資料3 「我が国の高等教育の将来像(審議の概要)」に関する公立大学協会の意見

平成16年10月14日
公立大学協会

はじめに

 10~15年先を「新時代」と呼び、この新時代を展望して我が国高等教育の将来像を提示するために、平成16年9月6日、中央教育審議会大学分科会は「我が国の高等教育の将来像(審議の概要)」(以下「将来像」と略称)を公表したものと、公立大学協会は理解する。
 公立大学77校が参加する公立大学協会は、この問題に早くから注目し、中央教育審議会大学分科会の審議のなかに多くの意見を寄せることとしていた。この方針に従い、以下、何点かにわたって意見を述べたい。

1 新時代の展望と我が国大学の将来像

 「将来像」は、新時代を地球規模の国際協調と国際競争の社会であると把握し、「国際社会は経済中心・市場万能主義から国際的な協調を加味した新たな枠組みを模索しつつ…」ある「知識基盤社会」であると定義する。この「知識基盤社会」には「新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す」と指摘する。
 「知識基盤社会」(knowledge based society)の概念は、経済協力開発機構(OECD)や世界銀行がいちはやく提唱してきた概念・用語で、とくに「電子工学、コンピューター、情報通信の新技術がこれまでと違った新しいパラダイムを形成し、…新しい産業を創造し、…知識が成功するための資源と考えられるようになっている」という考え方であり、日本では平成12年版の『科学技術白書』が採用し、知識基盤社会へ到達するための先導的な技術と方法(イノベーション)を強調している。
 「知識基盤社会」の新時代においては、「物質的経済的側面と精神的文化的側面のバランスの取れた人間性を追及していくことが…基調」となり、「相互の信頼と共生を支える基盤として、他者の文化を理解・尊重し、他者とのコミュニケーションをとることのできる力がより重要」と新たな理解を付与する。「知識基盤社会」に新たな意味を付与して用いようとする「将来像」の観点は評価できる。
 こうした新時代の展望に立ち、その大きな役割の一環を担うべき我が国の高等教育の将来像の提示を試みる本審議会の的確かつ真摯な態度に、公立大学協会は共感する。

2 審議のプロセスにおける各論の先行と現段階

 グランドデザインなる用語が文部科学省の審議会で使われ始めたのは平成14年頃からであり、平成15年度から中央教育審議会大学分科会において集中的に検討が進められてきた。大学審議会から名称変更し、平成13年8月に発足した中央教育審議会大学分科会への最初の文部科学大臣諮問は、1.高等教育制度全体の在り方、2.設置認可の在り方と高等教育の全体規模、3.新しい形態の大学院等の整備の在り方の3つであった。1が総論で、2と3が各論と言える。2つの各論は、1年後の平成14年8月、(a)大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について、(b)大学院における高度専門職業人養成について、(c)法科大学院の設置基準等について、の3つの答申となった。このうち(a)に関しては認証評価制度の導入(学校教育法の改正)が決まり、また(b)大学院の高度専門職業人養成の1つである法科大学院は(c)設置基準の策定を受けて設置認可が実施され、平成16年度から発足した。
 こうして各論が先行し、総論たる1「高等教育制度全体の在り方」の議論は遅れて第18回大学分科会(平成15年5月28日)から始まった。しばらくは主な意見の論点を整理し、第22回(平成15年7月18日)から「高等教育の将来構想(グランドデザイン)に関する論点整理(たたき台)」を審議し、1年後の第35回(平成16年7月23日)から「21世紀日本の高等教育の将来像(グランドデザイン) ポイント案」となり、今回、「我が国の高等教育の将来像(審議の概要)」として公表され、いま各界の意見を聴取している段階にある。
 審議における各論の先行と実施の過程を総括すれば、危惧すべき論点があると考える。

(1)現状分析の欠如

 国公私立の垣根を低くしてわが国の高等教育共通の課題を性急に追求する志向が強いあまり、激しい移行過程の最中にある我が国の高等教育(とりわけ大学)の現状分析が欠如している。すなわち、平成16年度にいっせいに法人化した国立大学、設置自治体による差が大きい公立大学、経営上の問題に直面する大学の増加が懸念される私立大学、これら設置形態別のしっかりとした現状分析に基づき将来像を描くべきであろう。

(2)競争的資金導入への評価が不可欠

 文部科学省の政策として「国公私立大学を通じた競争的資金」が導入されて第3年目を迎えたが、現行の競争的資金はすでに一定の成果を挙げつつあるものの、いわば試行的なものである。新たな競争的環境そのものの評価がまだ十分にはなされておらず、積極面と問題点とに対する今後の適切な政策評価が不可欠である。

