社会のニーズに対応した人材の養成を行うためには、学修課題を複数の科目等を通して体系的に履修するコースワークを充実し、関連する分野の基礎的素養の涵養等を図っていくことが重要である。 特に、博士課程は、5年間を通した体系的な教育の課程を編成し、コースワーク、論文作成指導、学位論文審査等の各段階が有機的なつながりをもって博士の学位授与へと導いていくといった教育のプロセス管理が重要となる。 【具体的取組】 ● 大学院の課程の単位の考え方の明確化(大学院設置基準の改正) ● 修士課程及び博士課程(前期)の修了要件の見直し(大学院設置基準の改正) ● 豊かな学識を養うための複合的な履修取組(メジャーマイナー、ジョイントディグリー)の導入 ● 博士課程の短期在学コースの創設検討 ● 国によるコースワーク充実のための情報提供等 |
○ グローバル化や科学技術の進展など社会の激しい変化に対応し得る人材の養成を行うためには、課程制大学院制度の趣旨に沿って大学院教育の組織的展開の強化を図ることが大切である。
○ このため、各大学院においては、専攻分野に関する高度の専門的知識・能力の修得に加え、学修課題を複数の科目等を通して体系的に履修するコースワークを充実し、関連する分野の基礎的素養の涵養等を図っていくことが必要である。
○ 特に、博士課程においては、5年間を通した体系的な教育課程を編成し、コースワーク、論文作成指導、学位論文審査等の各段階が有機的なつながりをもって博士の学位授与へと導いていくといった教育のプロセス管理が重要である。
○ コースワークを充実するためには、大学院教育の特質に応じた単位制度の見直しや、博士課程については5年間を通した体系的な教育課程という観点からの修士論文の在り方、豊かな学識を養うための履修上の工夫などについて検討する必要がある。各大学院においては、例えば、前期はコースワークに重点を置いて後期は研究活動を中心とする、前期・後期を通じたコースワークを設定するなど、その人材養成目的や専攻分野の特性に応じた最も効果的なコースワークを行っていくことが考えられる。
○ また、分野によっては、大学間の連携・協力体制を強化するなどして、組織的にコースワークの充実を図っていく取組も有効である。
※ 下記、線で囲んだ部分については、分野別ワーキング・グループの報告書の内容を記述したものである。
○ 人社系大学院 <博士課程及び修士課程に共通する教育・研究指導の在り方> 人社系大学院における教育・研究指導には、これまで、ややもすると学生の教育がそれぞれ特定の研究室の担当教員による個人的な指導に過度に依存する傾向も見られた。しかし、各課程の目的と教育内容を明確にしつつ、教育・研究指導を実効性あるものにするためには、各専攻において授業内容を体系的に編成するなど、組織的に教育を計画することが求められる。 人社系大学院の各専攻における教育プログラムを、課程制大学院の趣旨に相応しいコースワークとして機能させ、体系的な教育を提供するためには、例えば以下のように、組織的に教育活動を展開することが必要である。
大学院修了後、それぞれの専門分野において活躍するためには、当該専門分野に関する学習の基礎を培うとともに、幅広い視野や基本的な思考力を持つことも必要である。 <博士課程における教育・研究指導の在り方> 優れた研究者を養成する観点から、博士課程の前期・後期の5年間を通じた体系的な教育課程を編成し、その上で、博士課程(後期)にあっては、個別教員による適切な指導に重点を置くなどの工夫が必要である。また、研究能力の育成のみならず、学生に対する優れた指導力を備えた大学教員の育成という視点にも十分配慮した教育を行うことが求められる。 分野によっては、必要に応じて、博士の学位を取得するまでの間に、サマー・インスティテュートや学会等を含め、一定期間外国の大学等で教育やトレーニングを受ける機会を提供したり、国内外の学術雑誌に英語論文を投稿するよう促すことが有効である。 また、修士課程又は専門職学位課程を修了し、高度専門職業人として社会に出た後に、博士課程(後期)に進学した学生に対しては、研究者として必要とされる実験・論文作成をはじめとする研究手法について、補完的な指導を適切に実施するなどの配慮が求められる。 ○ 理工農系大学院 <修士課程及び博士課程(前期)に共通した教育・研究指導の在り方> 従来、多くの理工農系大学院においては、学生に対する教育と教員の研究活動が渾然一体となって行われ、学生に対する教育が研究室の中で完結するような手法が中心となってきた。しかし、この方法は、個々の教員の指導能力に大きく依拠するため、場合によっては、専門分野のみの閉鎖的な教育にとどまり、産業界等で求められる幅広い基礎知識や社会人として必要な素養が涵養されにくいなどの課題が指摘されている。 今後は、個々の教員による指導はもとより、各研究科・専攻における組織としての計画的な教育に力点を置いていくことが、より効果的な場合が多いと考えられる。 理工農系大学院における教育プログラムが、専門的知識と幅広い視野を習得させるものとするためには、例えば以下のように、各研究科や専攻において組織的に教育活動を実施することが必要である。
理工農系の人材には、科学技術と社会との関係や社会の安全に関しても高い素養を持つことが求められる。このため、倫理や法規制など、幅広い社会科学的分野について、専門教育の内容・程度に応じて適切に教育されることが重要である。 <博士課程(後期)における教育・研究指導の在り方> 優れた研究者を養成する観点から、前期・後期の5年間を通じて体系的な教育課程を編成し、その上で、後期課程にあっては、教員の研究活動に参画させるなどの工夫を講じることが必要である。 学生の国際性を涵養する観点からは、サマー・インスティテュートや学会等を含め、一定期間外国の大学等で教育やトレーニングを受ける機会を提供することが有効である。なお、このような取組については、博士課程(後期)のみならず、修士課程段階においても有効である。 修士課程を修了し、高度専門職業人として社会に出た後に、博士課程(後期)へ進学した学生に対しては、研究者として必要な実験・論文作成をはじめとする研究手法などについて、適切な補完的な教育を実施するなどの配慮が求められる。 ○ 医療系大学院 <各分野共通の教育・研究指導の在り方> 医療系大学院における教育・研究指導には、これまで、ややもすると大学院学生が所属する各研究室の指導教員に教育を任せきりにするという傾向も見られた。しかしながら、先に示したように大学院の目的と教育内容を明確にし、教育・研究指導を実効性あるものにするためには、専攻単位で組織的に教育活動を計画することが重要である。 また、専攻を単位とする組織的な教育活動が、動物実験や遺伝子実験、放射線の取扱いなど単に様々な診療上や研究上の規制に対応した知識・技術のみを修得させるのではなく、体系的な教育を提供するという課程制大学院の趣旨に沿った相応しいものとなるよう、関係者が努力していくことが強く求められる。 具体的には、幅広い視野と当該専門分野での専門的知識を修得させるため、例えば次のような、専攻を単位とする組織的な教育活動が効果的と考えられる。
