規制改革推進のための第1次答申-規制の集中改革プログラム-(平成19年5月30日 規制改革会議)-高等教育関係抜粋-

2.各重点分野における規制改革

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2 イノベーション・生産性向上

(1)教育・研究分野

 (略)

6.教育と研究の質向上に向けた高等教育の改革

【問題意識】
 大学改革については、教育再生会議を初めとした諸機関において検討されているところであるが、当会議としては、教育・研究の質向上に向けて競争環境の整備が必要不可欠と考えており、主として教育財政面の見直しについて検討を行ってきたところである。

  • ア 運営費交付金及び私学助成金の配分ルールの見直し
    • (ア)教育・研究の峻別
       現行の運営費交付金及び私学助成金の算定に当たっては、教育と研究の峻別がなされていない。優れた研究者が優れた教育者とは限らないことからも、教育と研究の評価の物差しが異なることは自明である。教育、研究それぞれについて適切かつ厳正な評価を行い、公平で効率的な公費の配分を行うためには、教育と研究は一体というこれまでの考え方から脱却することが重要であり、そのための前提条件として、大学が教育や研究にどの程度のコストをかけているかを把握した上で、大学の会計システムを教育と研究に分離する必要がある。こうした取組を踏まえ、将来的には運営費交付金及び私学助成金については教育目的に特化することを検討すべきである。また、研究目的に交付する公費については、研究持続の安定性に一定の配慮をしつつ、競争的研究資金で充当することが望ましい。
    • (イ)教育に関する配分基準等の見直し
      • a 配分基準・評価の見直し
         運営費交付金や私学助成金の配分基準についても見直す必要がある。高度人材育成や国際化に対する大学独自の努力や成果に着目した配分基準の設定という考え方もあり得るが、その際、国が一部の専門家の評価に基づき大学の取組を評価し、公費を配分するという仕組みはとるべきでない。本来的には、多様で自由な民間機関の適正な評価をもとに集まった学生数に応じ配分額を決定する仕組みを採用することにより、結果として公費が重点的に配分されるように見直すべきである。こうした公費の配分方法を見直すときには、教育の質の担保を前提として大学の定員数を独自の判断により柔軟に設定できる制度の導入を併せて検討する必要がある。
         こうした公費の配分基準の見直しに当たっては、公正かつ透明で適正な評価を行うための徹底した情報開示の促進や評価の体制・基準を確立していくことが欠かせない。我が国でも米国における「USニューズ・アンド・ワールド・リポート」のように情報開示の徹底を通じて民間機関が大学の教育内容や卒業生の社会的な実績等を自由かつ多元的な切り口で評価できる環境を整備すべきである。
         また、我が国における大学評価については、入試の難易度等にウエイトが置かれる傾向があるが、本来的には在学期間中に学生が身に付けた学力等の付加価値の多寡により評価されるべきであり、こうした観点からも大学評価基準の在り方を検討すべきである。
         さらに、学位の授与等についても適正な質を担保するため、一定の認証・評価が必要と考えるが、そのような認証・評価も民間機関の多様な評価に委ねるべきである。
         また、国立大学法人の評価に際しては、教育と研究それぞれの成果を含む状況を分析した上で評価を実施し、その結果を広く公表すべきである。
      • b 国立大学における授業料体系の見直し
         公平性・効率性の確保の観点から、在籍している学生1人当たりに配分される公費の額は学部等に係らず同額とすべきとの考え方もあり、学部等によって差異が生じる経費については基本的には授業料により賄うことも検討すべきである。そのうえで、学部間で差異のない現行の国立大学における同一授業料については大学ごとの自由な設定を認めることについて検討すべきである。
         その際、利子付きの貸与奨学金の大幅な拡充を含め、高い授業料が、私立国立を問わず、大学に学ぶ障害にならない制度を検討すべきである。必要に応じて奨学金の債務保証をすることは、国の役割である。
  • イ 競争的研究資金の配分の見直し
    • (ア)評価の見直し
      • a 厳正な評価体制の構築
         競争的研究資金に関しては、本来、研究成果の期待値が最大になるように配分が行われることが望ましく、また、社会的にも最大限の効果をもたらすように厳正な審査・評価体制を構築することが求められている。様々な研究業績は一種の公共財であり、研究費の配分は最終的には政府の責任で決定すべきものである。なお、研究業績に対する事後的な評価に際して、制度や研究分野等の特性に応じ、民間学術誌の格付けや民間学術団体の厳正な調査等を活用すべきである。
      • b 評価の単位
