1 学生が個人の事情に応じて柔軟に修業年限を超えて履修し学位等を取得する仕組み(長期履修学生)の導入

 現在,我が国の大学においては,職業等を有しながら学習を希望する人々の様々な学習需要に対応し,多様な履修形態で卒業・修了要件を満たし,学位等を取得できるよう,夜間・昼夜開講制大学及び通信制大学等が開設されている。
 また,大学等が提供する授業科目等を学生が自らの希望に応じて適宜選択し単位を修得することができる制度として,科目等履修生制度が設けられている。科目等履修生は非正規の学生であり,科目等履修生としての単位修得のみをもって学位を取得することはできないこととされている。
 このように様々な履修形態上の工夫が行われているものの,正規の学生として卒業・修了要件を満たし学位等を取得するためには,大学等が編成する教育課程を修業年限に応じて履修することが必要であり,個人の事情に応じて修業年限を超えて履修を行う場合は,現状では一般的に留年や休学として取り扱われている。
 一方,諸外国においては,個人の事情に応じて修業年限を超えて履修を行い,学位を取得する正規の学生(いわゆるパートタイム学生)が制度的に存在しており,平成12年の大学審議会答申「グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について」においても,このような制度の導入についての検討が求められている。
 学生が留年や休学として取り扱われることなく,個人の事情に応じて柔軟に修業年限を超えて履修し学位等を取得できるようにすることは,職業や家事等に従事することにより日常的に様々な制約を抱える人々の学習を容易にし,各大学等におけるこれらの人々の受入れを一層活発化すると考えられる。
 また,このことにより,通常の修業年限で卒業・修了することを予定していたものの,在学中に起きた何らかの事情で勉学意欲がありながら予定していた学習が困難となった学生が,留年,休学,退学をすることなく,学習を継続することも可能となると考えられる。
 さらに,昨今,自らの進むべき道を模索する若年層が増加しつつあるが,これらの人々が学問を通じて教養を身に付けたり専門的知識に触れたりする機会を拡大し,自らの社会的な役割を認識する契機の一つとなるとも考えられる。
 以上のことを踏まえ,職業や家事等に従事しながら大学等で学ぶことを希望する人々の学習機会を一層拡大する観点から,個人の事情に応じて柔軟に修業年限を超えて履修を行い学位等を取得できる新たな仕組みを,各大学等が各々の判断で導入できることとすることが必要である。
 その際,学生個人の事情に応じて柔軟な履修を可能とする観点から,できる限り弾力的な仕組みとすることが適切である。

(1)対象となる学生の位置付け

 上記のような新たな仕組みの導入を各大学等において積極的に推進していくに当たっては,対象となる学生の位置付けを明確にしておく必要がある。
 当該学生は,職業や家事等との兼ね合いにより,通常の修業年限在学する学生よりも1年間または1学期間に修得可能な単位数が限定されるため,修業年限を超えて在学することを予定し,それを各大学等が予め認めた上で在学し,各大学等の定める単位の修得等の要件を満たして卒業・修了することにより,学位等を取得する正規の学生(以下,「長期履修学生」という。)と定義することができる。

