英国 「学習社会における高等教育の将来(通称「デアリング報告」)」の概要

学習社会における高等教育の将来(Higher education in the learning society)

(1997年7月23日 イギリス高等教育制度検討委員会)

(1)勧告目的

 20年後の競争力のある経済を持続させることを目指して,過去30年の高等教育の分析を基として,次の20年間における新しい課題に柔軟に対処していく能力を高等教育に与えることを目的とする。

(2)高等教育改革の方向

1.高等教育の拡大

  • a)フルタイム高等教育の在学率(32%)の45%以上への引き上げ
  • b)非学位資格(ディプロマ),その後学士及び修士以上の学位の拡大
  • c)パートタイム学生への支援充実
  • d)公的補助金配分における,労働者階級の子女,障害者,及びマイノリティーの出身者を積極的に受け入れる高等教育機関の重視

2.高等教育財政の改善

  • a)受益者負担原則の導入
     例えば,£1000/年(約20万円)の授業料の導入
  • b)政府に対する高等教育費の増額要求
  • c)高等教育財政の改善
  • d)公財政支出高等教育費の対GDP比の増加目標

3.高等教育の機能と教育内容の改善

  • a)世界トップクラスの高等教育制度の確立
  • b)教授面における高等教育教員の専門性向上と資格制度の導入。
     このために,高等教育改善機関(ILTHE)の設置
  • c) 教育内容の改善
    • 深い専門性とともに幅広い知識・教養の習得
    • コミュニケーション,数的処理能力,情報技術などの基礎的技能
    • 在学中における一年間の職業実習体験
    • 情報技術設備の整備
    • 小型パソコンの全学生利用(2005年度まで)

4.高等教育の水準・質の向上

  • a)高等教育水準評価機関(QAA)の機能強化
  • b)財政機関研究評価(RAE)の改善

【参考1】高等教育制度検討委員会の概要

  • 正式名:National Committee of Inquiry into Higher Education
  • 組織形態:政府の諮問機関
  • 発足年:1996年5月
  • 検討事項:今後20年間におけるイギリスの国家的必要に見合う高等教育のあり方
  • 委員構成:大学・学校の代表,財界・産業界,そして学生組合の代表など
  • 検討方法:各界の意見聴取,作業部会,諸外国の高等教育調査など
  • 勧告対象:政府,高等教育機関及び高等教育財政審議会,高等教育の代表団体,学生組合,雇用者団体,研究審議会など
  • 勧告実施:短・中・長期の視野,数値目標を示すなど

【参考2】デアリング報告における高等教育の目的

  • 個人が知的に成長し,仕事に対する能力を十分に身につけ,社会に効果的に貢献でき,個人的な充足を達成できるように,自分の可能性を最大限に発揮するのを鼓舞し,それを可能にする。
  • 個人が自分たち自身のために知識と理解を増やし,経済と社会の利益のためにそれらを応用するのを助長する。
  • 地元,地域,国のレベルで,順応性のある,接続可能な,知識を基盤とした経済のニーズに応える。
  • 民主的で,文明度の高い,包括的な社会の形成に主要な役割を果たす。

【参考3】各部門の高等教育に対する貢献と利益の対照表

  高等教育への貢献 貢献から得られる利益
社会・納税者
(政府が代表)
  • ■高等教育への適切な公財政支出
  • ■高等教育に対する安定した資金供給
  • ■高度な技術を備えた労働力
  • ■知識集約型社会への研究成果
  • ■情報の備え,柔軟・有能な公民
学生・卒業生
  • ■授業料及び生活費に対する負担
  • ■学習の努力
  • ■より大きな制度への参加の機会の拡大
  • ■より良い情報選択とガイダンス
  • ■高度な学習経験
  • ■より高い学習成果
  • ■英国内外の厳格な評価
  • ■就職後の所得別分担
  • ■パートタイムに対する支援
  • ■高等教育就学補助基金の拡充
高等教育機関
  • ■質と水準の厳格な維持・保証
  • ■学習と教授の新しいアプローチ
  • ■高等教育のより効率的な普及
  • ■人材開発と支援
  • ■教育資金の新しい財源と学生数拡大の再開
  • ■研究に対する新たな財源措置
  • ■高等教育に対する社会的評価
  • ■財源の安定
教職員
  • ■新しい方法の探求及び応用
  • ■研究を含む全ての職務に対する非財政面を含めた社会的認知上昇
  • ■専門性に対するより適切な認知
  • ■訓練・人材開発の機会
  • ■適切な給与
雇用者
  • ■非雇用者訓練への投資
  • ■研究の基盤整備への貢献
  • ■労働体験の学生への付与
  • ■高等教育機関の効率的運営への支援
  • ■高度な労働力が労働市場へ
  • ■高等教育が提供するものに対する明確な理解
  • ■高等教育との協力の機会の増大
  • ■中小企業の高等教育資源への接近
  • ■研究成果
家庭
  • ■教育費の貢献
  • ■子女のより良い高等教育の機会
  • ■成人学生のより良い,柔軟な高等教育の機会

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高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)

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