長期戦略指針「イノベ-ション25」-未来をつくる、無限の可能性への挑戦-(平成19年6月1日 閣議決定)-高等教育関係抜粋-
第1章 基本的考え方 -イノベーションでつくる日本の未来-
(略)
5.「出る杭」を伸ばす等人材育成が最重要
どの組織も社会も政治も、すべて「人」が考え、計画し、実行する。したがってどのような人を、どのように育てていくのかにイノベーション政策の基本がある。
言うまでもなく人材育成の拠点は大学であり、従前、画一的な偏差値偏重になりがちであるとの指摘もあった大学入試は、高等学校のみならず教育全体に大きな影響を及ぼしている。このため、選抜方法の多様化や評価尺度の多元化を進める等、個性的で特色のある入試を行うような取組がみられる。今後、多様な能力を備えた「出る杭」を伸ばす観点からも、さらに一層入学者選抜の内容・方法の改善を図ることはもとより、抜本的な大学改革を推進していくことが重要である。また、高等教育についての日本人の選択肢は何も日本の中に限って考えることはない。むしろ異質な価値観や文化との接触を推進することは、日本人であることの意識を高め、異文化の理解や許容をもった多様な発想ができる人づくりの大切な要件である。
若いときからの国際交流経験、いわば他流試合の機会が増えれば増えるほど、世界に広く開かれた、オープンな日本が実現できる。既存の枠、常識にとらわれない、多くの価値観から生まれる高い志を持つ多様な背景の若者たちが切磋琢磨する場として開かれた大学こそが人材育成には極めて重要であり、大学院や研究所には、高い国際性が求められる。
2025年に向けて、気候変動、資源・エネルギー、水、食料、人口増加、貧困、人間の安全保障等、世界的課題が顕在化する中、急成長するアジアにある日本はどのような国になろうとするのか、また世界に対して日本はどんな国でありたいのか、どのような貢献が出来るのかを我々が自ら描くことが必要である。そのためにも、従来の発想にとらわれない創造性に富んだ人材を創りだしていくことが最も重要な課題である。
第5章 「イノベーション立国」に向けた政策ロードマップ
1.社会システムの改革戦略
(1)早急に取り組むべき課題
1)イノベーション創出・促進に向けた社会環境整備
(略)
4.知的財産戦略・標準化活動の新たな展開
(略)
- 大学等の知的財産戦略の強化
- -大学等における基本特許につながる重要な発明の海外出願、国際的な産学官連携、技術移転、事業化を戦略的に進める大学の主体的かつ多様な取組を促進。また、そうした知的財産の活用を各地域で担う人材の充実と更なる活用を検討。
- -大学の知的財産本部とTLO(技術移転機関)の一本化・連携強化や地域における産学官連携体制の強化、大学間の連携を進める等により、それぞれの大学における知的財産の創出・管理・活用を戦略的、組織的に進める体制を構築。
(略)
6.生活者の視点に立脚したサービスの生産性向上に向けた取組の強化
(略)
- サービス・イノベーションを担う人材の育成
大学等におけるサービスに関する学際的・分野横断的な教育研究を強化し、サービス分野において生産性の向上やイノベーション創出に寄与しうる資質を持った人材の育成を目指す。
(略)
7.人材の流動化促進
- 大学・独立行政法人-企業間の移動
研究者に研究活動及び研究成果の事業化の場を提供する観点から、人材の流動化を促進するため、大学や独立行政法人の研究者が元の組織に籍を置いたまま企業の研究開発現場で一定期間研究活動を行うための具体的仕組みを検討し、早期の導入を目指す。
(略)
2)次世代投資の充実と強化
(略)
1.若手研究者、意欲的・挑戦的研究への思い切った投資等の研究資金改革
- 若手研究者向け資金の充実と強化
若手研究者の自立を支援し広い裾野を築き、その中から世界トップ研究者を育てる一貫した競争的資金体系を確立する。博士号を取得したいわゆるポスドクが概ね5年の間に自立して新しい領域の開拓等に挑戦できる機会を与え、そこで成果を出した人を引き続き育てる仕組みを導入する。また、優れた博士課程学生に対する経済的支援の充実、若手研究者の自立的な研究環境の構築や女性研究者が出産・育児等で研究活動に支障を来さず能力を発揮できるよう、研究や生活環境の整備を図る。
- 競争的資金の拡充・見直し
競争的環境下において、基礎研究を強化するとともに、最先端でハイリスクな研究を推進するため、以下の取組を行う。
- -競争原則により研究の質を向上させるため、競争的資金の拡充に向けた取組。
- -競争的資金から人件費を支給できる研究者の対象を拡大。
