高等教育の国際化に関する課題の整理及び今後の検討の進め方(案)
1.これまでの議論
- 高等教育の「国際化」については、これまでも各種答申等で提言がなされてきた。また、当分科会においても、ヒアリング等を行い、意見交換を行ってきた。議論してきた事項は、多岐にわたるが、概ね次のとおり。
- 学部・大学院における教育研究の水準の向上・内容の充実
- 世界的教育研究拠点の形成
- 外国語によるコミュニケーション能力の向上
- 大学間交流・国際展開の促進
- 留学生交流の推進
- 教員・研究者の交流の推進
- 国際教育協力に関するもの
- 事務局体制の整備に関するもの
- 国際的な質保証に関するもの
- これらの事項は、それぞれ関係部会等においても議論することが必要な事項であり、当分科会では、「国際競争力」等についての基本的考え方などについて、整理することが適当ではないか。
※ 「国際化」に関する議論を行う際に、これまで必ずしもその意味についての共通理解がないまま類似の用語が使用されている等の指摘もあり、今後、大学分科会及び各部会での議論にあたっては、これらの用語については例えば以下のように整理するなど、一定の共通理解が必要。
- 「グローバル化」…情報通信技術の進展、交通手段の発達による移動の容易化、英語の共通言語化、WTO等の影響による高等教育市場の国際的な開放等により、様々な分野で「国境」の意義があいまいになり、各国が、他国や国際社会の動向を無視できなくなっている現代社会においては動かしがたい現象。
- 「国際化」…グローバル化に対応して、高等教育に国際的、異文化的な側面を取り入れるプロセス。必ずしも教員や学生の移動、海外校の設立等の国境を越えた活動を伴うものではなく、例えば英語教育の充実や地域研究等、ソフト・ハード両面で自国において国際的な側面を取り入れることも含まれる。
- 高等教育の「国際競争力」…世界の水準に照らし、高い教育研究のレベルを有すること。高等教育の「競争力」の強化は、教育研究の水準の維持・向上という意味において、従来より課題とされてきたものであるが、グローバル化の進展に伴い、世界的な水準を意識した競争力の強化が課題となってきていることから、「国際競争力」と表現されている。
これらのうち、例えば「国際化」と「国際競争力」については、国際化の進展の結果として国際競争力が強化されるという側面がある一方で、国際競争力が強化され、我が国の高等教育の魅力が高まると、国外の大学、研究者等との連携・協力等が活性化され、国際化が一層促進されるという関係にある点に留意。
2.議論にあたっての基本的な視点
- 今後、これまでの提言や検討内容等を踏まえ、具体的な「国際化」推進施策について関係部会等において議論していくことが重要であるが、単に推進すべき施策を列挙することとならないよう、特に重点的に取り組むべき事項等について体系的な議論を行うこととし、以下のような考え方にたって議論を進めることが必要ではないか。
- 「国際化」の目指す方向(目的・目標等)を整理しつつ、それに合った形態、規模での「国際化」のあり方を検討することが必要。
- 議論の目的は、それぞれの高等教育機関の「国際化」のあり方について一つのモデルを提示することが目的ではなく、今後の高等教育に係る国際関係の国の施策を推進していくにあたっての基本的な考え方の整理。
- 大学分科会での議論を踏まえ、高等教育機関が一律に国際化するのではなく、各機関が、それぞれの目的・目標・機能を踏まえ、その目的・目標・機能と一貫性を有する形で計画的に取り組むことを期待。
3.今後検討を要する事項
- 「国際化」の重要性が一層増している今日、これまで答申等で提言されてきた事項等について、具体的な関連施策の推進を検討していくことが必要であるが、このような検討を進めるにあたっては、1.高等教育の「国際化」の目指す方向(目的・目標等)を整理しつつ、2.これまでの提言内容等の実施状況についての把握・分析を行った上で、3.具体的な施策の検討を行うこととしてはどうか。
1.「国際化」の目指す方向(目的・目標等)の整理について
- 「国際化」の目指す方向の整理にあたっては、我が国にとっての「国際化」の目的及びその目的を達成するための目標が何であるかを以下のように整理をしてはどうか。
(a)「国際化」の目的
- これまでの大学分科会での議論や各種答申を踏まえると、高等教育の「国際化」の目的として例えば以下の二つが考えられる。
(1)我が国の高等教育の国際競争力の強化を目指すもの
(2)国際平和や世界的な発展を目指し、高等教育を通じた他地域・他国の理解の促進や援助を行うもの
- 我が国にとっての高等教育の「国際化」の目的は、上記(1)、(2)のいずれか一つに限定されるべきではなく、グローバル化が進展している今日、国際社会において我が国の果たすべき役割・期待されている役割を考慮し、我が国の高等教育の「国際化」を検討するにあたっては、バランスに配慮することが適当ではないか。
(b)「国際化」の目標
- 上記(a)の「国際化」の目的を達成するために、例えば以下のような目標が考えられるのではないか。
(1)優秀な人材を自国に惹きつけること |
必ずしも我が国への優秀な人材の定住を目的とするものではなく、教員や学生の国際的な交流を通じて、一時的に我が国に優秀な人材を招聘することも含む。 |
(2)国際的に活躍できる自国人材を育成すること |
国際的に活躍できる研究者、国際機関で活躍できる人材、ビジネスで必要な国際的な交渉ができる人材の育成等、幅広い人材の育成を含む。 |
(3)国際的な知のネットワークへ参画すること |