さらに、研究遂行上又は職業上必要な資格の取得や、関連学会における認定資格(専門医など)の取得のための講習や研修と、医学・歯学系大学院博士課程における教育とは、本来、趣旨・目的を異にするものであるが、専門分野の資格取得のための本人の負担等を考慮すると、大学院の教育課程の中に当該資格取得に必要な教育内容を取り込む工夫も適当と考えられる。 <各分野ごとにおける教育・研究指導の在り方> 1.医学・歯学系大学院(博士課程)について 研究者養成を主たる目的とする教育課程においては、研究者としての基本的素養を身に付けさせるという観点から、研究者に求められる医学・生命科学研究の遂行に必要な基本的知識・技術をコースワークで修得させることが必要である。 優れた研究能力等を備えた臨床医・臨床歯科医等の養成を主たる目的とする教育課程においては、臨床医、臨床歯科医など高度の専門性を必要とされる業務に必要な技能・態度を修得させるほか、臨床医・臨床歯科医に求められる資質や能力を涵養するために必要な内容をコースワークに盛り込むなど、体系的かつ組織的な教育活動が必要である。 また、併せて、病気の成因、新しい診断・治療法の開発・評価、臨床疫学など、患者に対する診療を通じた臨床研究のテーマを課し、博士論文作成のための研究指導を行わなければならない。 医学・歯学系大学院が、その教育課程を、研究者養成と、優れた研究能力等を備えた臨床医・臨床歯科医等の養成の二つに分けて明確化するに当たり、それぞれの課程の教育・研究指導体制が硬直化することのないよう、教育・研究指導教員が、双方のコースワークに携わることができるようにするほか、学生による双方の教育課程からの単位選択の自由度を一定程度確保するなど、相互の連携を保つような配慮が求められる。 2.医学・歯学系大学院(修士課程)について 医学・歯学系の修士課程の大学院は、医学部・歯学部卒業者以外を対象とし、当該課程修了後に医学・歯学系の博士課程に進むことを想定して設置されているが、実際には、課程本来の目的に沿って、4年の医学・歯学の博士課程と合わせた研究者養成のプロセスを担っている面と、医学・歯学に関する専門知識を有し、幅広く医療関連分野で活躍する高度専門職業人の育成を担っているという両面があり、このような現状に対応した教育が必要である。 3.薬学系大学院について 現行4年間の修業年限である薬学の学部教育は、臨床に係る実践的な能力を培うことを主たる目的とする場合、修業年限が6年(それ以外は現行のまま4年)とされ、平成18年度入学者から適用される。 このことにより、4年制の基礎薬学等に係る学部を母体とする大学院は、5年制(区分制又は一貫制)の博士課程として研究者養成を主たる目的とすることが予想されるが、新たな制度が適用されたことに伴い、その教育内容については、今後、関係者による検討されることとなっている。 この場合において、幅広い基礎知識の修得ができるようにする観点から、必要な科目をコースワークに盛り込む工夫に加え、研究者として自立するために必要なプロジェクト企画力などの涵養も重要であることを十分踏まえた検討がなされることを期待する。 また、臨床現場の薬剤師業務に精通した基礎薬学研究者の養成が必要とされていることにも留意する必要がある。 6年制の臨床薬学等に係る学部を母体とする大学院は、4年一貫の博士課程として優れた研究能力等を備えた臨床薬剤師の養成を主たる目的とすることが予想されるが、その教育内容については、臨床を通じた薬学研究の在り方を中心に検討されることとなっている。その際、専門薬剤師として活躍するための高度専門職業人養成プログラムの在り方についても、今後検討がなされることを期待する。 4.看護学系・医療技術系大学院について 看護学系・医療技術系分野の区分制博士課程(前期)にあっては、一専攻当たりの学生数が少ない場合などは、同一専攻の中で、博士課程(後期)修了後に教育研究職に就く者のための研究者養成プログラムと、前期課程修了後に専門職に就く者のための高度専門職業人養成プログラムを併せ持つなどの工夫が必要である。 この場合、看護学系・医療技術系分野は特に実践性が求められることから、いずれのプログラムにおいても、専門職業人としての一定の実務経験を経てから入学させることが望ましい。 研究者養成プログラムにおいては、研究者としての基本的研究手法を身に付けるために必要なコースワークを整備するとともに、論文作成を通して、研究者に求められる批判力、論理性、表現力の涵養が重要である。また、実践的な研究テーマと基礎的な研究テーマの両方が教育できるような体系的な教育プログラムが必要である。 高度専門職業人養成プログラムにおいては、看護や医療技術の現場において、将来指導的立場で活躍できる人材を養成する観点から、コースワークや実践体験を含んだプログラムを整備し、当該専門領域に係る学際的な知識、実践能力、教育能力を育成する体系的な教育プログラムでなければならない。 また、専門領域での認定資格等に係わる教育を大学院の教育課程の中に効果的に取り込む工夫も求められる。 博士課程(後期)においては、研究者の育成を主たる目的とすることから、研究能力の育成に必要な理論構築や技術開発に関する方法論のコースワークを含んだ教育プログラムとすることが適当である。 5.公衆衛生分野の大学院について 公衆衛生分野の大学院については、欧米の状況も踏まえ、2年制の専門職大学院として整備を進めていくことが必要であり、また、それに必要な教員の養成やカリキュラムの開発、修了者の社会での活躍の場の拡大など、関連する施策を進めていくことが求められる。また、その場合の教育内容については、各専門領域に共通するコア科目の修得と、各専門領域における専門科目の修得とを組み合わせるような工夫が必要である。 博士課程(後期)においては、当該分野における研究者養成とこの分野の教育者の育成を主たる目的とし、その目的に相応しい教育内容とすることが適当である。 |
○ 大学院の教育機能の実質化を図り多様な展開を促すために、学問分野の特性に応じ、例えば、研究者として必要な研究技法や研究能力を身に付けるためのフィールドワークや文献調査のデザインを定期的に行わせるような場合、講義と実習といった複数の授業の方法を組み合わせた授業科目を導入することも重要である。そのような取扱いが容易にできるよう設置基準における単位の計算方法について、明確化することが適当である。
○ また、我が国の単位制度(45時間の学習をもって1単位とすることを基本とする制度)の趣旨に沿って十分な学習量が確保されるよう、その実質化に向けた各大学院の努力が求められる。
○ 博士課程における学修の集成は博士の学位論文の作成であることを踏まえ、博士課程(前期)の修了時においては、修士論文の作成に代えて一定の学修成果を求めることなどにより、5年間の教育が有機的なつながりをもって行うことができるようにすることが重要である。
○ また、修士課程についても、その課程の目的が多様になっていることを踏まえ、体育、芸術等の分野以外にも、高度専門職業人の養成を目的とする課程などにおいては、特定課題の研究など一定の学修成果をもって修士論文を不要とするなど柔軟に取り扱っていくことが必要である。