         優れた研究は組織・機関が行うものではなく、優れた研究者またはそのチームが行うものであることから、評価の単位は組織・機関単位ではなく研究者個人または研究チーム単位とすることが、適正な評価を行う上では重要であると考える。米国でもハーバードやイェールといったいわゆるアイビーリーグの諸校が多くの研究資金を獲得しているように見えるのは、研究資金を獲得する能力のある優れた研究者や研究チームが、その努力によって獲得した資金がたまたまそれらの大学にも集まった結果に過ぎない。競争的研究資金の採択に当たっては組織・機関の属性にとらわれることなく、真に優れた研究者・研究が評価されることが必要である。
      • c 厳正な事後評価の実施
         事後評価を厳正に行い、優れた研究を行うことが次の研究に繋がるという考え方を採ることにより、優れた研究が優れた研究を生む好循環サイクルを確立することが重要である。
      • d 研究者のカテゴリーの区分
         このような考え方を踏まえ、具体的な競争的研究資金の配分基準の見直しに際しては、主として「若手研究者を対象としたカテゴリー」と「中堅以上の研究者を対象としてカテゴリー」等に分けて基準を設ける必要がある。業績が十分に定まらない若手研究者等については、研究分野及び研究者の特性や制度の趣旨・目的を踏まえた上で適切と考えられる場合はマスキング評価を行うべきと考えるが、その際には、分野ごとの客観的基準を明示すべきである。
         なお、マスキング評価については、研究遂行能力・研究環境など実現可能性の判断が難しい、研究計画書から個人を特定できる情報を完全に除去することは難しい、研究費の重複・集中のチェックができない、匿名性ゆえに研究アイデアの盗用のチェックが難しい等の懸念もあるが、これらについては十分に解決・回避が可能であると考えられる。
         研究遂行能力・研究環境など実現可能性の判断が難しい点及び研究費の重複・集中のチェックができない点については、学術的な審査に基づく審査はマスキング評価により行った後、チェックすることが可能と考えられる。研究計画書から個人を特定できる情報を完全に除去することは難しい点については、およそ全ての学術論文における審査において同様の論点が存在するが、殆どの場合において匿名性を確保できているという実態にあり、一般的な問題と考えられる。研究アイデアの盗用のチェックが難しい点については、顕名であっても論文盗用の問題はしばしば見られることであり、匿名性故に格別にチェックが難しくなることはないと考えられる。
         また、中堅以上の研究者については、マスキング評価には拠らず、主として過去の研究業績を重視して厳正に評価する仕組みの構築や一定の評価を得た成果に対するポイント制の導入などを図るべきである。なお、若手であっても優れた業績を残した研究者が存在することも勘案すれば、研究者の資質や専門分野に応じて、適切な評価手法を実施すべきである。
    • (イ)優れた研究成果を産み出すための体制整備
      • a 間接経費割合の拡大
         優れた研究者を育成・獲得することが大学のインセンティブとして働くようにすることが、大学の意識を変え、優れた研究成果を産み出す源になると考える。そのためには様々な評価をもとに研究者個人の資質を見極め、真に優れた研究成果を上げた研究者に対して研究費が配分される仕組みに転換すべきである。また、間接経費の配分を前提として、それに基づき大学の収入が確保できるような仕組みに改善を図るべきである。
      • b 研究者の研究環境の整備
         一部の研究者については、研究以外の業務の専念義務が課されていることがあり、当人が競争的研究資金への応募ができない事態が発生している。当人のキャリアアップを考えると業務に支障のない範囲で競争的研究資金に応募できる道を開き研究を行えるようにすべきと考える。
         競争的研究資金を人件費に充当できるようにすることも研究環境の整備という面では重要である。これによって、より研究に専念できる体制整備に繋がると共に、不正を根絶し、良い研究をすることが当人の所得にも還元されるということによる研究成果の質の向上に対するインセンティブも働くと考えられる。
         こうした見直しにより優れた研究者をサポートする研究スタッフや研究助成金のマネジメントを行うスタッフの充実・強化も図られるものと考える。
         さらに現行の競争的研究資金の一部については、常勤者のみという要件が課されているが、優秀な研究者は非常勤の者にも存在することから、こうした要件は撤廃することが望ましい。
  • ウ 大学の連携・再編・統合に向けた環境整備
     少子化の進展や国公私立を問わない競争促進に伴い、大学間の連携・再編・統合を探る動きが活発化することが予想される。建設的かつ革新的な取組が進むよう、またその際に学生が不利益を被らないよう、取得単位の相互認容や大学卒程度認定試験の実施等について検討する必要がある。その際、国が主導して連携・再編・統合等を促すことは厳に慎むべきであり、あくまでも学生の選択の結果に基づき連携・再編・統合等が行われるようにすべきである。