(2)長期履修学生を受け入れる高等教育機関

 人々の多様な学習需要に対応し,高等教育機関における学習機会をできるだけ拡大する観点から,各機関の特性を踏まえつつ,それぞれの機関の判断により長期履修学生を柔軟に受け入れることができることとすべきである。
 大学については,学部においては,高等教育に対する多様な学習需要に幅広く応えるために,長期履修学生を積極的に受け入れていくことが期待される 。
 また,職業上必要な高度専門的知識・能力を修得することを目的として大学院への入学を希望する社会人のうち,学習時間等の制約により標準修業年限を超えて学習することを求める者が今後一層増大することが考えられることから,大学院においてもこのような需要に適切に対応して長期履修学生を受け入れていくことが望まれる。なお,大学院修士課程においては,社会人の多様な学習需要に応えるため,予め長期の教育課程を編成し,標準修業年限を2年を超えるものとすることができることとされている(いわゆる長期在学コース)。一方,長期履修学生は,学生個人の事情により,大学等が標準修業年限に従って編成する教育課程の期間を超えて在学するものであり,いわゆる長期在学コースとは趣旨を異にするものである。
 短期大学においては,地域に密着して生涯学習機会を幅広く提供することが期待されるところであり,長期履修学生を積極的に受け入れることが望まれる。例えば,社会人を含めた地域の学習需要に応える,多様なコースを設定した総合的な学科等を設け,長期履修学生を積極的に受け入れることも一つの方法である。
 また,高等専門学校においても,専攻科については大学と同様に単位制を採用していることから,長期履修学生を受け入れることが可能であると考えられる。
 さらに,専門学校においても,その自由で弾力的な制度によって,多様な学習需要に対応できるという利点を活かして,数多くの社会人を受け入れていることから,長期履修学生を積極的に受け入れることが期待される。
 なお,長期履修学生を受け入れるか否かの判断は,各機関が,各々の教育課程の目的や教育方法・内容等を考慮して自主的に行うことは当然である。

(3)在学年限及び年間修得単位数

 大学等は,本来,学生が計画的に履修を行い学位等の取得を目指す場であることに鑑みれば,長期履修学生が在学できる最長年限については,各大学等において学則等で定め,各学生の在学期間はその範囲内で,学生の希望を考慮しつつ定めることが適当である。
 なお,期限を定めないで在学し履修することを希望する学生については,学位等の取得よりも学ぶこと自体を重視していると考えられることから,科目等履修生として受け入れることが適切である。
 また,長期履修学生の年間修得単位数については,より柔軟に履修できるようにする観点から,各大学等が定める上限の範囲内において学生が毎年自由に登録できることとすることが適当である。
 その際,実験・実習を行う課程においてはある程度継続的な学習が必要であること等を踏まえ,各大学等においては,その教育内容や学生の要望等を考慮して適切な履修が行われるよう配慮することが必要である。
 さらに,通常の修業年限在学することを予定していた学生が,仕事や家事等の都合で在学中に,より長期の履修への切替を希望することや,その逆の場合もあると考えられる。したがって,これらの状況に柔軟に対応できるよう,学生の希望に応じて,通常の修業年限在学することを予定する学生と長期履修学生の履修形態の切替を可能とすべきである。ただし,履修形態の変更に当たって相応の理由がないと判断される場合にまで,この取扱いを認める必要はない。
 もとより,学生の卒業時における質の確保を図ることは,大学等の社会的責任であり,長期履修学生に対しても,厳格な成績評価を実施するなど,安易な単位認定や卒業を抑制することにより,教育水準の維持向上を図ることが必要である。

(4)配慮事項

 長期履修学生は修業年限を超えて在学することから,その授業料については,通常の修業年限在学する学生との均衡に配慮しつつ,学生の負担軽減を図る観点から,修業年限分の授業料総額を学生が在学を希望する年限で分割して納めることができるようにしたり,単位制授業料制度を導入するなど,設置者の判断により適切な方法で徴収することが求められる。
 設置基準の適用上や私学助成の算定上の収容定員の取扱いについては,長期履修学生は正規の学生として受け入れる以上,定員内の扱いとすることが適当であるが,長期履修学生の受入れを促進する観点から,通常の修業年限在学する学生よりも1年間または1学期間の修得単位数が少ない当該学生数の算定方法については,その履修形態を反映させるため,その実員に一定係数(例えば,修業年限を長期履修学生の在学期間で除して得られた数)を乗じて算定するなど,適切な対応が必要である。
 なお,職業や家事等に従事しながら大学等で学ぶ長期履修学生に対しては,通常の修業年限在学することを予定する学生とは異なる,よりきめの細かい履修上の指導が必要となると考えられることから,各大学等が各々の実状に応じて,アドバイザーの配置,教員の教育能力を向上させるためのファカルティ・ディベロップメントの実施など適切な配慮を行うことが適当である。

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