- -国内外を問わず、国際的にも研究活動を活発に行っている評価の高い研究者が審査する体制等、評価の手法について早急に見直し。
- -研究活動の効率化(ひいては資金使用の効率化及び研究成果の拡大にも寄与)にも資する観点から、独立行政法人がその能力を発揮しやすい環境の整備をした上で、競争的資金の配分機能を原則として配分機関である独立行政法人に移行させることにより研究費の複数年契約を拡大する等、年度を越えた使用の円滑化を推進。
- -全競争的資金制度で間接経費30パーセントの早期実現。
- 研究設備の整備と共用の促進
多数の研究者が利用する基盤的かつ共通的な研究設備、学生の教育研究に必要な設備等の大学や研究機関における計画的な整備を図る。また、高額の研究設備等は不必要に重複して整備することのないようにするとともに、既存の研究設備等を含め、若手育成や民間利用の観点も含め積極的に共用を促進する。
- 優れた成果を上げた研究の進展のための円滑な資金供給
優れた成果を上げた研究の進展が資金供給の途絶で阻害されることがないよう、各府省、各機関の制度のシームレス化を図る。研究開発の最終年度に評価を行う等、次の資金供給に反映させる仕組みを検討する。また、これに伴い評価時期の柔軟な設定等評価の合理化を図る。また、各制度の目的に即した適切な採択手法について検討を行う。
2.世界の頭脳が集まる拠点づくり
- 世界トップレベルの研究拠点づくり
イノベーションを起こすには、その出発点である大学等の基礎研究の機能を格段に高め、国際競争力を強化する必要がある。そのためには、世界トップレベルの研究拠点を、従来の発想にとらわれることなく構築し、世界の頭脳が集い、優れた研究成果が生み出され、人材を育む「場」を我が国に作っていく必要がある。この一つの方策として、2007年度からスタートしたプログラムを充実・推進する。
(略)
3.多様性を受け入れ、出る杭となる「人」づくり
- 若者の海外交流の充実
異なる文化、生活、習慣をもつ同年代の若者との交流活動は、異文化を直接体験し、国際理解を深め、国際性を養うことから、多様性を受入れ、出る杭となる「人」づくりにとって重要であり、若いときからの国際交流を経験する観点から、以下の取組を行う。
(略)
- -大学間の学生交流を推進するため、短期留学制度の充実。
(略)
- -海外の大学との連携プログラム推進等により、博士課程在籍者の1割程度(年間2千人規模)を1年間留学させることを目指し、支援を充実。
(略)
- 起業家精神をもつ人材等の育成
インターンシップ等自ら体験できるような環境を作るとともに、新しいイノベーションを生み出す原動力となる起業家精神を持つ人材等を育成する観点から、以下の取組を行う。
(略)
- 普及のための情報提供、円滑な就業・定着に向けた研修や、起業化のため の支援等を充実。
- -産学が協同して行う高度なインターンシッププログラムの開発・実施による自立心の育成及び起業家精神の涵養、複数の分野を専攻する等「異」との出会いや「融合」の機会の提供。
- -横断的課題や業種・分野的課題等について幅広く議論を行い、産学双方の具体的な行動につなげるため、関係府省が連携して産学双方向の対話と取組の場として、産学人材育成パートナーシップを推進。
- -企業と連携した課題解決型の授業や実践的インターンシップ等の実践教育を通じて、「社会人基礎力」等社会人としての基礎的な能力を有する人材を育成。
- -地域を核として人材を育てようとする産学官一体の取組を促進し、起業家精神を持つ人材の活躍・育成の機会の充実。
- -NPO・企業等の民間主体の経験やアイデアの活用等により、ものづくり体験や職場体験、インターンシップ等を通じて働くことの面白さを体系的に体験・理解できるようにするキャリア教育・職業教育の推進。
(略)
- 技術経営力を備えた人材の育成
科学・技術・経営・市場をつなげる実践的な技術経営力の強化に寄与する能力を持った人材を育成するため、企業や公的研究機関の共同研究プロジェクト等において、国内外の研究者やポスドク等の積極的活用を慫慂する。
- 学ぶ意欲と能力のある者への支援の充実
- -意欲と能力がありながら経済的な理由により修学に困難がある者に対する奨学金事業について健全性を確保しつつ充実。
- -博士課程学生に対するフェローシップを充実するとともに、競争的資金を活用する等により、2010年度までに20パーセント程度の博士課程学生が生活費相当額程度の支援を得られることを目指す。