3 機能別分化のはらむ問題

 第22回大学分科会「高等教育の将来構想(グランドデザイン)に関する論点整理(たたき台)」(平成15年7月18日)は、高等教育の範囲を「大学院、学部、短期大学、高等専門学校、専門学校、その他の教育サービスを包含している」と定義している。この「将来像」においても、「大学・短期大学・高等専門学校・専門学校などが、各学校種ごとに、それぞれの位置づけや役割を活かした教育を展開するとともに、各学校種のなかにおいても、各高等教育機関が個性・特色を明確化することが重要である」(13ページ)と、同じように広範囲に定義し、同時に「各学校種ごとの個性・特色を一層明確にしなければならない。」(13ページ)と、指摘している。
 これを受け、19ページ以降において、大学について、明らかに学校教育法第五章の第五十二条「大学の目的」をふまえ、「大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究することを本質とするものであり」と述べている。
 「学術の中心としての大学」とは、換言すれば「地域・国・世界の知の拠点」を意味する。「広く知識を授ける」とは人材育成(大学教育)、すなわち世代にまたがる知的再生産の重要性を意味する。また「深く専門の学芸を教授研究」とは人材育成(大学教育)の前提として大学には知的創造(研究)が不可欠であることを意味する。大学の特性と個性をいかように発揮するにせよ、いずれの場合も、大学における教育は研究に裏づけされたものでなければならない。これは大学に共通して求められる理念であることを確認したい。
 「将来像」はタイトルが示す通り、我が国の高等教育を主題としているが、14ページでは「高等教育機関のうち、大学は、全体として・・・」として、話題を大学に限定している。その上で、大学は次の7つの機能を併有すると続く。
 1.世界的研究教育拠点、2.高度専門職業人養成、3.幅広い職業人養成、4.総合的教養教育、5.特定の専門的分野(芸術、体育等)の教育研究、6.地域の生涯学習機会の拠点、7.社会貢献機能(地域貢献、産官学連携等)
 続けて「各々の大学はこれらの機能の全てではなく一部分のみを保有するのが通例であり、複数の機能を併有する場合でも比重の置き方は異なる。その比重の置き方が即ち各大学の個性・特色の表れとなる。大学は、固定的な「種別化」ではなく、保有するいくつかの機能の間の比重の置き方の違い(=大学の判断に基づく個性・特色の表れ)に基づいて、緩やかに機能別に分化していくものと考えられる。」と書かれている。ここに大きな論点が含まれている。第1に7つの機能分類の妥当性、第2に教育機能と研究機能との関係である。

(1)7つの機能分類の妥当性

 大学の機能として掲げられている7つは、分類基準の異なるものを混在させている。すなわち、1から5までは教育を軸とし、その到達目標を区別する意図と受けとることができる。厳密に言えば、2、3、4、5の4つが教育の到達目標を提示し、1は具体的な到達目標の代わりに「世界的」という異質な表現を取っている。6はフルタイム学生以外への教育機会の提供を指し、7は教育・研究に基づく大学の重要な役割を指している。各大学はこれら「複数の機能を併有する」とされるが、機能を分類する基準自体が異なっているから、ここで挙げられた7つの機能の組み合わせに基づいて大学の「個性や特色」を導き出すことは妥当性を欠く。今日では6.地域の生涯学習機会の拠点としての機能や7.社会的貢献機能を持たない大学はもはやないであろう。大学構成員、受験生、企業、地域及び国際社会のいずれからも大学の姿がよく見える機能分類が提示されねばならない。

(2)教育機能と研究機能

 もとより各大学が自らの判断により異なる重点目標を設定すべきであるということ自体に異論があるわけではない。各大学は大学内外の諸条件を踏まえ、主体的かつ客観的な判断に基づいて将来像を描き、その実現を目指している。横並びで無個性の大学、いわゆる「金太郎飴」大学から脱却すべしとする認識がすでに広く浸透していることは明らかである。
 しかしながら、「いくつかの機能の間の比重の置き方の違いに基づいて、緩やかに機能別に分化していく」という表現には、事態がすでに客観的に進行しているという認識と、そうした方向へと政策的に誘導する企図の二つの側面が混在している。政策的誘導の側面について留意しなければならないのは、今日、大学にとって不可欠の研究機能と教育機能の結合を分離する傾向がある点である。「緩やかに機能別分化していく」ことが研究機能と教育機能の分離につながることのないよう、細心の注意を払って制度設計をすべきである。
 90年代後半から強調されるようになった「フンボルト的大学観」批判(4ページ)は、その「少数エリートに対する教育」観を批判したものであるが、「フンボルト的大学観」とされてきた理念には、他方で“教育と研究の結合”への高い評価が内包されており、一定の積極的な意味を有していた。「将来像」においても、随所に大学の教育に研究の裏付けの必要性が強調されている。
 一方、「知識基盤社会においては、新たな知の創造・継承・活用が社会の発展の基盤となる。そのため高等教育における教育機能を充実し、創造性・独創性に富み卓越した指導的人材を幅広いさまざまな分野で養成・確保することが重要である」(5ページ)とし、「知識基盤社会」における高等教育の重要性を強調するあまり、研究への言及が省かれているが、これは当然事項であるがために言及しなかったものと理解する。
 このように「将来像」は学校教育法の「大学の目的」をふまえ、全体として大学の本質的機能が教育と研究の結合にあると認めている。そうであるとすれば、大学が各種の機能を持つとしても、これら大学の諸機能はいずれも研究に裏づけされることを明示すべきである。その上で初めて大学の諸機能が効果を発揮することが可能となる。

