなどの工夫をすることが必要。

修士課程の在り方について

  • 経済・経営・商学分野、臨床心理分野等の区分制博士課程の前期課程ではない既存の修士課程については、社会的な要請や産業界のニーズを的確に把握しつつ、専門職大学院への転換を促すとともに、既存の専門職大学院を含め、高度専門職業人の養成機能の充実を積極的に支援することが必要。
  • 「大学院部会における審議経過の概要」では、修士課程の目的・機能の一つとして、知識基盤社会を多様に支える高度で知的な素養のある人材層の養成を示しているが、このような人材の養成に当たっては、主として人社系大学院の修士課程が中核的な役割を果たすことが予想される。
     その際、生涯学習の機会を広く国民に提供する観点から、社会人等の受入れを念頭に置いた専攻を設置することも期待される。
  • 近年、特に東アジア地域においては、急速に地方自治制度が整備されつつあること、その一方で、環境破壊、ゴミ処理、食品安全等が深刻な社会問題となっていることを踏まえ、人社系大学院の修士課程においては、諸外国の地方行政官を留学生として受け入れ、再教育する役割を果たすことが求められている。

2.課程制大学院の趣旨に沿った教育課程や研究指導の在り方

教育・研究指導の在り方について

博士課程及び修士課程に共通する教育・研究指導の在り方について

  • 先に示した大学院の目的に沿って、各専攻において組織的に教育を計画することが必要であり、従来のように各研究室の研究者に教育を任せきりにならないようにすることが必要。
  • 専門分野に関する学習の基礎を培うとともに、大学院修了後、当該専門分野において活躍するためには、幅広い視野や基本的な思考力を持つことが必要であるため、論理的思考力を培うための科目として、哲学、倫理学等の科目について、大学院においてもしっかりと教育することが必要。
  • 人社系大学院の各専攻における組織的な教育プログラムが、真に大学院教育に相応しいものとなるようにするための具体の方法として、例えば以下のような取組により、専門的知識と幅広い視野を修得させることが必要。
    • 各専門分野に関する専門的知識を身に付けるための体系的かつ組織的な教育プログラム
    • 幅広い視野を身に付けるための関連領域に関する組織的な教育プログラム
    • 自立的な研究者として必要な能力や技法を身に付けるための組織的な教育プログラム
       (例えば、各分野ごとに研究テーマを設定し、それに応じて研究に必要なフィールドワークや文献調査のデザインを行わせる 等)
  • 教育学の分野においては、教育行政を専攻する学生には地方公共団体と連携したフィールドワーク、教育方法論を専攻する学生には研究授業を求めることが考えられる。
  • 経済学の分野においては、経済学部の現状や、留学生、他分野出身の学生にも配慮して、大学院に進学後間もない段階で、経済学に関する基礎的な教育を施すことが必要。

博士課程における教育・研究指導の在り方について

  • 経済学、経営学、商学などの分野においては、必要に応じて、博士の学位を取得するまでの間に、サマー・インスティテュートや学会等を含め、一定期間外国の大学等で教育やトレーニングを受ける機会を提供したり、国内外の学術雑誌に英語論文を投稿するよう促すことが有効。
  • 5年一貫制博士課程であっても、必要に応じて、博士の学位を取得することなく、修士の学位の取得のみで修了する者に対して配慮することも必要。
単位の在り方について
  • 分野の特性に基づき、例えば、研究者として必要な研究技法や研究能力を身に付けるためのフィールドワークや文献調査のデザインを定期的に行わせるような場合、講義と実習を合わせて1単位とするなど、単位の考え方を見直し、修得すべき総単位数などについても併せて検討することが必要。
博士課程(前期)の修了要件及び同後期課程への進学について
  • 博士課程の学生の大学院における最終目標は、博士論文の執筆であることを踏まえ、前期課程の修了時においては、修士論文に代えて一定の学修の成果を求めること、また、口頭試問等の試験に合格することをもって修士論文を不要とするなど、5年間の教育が有機的につながりをもって行われるようにすることが必要。
  • 上記のような制度を実現するためには、博士課程(後期)に進学するに当たって、1.修士の学位を取得していることを要件としないこと、2.修士の学位の取得を要件とするが、修士の学位の取得に当たっては修士論文の作成を求めないこと、という2つの方法が考えられる。このうち前者の方法を採る場合、後期3年のみの博士課程の入学資格について定める学校教育法第67条第1項ただし書について、その解釈を改める必要がある。
  • 修士課程を修了し、高度専門職業人として社会に出た後に、博士課程(後期)に進学した学生に対しては、研究者として必要とされる実験・論文作成をはじめとする研究手法について、適切なリメディアルな研究指導を実施するなどの配慮が求められる。
  • 人社系の博士課程(前期)を終えた段階で就職を希望する学生については、原則として修士論文の作成を求めることとするが、分野によっては修士論文と同等の教育研究の成果をもって修了要件として設定できることとすることが必要。
博士課程の修了要件及び学位の取扱いについて
  • 人社系の大学院における教育効果をより高め、学位授与の円滑化を図るためには、学位論文に係る研究についての中間発表、学生の研究遂行能力を適切に把握するための専門分野及び周辺分野の理解度に関する口頭試験の実施、論文公聴会、論文審査会等の中間的な段階を適切に設定していくことが有効。
  • 修了に必要な単位は修得したが、博士論文を提出せずに退学した者を、いわゆる「満期退学」又は「単位取得後退学」と呼称し、一定の評価をするかのような取扱いは、課程制大学院の本来の趣旨に反するものであると考えられる。今後、課程制大学院の趣旨の徹底を図り、自立した研究者として一定の能力を備えた者に対して学位を授与することにより、このような取扱いを解消していくよう関係者に促すことが必要。
  • 一部の大学においては、博士課程退学後、一定期間以内に博士の学位を取得すれば「課程博士」として取扱っているが、これは、学籍のない者に課程博士を授与するものであり、現行の学位制度の趣旨と相容れないものである。このような取扱いの背景には経済的理由等が考えられるが、例えば、各大学の判断により、学生の在学関係の維持など研究指導体制の責任を明らかにしつつ、標準修業年限を超えて在学する必要のある学生に対して授業料負担の軽減措置を講ずるなどして解決することが必要。
論文博士制度について
  • いわゆる「論文博士」制度については、様々な事情により博士課程在学中に学位論文を提出できない場合があり、また、学問分野によっては学位論文の作成に相当の時間を要する場合もあるため、論文博士制度を廃止し、また、その際の救済措置を講じることを含め、その在り方について検討することが必要。
  • 研究者として自立して研究活動を行いうる能力を身に付けた者に博士の学位を授与するという考え方を再認識した上で、各大学において博士論文の要求水準の在り方についても検討することが必要。