 【具体的施策】
 以下の事項について、それぞれ後述する対応を行うこととする。その際、イ及びウについて、関係府省においては、今後、総合科学技術会議が、平成19年6月頃を目途にとりまとめる競争的研究資金の制度改革に関する議論を踏まえ、当会議と調整しつつ検討することとする。

  • ア 大学における教育研究状況の評価【平成21年中に実施】
     国立大学法人の中期目標期間の評価に際して、大学ごとに教育と研究それぞれの成果を含む状況について根拠となる資料・データに基づき分析した上で評価を実施し、その結果を国民に対してわかりやすく示すべきである。
  • イ 研究者の特性等に応じた競争的研究資金の審査・評価方法の確立(文部科学省・農林水産省・厚生労働省・経済産業省)【平成20年度中結論】
     競争的研究資金の審査・評価に際しては、研究分野や制度の趣旨・目的を踏まえて適切な方法により審査・評価を行う必要がある。
     また、主に業績が十分に定まらない若手研究者等について、導入にあたっての課題の解決を図りつつ、一定の試行を行い、その効果を十分検証した上で「マスキング評価」を導入することを図るべきである。主に中堅以上の研究者に関する研究者としての評価は、所属組織や機関のみに着目するのではなく、「過去の実績を十分に考慮した評価」とすべきである。また、これらを導入する場合には、これら評価方式に基づく資金配分について、研究者の資質や専門分野に応じて選択可能とすべきである。
  • ウ 競争的研究資金における客観的な審査・評価基準の構築
    • (ア)文部科学省・農林水産省【平成19年度中検討・結論】
       競争的研究資金については、「研究者の自由な発想に基づく研究資金」と「政策に基づき将来の応用を目指す研究(以下「政策課題対応型研究開発」という。)のための資金」とに区分され、これらについては審査・評価の視点が異なるため、制度の趣旨・目的に応じて、研究者の自由な発想に基づく研究と政策課題対応型研究開発それぞれの審査・評価基準を定めて、それに基づいた審査・評価を行うよう図るべきである。なお、両者の目的が混在した研究については、それぞれのウエイトに応じた審査・評価基準に基づき審査・評価を行うよう図るべきである。
      • a 研究者の自由な発想に基づく研究
        • (a)審査
           学術的な成果をもたらす領域においては、研究能力を示す過去の関連論文等の資料、過去に助成を受けた研究費に対する(b)の基準に基づく学術的成果など、過去の研究実績について、学術誌の格付け、定評のある賞の受賞経験等の客観的指標に関し研究分野の特性を踏まえ定量化を試みつつ、研究者としての評価を過去実績を十分考慮して行った上で、研究助成の採否を決定するよう図るべきである。
        • (b)事後評価
           上記に基づいて決定された予算に対して適切な学術的な成果が達成されたか否かを研究分野の特性を踏まえ厳正に評価すべきである。研究費の無駄の排除を促し、効率的な研究を推進していくため、総研究費に対してどの程度の研究成果が達成されたか、達成される見込みであるかなどといった観点等を踏まえ、これを審査や事後評価に活用するよう図るべきであり、その際、関連する論文の本数や学術誌の格付け、定評のある賞の受賞経験等の客観的指標について研究分野の特性を踏まえ定量化を試みつつ、評価においてそれらの活用を図るべきである。
           また、事後評価を厳正に行うと共にその結果を審査にも活用することにより、優れた研究を行うことが次の研究に繋がるという好循環サイクルを確立することを図るべきである。
      • b 政策課題対応型研究開発
        • (a)審査
           政策課題対応型研究開発については、必ずしも学術的な研究成果のみを期待するものではないが、当該研究の目的に関連する過去の政策提言、技術開発の成果等の具体的な実績について(b)の基準に基づき研究分野の特性を踏まえ定量化を図りつつ、研究者としての評価を過去実績も十分考慮して行った上で、着想や研究計画を勘案して、研究助成の採否を決定するよう図るべきである。
        • (b)事後評価
           採択した結果の事後評価については、政策実現に寄与したのか、技術開発に寄与したのか等を評価する仕組みを確立するよう図るべきである。また、事後評価を厳正に行うと共にその結果を審査にも活用することにより、優れた研究を行うことが次の研究に繋がるという好循環サイクルを確立するよう図るべきである。
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3 国際・オープン経済

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(2)基準認証、法務、資格

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【具体的施策】

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2.法曹人口の拡大等

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  • イ 法曹となるべき資質・意欲を持つ者が入学し、厳格な成績評価及び修了認定が行われることを不可欠の前提とした上で、法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が新司法試験に合格できるよう努めるべきである。その際、新司法試験は、資格試験であって競争試験ではないことに留意し、司法修習を経れば、法曹としての活動を始めることができる程度の知識、思考力、分析力、表現力等の資質を備えているかどうかを判定する試験として、実施すべきであり、既に実施された試験については、このような観点からの検証を行ったうえでその結果を速やかに公表すべきである。【平成19年度一部措置、以降継続的に実施】
  • ウ 法科大学院における教育、司法試験、司法研修所における教育が、法曹として必要な資質を備え、法曹に対する社会のニーズに応えられる能力を有する法曹の養成にとってふさわしい在り方となっているかどうかを検証するため、司法試験の結果についての詳細な分析を行うとともに、関係機関の協力を得て、これと法科大学院や司法研修所での履修状況を比較するなどの分析・検証を行い、その成果を公表すべきである。また、今後の選択科目の見直しの際には、科目としての範囲の明確性や体系化・標準化の状況等を見据えつつ、単に法科大学院での講座数など受験者の供給者の体制に係る要素のみに依拠することなく、実務的な重要性や社会的な有用性・汎用性等を考慮し、社会における法サービス需要に的確に応えるという観点をも踏まえて科目の追加・削除について柔軟な検討がされるべきである。【平成19年度以降逐次実施】

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高等教育局高等企画課高等教育政策室

(高等教育局高等企画課高等教育政策室)

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