4 質の保証のための設置認可と事後評価

 大学の質の保証のため設置認可と事後評価をセットとして把握する見方があるが、やはり別個に考えた上で両者を結合させて考える必要がある。
 大学設置認可の緩和が急速に進んでいる。これに伴い、教育の質の低下が懸念されている。その大学に入学した学生の得られる教育はどのような質のものとなるのか。大学の質の保証に際しては、学生の得る教育の質が第一義的に配慮されなければならない。
 事後評価に関しては、認証評価機関による機関別認証評価がまさに緒につかんとし、そのための機関別評価基準の検討が進んでいる最中であり、まだ何らの実践経験を経ていない。日本における評価事業は始まりつつある段階であり、評価機関の質の確保と評価員の質・量の確保が最大の課題となっている。それなくしては大学の事後評価は「百害あって一利なし」となりかねない。従って「将来像」についても機関別認証評価を周到に育成・支援する必要性について更に強い留意をうながすべきである。
 他方、現在、医、薬、看護などの分野では、高度の専門性をふまえた分野別評価が焦眉の課題となっている。「将来像」が「事後チェックに関しては、機関別評価と専門職大学院評価のみでなく分野別評価についても積極的に採り入れられることが期待される。その際、分野の特性に応じて学協会等関係団体の参画・協力を得ることも考えられる」(18ページ)とし、「また、当該機関による情報開示だけでなく外部からの評価も併せて提供されることが学習者の便宜のために重要であり、認証評価機関による機関別評価に加え、分野別の評価が定期的に実施されることが望ましい」(19ページ)としているのには、こうした現実的背景の存在がある。ただ、評価事業そのものが経験の浅い事業であることを踏まえ、分野別評価の育成については、機関別認証評価、専門職大学院評価の育成への十分な配慮を含む評価事業全体のバランスのとれた発展の中での実現を期してほしい。

5 公立大学の法人化への取組み

 公立大学法人制度が創設され、新設大学1校が公立大学法人として発足し、また平成17年度には7校が公立大学法人となる予定である。国立大学がいっせいに法人となり、また私立大学の経営状況の開示が制度化される中で、各公立大学は地域社会の強い要請に応えて、優れた教育研究を行うため、様々な大学改革に取り組んでいる。その手法として法人制度を活用することは重要な選択肢の1つである。「将来像」においても、公立大学への法人制度の導入について、「その後、国立大学の法人化、公立大学法人制度の創設…」(1ページ)という文脈の中で挙げられており、また「公立大学を設置し管理運営を行う場合には、例えば公立大学法人制度を活用するなどして…」(31ページ)との指摘がある。
 しかしながら、国公私の別なく、新たな政策方向を打ち出す場面では、「今後のさまざまな人材需要に対しては、幅広い基礎的な教育を充実すること、国立大学の法人化や設置認可の条件を活かした柔軟な教育組織の改組を図ること、社会人の再教育を充実させること等により対応することが基本であると考えられる。」(12ページ)のように、「国立大学の法人化」のみが指摘され、公立大学の法人化について言及されていないが、国立大学法人化と同様に重要な取組みとして位置づけられるべきである。