大学関係者、産業界等の国際的な知のネットワークに参画することにより、産学連携等も含む様々な形態での国際的な連携・協力の機会へのアクセスを容易にし、また、我が国の教育研究の海外展開、高等教育の成果等についての情報発信に役立てることが目的。 |
(4)特定地域との重点的な連携を行うこと |
歴史的なつながりが深い地域等と戦略的に関係を強化するための重点的な連携。 |
(5)相互理解を促進すること |
グローバル化の進む社会において、他国、他地域、異文化の理解を促進することを目的とするもの。特定地域について重点的に取り組むというよりはむしろ、全ての地域、国、文化に関してバランスよく取り組むもの。 |
(6)特定課題解決に向けた協力・貢献を行うこと |
鳥インフルエンザ、津波等グローバルな課題の解決に向けた貢献。 |
(7)開発支援(貢献)を行うこと |
国際社会で期待される役割として、発展途上国等の支援を目的とするもの。 |
- この他に、外国においては、国際競争力強化という目的の実現のため、高等教育を輸出産業として位置づけ、利潤追求を「国際化」の目標としているところもある。
2.実施状況についての把握・分析について
- 「国際化」の目的・目標等について整理をしつつ、これまでの提言事項等の実施状況について、把握・分析等を行うことが必要と考えるが、どのような点に留意すべきか。
3.具体的な施策の検討について
- 1及び2を踏まえた上で、今後、重点的に推進すべき具体的な施策が何であるかについて改めて検討するにあたり、これまでの大学分科会での議論や各種答申等で提言されている施策を、例えば以下のような形で分類し、具体的な施策を検討することが考えられるのではないか。(なお、この表の分類は一つの例示にすぎず、多くの場合は一つの施策が複数の目標に対応することに留意。)
目標 |
具体的な施策 |
(1)優秀な人材を自国に惹きつけること |
- 優秀な留学生への特別支援
- 自国の高等教育のマーケティング
- 世界水準の教育研究
- 留学生の卒業後の就職の円滑化
|
(2)国際的に活躍できる自国人材を育成すること |
- カリキュラムの国際化(ジョイント・ディグリープログラム等を含む。)
- 外国語によるコミュニケーション能力の向上
- 留学(日本人学生の派遣)―短期留学の活用も含む。
|
(3)国際的な知のネットワークへ参画すること |
- 自国の高等教育に関する情報発信
- 研究者の交流
- 我が国の学位の国際的な通用性の向上(我が国の高等教育の水準向上や学位の相互認証の円滑化等)
- 我が国の高等教育機関の国際展開
|
(4)特定地域と重点的な連携を行うこと |
|
(5)相互理解を促進すること |
|
(6)特定課題解決に向けた協力・貢献を行うこと |
|
(7)開発支援(貢献)に関すること |
- 途上国等への教員の派遣
- 途上国等からの留学生の受入
- 途上国等での大学設立
- 自国の大学による発展途上国等での教育提供の推進等
|
- 以上のような整理を踏まえた上で、我が国において、「国際化」の目的・目標等の方向性に対応するために最適の施策は何か、また、優先的に推進していくべき施策は何か。
4.優先的に議論すべき事項
今後、高等教育の「国際化」に関連して優先的に議論すべき事項について例えば以下のような論点が考えられる。
1.高等教育の国際競争力強化のための国際化
- 先述した「国際化」の二つの目的のうち、現在、高等教育の「国際競争力強化」が教育再生会議等、様々な場で議題としてとりあげられるなど、社会的な要請が強まっていることから、高等教育の「国際競争力強化」のための国際化について優先的に議論することとしてはどうか。
- 1の目標(1)~(7)のいずれに重点を置いて国際化を考えるか、またその目標を達成したかを測る指標は何かについて整理することが必要ではないか。
- 高等教育の国際競争力強化のための国際化について優先的に議論することとした場合以下の事項に留意することが必要ではないか。
- 国際競争力強化だけが国際化の目的ではないこと
- 大学の自主性・自律性を尊重する必要があること
- 高等教育の「国際競争力強化」に関する指標を議論する際には、各高等教育機関がそれぞれの機能・目的等に合った形で指標を活用すべきであること
- さらに、指標の議論、及びその指標を利用した現状把握を踏まえた上で、国際競争力強化のための国際化に関して具体の推進策を検討することが必要ではないか。
- なお、英国のTimes Higher Education Supplementや上海交通大学、米国ニューズウィーク等が行っている大学ランキングの順位が低いことを以て日本の大学の国際競争力は低いという議論があるが、これらのランキングに用いられている各指標の詳細及びこれらの指標が我が国の高等教育機関の「国際競争力」を捉えるのに適しているかどうかも含め、議論するべきではないか。
(参考)これまで各種ランキングで用いられている指標
- 各国学者同士のピア・レビュー
- 企業等採用担当者の評価
- 外国人教員比率
- 留学生比率
- 教員/学生比率
- 教員一人あたりの論文引用数
- ノーベル賞等受賞者数
- 被引用研究者数
- 論文引用数 等
2.国際的な質保証のあり方
1にあるように、これまで議論されてきた事項の一つとして国際的な質保証の問題がある。国際的な質保証の問題については、これまでも我が国としてはユネスコやOECDといった国際機関での議論に参加し、現在もユネスコにおいて進められている高等教育の質保証に関する情報ポータルのパイロット事業にも参加するなど、積極的に取り組んできたところである。一方で、
- 最近の報道等も踏まえ、例えばユネスコの情報ポータルの構築・活用等、正当な「学位」かどうかを判断する方策等についての具体的な議論が必要ではないか。