○ このため、大学院設置基準上、修士課程及び博士課程(前期)の修了要件として、修士論文の審査及び試験に合格することを基本とせず、各大学院のそれぞれの課程の目的に応じ、特定の課題についての研究の成果(修士論文を含む)の審査及び試験に合格することとするよう見直すことについて検討することが適当である。
○ この場合、各大学院においては、修士論文が研究者としてのトレーニングを積む上で大きな役割を果たしてきたことや、修士論文を課す場合とそうでない場合の公平性を確保しつつ、新しい教育・研究指導の在り方を工夫すべきである。
○ さらに、博士課程(前期)は、現在、大学院設置基準上、修士課程として取り扱うものとされていることに関し、本来、修士課程と博士課程の目的、役割は異なるものであることなどを踏まえて、その位置付け、関係について検討する必要がある。
○ また、このような取組や単位制度の実質化に向けた各大学院の努力を前提として、大学院において修得すべき単位数について見直しの検討を行っていくことも必要である。
○ 近年の学問分野の学際化、融合化や、幅広い知識と柔軟な思考能力を持つ人材など社会における求められる人材の多様な要請などに対応する手段として、主専攻分野以外の分野の授業科目を体系的に履修させるメジャーマイナーや、一定期間において複数の学位を取得できる履修形態であるジョイントディグリーは有効な方策であり、各大学の自主的な検討に基づき、積極的な導入が期待される。
○ なお、これらの取組を導入するに当たっては、教育目標や理念の明確化、専攻分野に関する教育の課程の充実が前提であり、また、課程の修了までのプロセスが複雑になることによる学生の履修相談の体制整備など教育を受ける側への一層の配慮も求められる。
○ 学士課程又は修士課程修了者等が、社会の多様な分野で相当の研究経験を積むことなどにより、潜在的に博士課程修了者と同等程度の研究能力を有するようになる場合も少なくないと考えられる。
○ このような者に対して、博士課程の標準修業年限より短い期間で一定の体系的な教育を提供し、博士課程修了者として相応しい確実な研究能力等を保証し、博士の学位を授与することは、我が国が生涯学習体系への移行を図り、大学院と社会とを往復しながら研究者等の資質・能力の向上を図る社会への転換を促す観点から、意義があると考えられる。
○ このため、社会人として一定の研究実績や能力を有する者を対象とした博士課程の短期のコース(博士課程短期在学コース)の創設を検討すべきである。
国は、諸外国の大学院におけるコースワーク、単位制度等の状況等を調査研究し、諸外国の魅力ある教育取組の情報提供に努めるとともに、我が国の大学院において諸外国の先鞭的な取組事例を参考とする試行的実施などの取組を通じて、国際的にも魅力ある教育取組の普及・発展を図っていくことが重要である。
今後の大学院教育の組織的展開が有効に機能するよう、各大学院における課程の目的、教育内容・方法についての組織的な研究・研修(FD)の実施が必要である。また、大学院の課程の修了時における質の確保等を図る観点から、成績評価基準等の明示等について、大学院設置基準に規定を置くことが適当である。 【具体的取組】 |
○ 今後の大学院教育の組織的展開が有効に機能するためには、体系的な教育課程とともにそれを支える教員の教育・研究指導能力の向上が重要な課題となる。このため、個々の教員の教育・研究指導能力向上とそのための組織的な研修体制の充実や学生に対する成績評価の管理、さらには、教員の教育研究活動を適切に評価する仕組みが一体となって機能することが必要である。また、授業内容を公開するなど、教育・研究指導の内容を同一学科内の教員が評価できる仕組み(いわゆるピアレビュー)を導入することも効果的である。
※ 下記、線で囲んだ部分については、分野別ワーキング・グループの報告書の内容を記述したものである。
○ 人社系大学院 専門職大学院においては、優れた実務家を大学教員として活用することが不可欠だが、その際には、専門職大学院の教員として必要な教授能力等を身に付けるための研修の機会を充実するなどの工夫が必要である。 ○ 理工農系大学院 大学教員の教育能力の向上を図るためには、在外研修や外国で研究に参加する機会等を活用しつつ、諸外国の大学院における実際の教育活動に関する知見を広げることも有効である。 ○ 医療系大学院 教員に対する評価としては、研究実績や教育に関する資質・能力に加えて、臨床医学系、臨床歯学系分野等の大学院の教育研究や機能を高める観点から、担当教員の臨床に係る実績や、臨床を通じた研究成果の評価が重要である。 |
○ 各大学院における教育課程の編成、実践等に当たっては、関係する教員が課程の目的、教育課程等について共通理解を深めるとともに、教員の教育・研究指導能力の一層の向上を図る取組があいまってはじめて効果的に機能するものである。
○ このような教育の課程の組織的展開の重要性にかんがみ、それぞれの大学院教育の現場における教育研究の特色、創造性等が阻害されることのないよう留意しつつ、各大学院における課程の目的、教育内容・方法についての組織的な研究・研修(ファカルティ・ディベロップメント(FD))を実施することが必要である。
○ これを踏まえ、各大学において授業及び研究指導の内容等の改善を図るための組織的な研修及び研究を実施するものとする旨の規定を大学院設置基準に置くことが適当である。
○ 今後の知識基盤社会にあっては、専攻分野に関する専門的な知識・能力と関連する分野の基礎的素養が確実に身に付いていることが求められる。このような社会の動向も踏まえ、大学院の課程の修了時における質の確保を図るとともに、教員の教育能力の向上を図る観点から、教員は、学生に対してあらかじめ各授業における学修目標や目標達成のための授業の方法、学位論文の作成や審査に至るプロセス及び課程の年間計画等を明示することとし、学修の成果に係る評価及び修了の認定に当たっては、学生に対してそれに係る成績評価基準をあらかじめシラバスなどに明示するとともに、当該基準に沿って厳格な成績評価を実施することが必要である。
○ これを踏まえ、各大学院における成績評価基準等の明示等について、大学院設置基準に規定を置くことが適当である。
○ 教員の教育・研究指導能力の向上には、FDの実施や成績評価基準等の明示等とともに、自らの教育研究活動についての評価を行うことによって、その実効性を担保し、更なる改善のための材料とすることが重要である。
○ 現在、教員の研究活動に関する評価は、各大学院や競争的研究資金の公募審査などの場において、例えば、論文生産数、被引用論文数(サイテーション・インデックス)、各種競争的研究資金の獲得状況、知的財産権の出願・取得状況など一定の定量的指標を設定し実施されているものの、教育活動に関する評価は、その指標が定性的なものが多く適切な指標設定が難しいことなどから、社会的に未だ定着しているとは言い難い。
