(平成10年10月26日)
(b)学部段階の教育については,一般に教員は研究重視の意識は強いが教育活動に対する責任意識が十分でない,授業では教員から学生への一方通行型の講義が行われている,授業時間外の学習指導を行っていない,学期末の試験のみで成績評価が行われている,成績評価が甘く安易な進級・卒業認定が行われている,教養教育が軽視されているのではないかとの危惧(ぐ)がある,専門分野の教育が狭い領域に限定されてしまう傾向があるなど,教育内容と教育方法の両面にわたり多くの問題点が厳しく指摘されている。また,学生によっては,授業に出席しない,授業中に質問をしない,授業時間外の学習が不十分である,議論ができないなど,学習態度とその成果の両面について問題点が指摘されている。
(平成9年12月18日)
(1)大学(学部)教育の位置付けの問題
高等教育の規模の拡大やいわゆる高等教育の大衆化,それに伴う学生の多様化などの変化にもかかわらず,多くの大学教員の意識は,従来の大学教育の概念から必ずしも抜け切れていない。特に,学部教育の位置付けや今後の在り方についての議論が必ずしも十分でない。
すなわち,1.学部教育と大学院や他の高等教育機関との関係をどう考えるのか,2.学部教育を,幅広い教養や学問修得の方法を目的とする,言わば基礎教育と考え,高度の専門教育は大学院で行うこととするのか,3.学士の学位を授与する学士課程教育という観点から,学部教育の質やその確保をどう考えるのか,4.それぞれの学部にどのような学生を受け入れるのか,5.教育内容の高度化・専門化と,その多様化・総合化の要請をどのように調和させるのか,6.生涯学習の観点からは学部教育をどのようなものと位置付けるのか,等々の事柄について,各大学における改革推進のための基本的な考え方は必ずしも明確になっていないのが実情である。
(平成7年9月18日)
これからは,各大学がそれぞれ個性を発揮し,多様な発展を図っていく時代である。そのためには,各大学が,それぞれの理念・目的や将来構想を明確にし,それに照らして自らの教育研究の在り方を不断に見直し,英断をもって実行に移していくことが必要である。また,学外からの大学への要請や,社会の変化などに的確に対応していくことも求められる。
このことについて,各大学の現状を見ると,大学や学部等の調査・企画機能が十分か,大学像などについて明確なビジョンの提案があるか,学部自治の名の下に学問の進歩や社会の変化に対応した改革の推進に支障が生じていないか,複数の学部等から成る大学においてはそれらの枠を越えた自由な議論の場が設けられ,そこでの円滑な合意形成が行われているか,など見直しを要する課題が指摘されよう。 (略)
しかし,各大学の現状を見ると,大学の理念・目的に照らした教育研究の在り方について,大学全体としての取組や,学部・大学院としての体系的カリキュラム作りが必ずしも十分ではない。また,4年一貫教育は,次第に進みつつあるものの,本格的な教養教育の在り方の検討もいまだ十分ではない。専門教育の改革が遅れがちである,との指摘もある。これらの改革について全学的な取組を促すことが課題であろう。
これからは,いずれの大学においても学生に対する教育を一層重視していく必要がある。これまで我が国では,授業方法の改善は個々の教員の努力にゆだねられてきた。今後は,学科の枠を越えて学部全体で,あるいは学部の枠を越えて全学的に授業方法等の研究や研修に取り組む体制を整備することが課題である。
(平成10年10月26日)
(c)大学院については,各課程において研究者養成,高度専門職業人養成などの目的に即した体系的なカリキュラムが編成されていない,学生の大学間移動が少なく,また,教員についても当該大学出身者が大半を占める場合が多く学問的刺激が十分でない,大学院独自の教員組織が弱い,地域社会との連携・交流や国際交流の推進が十分とは言えない,さらに学部学生も含め学生に対する経済的支援が不十分であるなどの問題点が指摘されている。
(平成8年10月1日)
今日,大学院の目的や役割が多様化しているにもかかわらず,研究者養成が中心であるという従来の意識があり,特定の教員による研究指導が強調されすぎて,それぞれの目的に沿った体系的なカリキュラムの整備が十分でない面がある。
研究者養成の機能面では,早期に高度な研究を遂行することが重視される余り,教育研究が狭い専門に閉じこもっていないか,個々の研究成果を,総合的なバランスのとれた学問の発展という視点で判断できる人材を養成しているか,指導教員の関係などにおいて幅広い視野や創造性,高度な専門的知識・技術の基礎となる豊かな学識などを培う機会や場の配慮がなされているか,などが問題となる点であろう。高度専門職業人の養成や社会人の再教育の機能面では,教育研究の内容や開設科目が社会のニーズに必ずしも合っているとは言えないものもある。また,国際的な競争力のある,あるいは国際貢献を担っていく人材の育成面を強化していくことも課題の一つである。
