中央教育審議会大学分科会「我が国の高等教育の将来像」(審議の概要)に対する意見について
平成16年10月25日
社団法人私立大学情報教育協会
1.21世紀初頭の我が国社会の展望
- ※ 「先行き不透明な時代であればこそ、我が国社会全体の、国民‐人々のカをどう発揮できるのかが問われているのである。」と指摘しているが、現実は大学卒業者の多くがフリータとなっており、固定した職業あるいは就労意欲のない社会人が増え続けている。このような現象が常態化すると、所得が極めて低い生産人口が増加することになり、納税の適用除外による税収の減少、年金の不払い、購買力低下による経済活動の不活性化、雇用の非継続化による労働能力の低下など、国民はもとより国社会全体に活力の低下を招く虞れがある。高等教育の人材育成の問題として、真摯にとらえ、国全体の問題として取り組むことの重要性を指摘すべきである。
2.新時代の高等教育と社会
- ※ (1)高等教育の役割の中で、全人格的な発展の基礎を培う大学の使命に応えられるよう、大学卒業生の無業者、フリータの増加をくい止めるための就労意欲・職業観を育成する人間力養成教育の必要性を確認しておくことが望まれる。
- ※ (3)高等教育と社会との双方向の関係において、高等教育の質的低下の問題と併せて就労意欲の多様化・低下による無業者、フリータ問題への対策として、高等教育の自己変革に加え、学生が現実感覚で就労の喜びや感動を体験し、自己実現のための学習の重要性に気付くよう高等教育と社会の接点を深める一つの方法として、社会による教育支援、人材育成支援が不可欠であることに言及すべきである。
- ※ また、第三の使命である社会への貢献についても、産業界が抱える問題解決に大学が「オーダメイド授業」や「出前授業」などで積極的に関与することが重要である。いずれにしても、高等教育の成否が直接、国社会の発展に影響することから、産学官連携による「共生の教育システム」を早急に基盤整備することが要請される。
- ※ [3‐2]高等教育の発展とユニバーサル・アクセスの実現
「誰もがいつでも自らの選択により学ぶことのできる高等教育の整備=『ユニバーサル・アクセス』の実現」は、学びを希望する者に限りなく教育が受けられるようにするもので、これは大学の本来的な使命の一つと考えられる。そのことからすると、大学は通学制、通信制の区別なく、量的需要・質の保証に対して情報通信技術を駆使するなどして、学習者へ限りなく優れた教育を提供することの努力を回避すべきでないことを付言されたい。
- ※ [3‐3]高等教育の質の保証
(1)保証されるべき高等教育の質として、「教育課程の内容・水準、学生の質、大学教員の質、教育・研究環境の整備状況、管理運営方式等の総体を指すものと考えられる。」としているが、教育の成果である人材育成の完成度こそが高等教育の質を測定する唯一の指標と考える。それには、分野別の教育目標、学習者に「何々が説明できる」などの行動目標の基準作りと、その実現が履修の中で確実に保証されることが重要である。とりわけ教育内容・方法の通用性の確保のため、他大学・社会の専門家の意見を取り入れた教育内容の点検・授業運営の工夫と、筆記試験だけに依存してきた安易な成績評価甲見直し・厳格化が教員一人々に求められる。また、社会人としての最小限度の資質を保証するために、忍耐カ、協調性、人生観・職業観などの人間カの評価についても質保証の課題としてとらえ、高等教育の一環として対応すべきと考える。
- ※ [3‐6]高等教育の発展を支える各方面の取組
(3)産業界等の取組では、教育・人材育成を支援するためのシステムとして、大学と産業界等との連携を強調すべきである。高等教育の成果を確かなものにしていくには、教員が「教える教育」から学生が「学ぶ教育」を実現する、いわゆる学習者主体の教育と、人間カを高めるための人材育成が望まれるが、それには、学習の動機付、教育内容の通用性、社会との交流を高めるための工夫が必要で、教室の授業に社会の感覚や体験を導入するなど、現実感覚を授業に取り入れることが重要となる。これを実現していくには、大学単独で進めるには十分ではなく、限界がある。社会における関係各機関の支援が不可欠である。産業界、法曹界、医療・介護関係、国・地方公共拭体等から、1.現場情報・体験情報の紹介、2.知的情報の電子化と教育利用の実数3.実務経験者による教育の実現、4.学習成果に対する専門家の助言・評価、5.インターンシップ、ワークショップ、調査実習の組織的な受け入れ、6.e‐ラーニング等教育プログラムの共同開発などの支援が期待される。教育効果としては、学習意欲・動機付の向上、問題発見・解決能力の向上、実務能力の向上、教育内容の豊富化・高度化、通用性・質保証の向上、起業意欲の促進などが考えられる。
支援実現のための課題としては、文部科学省を中心に産業界等関係機関への理解の普及と合意形成支援機関に対する顕彰制度の創設、負担軽減のための財政支援、著作権等知的資産の一元化とマネージメントシステムの構築などが考えられる。なお、産学連携の意思表示の方略としては、産業界等閑係機関のWebサイトに、例えば「大学教育・研究支援」のアイコン設定の協力を依頼し、「現場・体験情報の提供」「コンテンツの提供」「インターネットによる授業支援」「就業体験の受け入れ」など、協力可能な支援の公開を協力要請する必要がある。