視点9 学位の相互関係等の明確化、学位授与の促進、及び論文博士制度のあり方

学位の相互関係等の明確化

学位に関する基本認識

  • 学位は、大学における教育の課程の修了に係る知識・能力の証明として、学術の中心として自律的に高度の教育研究を行う大学が授与するものという原則は、国際的にも定着している。このため、学位に関する検討を行うに当たっては、学位が国際通用性のある大学教育修了者相当の能力証明として発展してきた経緯を踏まえ、課程を修了したことを表す適切な名称のあり方、他の学位との相互関係等を審議していく必要がある。

専門職学位

  • 高度な専門職業能力を修得したことを表す専門職学位は、職能団体や資格をはじめとする一定の職業的専門領域の基礎が確立している特定の職業を担うために、「理論と実務の架橋」を重視し、深い知的学識に裏打ちされた高度で専門的な知識・能力を修得する大学院教育を修了した証明である。
     このような点を十分踏まえつつ、専門職学位については、例えば、職業資格に対する受験資格、免許付与等との連動、学位に付記する専攻分野の名称のあり方、及び国際的に共通の水準をもたせることが望ましいかなどに関して検討を行うことも必要である。
  • また、平成15年度より認証評価が制度化されたところであるが、専門職学位については、社会における専門職(プロフェッション)の発展をにらみつつ、大学に関し深い見識をもつ関係者が、関連する職能団体を含めた社会の意見を十分に取り入れられる形で大学の専門的評価を組織的にも発展させ、学位の質を確保することが肝要である。
     このような努力を通じて、我が国に相応しい専門的なアクレディテーション(第三者評価による適格認定)の早期確立が望まれる。

ダブルメジャー、ジョイントデグリー

  • 1.近年の学問分野の学際化、融合化や、2.幅広い知識と柔軟な思考能力をもつ人材など社会における求められる人材の多様な要請などに対応する手段として、専攻分野以外の分野の授業科目を体系的に履修させるダブルメジャー、及び一定期間において複数の学位を取得できる履修形態であるジョイントディグリーは有効な方策であると考えられる。
  • 一方で、これらの取組みを導入するに当たっては、教育目標や理念の明確化、専攻分野に関する教育プログラムの充実が前提であり、また、修了までのプロセスが複雑になることによる学生の履修相談の体制整備など教育を受ける側への一層の配慮が必要である。
     これらを十分に踏まえ、各大学の自主的・自律的な検討に基づき、積極的な導入が期待される。

「課程博士」に関する課題

  • 現在、標準修業年限内に、博士論文を提出するに至らなかった学生の中には、例えば、授業料負担や就職等の関係のみならず、将来の研究計画に基づいて博士の学位を取得できるという見込みが不分明であるためなど、様々な理由により退学し、その後に「論文博士」を申請する者が見られる。
     これらの実態は様々であり、種々の考えがあると推測されるが、実質的には博士課程における研究成果として評価すべき部分が少なくないことから、こうした者を「課程博士」として位置づけている大学もある。
  • これにより、我が国の課程制大学院制度の修了の考え方、「課程博士」、「論文博士」の用語の使われ方などに混乱が生じており、かえって「課程博士」の円滑な授与、学位の国際的な質保証に影響を与えかねないとの指摘もある。
     また、博士論文を提出せずに退学したことを「満期退学」や「単位取得後退学」などと呼称していることがあるが、このことの背景の一つとして、課程制大学院の趣旨が徹底されていないことが考えられる。
  • このため、学位に関するこれらの考え方を整理した上で、その水準の確保を図りつつ、大学院に5年以上在籍し、必要な単位を取得、博士論文の審査試験に合格するなど博士課程の修了要件を満たした「課程博士」の円滑な授与の促進方策について検討する必要がある。

学位授与の促進

学位授与の現状

  • 学位授与の円滑化については、これまで学位制度の見直し、関係者自身の意識改革とその自主的努力により、徐々に改善傾向が見られるが、特に、人文社会科学系については、未だ不十分であり、また、近年では留学生の博士学位授与率が専攻分野によっては低下傾向にある。
  • このため、国際的な質保証の観点から、学位の水準の確保を図りつつ、留学生への対応も視野に入れた学位授与の促進のための改善策を講じる必要がある。

学位授与の促進のための改善策

  • 国は、課程制大学院の趣旨に即し、「課程博士」の授与の円滑化が進むよう、毎年度、各大学の取組みを把握するとともに、公表することが必要である。
  • 各大学においては、学位授与のあり方に関する教員の意識改革はもとより、自主的・自律的な検討に基づき、例えば、以下の取組みを進めることが必要である。
    1. 学生に学位論文を完成する意欲を持たせるような指導上の工夫
      • 論文指導、又はそれに関連する研究活動などを単位として認定し、その指導を強化
    2. 学位授与の仕組みの整備
      • 学位授与に至るまでのプロセスの明確化
      • コースワーク終了時から学生の申請に基づき、当該学生が一定期間内に博士論文を提出できる段階に達しているか審査
      • オフィスアワーの設定等による確実な論文指導の確保
      • 複数の教員による論文指導体制の構築
      • 学位審査申請時期の明確化、複数化
    3. 論文審査方法の改善
      • 論文審査委員名の公表
      • 論文審査に係る学外審査委員の積極的登用
      • 口述試験の公開
    4. 学位授与に関する留学生への配慮
      • 外国語による論文作成を認めること
      • 留学生の語学力に対応した適切な論文指導の実施
  • なお、これらの取組みに加えて、「課程博士」の円滑な授与を図る観点から、各大学の判断により、例えば、学生の在学関係の維持など教育研究指導体制の責任を明らかにしつつ、論文審査のために標準修業年限5年を超えて在学する必要のある学生への経済的負担への配慮などが積極的に講じられることが期待される。
  • 修士の学位については、分野別にも概ね円滑に授与されているが、今後、修士課程の目的・役割、教育課程によっては、課程の修了要件として、修士論文の作成について、高度専門職業人の教育のほか、広く他の分野の教育においても、特定の課題研究など修士論文の作成と同等と認められるものに代替できるようにすることなどに関して、今後の学問分野別の審議検討において、更に検討することも必要である。

論文博士制度の在り方

  • 現在の学校教育法において、大学は、博士の学位を授与された者と同等以上の学力があると認める者に対し、博士の学位を授与することができるとされている。これにより、博士の学位を授与された者をいわゆる「論文博士」と呼んでいるが、専攻分野によっては、この制度について見直すべきとの指摘がある。
  • 博士学位授与数に占める論文博士の割合は、減少傾向にあるものの、他方で、企業、公的研究機関の研究所等で経験を積み、その研究成果をもとに、博士の学位を取得したいと希望する者も未だ多いことも事実である。
  • 学位の制度的趣旨を踏まえると、「論文博士」の見直しを行うにあたっては、大学院博士課程の教育機能の一層の向上が前提であると考えられる。このため、今後、大学院教育の実質化の検討を深化させていく中で、併せて議論していく必要がある。

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高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

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