教員の教育・研究指導能力の向上方策について

  • 教員に対し、大学院の教育を実施するに際しては、学生に対する教育の在り方や、指導能力を高めるため、各専攻において、当該大学院の教育についての共通理解を高めることが必要。このため、教員に対する研修などのファカルティ・ディベロップメント(FD)の実施が必要。その上で、教員に対する評価としては、研究実績だけでなく、教育に対する能力の評価が必要。
  • 大学院生の教育力を育てるため、自らの研究においてある程度の成果が見込まれる段階で、自らの研究について学部生などに教える機会を確保することが必要。
  • 大学院の教員組織を、課程制大学院としての体系的かつ組織的な教育活動を実施するのに相応しいものとなるよう見直すことが必要。
  • 教員の流動性を高めるとともに、教員の資質を向上させる観点から、助手等を中心に積極的に任期制を導入するとともに、教授等についてもテニュア制度を適切に運用する等の取組を通じて、教員の雇用形態を可能な限り多様化させることが必要。
  • 既存の修士課程の専攻から専門職学位課程への転換を促し、専門職大学院の拡充を図っていくためには、優れた実務家を大学教員として活用することが不可欠だが、その際には、専門職大学院の教員として必要な教授能力等を身に付けるための研修の機会を充実することが必要。

3.学生に対する経済的支援

  • 優秀な学生の博士課程への進学を促すため、学費免除の予約手続を見直すことや、予約奨学金の拡充を図ることが必要。
  • 今後、特に人社系の専門職大学院の更なる発展を実現するため、学生の流動性を確保する観点からも、国公私立大学を通じ、学生の経済的負担についても十分に配慮することが必要。

4.大学院の研究機能の強化

  • 全ての大学において、学部編成に対応する形で高い研究水準を有する大学院を設置することは、実際には困難である。このため、各大学の判断によって、特定の分野に焦点を当て、教育、研究の両面において高い水準の大学院の設置を促すための制度上の措置、または財政上の支援策を講じることが必要。
  • 最新の知識と手段を駆使できるよう、情報インフラを整備するとともに、図書や研究データ、文献情報などの電子化を進め、情報の共有を図ることが必要。
  • 現代的なニーズに合致した研究を進めることや、企業等と連携して新しい分野の研究者を育てることが必要。
  • 当該分野の教育、研究の成果が、直接的に産業・経済の発展や具体的な実社会の用に結び付かないものであっても、国、社会又は人類全体の知的発展にとっての基盤となるものである場合には、十分な研究資金を確保することが必要。

5.大学院評価の在り方

  • 評価の実効性を高めるためには客観的な評価が不可欠であるが、そのためには授業の受益者である学生による授業評価と、課題への対応について評価する評議員会による評価を適切に行い、その結果を公表することが必要。
  • 特に、人社系の専門職大学院について、関係業界から適切な事後評価を受けられるような体制を構築することが必要。
  • 最低水準の保証を行う認証評価の仕組みのほかに、水準の高い取組を見つけ、これを普及させるための評価を確立することが必要。
  • 大学院の評価においては、教育活動の成果に加えて、研究水準に係る評価を行うことが必要。
  • 専門職大学院が設置されているにもかかわらず、認証評価団体が存在しない分野がある状況を解消し、全ての専門職大学院について認証評価団体による評価を実施できる体制を整えることが必要。
  • 学校教育法に基づく認証評価システムのうち対象を大学院に限定したもの、またはそれ以外の任意による事後評価システムとして、大学院の専門分野別事後評価システムを確立することが必要。当面、大学院のうち専門職学位課程以外の課程について、日本技術者教育認定機構(JABEE)のようなシステムを構築し、専門分野別事後評価を促すことが必要であるとともに、このようなシステムを構築しようとする団体に対して財政支援を行うことも必要。
     また、専門分野別事後評価システムの運用に当たっては、例えば、博士課程(後期)に限って、設置認可申請の際に行われるような教員個人の教育・研究指導能力についての評価を行うことも有効。

6.その他

  • 例えば工学分野では、学協会を母体として財団法人日本工学教育協会が結成され、大学院教育についても様々な活動を展開しているところである。人社系の各分野においても同様の形で、学協会を母体にした大学院教育の改善、充実のための取組を促すとともに、この活動に対しても競争的研究資金を配分できるようにすることが有効。

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