諸外国において、高等教育改革は政策の中心課題であり、様々な施策が行われている。日本の高等教育の将来像を描く際に、特に参考とすべき事項を取り上げた。
奨学金事業の主な事業主体は、連邦教育省を中心とする連邦政府である。給与・貸与を合わせた奨学金はドル744億(2000年度)に上り、連邦政府の奨学金額は全体の約7割を占める。主要な連邦政府事業は、学部学生の経済条件のみを要件とするペル奨学金、規定の範囲で各大学が奨学金の運営管理に責任を持つキャンパス・ベースト・プログラム(教育機会補助金給与奨学金、勤労就学奨学金、パーキンス貸与奨学金)、連邦保証による銀行等の民間金融機関が貸し出す連邦保証貸与奨学金(スタフォード奨学金、父母貸与奨学金)がある。大学(学部)や短期大学で学ぶ学生のうち、何らかの形で連邦の奨学金を受けている学生は50%を超え、州政府や大学独自の奨学金制度を含めれば奨学生は70%以上になる。
1997年2月4日、クリントン前大統領は、一般教書演説の中で、教育を将来に向けた最重要課題とし、高等教育の最初の2年間までの14年間を全国民に標準的な教育にと訴えた。1980年代後半から1990年代前半にかけて大学授業料が高騰した現状に対応して、連邦を事業主体とする新しい形の財政援助措置「納税者救済法(Taxpayer Relief Act of 1997)」が制定され、学部1、2年学生の家庭を対象とする最大ドル1,500(約18万円)の減税措置(HOPE奨学金)と学部3年以上の家庭を対象とする最大ドル1,000(約12万円)の生涯学習減税(Lifetime Learning Credit)等の措置が定められた。ブッシュ大統領も教育改革を最重要課題に掲げており、このような高等教育進学者に対する減税措置は、ブッシュ政権下においても継続・拡大されている。
高等教育機関の設置形態は、州立・地方立、私立が大半を占め、連邦立がわずかにある。このうち4年制大学は、7割が私立で残りほぼ全てが州立である。ただし、在学生数は逆に3割が私立となっている。短期大学は、機関数の6割、在学生数の9割以上が州立や地方立となっている。高等教育機関の質の保証システムは、設置・運営に関する認可等と設置後のアクレディテーションという教育機関評価制度の二つからなっている。州・地方・私立の高等教育機関の設置・運営に関する認可等については、連邦政府は関与せず州政府が行う。州によって制度は異なり、各州が設置認可および学位授与権に関する基準を定めている。簡易な手続きや基準により大学設置が可能な州では、大学が大学以外の教育訓練機関と同様に設けられている。
一方、各大学の教育水準を一定以上に保つため、学位や単位の水準をコミュニティで独自に承認しあう民間の評価制度「アクレディテーション(accreditation)」が発達している。これは、当該大学全体が学位授与機関としての条件を満たしていることを認定するものと、職業専門教育を中心として当該教育課程が一定の水準に達していることを認定するものとに分けられる。前者は地域ごとに設けられたアクレディテーション団体が、後者は全国的な専門団体が、認定作業を実施する。通常、前者の認定を受けていることが社会的に大学として認知される条件であり、ほとんどの州では前者の認定を受けている私立大学に州内での運営と学位授与を認めている。社会的な認知が得られる認定を実施する団体を判断する基準として、連邦の高等教育法により定められた連邦教育長官の承認と、高等教育基準認定協議会CHEA(Commission for Higher Education Accreditation)の登録がある。CHEAに登録された評価機関による認定を受けていない機関の学位等については、進学や就職等に際して通用性がない現状になっている。
正規の学位に対して、安易に学位等を取得できる手段として、ディグリー・ミル(またはディプロマ・ミル)という偽学位販売業者が存在する。厳密な学問的な定義や法的定義はなされていないが、少なくとも19世紀後半から存在する非正統的な傾向を示す教育機関を指して米国内で呼ばれている。米国以外にも存在するが、特に米国は高度資格社会であり、より高次の学位や証明書等を有することが就職・転職に有効であるため、ディグリー・ミルが活用される温床がある。今日のオンライン教育の隆盛を背景に、オンライン・ディグリー・ミルが登場し、また裏付けなく認定を行うアクレディテーション・ミルも見受けられるような現状にある。スパムメール・オンライン広告・迅速な電子決済サービスなどの氾濫のため、正式な遠隔教育と区別することが、以前にも増して難しくなってきている。