○ 今後、教育活動に関する評価の指標として、例えば、単位制度の趣旨に沿った学習量の確保状況や成績評価基準等のシラバスへの明示内容、シラバスに沿った授業の実施状況、学生への論文作成指導の状況、学生による授業等の評価などに加え、課程の目的とする人材養成として想定される就職先への就職率や、修了者のキャリアパス形成に関する指導状況、修了者の社会での活躍状況なども考えられる。
○ 各大学院においては、自主的・自律的な検討に基づき、教育活動に関する評価の積極的な導入を図るとともに、人事・採用面における処遇等にも活用・反映していくことが期待される。
○ また、個々の教員の活動は、各大学院における教員の組織的な役割分担や、学問分野、時期等によって多様であることを踏まえ、「教育」か「研究」かといった単純な区分ではなく、各大学院における自主的な調査研究に基づき、個々の教員の多様な活動状況を考慮した形で、活動評価を行っていく方法も有効であると考えられる。
従前より、産業界、地域社会等と大学は、人材養成、研究開発等において連携を図ってきたが、これを更に推進していくことが必要である。その際、産業界等においては、それぞれの業種などに応じて、自らの大学院教育に対するニーズを明確かつ具体的に示すとともに、各大学院においては、そのようなニーズを的確に踏まえた教育内容・方法等を取り入れていくことを通じて、両者の協力関係をより一層推進し、産業界等社会のニーズと大学院教育のマッチングを図っていくことが重要である。また、大学院の地域連携活動の一層の推進を図り、大学院が人材養成を含めた地域の発展のためにその役割を積極的に果たしていくことのできる環境の整備も重要である。 【具体的な取組】 ● 大学院と産業界が目指すべき人材養成目標とそれに即して修得すべき専門的知識・能力の内容を共有した産学協同教育プログラムの開発・実施 ● 単位認定を前提とした長期間の実践的なインターンシップの実施 さらに、各大学院、企業等は、博士課程修了者等の多様なキャリアパスの開拓を図るための取組を実施することが求められる。国は、大学や企業等、双方におけるこれらの努力及び社会的評価を踏まえつつ、産学官連携による人材養成の取組への支援や、社会ニーズを踏まえた魅力ある大学院教育に対する支援を行うことが必要である。 【具体的取組】 ● 各大学院による教育内容・方法の改善や教員の資質向上、学生のキャリアパス形成に関する指導、博士課程修了者の研究市場への積極的なアピール ● 企業等による大学院教育に対する自らのニーズの明確化、博士の学位の取得者等の実力を評価した人材の登用など、今後の知識基盤社会における国際的な競争に耐えられる職務体制・人材の配置の実施 |
○ 我が国経済の活力を維持し、持続的な発展を可能とするためには、産業技術力の強化を図り、国際的な競争優位性を持つ産業の育成が必要であるが、そのためには、産業界等社会のニーズを踏まえつつ、大学院において、創造性豊かな質の高い研究者等多様な人材を養成し、社会に有為な人材を輩出していく必要がある。
○ また、大学においては、それぞれの教育研究目的や特色に応じて、地域の発展の基盤となる優れた技術などを生み出すための学術研究を実施するとともに、社会人の再学習など生涯学習のニーズに応えていくことも重要である。
○ 近年、大学の地域連携活動が活発化しつつあるが、大学院の高度な専門的知識を持つ人材や高いレベルの教育研究能力を活用した施策や地域活動に対する支援を行うことにより、大学院が人材養成を含めた地域の発展のためにその役割を積極的に果たしていくことのできる環境を整備することが重要である。
○ 従前より、大学と産業界等は、インターンシップ、共同研究や人材交流などを通して、連携を図ってきた。しかしながら、博士課程修了者の資質について、産業界等からは「専門分野以外の幅広い知識や経験」、「独創的な発想力」など必ずしも期待通りではなく、産業界等社会のニーズと大学院教育に乖離があるとの指摘がある。
○ このような乖離の存在は、これまで産業界等は、採用する学生がどのような大学院教育を受けてきたかということより、採用後の社内教育を重視する「自前主義」を優先し、産業界等の大学院教育に対するニーズを大学側に具体的に示してこなかったことや、大学院の側においても、各専攻に置かれる課程がどのような人材養成を目的としているのか明確ではなく、かつ当該目的や教育内容・方法が社会のニーズを反映しているものかどうか十分に把握・検証してこなかったことにも起因しているものと考えられる。
○ このため、今後、産業界等においては、各種教育機関の役割分担などを踏まえつつ、それぞれの専攻分野や業種などに応じて、自らの大学院教育に対するニーズを明確かつ具体的に示すとともに、各大学院においては、そのようなニーズを的確に踏まえた教育内容・方法等の不断の改善を行っていくことを通じて、両者の協力関係をより一層推進し、産業界等社会のニーズと大学院教育のマッチングを図っていくことが必要である。
○ また、今後の知識基盤社会において産業競争力を持続的に維持・強化していくためには、大学と企業等は、研究のみならず教育、すなわち人材養成の分野においても、短期的な経済情勢、国の支援策の如何等によらない、恒常的で持続可能な産学連携の体制の構築が求められる。
○ 具体的には、1.大学院と産業界が、目指すべき人材養成目標とそれに即して修得すべき専門的知識・能力の内容を共有して、産学協同で教育プログラムを開発・実施することや、2.単位認定を前提とした長期間の実践的なインターンシップの実施などが考えられる。
○ さらに、平成17年4月の「第3期科学技術基本計画の重要政策」(科学技術・学術審議会基本計画特別委員会中間とりまとめ)においては、基礎から応用までを見通した共同研究に取り組むような戦略的・組織的な産学官連携(協働研究型)の推進とともに、10年先をにらんだ先端的な融合領域において大学・公的研究機関・企業が協働で取り組む研究拠点形成の必要性が指摘されている。
○ その他、それぞれの専攻分野や業種などに応じて、大学院の側と産業界側の情報交換の機会を充実させることも極めて重要であり、職能団体や学協会等はこのような場の設定に主体的な役割を果たすことが期待される。
○ なお、税制面においては、平成17年度から、人材養成に積極的に取り組む企業について教育訓練費の一定割合を法人税額から控除する人材投資促進税制が創設されたことを踏まえ、産業界等は、このような制度の積極的な活用等により大学院教育に係る支援体制を充実することが期待される。
○ 高度な知識基盤社会を支える人材として、専門応用能力を有する博士、修士の学位の取得者が、今後、社会の多様な場で活躍することが重要である。特に、博士の学位の取得者について、産業界においては、研究開発をマネジメントできるリーダーとしての役割のみならず、産学官連携プロジェクトを構築するなど産学官連携を実践する鍵としての役割も期待されるが、例えば、米国と比べて民間企業への就職は少ないと考えられる。
○ また、知識基盤社会においては、最先端の学理の探求や基礎研究成果を創出し、新たな知識体系を創造・構築していく人材のみならず、社会のニーズや課題に対して、必要な知識を活用・統合しつつ、中長期的展望にたって新たな技術的価値や解決策を創出していくことができる人材の活躍が求められる。
