(3)渡日前から帰国後に至る体系的な留学生受入れ支援体制の充実

独立行政法人日本学生支援機構の設立

 平成16年4月に設立される独立行政法人日本学生支援機構においては,留学生に対する奨学金の支給,国費留学生に対する日本語予備教育,留学生宿舎に関する業務等が実施されることとなっている。これまでこれらの業務は,国や関係する四つの公益法人において,個々に実施され,ともすると留学生にとって分かりにくい体制となっていた。しかし,日本学生支援機構の設立によって,統一的で,よりきめ細やかな支援が行われることが期待される。
 さらに,海外に向けた情報提供の充実や留学生関連業務に関する研修の実施など各大学等における留学生受入れの体制を充実させるための協力・支援を行い,質の高い留学生受入れのための取組を強化することが期待される。
 日本学生支援機構が,我が国の留学生支援の中核的な機関として,渡日前から帰国後までの体系的で一貫した留学生支援施策を実施できるよう,組織体制を整備するとともに,国際経験の豊富な職員を配置するよう努めるべきである。

海外での情報提供,相談機能の充実

 多くの優れた留学生を日本に引き付けるためには,日本留学に関する情報提供機能の強化が必要である。
 日本学生支援機構においては,インターネットのウェブサイト等において,奨学金や各大学等の教育研究内容の紹介など日本留学に関する情報の内容の充実を図る必要がある。その際,帰国留学生に関する情報が充実している外務省のウェブサイトや関係機関のウェブサイトとリンクするなどして,留学に関する総合的な情報窓口の機能を果たせるようにすべきである。
 また,外務省,在外日本公館や日本学術振興会,国際協力事業団等の海外事務所等との連携や民間活力の導入を図りながら,日本学生支援機構の海外拠点の充実をも視野に入れつつ,海外における情報提供や相談機能の強化を図るべきである。
 さらに,留学生受入れの地域の均衡を考慮し,日本への留学生の少ない地域の中から,戦略的に対象地域を選び出し,留学情報の提供を重点的に行うことも考えられる。

日本語教育機関等に対する支援

 日本語教育機関で学ぶ者の約7割が,我が国の高等教育機関へ進学しているなど,多くの留学生にとって日本での留学生活の第一段階は日本語教育機関における学習である。したがって,日本語教育機関の質的向上や在籍者への支援は,留学生政策の一環として着実に充実を図るべきである。
 日本語教育機関の学生については,現在,専修学校専門課程等を除き,在留資格は「就学」とされているが,その取扱いについて今後検討を行っていくべきである。また,教育施策上は,在留資格の区分にとらわれることなく,例えば,その呼称を「就学生」ではなく「留学生」とすることなどについて,検討していく必要がある。あわせて,交通機関における学生割引の適用や学習奨励費の給付の充実,医療に関する支援など,日本語教育機関の学生に対する施策が一層拡充されるよう,関係機関への働き掛けや検討を行うべきである。

渡日前入学許可の推進など入学者選抜の改善

 質の高い留学生を受け入れるためには,入学者選抜の在り方が重要である。「日本留学試験」については,海外における試験の実施と普及に更に努めるべきである。また,日本の大学教育や入学者選抜における英語の位置付け等を踏まえ,英語を試験科目とすることなどについても検討すべきである。さらに,各大学が「日本留学試験」を活用して渡日前入学許可を積極的に実施するよう働き掛けることが必要である。あわせて,各大学においては,海外面接の拡充やインターネット等の情報通信技術を用いたインタビューの実施について検討すべきである。
 日本の大学等に入学する留学生の多くは,我が国の日本語教育機関の修了者である。各大学等にとって,入学者選抜の際に,日本語教育機関と連携し,日本語教育機関における成績や出欠状況などを選考の資料とすることは,入学者の質を確保する上で有効である。
 さらに,国として,日本学生支援機構を中心に,在外日本公館を含む関係機関と連携しながら,海外の教育機関,留学あっせん機関等の状況について情報収集を行い,各大学等に提供するなど,各大学等が的確に入学者を選抜できるよう支援を行う必要がある。

国費外国人留学生制度の在り方と今後の方向

 国費外国人留学生制度については,引き続き留学生数全体に対し一定割合を確保するとともに,制度の根幹は維持しつつ,必要な見直しを行うべきである。
 国費留学生の採用方法は,大使館推薦,大学推薦,国内採用の3種類があり,研究留学生については,その採用人数比は,およそ5:4:1となっている。大使館推薦については,外交政策上の配慮や発展途上国における人材育成の観点等も勘案しつつ,国別の均衡に配慮した受入れが可能である一方,大学推薦については,各大学の大学等間交流協定等に基づくものであり,各大学の主体的な留学生交流を促進し,大学の国際競争力の強化を図るものである。また,国内採用については,特に優秀な私費留学生を支援する機能を果たしている。これら3種類の採用方法については,それぞれの特徴を持ち,役割を果たしてきたところであるが,今後は留学生の質の確保という観点を踏まえつつ,適切な割合について検討すべきである。その際には,国費留学生制度の種類に適した採用方法についても考慮すべきである。
 また,国費留学生への応募はだれにでも開かれた平等なものであるべきであり,募集・選考の過程の透明化を一層図るべきである。
 さらに,優秀な留学生に対し国内採用による国費留学生への途を確保する一方で,各学年末などに留学生の成績の評価を行い,成績不良等の場合には,以後の奨学金の給付を打ち切るなど,成績管理を適切に行うべきである。
 国費外国人留学生制度の一つであるヤング・リーダーズ・プログラム(YLP)については,プログラムの実施大学の拡大の在り方,学生選考方法への公募方式の追加等について検討を行った上で,着実に推進すべきである。あわせて,将来のナショナル・リーダーたるYLP留学生の間に人的ネットワークを確実に構築するため,留学後のフォローアップの充実を図ることが重要である。
 さらに,各国からより優秀な学生を引き付けるため,YLP留学生であったことが留学生の誇りともなり,国際的にも一定の評価を得られるような方策についても,検討を行う必要がある。