1996年5月に政府の諮問機関として発足した高等教育制度検討委員会(委員長:デアリング卿)は、爾後20年間における国家的必要に見合う高等教育の在り方について、大学人に加え財界・産業界の代表などを委員として調査・審議を行った。翌年7月に、国際的な経済競争の時代に継続的な高等教育の拡充なしに英国の繁栄と国際的な地位を確かなものにすることはできないとする報告書「学習社会における高等教育の将来」(Higher Education in the Learning Society)を提出した。報告書は、全24章からなり、財政審議会、研究審議会、雇用者団体を含めた広範囲な対象に対する93の勧告を含む。報告書では、過去20年間に、学生数の倍増、公的補助の実質的減少、パートタイム学生や成人学生の増加などの大変化を経験したが、知識・情報重視型の世界経済秩序、継続的な能力開発を求める労働市場、情報技術の進展など環境の変化が激しく、高等教育においてはさらなる改革が求められるとして、数値目標を示すなど下記のような具体的な提案を行っている。
高等教育白書「高等教育の将来」(The future of higher education)は、今後の主な政策と政府支出見通しの公表(2002年7月)を受け、ブレア政権2期目の高等教育政策を示すものとして、2003年1月に発表された。白書は、知識主導型経済における国民全体の教育・訓練水準の向上や大学の教育力向上の必要性を説くとともに、国際的に見た英国の研究力の相対的な地位低下に対する危機感を表明し、研究環境の重点的整備の必要性を強調し、高等教育の拡大や財政改善、研究費の増加、産学連携などの施策を打ち出した。主な内容や施策の方向性は、1997年の政府諮問委員会報告書に示された枠組みを踏襲しつつ、概ね2010年前後の完成を射程に入れ段階的に実施されるものとし、下記に示すような具体的な施策を含んでいる。
域内の国際競争力の向上のための人の交流の促進を目標として、欧州域内の学生交流「エラスムス計画」が1987年に開始されたが、1993年のEU発足後は、「ソクラテス計画」(総合的な教育交流計画)に高等教育分野として組み入れられた。エラスムス計画は、現在、第2段階目(2000~2006の7年間)の計画が進行中である。
域内の国際競争力の向上の基盤としての学位等の国際的通用性の確保が肝要であるとの立場から、「欧州高等教育圏」の構築のための欧州各国の共同宣言として、1999年欧州29カ国の教育大臣が署名して採択された。欧州域内の高等教育に学位システムと単位制度を中心とした共通の枠組みを構築し、人の交流と欧州域内の高等教育の国際競争力の向上を狙いとしている。2010年までに下記の6つの課題の達成に努めることを署名国に求めている。その後、改革内容の進捗状況を2年毎の会合で把握する「ボローニャ・プロセス」が進行しており、国際的通用性を確保する質の保証の重要性や、世界貿易機関のGATS協定における国境を越えた高等教育の提供の問題への対応等の視点も踏まえた内容へと更新されている。
学生紛争をきっかけに1960年代後半に各州が独自に高等教育法を制定した。1969年の連邦共和国基本法(憲法相当)改正で「高等教育制度の一般的原則」に関する大綱的立法権が与えられ、1975年に各州の高等教育法の最大公約数的全体像として高等教育大綱法が制定された。1985年の第3次改正では、多様化による競争促進を目的として、個性的な高等教育の発展を促すこととし、管理運営面では学長制以外の形態を加え制度的充実を図り、入学者決定を認め裁量権の拡大と教育責任の強化を行った。第4次から第6次改正までの主な改正点は下記の通りである。
ドイツでは、すべての大学で同質の研究教育が行われるという大前提が維持されている。近年には、研究・教育に関する大学評価も導入され、評価結果に基づく予算配分も一部の州で行われ、競争的環境の整備が進められているが、連邦全体で一部の大学を別格に扱うことはなかった。2004年1月6日発表の連邦政府政策綱領「アジェンダ2010第二部」中の「エリート大学」の記述について、シュレーダー連邦首相は「エリートというものが、出自ではなく業績から生まれるのであれば、『エリート大学』という概念に問題はない」と説明した。翌7日に、連邦首相とブルマーン連邦教育研究大臣は、国内全大学の牽引役となる「トップ大学」を既存の大学の中から10校程度を選抜し、重点支援を行う構想を明らかにした。