○ これらを踏まえ、大学院教育の改革や人材養成面での大学と産業界等との連携を強化するとともに、学生はもとより、大学、産業界等の各主体が、博士課程修了者は大学の研究者になることが当然という意識を改める必要がある。
○ 博士課程修了者等の多様なキャリアパスの開拓を図るため、各大学院においては、幅広い知識・能力に裏打ちされた高度な専門性を培い、社会のニーズの変化に対応できる人材養成を行うよう、教育内容・方法の改善や教員の資質向上、インターンシップへの参加を含む学生のキャリアパス形成に関する指導、博士課程修了者の研究市場への積極的なアピール等に取り組むことが求められる。
○ 企業等においては、大学院教育に対する自らのニーズを明確に示すことや、博士の学位の取得者等について、年齢等にかかわらず、課題探求能力等の実力を適正に評価して人材の登用を行うなど、今後の知識基盤社会における国際的な競争に耐えられる職務体制・人材の配置などの知的経営に向けた構造的改革への努力が求められる。企業側のこのような意欲的な取組を評価し、顕彰することも有効であると考えられる。
○ また、大学と産業界との連携が深まるためには、研究者や高度な専門的知識を持つ者が多様に流動することが効果的であるが、それには、そのような流動が広く行われる社会的条件が形成されることが求められ、このような方向に向けて、大学と企業等との人材交流が推進されることも必要である。
○ 大学や企業等、双方におけるこれらの努力及び社会的評価を踏まえつつ、国は、産学官連携による人材養成の取組への支援や、社会ニーズを踏まえた魅力ある教育を行う大学院への支援を行うことが必要である。
博士課程(後期)レベルにおける優れた人材の育成を行うため、博士課程(後期)在学者等を対象とした修学上の支援策の充実を図ることが重要である。 【具体的取組】 ● 特別研究員制度(フェローシップ)、及びTA(ティーチングアシスタント)・RA(リサーチアシスタント)等としても活用できる競争的研究資金の拡充 ● 学生への経済的支援制度の審査等の早期化 学生においても、高度な研究水準にある大学院等で、異なる研究経歴の教員から多様な視点に基づく教育・研究指導を受けたり、異なる学修歴を持つ学生の中で互いに切磋琢磨しながら自らの能力を磨いていく教育研究環境に豊富に接していくことが重要であり、学生の流動性を拡大していくことが必要である。 【具体的取組】 ● 大学院入学後の補完的な教育プログラムの提供 さらに、社会人の大学院教育に対する期待に応えるため、そのニーズを的確に受容し、大学院教育へのアクセスの拡大を図っていくことが重要である。 【具体的取組】 ● 企業等におけるキャリアパス形成に応じた各大学院におけるリカレント教育の実施 ● 社会人の大学院への進学・再入学についての産業界等による支援 |
○ 博士課程(後期)レベルにおける優れた人材の育成を行うため、博士課程(後期)在学者等を対象とした修学上の支援の充実を図ることが重要である。これまで、特別研究員制度(フェローシップ)、及びTA(ティーチングアシスタント)・RA(リサーチアシスタント)等としても活用できる競争的研究資金の拡充等を行ってきているところであり、これを引き続き推進することが必要である。
○ 今後は、これらに加え、進学意欲を持つ優秀な学生が経済的な事情から進学を断念することがないよう、大学院受験前など可能な限り早期に、奨学金や授業料免除などの経済的支援制度が受けられるか否かを判断することができる措置について検討する必要がある。
○ なお、修学上の支援とあいまって、競争的な教育研究プロジェクト資金の活用に当たっては、教育の組織的な展開の中で優秀な学生の自主的な研究遂行能力を伸長させることを重視した支援に意を用いることも検討すべきである。
○ また、これらの競争的研究資金の拡充や経済的支援の判断を可能な限り早期に行う仕組みなどの導入は、各大学院が自らの教育改革に積極的に取り組むことへのインセンティブにもつながるものと考えられる。
○ 今後の知識基盤社会にあって、グローバル化や科学技術の進展、人材の流動性の高い社会に対応できる若手研究者を養成するために、学生においても、高度な研究水準にある大学院等で、異なる研究経歴の教員から多様な視点に基づく教育・研究指導を受けたり、異なる学修歴を持つ学生の中で互いに切磋琢磨しながら自らの能力を磨いていく教育研究環境に豊富に接していくことが重要であり、このような意味で、学生の流動性を拡大していくことが必要となる。
○ このため、各大学院においては、学生の流動性の拡大、あるいは学際的な分野の専攻などにおいて多様な学修歴を持つ学生等を受け入れることを促進する観点から、必要に応じて大学院入学後に補完的な専門教育を提供するプログラムを用意することが必要である。
○ また、学生の流動性を拡大する観点からも、学生に対する経済的支援の判断を可能な限り早期に行う仕組みの導入などを図っていくことが重要と考えられる。
○ 今後の知識基盤社会の到来に向けて、多様な学修歴を持つ社会人の大学院教育に対する期待に応えるため、そのニーズを的確に受容し、大学院教育へのアクセスの拡大を図っていくことが重要である。
○ これまで大学院教育へのアクセスの拡大については、夜間大学院、通信制大学院及び昼夜開講制大学院の制度の創設等、改善が図られてきた。また、近年では、学生が柔軟に修業年限を超えて履修し学位等を取得する長期履修学生制度や、修士課程短期在学コース(1年制コース)・長期在学コースの制度の創設といった整備が図られている。
○ このほか、最近では、社会人を含めた多様な学習者の利便に資するため、サテライト・キャンパスの設置等も行われている。このような種々の制度的改善と社会人の大学院教育に対する期待があいまって、社会人の大学院への入学者は急激に増加しており、今後の大学院は、社会人教育を対象とした多様な制度を活用し、大学院教育へのアクセスの拡大を一層推進していくことが重要である。
○ また、社会人の再学習需要や経済情勢・雇用形態の変化等を踏まえ、企業等におけるキャリアパス形成に応じたリカレント教育、具体的には、企業内の再教育・研修等を目的とした大学院教育プログラムの実施や、大学院の一定のコースないし科目〔群〕を学んだ成果としての履修証明として、学位以外の修了証を授与することなどの積極的な普及・促進が期待される。
○ また一方で、このような大学院における社会人受入れの一層の促進を図るためには、今後は、産業界が社会人の大学院への進学・再入学をより積極的に支援していくことが重要である。例えば、雇用関係を一旦離れてから進学・再入学し学位を取得した者に対して採用の機会を提供し、採用後は十分な処遇を用意することなど、人事・処遇を含めた職務体制・環境の見直しが求められる。
○ さらに、十分な研究実績がある社会人の大学院教育に対する学習需要に応えるため、その研究歴等を勘案した上で適切な教育・研究指導を行うことなどを目的とした博士課程短期在学コースの創設の検討等を行っていくことが必要である。