私費留学生支援制度の在り方と今後の方向

 我が国の留学生のうち,およそ9割は私費留学生が占めており,私費留学生に対する支援は重要である。その際,私費留学生の質の確保にも留意する必要がある。
 大学等に在籍している者のうち,経済的援助を必要とする成績優秀者に対する奨学金である私費外国人留学生学習奨励費については,引き続きその充実を図るとともに,受給者の決定に当たって,「日本留学試験」を一層活用するなど,留学生の質の確保にも留意した制度の改善を図るべきである。
 授業料減免学校法人援助については,各学校法人が私費留学生に対する授業料減免を実施することを奨励するために,国がその一部を負担する制度であり,私費留学生の授業料負担の軽減を図るものとして重要な役割を果たしている。この制度については,1.運用によっては安易な留学生の受入れにつながるおそれがあるのではないか,2.経済的に困難な留学生に対する支援として十分なものになっていないのではないか,などの指摘があることを踏まえ,真に援助が必要な留学生が適正に授業料の減免を受けることができるよう,改善を図っていく必要がある。

留学生宿舎の整備の在り方と今後の方向

 留学生にとって,低廉で良質な宿舎の確保は重要である。近年の留学生数の大幅な増加を踏まえ,引き続き,大学や公益法人等が設置する公的な留学生宿舎の着実な整備と適切な維持管理が必要である。その際,留学生のみを入居させるより,留学生と日本人学生が混住し,交流の推進が容易な形態となるよう配慮すべきである。
 なお,国立大学法人等の宿舎の整備及び維持管理に当たっては,PFI(注)を活用することも有効である。
 民間宿舎への入居については,保証人の確保等の課題があり,「指定宿舎確保事業」や「留学生住宅総合補償事業」,財団法人留学生支援企業協力推進協会を中心とした社員寮の活用,機関保証などにより,民間宿舎への入居が一層容易なものとなるようにする必要がある。

(注)PFI
 公共施設等の建設,維持管理,運営等を民間の資金,経営能力及び技術的能力を活用して行う手法。

留学生と地域社会との交流

 留学生の日本の社会や文化に対する理解を深めるためには,日本人学生や地域社会との交流が重要である。全国の各都道府県に設置している「留学生交流推進会議」には,大学等をはじめ地方公共団体,企業,各種の民間団体など幅広く関係者が参画しており,これらを通じて,地域社会との交流の促進を図るべきである。地域社会との交流を進めるに当たっては,特に民間団体が果たす役割が大きいことから,民間の活動を奨励する方策を検討すべきである。
 あわせて,日本学生支援機構の留学生宿舎については,国際学生交流拠点機能を持たせることとされており,留学生と日本人学生の交流をはじめ,多彩な交流事業を体系的,継続的に実施することが望まれる。

セイフティー・ネットの充実

 留学生が我が国での留学生活を送る上で,様々な不測の事態に直面しても,安心して留学生生活を送ることができるよう,医療費補助制度や緊急時の一時的な資金援助など支援の充実を図ることが必要である。その際,出産の場合など女性の留学生に配慮した支援の在り方について,検討すべきである。

留学生に対する帰国後の支援の充実

 留学生交流の意義を高めるためには,留学生の帰国後の適切なフォローアップが必要である。そのため,元留学生による同窓会の結成とその活動の活性化を図るため,大学等がインターネットのウェブサイト等の活用によって支援することや,元留学生の再来日や指導教員の派遣,元留学生のデータベース化などを進めていくことが必要である。その際,外務省などの関係機関とよく連携することが重要である。

留学生の卒業,修了後の就労

 大学等で学んだ知識,技術を生かして日本で就職することを希望する留学生が,近年増加してきており,企業の側でも,経営の国際的展開等に対応するため,留学生の採用数を増やしている状況にある。就職を希望する留学生を支援し,円滑な就職機会の確保を図るためにも,大学等における指導の充実,就職に関する適切な情報の提供,大学等と企業との間の連携の強化が望まれる。
 また,研究人材の多様性を向上させる等の観点から,卒業,修了する留学生が引き続き日本で研究者として研究に従事できるような環境を整備することが必要である。このため,ポストドクター(注)制度による支援や競争的研究資金による雇用の充実など研究を継続できる経済的支援の充実を図ることが重要である。

(注)ポストドクター
 主に博士課程修了後、研究者としての能力をさらに向上させるため、引き続き大学等の研究機関で、研究業務に従事する者をいう。

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高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

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