4.科学技術イノベーションを支える理数系人材の育成
- 高度で先進的な理数学習の機会の提供
理数への興味・関心が高い児童・生徒・学生に、高度で先進的な理数学習の機会、「異」とのふれあいより国際感覚・職業観を育む機会を充実し、将来、科学技術の舞台で主役となりうる卓越した人材を育成する観点から、以下の取組を行う。
(略)
- -卓越した意欲・能力を有する児童・生徒を対象に高度で発展的な学習機会を提供する大学等の支援。
- -イノベーションを担う実践的・創造的技術者の育成の推進。
- 理数教育の充実
教員の指導力の強化等により小・中・高等学校において国際レベルの理数教育の充実を図る観点から、以下の取組を行う。
- -意欲と能力のある理工系人材(社会人や大学院生を含む)が教員になる途を拡大するように免許制度の改善等。
- -特別免許状・特別非常勤講師等の免許制度の活用により、外部から意欲と能力のある多くの理工系人材の教員としての登用の促進。
(略)
3)大学改革
大学はイノベーションを先導する「知」の源泉であり、既に世界の一流大学は頭脳獲得競争とも言うべき国際的な人材獲得競争を繰り広げている。さらに、自らの組織に安住することなく、外部に刺激を求めて国際的な大学間連携やグローバル企業との産学連携を進めており、多様な経歴を持った研究者や学生の競争・連携拠点としてダイナミックに変革を遂げており、我が国の大学も、好むと好まざるとに関わらず、このような競争に巻き込まれていることを認識する必要がある。
したがって、我が国の大学が世界に対してより開かれたものとなり、多くの優秀な外国人学生が学び、切磋琢磨する環境を整えることで、新たな活力を創造する場として再生し、活力ある多様な人材を多く生み出す拠点となるべきである。また、より多くの日本人学生が海外の大学で学び、否応なく「異」と触れ合う機会を得ることで、広い視野や知識を身に付け、また国際的な人的ネットワークを構築する機会を提供するべきである。
また、大学の本来の役割として、幅広い教養の厚みに裏打ちされた知性あふれる専門家・社会人の育成、独創的・先端的な研究の推進及び社会の発展への寄与が期待されており、これを十分に果たすことにより経済成長およびイノベーション創造に貢献することが重要である。
このような考え方の下、以下の取組を促進する。
なお、全ての大学が同じ方向を指向することは、却って国全体としての大学の力を低下させることにもつながりかねず、個々の大学の自主性・主体性を尊重しつつ、政策的にも大学の個性化を促進する方向で、画一的ではないきめ細かな対応を図っていくことが重要である。
1.大学の研究力・教育力の強化
- 大学の研究と教育両面にわたる国際競争力の強化
イノベーションの担い手となる国際的に通用する質の高い人材を育成するためには、我が国の大学において、国際的にも魅力のある大学院を構築するとともに信頼される学部教育を実現し、大学の国際競争力を高めることが重要である。このため教育研究の基盤を支える基盤的資金は確実に措置しつつ、以下の取組を促進する。
- -大学の研究と教育の両面の国際競争力の強化を通じた世界的な拠点を形成するための取組。
- -社会の様々な分野で広く活躍する高度な人材を養成するための、大学院における優れた組織的・体系的な教育の取組。
- -若手研究者の自立促進や女性研究者のための環境整備、日本人研究者の 「異」との交流等を促進し、イノベーションの担い手となる創造的な人材の育成。
- -学部段階における特色・個性ある教育実践の取組。
- -学生への教育・研究指導の強化と厳格な成績評価の実施、授業の改善を図るための教員の組織的な研修や学生による授業評価の推進等、教育内容及び学位の質を保証する仕組みの検討。
- -大学の施設環境を国際的な水準の魅力あるものとしていくための整備。
- 文系・理系区分の見直し
イノベーション創出のためには、特定の学問分野にとらわれない幅広い知見や経験を身に付けることが必要である。特に、科学技術に明るい経営者や、市場のニーズがわかる経営的なセンスを身に付けた研究者・技術者の輩出は、社会や企業がイノベーティブであり続けるために重要な要素である。したがって、文系・理系の区分にとらわれない教育を実現し、高校・大学における履修科目や就職等卒業後の進路の選択の幅を狭めることのないよう、以下の取組を促進する。
- -文系・理系の区分にとらわれず、募集単位の大くくり化等、受験生に幅広い学習を促すような入学者選抜の取組。
- -学生が主たる専門以外の分野を体系的に学ぶことができる複数専攻制度の導入や、教養教育を重視した学部教育の質の充実等の取組。