特に,産業界からは,大学院修了者の資質として特定分野の専門的な知識に加え,関連の幅広い知識,創造力,問題解決能力などを求める声が強い。また,分野によっては,実務能力を重視し,即戦力を期待する声もある。さらに,社会人の再教育の機能を担うに当たっては,教育内容の工夫とともに,入学者選抜方法の見直しや履修形態,施設・設備の利用時間など,社会人にとって学習しやすい環境の整備も課題である。
我が国の大学・大学院においては,近年,学生や教員の流動性が高まりつつあるものの,学生が大学間を移動することはまだ少なく,また,教員の人事についても,同一大学出身者が大半を占める学部・大学院があるなどの問題点がある。異なる研究室間の対話や交流が十分でないことや,学生にとって,研究上の関心の発展に応じた研究テーマの変更が必ずしも柔軟に行えないことも指摘されている。同質者の間では学問的刺激も弱く,新しい学問分野の生成も難しい。大学院が学術研究の最先端で創造的な成果をあげていくためには,異質なものとの交流の中から新しい発見やヒントが生まれるようになっていることが重要である。しかし,このような環境は必ずしも十分ではない。
これからは,国際的規模で大学間や大学と社会の間の相互交流を深めることがますます重要になる。しかし,現状では,例えば大学院間の単位互換制度はあるが,授業料負担の問題から国立大学と公私立大学間では十分に機能していない。外国の大学との間の交流についても,学期の区分が外国とは異なることが一因となって,学生や教員の異動が容易でない。また,教員の派遣や受入条件などの問題から,交流が円滑にできないという指摘もある。国内の交流や国際交流を一層進める上で障害となっている問題については,早期に改善することが課題である。さらに,留学生の受入体制の整備やその教育研究内容の工夫,研究者の相互交流,情報の受信から発信への転換,高度情報ネットワークの整備など,国際化,情報化などが一層進む時代における大学院の在り方を変えていくことが課題である。
一方,企業との共同研究や寄附講座の開設など社会と大学の連携協力が進みつつあるが,新しいニーズへの大学側の対応が必ずしも迅速ではない。また,人材の交流や人材育成面での連携協力もまだ十分とは言えない。さらに,大学院を修了したことが社会で広く評価されるに至っていないこと,企業内のキャリア・パス等が明確でないことなどから大学院修了者の採用が進まないなどの問題も生じている。
(平成10年10月26日)
今後,社会・経済の更なる高度化・複雑化や国際化の進展に伴い,教育研究の質の高度化及び人材養成に対する要請等の多様化への適切な対応が一層求められていく。また,進学率の上昇や生涯学習需要の高まり等に伴い,より幅広い層の国民に対し,それぞれの関心や意欲に応じてその能力を十分に伸ばしていくための多様かつ充実した教育機会の提供が一層重要となっていく。このような高等教育に対する質の高度化への要請や社会の需要の一層の多様化等に適切にこたえるとともに,長期的視点に立った教育研究の展開によって社会をリードしていくという役割を果たすためには,大学・大学院,短期大学,高等専門学校,専門学校が,それぞれの理念・目標を明確にし,それぞれの特色を生かしつつ多様化・個性化を進め,国公私立の各高等教育機関全体で社会の多様な要請等にこたえていく必要がある。
1)各校等教育機関の多様化・個性化
高等教育に対する社会の多様な要請等に適切にこたえていくためには,大学・大学院,短期大学,高等専門学校,専門学校という各学校種ごとにその求められる役割を果たしていくのみならず,各学校種の中においても,個々の学校がそれぞれの理念・目標に基づき様々な方向に展開しつつ,更にその中での多様化・個性化を進めていかなければならない。
大学は,それぞれの理念・目標に基づき,総合的な教養教育の提供を重視する大学,専門的な職業能力の育成に力点を置く大学,地域社会への生涯学習機会の提供に力を注ぐ大学,最先端の研究を志向する大学,また,学部中心の大学から大学院中心の大学など,それぞれの目指す方向の中で多様化・個性化を図りつつ発展していくことが重要である。
短期大学は,高い教養を培うとともに職業における専門的能力を育成する教育機関として多様化・個性化を図り発展していくことが期待されるが,制度上の位置付けなどについて今後検討が必要との意見もあることから,更なる本審議会での検討が必要である。
高等専門学校は,発想力豊かな実践的技術者を育成する教育機関としての機能を引き続き果たしながら,多様化・個性化を図っていくことが期待されるが,教育の在り方などについて今後検討が必要との意見もあることから,更なる本審議会での検討が必要である。
専門学校は,実際的な知識・技術等を習得するための実践的な教育機関として定着しており,今後とも社会の変化に機敏に対応しながら,主に産業社会の求める人材の養成機関として一層の多様化・個性化を進め,更に発展していくことが期待される。
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室
-- 登録:平成21年以前 --