連邦教育研究省は、オックスフォード大学、ハーバード大学等の具体名を引き合いに出し、国際競争力強化を目指す高等教育機関にプログラムへの応募を呼びかけている。応募資格は、国内の高等教育機関とされ、大学に限らず高等専門学校も応募できる。第一次募集は2004年夏に開始され、国内外の専門家による審査を経て最大5校が決定される。選ばれた大学は、2006年から5年間、年額最高5,000万ユーロ(約60億円)の研究助成(奨励金)を受ける。第一次で採用されなかった高等教育機関を対象として、第一次の助成期間が終了する前に第二次募集が実施される。トップ大学の選考基準として、優れた学術研究能力、マネジメント能力、学生の指導、国際化、学外研究機関との協力における業績が挙げられている。
アレーグル国民教育大臣(当時)は、21世紀には「EU統合の進展、人・物・資本・情報の移動のグローバル化、科学技術の加速度的革新」が予測され、こうした社会・経済の変化に対応してフランスが高い経済競争力を築いていく際、その中心的役割を担う高等教育も時代の変化に即応する必要があるとの認識を示した。この認識に基づき、高等教育の今後の在り方、問題点とその解決策を示した報告書「高等教育の欧州モデル構築に向けて」が1998年5月に公表された。
報告書では、高等教育を通じた国民の教育・職業資格水準の引き上げが不可欠であり、今後の高等教育の役割を、エリート養成ではなく、すべての学生が平等に各人の可能性を見出し各人の個性に応じた卒業後の社会生活に必要な知識・技術を十分に習得するための場を提供することであると強調している。また、長期的には、EU統合の進展に鑑み、現在は各国がそれぞれに定めている教育制度に代わる、EUの共通モデルをフランスがイニシアティブをとって提示するべく、改革を進めて行くべきであるとしている。主な提言は以下の通りである。
「高等教育の欧州モデル構築に向けて」を受け、今後の大学改革の必要性とその基本方針について大学学長会議との合意を踏まえ、国民教育大臣が、1999年から本格的に着手する高等教育改革の全体案を1998年11月30日に明らかにした。
高等教育進学率が50%を超えつつある現在、大学の役割も変化しつつあり、社会のニーズに応じた教育の提供や生涯学習の理念に沿った市民の資質向上という観点から、大学改革を進めねばならないという認識に基づき、1999年秋の新学年からの実施を目指し、教育関係者を中心に幅広い意見を集めて提案された。その具体的な施策は以下の通り。
80年代からの教育法体系整備の一環として、学位条例、義務教育法、教師法、教育法(教育基本法に相当)、職業教育法が制定。1998年8月29日には高等教育法が可決され、翌年1月1日施行となった。高等教育法は、8章69条から成り、基本的制度、高等教育機関の設置管理、組織・活動、教員・学生の処遇、教育費などに関する原則を示している。80年代以降の高等教育改革による現在の制度を法律として改めて規定したものであり、主な内容は下記の通りである。
教育改革の指針(1993年)および教育法(1995年)に基づき、21世紀初頭までの具体的な教育政策の目標と措置を提示する「教育改革及び発展のための総合プロジェクト」として1999年1月に国務院が承認制定した。
具体的には、基礎教育の普及と質向上、高等教育の教育研究の水準向上と経済発展への貢献促進、遠隔教育の発展等を通じた農村部や成人の教育機会拡充、教育投資の確実な拡大等を目標としている。2010年までの高等教育の目標として、高等教育在学率15%、一部大学・専攻領域の世界的水準への向上などがあり、高等教育に関する主な政策措置として下記のものがある。
1980年代半ば、「21世紀の韓国社会を支える自主的、創造的、道徳的人間の育成」を目指して教育改革が開始された。その後に、開かれた学習社会への転換を目指す改革の視点も追加された。1998年の金大中政権も、「教育を基礎とした国家振興」を宣言し、創造性の育成を目指した教育改革を積極的に推進した。
高等教育については、1990年代、大学の個性化や多様化を進め、規制緩和や大学評価、入試改革を推進し、金大中政権において「世界水準を目指した大学作り」のための集中投資などを展開された。実施された大学改革は下記の通りである。
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室
-- 登録:平成21年以前 --