- -文系・理系の枠を越え、幅広い知識と専門性を兼ね備え、イノベーションの創出に寄与しうる人材を育成するため、自然科学や社会科学といった複数の学問分野の融合による教育の推進。
- 意欲・能力の高い学生を選抜するための大学入試の改善
受験生の能力・適性や学習に対する意欲、目的意識等を総合的に判定しようとするきめ細やかな入学者選抜等により、大学入学者選抜の改善の視点に立ち、以下の取組を促進する。
- -意欲・能力の高い理数系学生を選抜するための入試方法開発および実践、これらの学生の才能を開花させるためのカリキュラム開発や実践・早期の研究室配属・学会参加等の取組の促進。
- -アドミッション・オフィス入試(AO入試)(詳細な書類審査と時間をかけた丁寧な面接等を組み合わせることによって、受験生の能力・適性や学習に対する意欲、目的意識等を総合的に判定しようとするきめ細やかな入学者選抜方法)のさらなる活用に向け、受験者や保護者、企業のニーズを調査・解析。また、AO入試で入学する学生の質を確保する観点からの、在学中や卒業後の追跡調査及び分析。
2.世界に開かれた大学づくり
- 海外の大学の学部や大学院との単位互換の促進
学生の交換留学を抜本的に拡充する観点から、海外の大学の学部や大学院との単位互換を促進する。
- 複数学位制(ダブル・ディグリー)の拡大等、国際的な大学間連携によるコンソーシアム形成の促進我が国の大学の国際化を推進し、海外の有力大学等との国際的な連携を強化する観点から、国際的な相互連携プログラムを策定し以下のような取組を行う大学の活動を促進する。
- -海外の有力大学等との複数学位制の拡大。
- -大学間交流協定等に基づく学生・教職員等の組織的な交流。
- -我が国の大学等における英語による体系的な教育プログラムの提供(英語だけでも卒業に必要な教科を履修し、単位を取得できるような取組の促進)。
- -日本人学生の留学に対する支援。
- -我が国の大学等における9月入学。
- 教授・准教授の流動性向上
教授・准教授の流動性をさらに向上し活力ある研究環境を形成する観点から、任期制やテニュアトラック制度の広範な定着に努める。
- 海外から優秀な人材を受け入れるための支援
我が国の大学に海外の優秀な人材を受け入れる環境を整える観点から、以下の取組を促進する。
- -教授・准教授の流動性をさらに向上し、国際公募の推進等により、世界トップレベルの教員の採用を促進するとともに、来日した外国人研究者が円滑に日本に定着するために必要な支援(外国人の採用比率を2011年までに現行の2倍にすることを目指す)。
- -優秀な外国人留学生を対象とした、産学連携による専門的な教育プログラム、ビジネスにも対応する高度な日本語研修、日本の企業文化を理解するためのビジネス研修、日本企業へのインターンシップ、日本企業への就労支援等「アジア人財資金構想」をはじめとした関連施策の推進。
(略)
- 優れた学生に国籍に関係なくフェローシップを支給
大学院の真の国際化を推進する観点から、言語面での配慮を含めて、自大学出身者を優遇することのない国内外に公正に開かれた入学者選抜の実施の促進を検討するとともに、優れた学生には国籍に関係なくフェローシップ等を支給することにより優れた頭脳を世界から集めるための取組を促進する。
3.地域の大学等を活用した新たなチャレンジにつながる生涯学習システムの構築
健康寿命が延伸し、各々が生きがいを感じつつ自らの適性に応じて活動する場合でも、新たな知識を補充することにより、さらにチャレンジの可能性を広げることとなることから、こうした「学び直し」のニーズに対応した生涯学習システムの構築および地域の人材養成のために地域の大学等の教育力を生かす観点から、以下の取組を促進する。
- -生涯学習関連施設、大学・高等専門学校・専修学校と地域の産業界等関係者が連携し、社会人等が地域で実践的な学び直しができる実践的教育プログラム等の提供による機会の充実。
- -地域の大学、高等専門学校や専門高校と産業界の連携により、学校の有する設備や教員を活用し、企業のベテラン技術者等の協力の下、地域や中小企業のニーズに応じた講義と実習を実施することにより、中小企業の若手技術者等地域産業を担う人材の育成・活用支援。
- -地域の大学が協同して行う大学等の教育や地域貢献、地域ニーズに対応した人材育成。大学改革の基本方針については、上記の点とともに、教育再生会議の更なる検討結果等を踏まえることとする。
(略)