大学院の教育研究機能の活性化を図っていくためには、若手教員の研究環境の改善、とりわけ、博士課程学生からポスドク、「助教」等といった大学における教員・研究者としてのキャリアの各段階に応じた体系的な研究支援措置の推進を図っていく必要がある。 【具体的取組】 ● 若手教員のキャリアパスに応じた体系的な教育研究環境の整備 大学院の教育研究能力を高めていくためには、多様な場での教育活動の実践経験や豊富な研究経歴を有する大学教員・研究者が相互に刺激しあい影響されるような教育研究環境を整えていくことが重要であり、教員・研究者の流動性を拡大していくことが必要である。このような人材の流動性拡大の検討に当たっては、産学官の広い枠組みの中で社会全体の流動性の拡大を推進していくことが必要である。 【具体的取組】 ● 各大学院による教員の流動性拡大に関する取組の実施 ● 各大学院における教員の流動性に関する取組を競争的研究資金の審査・評価へ反映 ● 企業等における研究者の流動性に関する取組の実施 |
○ 現在、若手教員の研究上の独立性が確保され、流動的・競争的な環境の中で研究を進められるような研究体制や、研究に専念できるような研究支援体制の整備が十分ではない等、若手教員の教育研究環境の改善に関する課題が指摘されている。
○ 大学院の教育研究機能の活性化を図っていくためには、教育機能の充実・強化とともに、大学院の施設・設備の充実や博士課程学生からポスドク、「助教」等といった大学における教員としてのキャリアの各段階に応じた体系的な研究支援の推進など若手教員の教育研究環境の改善を図っていく必要がある。
○ 安全で効果的に教育研究に専念できる教育研究環境の整備に当たっては、計画的に施設・設備の充実に努めることが必要であり、外部資金等も活用しつつ、国内外の優秀な学生や研究者を引き付ける魅力に富んだ世界水準の教育研究環境を実現していくことが望まれる。
○ その際、若手研究者の研究環境の改善を図り、大学院の教育研究機能の活性化を促進する観点では、博士課程学生、ポスドク、「助教」等の若手研究者の研究スペースの確保等、若手研究者の活躍の場に配慮しつつ組織的な教育研究を展開していけるような施設マネジメントの取組が極めて重要となる。
○ また、学内での共同利用等を積極的に進めるなど、既存施設・設備を効果的に活用するとともに、大学の枠を超えた共同利用、重点配置等の視点も必要である。
※ 下記、線で囲んだ部分については、分野別ワーキング・グループの報告書の内容を記述したものである。
○ 人社系大学院 今後、専門職学位課程の増設など人社系大学院の機能の分化と拡充が見込まれる中で、教員組織、教材、文献等資料、設備、スペースなどの教育研究環境の充実が極めて重要となり、これに対する国等の支援が必要である。 また、社会人学生を含め、大学院生の多様な学習ニーズに応えるためには、マルチメディア教材や電子化図書の活用、e-Learningの導入なども有効であり、このため、学術情報も含めた情報インフラの整備が必要である。 ○ 理工農系大学院 理工農系の各分野において、諸外国の学生や研究者にとっても魅力ある大学院となるよう、国際水準の教育研究環境が整備されることが重要であり、施設、設備、教育スタッフ、支援スタッフ等の確保に向けて各大学が努力するとともに、国等が各大学の取組を重点的に支援することが求められる。 科学技術の発展、生物生産活動の高度化、自然環境問題の深刻化、さらには災害問題への対応などから、今後、農場、演習林、臨海臨湖実験所、水産実験所、実習船、地震や防災等に関する研究所などの実験・実習系の附属施設が、大学院における人材育成や研究活動に果たす役割が拡大していくと考えられる。 このため、研究データ等のネットワーク化や大学を超えた実習活動に供するなど、このような附属施設について、教員や学生の共同利用を積極的に進めていくことが求められる。 また、工学分野においては、高度で創造的なものづくりをチームワークにより行う「プロジェクト・ベースド・ラーニング」(PBL)などによる実際的な技術教育が導入されてきている。このため、高度で創造的なものづくりを可能とするスペースや設備の整備など実験・実習のための施設機能の向上が望まれる。 大学院生の多様な学習ニーズに応えるためには、マルチメディア教材や電子化図書の活用、e-Learningの導入などが有効であり、これらの情報環境の整備に努めていくことも望まれる。 ○ 医療系大学院 医療系の各分野において、研究者や高度専門職業人等の人材養成機能及び学術研究機能をさらに一層充実させるためには、国際水準の教育研究環境が整備されることが重要であり、教員の増や教育スタッフ・支援スタッフ等の確保、施設・設備の整備等に伴う予算の充実など、国等による財政支援が不可欠である。 |
○ 若手教員のキャリアパスについては、各大学において、任期制等を活用し、優秀な人材を適切に活用していくことが求められるが、分野によっては、米国において導入されている任期付雇用期間中に審査を経てテニュアを取得するテニュア・トラック制を適用することも効果的であると考えられ、本制度の趣旨である若手教員の自立性の確保のためには、スタートアップのための資金の支給、研究スペースの確保、研究支援体制の充実等により、テニュア・トラックにある若手教員が資質・能力を十分に発揮できるよう、研究に専念できる体制を整備していくことが不可欠である。
○ 若手研究者への支援については、これまでフェローシップや競争的研究資金及びその間接経費の拡充が図られてきている。今後、若手教員の研究環境のより一層の改善を図るため、これらの経費の充実に加え、博士課程学生、ポスドク、「助教」等の教員としてのキャリアの各段階に応じた支援を図っていく必要がある。具体的には、主な支援措置として、
などが考えられる。
○ なお、このような各種支援策の推進に当たっては、大学院研究科専攻等の組織としての教育研究機能等に支障が生じることがないよう、職務の分担及び連携の組織的な体制が確保されるよう配慮することが重要である。
○ 我が国の大学院の教育研究能力を高めていくためには、多様な場での教育活動の実践経験や豊富な研究経歴を有する大学教員が相互に刺激しあい、影響されるような教育研究環境を整えていくことが重要であり、教員・研究者の流動性を拡大していくことが必要である。
○ このような人材の流動性拡大の検討に当たっては、大学のみに閉じた議論を行うことは有効ではない。博士課程修了者は大学教員になるものといった単線のキャリアパスではなく、今後の知識基盤社会にあっては、博士課程修了者が教育研究機関のみならず広く社会の多様な場で活躍していくことや、産業界等と大学を行き来するような複合的なキャリアパスを想定し、産学官の広い枠組みの中で社会全体の流動性の拡大を推進していくことが必要となる。
○ 各大学院においては、今後とも教員の採用の公募制、任期制の導入等を進めていくとともに、各大学院の自主的な検討に基づき、採用選考・人事システム等の改革を図っていくことが必要であり、例えば、平成17年4月の「第3期科学技術基本計画の重要政策」(科学技術・学術審議会基本計画特別委員会中間とりまとめ)においても提言されている以下のような取組も考えられる。