6 国公私立大学の特色ある発展と、それを支える財政支援の在り方

 国公私立の各大学がその特色を発揮しつつ発展することは、日本の将来のみならず世界の将来にとって、きわめて大切なことである。日本の国公私立大学が果たす貢献は、単に日本の将来にとどまらず、「地球規模の国際協調と国際競争の新時代」に及び、それは回りまわって日本の将来にも還元される先行投資にほかならない。「新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す知識基盤社会」を展望するとき、大学への財政支援の増大は国際基準に基づいて考えるべきである。
 「将来像」において「高等教育の重要性にかんがみ、各国で高等教育への投資を充実しつつ」あり、「我が国においても、欧米並みの公財政支出の実現に向けた努力をしていかねばならない」とし、そのために「全ての関係者が、この点について国民(=納税者)の理解を得られるよう最大限の努力をする必要がある」(29ページ)と正しく指摘している(参考資料37ページ以下を参照)。
 明治時代以来の日本の高等教育は多く国税に依存して展開してきたため「民間企業や個人等からの資金の導入」には消極的であった。そこから脱却して「高等教育への…民間企業や個人等からの資金の積極的導入に努めることが必要」と指摘しているが、実際には寄付者側にも制度・法律面でも十分な措置が施されていない。高等教育の受益者は、学生個々人にとどまらず、「高等教育を受けた人材によって支えられる現在及び将来の社会もまた受益者」とする指摘も正しい。個々の正しい指摘を全体としていっそう説得力のあるものとするには、〔3-5〕(1)高等教育への財政的支援の拡充及び(2)高等教育機関の多様な機能に応じたきめ細やかなファンデイング・システムの記述における公立大学への適切な取扱いが必要である。
 すなわち、「我が国の高等教育」における「国公私立の三つの設置形態による機関」の存在を指摘しながら、学生納付金・奨学金などへの支援ほかの各論では公立大学への言及が欠如している。財政支援の在り方の項になると、これまでの「国公私立を通じた」大学の共通面の指摘が陰をひそめ、公立大学には言及されていない。とりわけ地域における高等教育への接近を確保し地域のニーズに応えることを主たる使命とする公立大学については、その使命に対する深い理解に立った適切な注意を払うと共に、教育研究条件の維持・向上及び学習者の教育費負担の軽減に努める必要がある。次項の7-(4)に一覧する通り、然るべき修正をお願いしたい。
 また地方公共団体の取組における国立大学法人等への寄付金について「国立や私立も含めた地域の大学全体との関係については、…地方公共団体側がその判断に基づき寄付金等相応の財政的支援を行う…」(32ページ3行目)ことが特記されているが、地方公共団体を設置者とする公立大学の立場からすれば、国公私立大学間のイコールフッティングに格段の配慮を願いたい。

7 用語について

 最後に用語について意見を付して終わりとする。

(1)これまで強く表面に出ていたグランドデザインの用語が後退し、代わりに「将来像」は「高等教育の全体構造に関する将来像(言わば「グランドデザイン」とも呼ぶべきもの)と、そこに至るまでの中期的な施策の方向性(言わば「ロードマップ」とも呼ぶべきもの)を示す」となったこと。「グランドデザイン」を「将来像」としたのは、日本語として適切であろう。

(2)「将来像」に基づく「中期的な施策の方向性(言わば「ロードマップ」とも呼ぶべきもの)」が新たに入ってきたが、現在の案にはその具体像が何一つ示されていない。「将来像」と「施策の方向性」とは不可分のものである以上、拙速とならぬよう最終答申までに十分な公表とパブリックコメントを求める配慮を切に願う次第である。

(3)今回案には「ユニバーサル・アクセス」という用語が頻繁に使われている。従来から使われてきたユニバーサル段階(大学進学率が50パーセントを超えた段階)からの連想であろうが、「誰もがいつでも自らの選択により学ぶことのできる高等教育の整備」を「ユニバーサル・アクセス」と定義する(11ページ)のは無理がある。定義が曖昧なため代案を出すことができないが、然るべき再考を願いたい。また「21世紀型市民」の用語は、5ページの説明では高等教育機関が育成すべき理想的な人材を指していると読めるため、もしその意味であるのなら修正が必要と思われる。

(4)上掲の意見のなかでも指摘したが、以下に用語の追加ないし修正の一覧(下線部分)を示す。

  1. (29頁4行目)「高等教育の費用負担はこれまで家計に多くを依存してきている。現在では、国立・私立を問わず学生納付金が国際的に見てもかなり高額化しており、・・」とあるが、「国立・私立を問わず」は「国公私立を問わず」と変更するのが適切である。
  2. (29頁8行目)「国は、・・・経済状態を問わず高等教育を受ける機会を実質的に保証・・・する見地から、私立学校振興助成法の趣旨に沿った私学助成の一層の充実を図るとともに、国立大学法人及び公立大学・公立大学法人への支援の更なる強化・・・、学生支援の一層の充実等の各般の措置を推進する・・・」。及び公立大学・公立大学法人を追加するのが適切である。
  3. (30頁13行)「1.国立大学法人運営費交付金・施設・・・」の次に「2.公立大学は地域における知の拠点として、社会・経済・文化の発展に欠かすことのできない存在であり、今後とも地方交付税において適切に措置される必要がある。」を追加する。また2以降の番号をずらす。

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(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)

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