○ また、教育研究機関の組織全体を通じてのシステム改革や人材養成等を目的としている競争的研究資金制度等については、各大学院の採用選考・人事システム改革の取組、又は各種サポート体制の整備等の若手教員の自立性や流動性を高めるための取組を審査・評価の一指標とする等の方策を講じることも考えられる。
○ 企業等は、我が国で最も多くの研究人材を抱えており、大学等との人材の流動化を進めることにより、多様な研究経歴を持つ研究人材が切磋琢磨する中で技術革新を図り、我が国の産業競争力の強化を図ることが求められている。
また、今後の知識基盤社会にあっては、新たな知見や価値を創出していく人材を数多く輩出し、知的セクターを形成する研究基盤の重層化を図っていくことが、国全体の持続的な発展のために極めて重要である。大学院と企業等においては、このような基盤を形成するために、大学院と社会とを往復しながら研究者等の資質・能力の向上を図っていけるような社会へと転換していくことが求められる。
○ しかしながら、企業等における研究人材の異動回数は比較的少なく、機関を越えての人材の流動性が低いとの指摘がある。
このため、例えば、
など、今後の知識基盤社会に向けた努力が求められる。
事前評価(設置認可制度)と事後評価(認証評価制度など)の双方の適切な役割分担と協調の確保等を通じて、全体として大学の質を保証する大きな枠組みを確立していくことが重要である。とりわけ、事後評価については、大学関係者等の協力を得ながら社会に早期に定着させ、実効性ある評価へと発展・充実させていくことが急務となっている。 今後、事後評価の制度については、
さらに、将来的には、認証評価について、大学全体を組織体として評価する「機関別評価」に加え、大学院教育の専門性に沿った「専門分野別評価」を導入していくことが適当である。 【具体的取組】 ● 実効性ある大学院評価の展開に向けた関係機関の取組の推進 ● 大学院の専門分野別自己点検・評価の促進 ● 大学院教育の質に関する積極的かつ有用な情報の提供の促進 |
○ 学習者をはじめとする社会的な信頼を保持し、国際的な通用性、信頼性のある高等教育の質を確保するための新たな高等教育システムを確立していくことが重要な課題となっており、このような観点から、これまで自己点検・評価や認証評価など、大学等の質の保証に関する各般の制度が導入されてきた。
○ 今後は、事前評価(設置認可制度)と事後評価(認証評価制度など)の双方の適切な役割分担と協調の確保等を通じて、全体として大学の質を保証する大きな枠組みを確立していくことが重要である。
○ とりわけ、事後評価については、大学関係者等の協力を得ながら社会に早期に定着させ、実効性ある評価へと発展・充実させていくことが急務となっている。
また、今後、事後評価の制度については、
の3つの仕組みにより、大学院の特性に応じた適切な評価が多様な観点から行われる体制を整えていくことが必要である。
○ 大学院評価は、大学院の教育研究水準、組織運営の一層の向上・改善に資することを目的とするものであり、各大学院におけるこれまでの教育研究活動が適確に評価され、これにより、各大学院の教育研究活動がより一層効果的・効率的な形で発展していけるようなものとする必要があり、もとより、評価自体が自己目的化することがあってはならない。
○ これらを踏まえ、将来的には、認証評価について、大学全体を組織体として評価する「機関別評価」に加え、大学院教育の専門性に沿った「専門分野別評価」を導入していくことが適当である。
○ その際、大学院の専門分野別評価は、各大学院が自主的・自律的に設定した課程の目的に即して体系的な教育内容・方法が構築、実践されているかどうかを評価・改善していく考え方が基本となる。
○ また、専門分野別評価の発展を図るに当たっては、様々な自発的展開が期待されるが、現状に照らして、まず、主として大学評価の取組の基本である自己点検・評価において、専攻単位を基本とする専門分野別評価の促進とその定着を図りながら、専門分野別の第三者評価への基盤の確立等を図っていくことが適当である。
○ さらに、専門分野別事後評価システムの運用に当たっては、例えば、博士課程(後期)については、設置認可申請の際に行われるような教員個人の教育・研究指導能力についての評価を行うことも有効であると考えられる。
○ 現在、例えば、日本技術者教育認定機構(JABEE)により工学系の学士課程を中心とした技術者教育を評価・認定する活動が行われているが、今後は、大学院の教育の課程を対象とした専門分野別第三者評価について、大学関係者や学協会等により、このような取組を行う機関が形成されていくことを強く期待するとともに、既に制度的に導入されている専門職大学院を対象とした認証評価機関の展開状況も踏まえつつ、認証評価機関の展開状況や独立行政法人大学評価・学位授与機構における蓄積等も踏まえつつ、国としても形成・導入に関する支援方策を講じていくことが必要である。
○ なお、大学院における研究活動の評価の質の向上の観点からは、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成17年3月29日内閣総理大臣決定)の趣旨を適切に反映した評価を行うことが適当である。
○ 国、大学及び評価機関は、実効性ある大学院評価の展開に向けて、従来の取組に加えて、今後、主に以下のことに取り組むことが求められる。
○ 各大学院の課程の目的が明確に示されるよう、今後、大学院設置基準に関係規定を新たに置くことが適当である。これを踏まえ、各大学院において教育の課程を編成する基本となる組織である専攻単位で課程の目的に即した教育研究活動の状況を点検・評価する専門分野別自己点検・評価を促進していくことが適当である。
○ その際、点検・評価の項目については、現在行われている機関別自己点検・評価において各大学が設定している項目などを踏まえつつ、専門分野の別、新設・既設の別、通学制・通信制の別等の実情に応じ、各大学院の判断により適切な項目が設定されることが基本である。
○ 点検・評価結果については、各大学院が積極的に社会に公表し、社会の評価を受けることなどを通して、各課程の教育内容・方法の継続的な見直し・改善を図り、自らの教育研究水準の一層の向上に努めていくことが必要である。
○ さらに、これらの効果をより一層確かなものとするために、当該点検・評価結果について、各大学院の判断により、外部検証を行っていくことが望まれる。
○ 大学院の専門分野別自己点検・評価は、大学全体の教育研究活動の状況とも密接な関連を持つことから、基本的には大学全体を組織体として点検・評価する機関別自己点検・評価の前段階として実施し、効率的でより充実した点検・評価とすることが望まれる。
○ 大学院への進学希望者、大学院修了者の雇用や共同研究を実施する企業などの大学院教育の直接の受益者等が求めている大学院教育の質に関する情報を、自己点検・評価結果等を活用し、国際的にもわかりやすくかつ積極的に公表していくことが重要である。
○ このため、各大学院(専攻等)の専門分野別自己点検・評価などの結果に関する情報、設置認可の際の課題、人材養成の目標(課程の目的)、教育内容・方法、教員組織、学位の種類、学生の修了後の進路、学生への経済的支援の内容などの多様な項目のうち、それぞれ利用者の視点をも踏まえつつ、専攻分野別に集約・整理し、大学院教育の質に関する情報として、公表していく取組が望まれる。
○ なお、自己点検・評価の具体的項目については、各大学が上記の考え方を踏まえ、策定するものであるが、例えば、以下のような視点が考えられる。
各大学院が行う専門分野別の自己点検・評価の項目イメージ(例) (基本) □課程の目的・役割:課程の目的・役割が明確であること(学則、研究科規程等での規定) (教育研究活動の実践) □体系的な教育課程:課程の目的等に沿った体系的な教育課程の構築
□自己点検・評価:課程制大学院制度の趣旨に沿った自己点検・評価体制の構築
□地域・社会活動:地域・社会と連携し、貢献できる体制の整備
※ 本例示はあくまで参考であり、具体的な項目については、各大学においてそれぞれの特色等を踏まえて策定。 |
我が国の大学院が教育研究を通じた国際貢献・交流を推進することは、教育研究水準の向上等を通じて、大学院の国際的な通用性、信頼性を確保し、世界規模での競争力の強化を促進する上で大きな意義があるものである。 |
○ 近年、我が国の大学院では留学生が急増しており、これは、諸外国との相互理解の増進と人的ネットワークの形成に効果的であるほか、留学生との交流を通じて国際的な視野を持った日本人学生の育成と開かれた活力ある社会の実現や、我が国の大学の国際化、国際競争力の強化、国際社会に対する知的貢献といった点において意義があることである。
その一方で、留学生の学位授与率の低下などに見られる質の低下が懸念されており、「新たな留学生政策の展開について」(平成15年12月中央教育審議会答申)等を踏まえて、外国人学生が学ぶための環境整備を進め、留学生の質の確保と受入れ体制の充実を図っていく必要がある。
○ また、我が国の大学院においても、海外分校・拠点の設置、外国の教育研究機関との連携、e-Learning(情報通信技術を利用した履修形態)等を通じた国境を越えた教育の提供や研究の展開を行うなど、国際的な大学間の競争と協働が進展している。
我が国の大学院が海外の教育研究機関との教育研究面での連携体制を構築することにより、教育研究を通じた国際貢献・交流を推進することは、
等を促し、大学院の国際的な通用性、信頼性を確保し、世界規模での競争力の強化を促進する上で意義があるものであり、国としても、各大学院における国際化戦略を支援していくことが重要である。
○ 国境を越えて展開される教育の提供によるアクセスの拡大を推進するに当たっては、我が国の学位の国際通用性の確保に十分留意することが必要であるとともに、各国の大学制度、各大学の適格認定を含めた評価、教育内容、学位の通用性などについて学習者が判断できるように国際的な大学の質の保証に関する情報ネットワークを構築することが急務である。こうした国際的協議に我が国は積極的に参加・貢献すべきである。
○ 我が国の大学と外国の大学の双方で学位を得られるようなプログラムの開発も期待されるが、各大学院におけるこのようなプログラムの検討に当たっては、我が国の課程制大学院制度の趣旨、学位制度等の在り方を踏まえ、我が国の大学院が授与する学位として相応しいものとなるよう留意する必要がある。
○ また、我が国の大学院に、世界各国から優秀な留学生が集う条件の一つとして、我が国の大学院に関する情報が海外からも一元的に把握できるような積極的な情報発信を行っていくことが挙げられる。留学生が学ぶための環境を整備し、積極的に受け入れることは、今後の知識基盤社会の中でますます重要となる我が国と諸外国との間の親密な人的ネットワークを形成することとなり、相互理解の増進や友好関係の深化を図る上で重要である。
今後更に国際競争力のある大学づくりを推進するため、創造性・柔軟性豊かな質の高い研究者の養成が期待される卓越した教育研究拠点に対する重点的支援を一層強力に展開することが重要である。 このため、「21世紀COEプログラム」の実績を踏まえ、より充実・発展した形で拠点形成が推進するよう、今後の在り方を検討し、具体化していく必要がある。 |
○ 国際競争力のある世界最高水準の大学づくりを推進するため、大学の構造改革の一環として、第三者評価に基づく競争原理により世界的な研究教育拠点の形成を重点的に支援する「21世紀COEプログラム」が平成14年度から実施されているところであるが、今後更に、国際競争力のある大学づくりを推進し、世界に伍する教育研究を積極的に展開するため、国際的にも魅力ある教育実施体制と高度な学術研究を基盤として、創造性・柔軟性豊かな質の高い研究者の養成が期待される卓越した教育研究拠点に対する重点的支援を一層強力に展開することが重要である。
○ 本審議会答申「我が国の高等教育の将来像」においても、大学の機能別分化の一つとして、「世界的研究教育拠点」が挙げられており、このような大学全体の構造改革の方向性の中で、「21世紀COEプログラム」の評価・検証を踏まえ、その質的な向上を図るべく、今後の在り方を検討するものとして、ポスト「21世紀COEプログラム」の在り方を検討し、より充実・発展した形で具体化していく必要がある。
○ その際、今後、我が国が、大学のみならず国全体の国際競争力を強化し、持続的に発展していく観点から、国公私立大学を通じた競争的環境の下で、国際的にも魅力ある世界的な教育研究拠点(人材養成の場)の形成を重点的に図る、との最も基本的な考え方は堅持していくことが適当である。
○ 具体的には、1.大学における優れた研究者養成機能の活性化、2.独創的・先端的な基礎研究水準の向上、3.我が国の知的・文化的価値の創造・充実に資するため、その研究基盤の重層化、豊富化を図ることを目的とすることが適当である。
○ このため、その対象を特定の学問分野、研究領域等に偏った重点支援の方法ではなく、基礎研究の場の多様性の確保、学際・融合・新領域の創成等の観点から、全ての学問分野を範囲として、世界最高水準の卓越した教育研究の実施が期待される拠点への重点的支援を実施すべきである。
○ また、世界最高レベルの人材養成を行う教育研究拠点の形成を進めるに当たっては、大学院の組織編成を柔軟に行い、学内・学外との連携を強化して、国内外の優秀な研究者、学生が協同で教育研究を進められる体制の整備が求められ、そのための様々な工夫・試みも必要であり、施設・設備の共同利用の促進などを含めた教育研究機能の充実を図っていくことが重要である。
○ なお、このような拠点への重点的支援を行うに当たっては、国は、大学の教育研究活動に係る直接的な支援のみならず、これら世界最高水準の拠点に対する施設・設備の整備や拠点形成の国際化への対応、学生への経済的支援の実施などの関連支援を併せて充実していくことも重要である。
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室